スマートレシートがもたらす新しいデータ回収のあり方
私たちがモノやサービスを小売店舗で購入する際、必ず手にするのがレシートです。自分がいつどこで、何をどうやって購入したかという情報が事細かに記載され、さらには担当してくれたスタッフの情報まで記録されるようになっていますが、家計簿をつけている人でなければお店で処分していってしまうことも多いものです。
しかしビッグデータの重要性に注目が集まる中、注目を集めているのがレシートに含まれる情報です。消費に関するあらゆるデータがそこに含まれており、毎日凄まじい数の情報が消費を通じて生まれているとなると、データ収集の対象としては無視できません。
レシートの電子化によるデータ回収は企業にしかメリットがないように見えますが、消費者にとってどのようなメリットをもたらしてくれるのでしょうか。
今回はそんなスマートレシートについての概要や、レシートの電子化に関連するサービスをいくつかご紹介していきます。
- 東芝テックのスマートレシートとは
- スマートレシートの機能
- レシートの電子化による消費者へのメリット
- スマートレシートが使える店舗について
- レシートの電子化による企業へのメリット
- 紙のレシート情報を収集する「ONE」
東芝テックのスマートレシートとは
これまでは、基本的に紙媒体でレシートが生成されるため、ビッグデータとして収集することは難しいとされてきました。人工知能の登場や高い文字認識能力をコンピューターが備えるようになったことで、データの電子化も容易になり、それに準じたサービスも次々と現れつつあります。
そして東芝テックは消費者が自ら紙のレシートを電子化し、記録することを推奨する「スマートレシート」というサービスを開始しました。
東芝テックがリリースしたスマートレシートは、今でこそビッグデータの活用などにおいて大きく注目されているサービスですが、当初は「レシートが財布圧迫しないためにはどうすればいいか」というアイデアを元に誕生したプロジェクトでした。
データの電子化は企業にとって重要な価値があるかもしれませんが、スマートレシートはむしろ消費者の問題解決を意識するところから始まっている点が特徴的と言えそうです。
スマートレシートの利用方法
スマートレシートの利用方法はいたってシンプルです。まずスマートフォンにアプリをダウンロードして、店舗のレジで生協の組合員カードとアプリの連携を行います。あとは組合員カードをお会計の際に提示するだけで、神のレシートの代わりにアプリへレシート情報が送信されるという仕組みです。
最初の登録が少し億劫になってしまうかもしれませんが、一度登録してしまえばあとはカードと自動的に連携されるため、ストレスフリーの買い物を行うことができるようになるでしょう。
スマートレシートの機能
スマートレシートの主な機能はレシートをデジタルデータとして保存し、紙媒体のレシートをわざわざ財布に入れて置いたり、家計簿に挟んで置かなくとも自由にスマホから閲覧することができるという機能です。
常日頃から自分の消費動向を把握しておきたいという人にとっては便利な機能ですが、あまり家計簿の記録に興味がない人にとっても興味が持てるよう、いくつかの機能を備えています。
キャンペーン機能
一つ目がスマートレシートから応募できるキャンペーン機能です。対象商品のバーコードやシリアル番号を集めて応募するキャンペーンは昔からありましたが、スマートレシートではアプリからバーコードやシールを集めることができます。
このためせっかく集めていたのに応募し忘れてしまう心配もなければ、自分の知らなかったキャンペーンにもスマートレシートが自動で教えてくれるため、お得感を損なう心配もありません。
クーポン機能
スマートレシートはクーポン機能の利用も簡単です。普段から利用している店舗で使えるクーポンをアプリから検索し、お会計の時にレジで提示するだけで良いため、神のクーポンのようになくしてしまう心配もありません。
会員限定のクーポンも含まれているため、お得に買い物を済ませるためには是非とも活用したい機能の一つです。
スタンプカード
条件を満たした買い物を重ねていくと、買い物ごとのスタンプをアプリ内でためていくこともできます。スタンプカードは自動的に発行され、スタンプもアプリ内で自動的に押されていきます。
スタンプが一定以上貯まるとサービス対象店舗で特典を受けることができ、せっかく貯めていたスタンプカードを失くしてしまったり、家に置いてきてしまう心配もないため、効率よくスタンプを集めていくこともできます。
セルフメディケーション税制関連機能
セルフメディケーション税制とは一般の市販薬を年間あたり1万2000円以上購入した消費者に向けて適用される所得控除です。スマートレシート上では自動で対象となる市販薬を集計しており、購入金額をいつでも確認することができます。
手動で対象商品の計算を行うのは面倒ですが、スマートレシートのこの機能を活用すればその手間も解消されます。
この他にもスマートレシートにはよくいく店舗をリストに登録できるマイストア機能や、レシート発行やキャンペーン・クーポン情報を通知してくれる機能が搭載されており、余すことなく活用することで買い物をよりお得に済ませることが可能になります。
レシートの電子化による消費者へのメリット
スマートレシートはレシートを電子化するだけでなく、様々な特典機能も付与することでインセンティブを作っています。ただ、レシートの電子化はビッグデータを欲しがる企業だけでなく、消費者にとっても良い影響をもたらしてくれます。
レシートの保管が容易に
レシートはついつい捨ててしまいがちになってしまいますが、そもそもレシートを保管しておくことで得られるメリットも決して無視できるものではありません。
例えば商品に問題があった時の返品にはレシートが必須ですし、小さな買い物であっても電子化して保存しておけば気軽に返品・交換対応に行くことができるため、良い保険になります。
紙のレシートを保管するのは大変でも、スマートレシートであればレシートの保管が自動的に行われるので紛失の心配もありませんし、電子化されたデータとなることでいつでも必要な時に統一されたフォーマットで情報を確認することができます。
財布の整理や環境保護にも
スマートレシートは財布の中のレシートを整理するというアイデアから誕生したアプリですが、実際財布の中にレシートが溜まっていかなくなったのは嬉しいポイントです。さらにはポイントカードやスタンプカードなどもスマートレシートの機能で一括管理することができるようになったので、よりスマートな財布環境を構築することができるようになるでしょう。
またレシートを発行しなくてよくなったことで、紙ゴミを減らす環境保護にもつながります。レシートから生まれる紙ゴミの量は個人だと微々たるものかもしれませんが、毎日おびただしい数の量が全国で発行され、破棄されているとなると決して無視できない量になります。レシートの電子化はそのような資源の無駄を省く上でも重要になるのです。
スマートレシートが使える店舗について
スマートレシートが活用できる店舗は年々増加しており、地域密着型のスーパーマーケットや飲食店で利用が可能です。当初は九州地方を中心に導入が進められてきましたが、現在では全国的に利用できる店舗は拡大しています。今後も生協関係を中心に、利用可能店舗は増えていくことになるでしょう。
現在利用できる店舗は公式サイトから確認することができます。
レシートの電子化による企業へのメリット
もともと消費者へのサービス向上を目的として生まれたスマートレシートですが、今や消費者だけでなく小売業者や卸売業者、さらには商品を生み出すメーカーにとってのプラットフォームを目指すものとして運営されており、企業にレシートの電子化がもたらす影響は大きなものであるということがわかります。
データ回収による詳細な消費者動向の把握
レシートの電子化によって最も大きなメリットはやはりデータです。これまで触れることが難しかった消費者一人一人の買い物動向を電子化し、データとして集積していくことで、より市場のニーズに応じた販売促進や商品開発が行えるようになり、新商品の販売もデータ化されたレシートからその売り上げ動向を観察し、より売れるためのターゲッティングの変更など、細かな施策の調整を行えるようになります。
既存の販売促進効果の向上
スマートレシートはレシートのデジタル化だけでなく、クーポンやキャンペーンなどもアプリ上から利用できるようにしてくれるので、企業がクーポンの発行などで期待していた販売促進効果をさらに高めていくことができます。
紙のレシートに付与されたキャンペーンなどではそもそも保存してくれないことも多かったために思ったほどの成果を得られないということもありましたが、電子化によってキャンペーンがより効果を発揮してくれるようになります。
他業種・他店舗との連携も
スマートレシートでは同じ系列の店舗だけでなく、そのサービスを通じて別の業種や系列の店舗が一緒くたにされてキャンペーンなどが行われています。そのためスマートレシート加盟店舗同士で独自のキャンペーンやクーポンを展開していけば、相乗効果で双方にこれまでになかったような利益をもたらしてくれる可能性もあります。
スマートレシートは使い方次第で、店舗にも大きなメリットをもたらしてくれるサービスと言えるでしょう。
紙のレシート情報を収集する「ONE」
スマートレシート以外にも、最近では紙のレシートに含まれるデータに注目したサービスが誕生しています。
例えばレシート買取サービスの「ONE」は紙のレシートに含まれたオフラインで手付かずのデータに注目し、レシート一枚あたり10円で買い取るサービスを展開することで、消費者が自ら電子化された紙のレシートを提供してくれるよう促しています。
月額最大3000円分までということで上限つきのサービスとなっていますが、それでも一日一枚捨てるだけだったレシートが10円になるとなれば、レシートに対する意識も変わってくるものです。
回収されたレシートのデータはそれを必要とする企業へと販売され、サービスを運営していくというONEは、今後もこのサイクルを発展させたサービスを展開していくことが考えられます。
個人情報保護機能付きの「PPM搭載レシート」
あるいは逆に、レシートに含まれる個人情報をむやみやたらに利用されないよう、プライバシーに配慮したレシートも開発が進んでいます。
東芝テックとKDDI総研が共同で開発するPPM搭載レシートは、レシートに含まれるプライベートデータをどこまで企業に提供するか、そして誰がいつ自分のデータにアクセスしたかの履歴をチェックすることも可能にする技術なっており、今後レシートに含まれるデータ価値が増大していけば運用が進んでいくと考えられています。
データを効率的に収集する技術だけを追求するのではなく、データをただ提供するだけの消費者にどのようなメリットを提供し、あるいはプライバシーの権利を与えていくかという技術研究が行われているのは健全な技術研究の最前線である証拠ともいえるでしょう。