省人化とは?AI搭載の最新技術や企業の最新事例についてご紹介
業務を効率化する手法の1つとして、省人化があります。主に物流や製造業でよく使われていましたが、AIやロボット技術の向上により今では店舗運営をしている企業にも取り入れられています。
ビジネスにおいて常に意識されるのが業務の効率化ですが、省人化の他にも省力化や自動化などの言葉があり、それぞれ意味合いは異なります。
今回は、人員削減の効果もある「省人化」の概要や事例についてご紹介します。
【目次】
省人化の概要
省人化とは?
省人化とは業務を見直して無駄な工程を削減し、人員を減少させることです。労働力を削減するためには目的の本質を見直し、目的を果たす過程の中で不必要な作業を洗い出すことが必要となります。
現在の日本は少子高齢化が進み、労働人口も減少の一途をたどっています。その結果1人当たりの作業量が増え、長時間労働やサービス残業などが問題視されているので、その打開策としても省人化が欠かせません。
省人化は、主に機械を導入することで業務の効率化を行います。物流施設内の作業や商品の組み立てに限らず、最近では店舗でロボットが接客することで省人化している企業も増えてきました。
省人化でポイントとなるのは「作業する人自体を削減できるか」という点です。作業を効率化して1人あたりの負担が軽くなっても、人が減らせなければ省人化とはなりません。
労働力を減らしながら利益が上がれば、企業は株主や投資家から成長していると評価されます。そのため、経営者の立場で考えると省人化は画期的な施策の1つです。
その反面、労働者の立場では「機械に仕事を奪われる」という懸念が拭いきれません。例えば最近ではスーパーの無人レジが増えていますが、その分レジ打ち業務を行う労働者は不要となり雇用が減少します。
自動化・省力化・効率化…それぞれの違いについて
業務を効率化させる手法には、省人化のほかにも自動化や省力化などがあります。一見すると似ていますが、それぞれ意義が異なります。
少人化
省人化と違い、「人を少なくする」と書くのが少人化です。主に製造業でよく使われる言葉で、受注が多い時には作業人員を増やし、少ない時には作業人員を減らすことで一定の生産性を保つ取り組みを指します。
自動化
それまで人の手で行っていた作業を、機械に任せて自動的に処理することを自動化と言います。自動化されたシステムはオートメーションシステムとも呼ばれます。
自働化
トヨタ自動車の生産方式には、自動化という言葉があります。自動車の生産ラインにおいて、何らかの異常が発生したら機械を自動で止めることで、不良品を作らないようにする考え方です。
製造工場で大量生産を行う時はライン作業で量産しますが、機械の異常が発生すると正常に作業ができないため、大量に不良品を作りロスが発生します。自働化は機械をすぐに停止することで、ロスを減らす効果があるのです。
人と話すときは“ニンベンのついた自働化”と言われることもあり、自動化とは全く違った意味を持ちます。
省力化
「力を省く」と書く省力化は、作業を見直して無駄を省くことで作業能率を上げる取り組みを指します。人を減らすまで業務を効率化するのが省人化であるのに対して、省力化は1人当たりの作業量を減らしていきます。
つまり、省力化の場合は人員削減が目標ではありません。人件費削減を目標とするなら省人化をさらに見直し、省人化まで進める必要があります。
多くの企業で取り入れられるトヨタ生産方式
トヨタ生産方式はトヨタ自動車が提唱する生産方式です。ムダを徹底的に排除して合理性を追い求めることで、生産効率や作業効率を高めています。
品質を一定に保ちながら自動車を作るために、トヨタは「ジャストインタイム」や「自動化」という言葉のもと、独自の思想に基づいてものづくりを日々行っています。
トヨタ生産方式は画期的であるため、国内の自動車産業に限らず世界中で注目を集めています。業務の効率化に大きなヒントを与えるため、自動車業界に限らず多くの企業で取り入れられている方式です。
参照:TOYOTA公式HP「トヨタ生産方式」より
https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/production-system/
人手不足に悩む建築業界の打開策
省人化は、建築業界でも大きく注目されています。建築業界の技術者も定年退職の時期を迎え、2007年~2016年には「団塊世代退職の10年問題」を迎えています。
参照:総務省統計局「団塊世代をめぐる「2012年問題」は発生するか?」より
https://www.stat.go.jp/info/today/032.html
2020年の東京オリンピック建設や2025年の大阪万博など、日本の建築業界にはこれからも多くの人手が必要です。それなのに、専門技術を持った技術者の大量退職により人手不足が発生しているのです。
そこで大手ゼネコンをはじめ建築業界では、機械による省人化システムを進めることで人手不足を解消しようと取り組んでいます。
省人化によって得られるメリットとは
省人化のメリットは、まず人手不足の解消があります。技術者不足によって1人あたりの負荷が高く、長時間残業に追われている従業員は負担軽減が期待できます。
また、業務を効率化してコスト削減ができれば業績が上がり、より高い収益を期待できるでしょう。コスト削減できた分サービス(または商品)の値段を下げれば、消費者にもメリットがあります。
省人化に使われる技術(テクノロジー)について
省人化としてロボット技術が使われている
多くの企業で省人化が注目されていますが、省人化にはロボット技術の導入が欠かせません。建築業や製造業に限らず、物流施設では省人化のために積極的にロボット技術が取り入れられています。
ロボットなら命令したプログラム通りに動くため、仕分けや選別の工程でヒューマンエラーが発生しません。さらに労働時間の管理なども不要なので、非常に大きなメリットがあります。歩行作業も大幅に削減でき、従業員の負担を増やすことなく省人化が可能です。
生産や物流の現場のために、さまざまな省人化ロボットが開発されています。最新の省人化ロボットを集めた展示会も開催されており、盛り上がりを見せています。
AI搭載のロボット技術でさらに省人化が進んでいる
省人化のロボット技術にも、AI(人工知能)の導入が積極的に行われています。AI搭載のロボットならもちろん通常のロボット技術より高度な処理が可能で、省人化のための技術開発が活発に行われています。
今のAIはディープラーニングであるため、何度も繰り返し同じ内容を学ぶと人のように理解を深めることができます。つまり、AI搭載のロボットは作業を繰り返すことでより賢くなり、より精度の高い技術を身につけていくのです。
リサイクルビジネス業界は省人化で人不足対策
例えばリサイクルビジネス業界は、雇用の創出や資源活用という観点から地域の活性化に大きく貢献しています。
資源の仕分けや分解・選別には熟練作業員の高度な技術が必要で、省人化は難しいと考えられてきました。それにも関わらず、「3K職場」ともいわれる中間処理施設では作業員の確保が難しく、少子高齢化が追い打ちをかけるように就労者数の確保に苦しんでいます。
そこでAIを搭載した省人化システムを導入することで、人材不足を解消しようと取り組みが始まっています。
資源の仕分けや分解・選別という工程で、それぞれ個体識別の情報をインプットさせたり画像解析手法を使ったりすることで、人でいう目や手のような動きができるようになります。
検証段階ではありますが、トライ&エラーを繰り返していくことで、高度な省人化システムとなることを期待したいところです。
参照:資源循環ネットワーク「ロボット技術で省人化」
http://www.trace-recycle.com/media/2016/06/100.php
サイゼリヤはAIシステムを搭載したオペレーションシステムの実験を開始
AIの技術によってより知能が高くなった省人化システムは、物流倉庫や建築業に限らず、店舗運営オペレーションも行うようになりました。AIによる対話技術で接客を行ったりビッグデータから店舗の経営予測を算出したりと、小売業にもどんどん進出しています。
ファミリーレストランとして人気のあるサイゼリヤは、売上金額を予測する実証実験を2018年に行っています。
株式会社NTTドコモと連携しており、ドコモが培ったAI技術による「リアルタイム売り上げ予測技術」を使い、サイゼリヤが保有している店舗ごとの売り上げデータをAIで分析しています。
売上予測で得た結果があれば、サイゼリヤは従業員のシフト管理など店舗オペレーション業務の省人化を狙うことができます。
参照:サイゼリヤ公式資料「AIによる飲食店向けリアルタイム売上予測の実証実験を開始」
https://www.saizeriya.co.jp/PDF/irpdf000603.pdf
省人化店舗の最新事例
ユニクロ
ユニクロでは、2018年の春夏商品から全てのアイテムにRFIDというタグを取り付け省人化システムを構築しています。
RFID(radio frequency identifier)とは、アイテムの色やサイズ・製造時期や素材などの商品情報が埋め込まれたタグで、機械を使って情報を読み取ることができます。
また、物流機器の大手であるダイフクと提携して有明倉庫を自動化しており、RFIDタグと合わせて検品や出荷・棚卸といった作業を省人化して効率化を大幅に高めています。
ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングが上記の省人化システムを整備しているため、他の大手アパレルブランドであるジーユー・セオリーなども同様に省人化されています。
Amazon
今は世界中に利用者を持つAmazonですが、大規模なビジネスを展開するだけに省人化対策がしっかり行われています。
在庫を自動で管理する「Amazon Robotics(アマゾンロボティクス)」を倉庫に導入しており、倉庫内を動き回って商品のピッキングを行っています。日本では川崎と茨木の2拠点の倉庫で導入されており、商品の棚入れと棚だし作業を行っています。
ユーザーから注文が入ると、ロボットが回収を始めます。複数の商品の場合は効率の良いルートを自分で計算し、人の早歩き程度のスピードで移動して商品を集めます。
省人化により、従業員は広大な倉庫を歩き回る必要がありません。そのため出荷までが非常に効率よく行えています。
Amazon Roboticsが稼働している様子について、日本テレビが動画をアップロードしています。興味がある方はぜひご覧ください。
無人コンビニ「ロボットマート」
大手コンビニメーカーも省人化を進めていますが、最近では店舗スタッフがいない無人のコンビニまで登場しています。
日本橋にあるロボットマートでは、店名通りロボットが店舗スタッフとして会計業務を行ってくれます。人気の決済システム「PayPay(ペイペイ)」にも対応しており、今後は仮想通貨にも対応していく見通しです。
無人ですがヒト型ロボット「Pepper(ペッパー)君」が店舗を巡回しており、万引き対策も行われています。詳しい体験レポートは「【体験レポート】無人コンビニ「ロボットマート」の商品認識精度が抜群だった」もご覧ください。
キャッシュレス化が進む中国のマクドナルド
ファストフードの最大手として世界中に店舗をマクドナルドでも省人化が進んでいます。特にキャッシュレスが進んでいる中国では、マクドナルドの店舗運営業務も独自に進化しています。
日本マクドナルドでは対人での注文が主流ですが、海外ではタッチパネルを使った無人の注文システムの導入が拡大中。また、クレジットカードをはじめ中国の独自決済システムにも対応しているため会計まで機械が行い、省人化に一役買っています。
「中国のマクドナルドはキャッシュレスでセルフ注文!日本でもモバイルオーダーの実証実験中!」もあわせてご覧ください。
省人化を取り入れた店舗運営で消費者の満足度を高める
省人化が注目され始めた当初は、技術者や人材不足に悩む建築・物流業界に主に注目されていました。
今ではAIの技術を取り入れることでより繊細な作業ができるようになり、今回ご紹介したように店舗運営に省人化システムを取り入れる企業が増えています。つまり、消費者自身がダイレクトに機械とやり取りするケースが増えているのです。
省人化は従業員の負担軽減や不足した人材のカバーなど、企業側に大きなメリットがあります。ただ、省人化によって接客の質が落ちたり顧客満足度が下がったりするようでは、せっかくの省人化も逆効果になりかねません。
店舗運営の場合は、待ち時間の短縮化や値下げ・会計のスムーズさなど消費者にとってのメリットも十分に確保することが大切といえるでしょう。