多店舗運営に不可欠な通信トラブル対策とマニュアル共有の重要性

DXの進展とともに、多くの企業が業務効率化を進めています。
DXには業務効率化や、省人化達成といったメリットがありますが、ネットワーク障害や通信トラブルを予測して対策を決めておかないと店舗の営業ができなくなってしまうおそれもあります。
通信障害には、すぐに原因が特定できるものと、調査が必要なものがあります。
ニュースで報じられる大規模なもの以外にも中小規模の障害が多数発生しており、その件数は推計で255万件/年(NTT西日本の調査による)になります。
いつ起こるか分からない、しかし発生すると大きな影響を与える通信障害について対策するには、まず障害を知ることから始めるべきです。
本稿では、通信遅延、セキュリティリスクについて概要を紹介するとともに、システム障害、通信障害に対する備えについてまとめています。
ネットワーク障害がいつどのような規模で起こるかは予測できませんが、オフラインでも稼働するPOSシステムやクラウドとローカルのハイブリッド運用、複数の通信手段といった準備をしておくことでリスクを最小限にとどめることができます。
多店舗運営の場合、これらの対策はマニュアル化して共有する必要があります。
今回は、社内での通信障害への対策検討、マニュアル制作までをスムーズに行うために、「多店舗と通信」の関係を掘り下げています。
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いかに優れた通信システムであっても、障害がまったく起こらないシステムはありません。
ある調査によると、2社に1社はビジネスに影響をおよぼすネットワーク課題を抱えているといわれており、今後DX化が進めば、もっと多くの企業が何らかのネットワーク課題に直面していくと想定されます。
多店舗展開では、一店舗で起こった障害が他の店舗にも影響を与えてしまうおそれがあります。この懸念こそが最大の課題であり、リスクといえるでしょう。
なお、ここでいう課題とは、通信遅延とセキュリティリスク、システム障害という3つに大きく分けることができます。
通信遅延によるビジネスへの影響
リアルタイムでデータ同期をしている店舗や、クラウドPOSを利用している店舗は、通信遅延によって販売機会を損失するリスクがあります。
レジ処理が遅いと待機列が長くなり、快適な購買体験を提供するのが難しくなります。
効率よく購買処理をするためには、レジ台数を増やす、セルフレジを導入するという対応もありますが、店内のスペースが限られている場合は難しいケースもあります。
その場合、なるべく通信遅延が起こらないようなシステムを構築し、既存のレジ数で対応しておくのが良いでしょう。
実際に、通信遅延に悩む企業は少なくありません。
ネットワーク課題のうちの約半数は、遅延、トラブルで拠点の業務に影響が出ることだという調査もあり、遅滞なく使用できる環境の維持は、店舗運営にとって重要であることが分かります。
セキュリティリスク
小売店では、取引中に顧客の個人情報や金融情報が関わる処理が行われます。
消費者がクレジットカードで買い物をした場合、決済情報は暗号化され、決済代行会社を通じて処理されます。多店舗の場合はこれが複数店舗で同時発生的に起こります。
多店舗をつなぐ分散型のネットワークは、そうでないネットワークと比べるとサイバー攻撃の隙が生まれやすく、リスクが高まりがちです。たとえば1つの店舗のPOS端末がマルウェアに感染すると、VPNや社内ネットワークを通じて他の店舗にも影響が及ぶ可能性があります。
POSやIoTデバイスの複数拠点間の通信を狙ったサイバー攻撃は年々増加しており、対策が求められています。
システム障害
システム障害が発生すると、現場の決済端末だけでなく、在庫管理システムにも影響が出ます。
最悪の場合は店舗運営が一時的にストップしてしまうリスクもあり、障害が発生した際のリカバリー対策を決めておく必要があります。
システム構成や各店舗の設定がブラックボックス化していた場合、障害が起きると実態が分からず復旧までに多くの時間がかかります。
そうならないよう、各店舗のシステムは更新漏れのないようにして、シンプルな管理運用を心がけましょう。
具体的には、クラウドベースのシステムならバックアップ回線の確保をする、ローカルデータを活用する、といった事柄を定めて多拠点全体に共有しておくと安心です。

障害発生時に必要な対応とは
実際に障害が発生した時、行うべきは原因を突き止め復旧を迅速に行うこと、そして顧客に障害発生を知らせることです。
お知らせには、発生したトラブル内容(キャッシュレス決済が利用できない、アプリが不具合でポイント利用ができないなど)、対象者・対象店舗、トラブルによって起こった現象・不具合の経緯、問い合わせ先といった情報を分かりやすく記載します。
障害には、通信障害、システム障害があり、障害の種類と程度によって対応がそれぞれ変わります。
通信障害
2024年7月、大手ファーストフードチェーンでは、突如店舗のレジが起動しなくなるという通信障害が発生しました。障害は、全国にある約2,900店舗のうちの3割で起こり、急遽営業を取りやめた店舗もあって大きなニュースになりました。
現代では当たり前のインフラになったネット回線ですが、故障や障害がまったく起こらないということはありません。
大手ファーストフードチェーンのような大規模障害はニュースで取り上げられ、多くの注目を集めましたが、もっと小規模な通信障害は日常的に発生しています。
NTT西日本の公表した推計データによると、中小規模の通信障害は年に255万件近く発生している計算になります。
飲食店や小売店で通信障害が発生すると、キャッシュレス決済ができなくなる、スマートロックでバックオフィスを管理していたため入退室ができなくなるといったトラブルが想定されます。
小売店がECサイトと連携している場合、EC上でも決済トラブルが同時発生して混乱が大きくなる可能性もあります。
店舗、ECといったチャネルの区別が曖昧になっている今だからこそ、管理とトラブル対応の共有について、日頃から対応策を決めておくのが重要です。
システム障害
多店舗展開のためには、各店舗のリアルタイムの売上集計、メニューの一括変更といった機能が必要になります。
単店舗よりも管理システムが複雑化しがちなので、障害が起こった場合の対応はあらかじめ策定しておく必要があります。
システム障害が起こった時に備えて、ローカルキャッシュ機能やデータの一時保存機能を活用しておくと安心です。
また、自動復旧が可能な仕組みを導入すれば早期復旧が見込めるでしょう。
バックアップ対応、オフラインでの会計処理など
ネットワーク障害への対応策は、BCP(業務継続計画)の一環に含めることができます。
例えば、オフライン決済、手書き伝票のマニュアル作成、現金やコード決済といったキャッシュレス決済以外の決済手段の確保は、ネットワークがすべて使用できなくなっても店舗運営を続けるための対策となります。
また、オフラインモード対応のPOSしているPOSシステムを導入して、通信障害が発生しても決済を継続できる仕組みを完備するのも良い方法です。オフライン対応システムなら、障害時は手動で会計を処理し、復旧後にデータを同期することができるので、障害時のデータをロスなく取得することができます。
通信障害のリスクヘッジを万全に
通信障害は、サイバー攻撃、レガシーシステムの不具合といった要因以外に原因不明のもの、全国規模のものもあり、100%防ぐことはできません。
多店舗運営を続ける企業ができることは、リスクヘッジを万全にすることです。
リスクヘッジを万全にするには、4つのポイントをおさえておく必要があります。
まず第一には、オフライン対応機能の導入を十分に検討することです。通信障害が数時間、数日にわたって続いてもオフラインで動くPOSがあれば店舗は営業を続けることができます。
第二に、複数の通信手段を確保しておくことも重要です。オンライン/オフラインに対応可能な準備をしておくのと同時に、モバイル回線など緊急時に通信できる手段を確保しておくと安心です。
第三には、クラウドとローカルのハイブリッド運用の検討が挙げられます。通信回復後にデータを同期できる仕組みがあれば、業務への影響を最小限に抑えられるでしょう。通信障害が復旧した後は、顧客対応や店舗のシステムチェックなど、やらなければならない業務が山積します。
同期の仕組みを整えられる部分は、あらかじめシステムを構築しておくことで、情シス担当者が少数であっても従来の状態に戻すのが容易になります。
第四に重要なのは、これらの対応をマニュアル化することです。障害発生時のマニュアル整備は、現場スタッフの即応性を高め、何をすべきかというフローが明確になっているので引き継ぎが頻繁にあっても店舗運営の状態を保ちやすいという利点があります。
具体的な対策を講じることで、通信障害の影響を最小限におさえて、スムーズな店舗運営が可能になるでしょう。
