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小売業を変えるリテールAI:ID-POSからデータ活用事例まで

蒸気や石油、電気は、産業のあり方を大きく変えてきました。大きな動力を獲得し、大量生産を実現した電気なしの産業や流通が考えられないように、AIが産業に革命をもたらし、不可欠な存在になる、その未来がすぐそこまできています。
リテールAIとは何か、ID-POS分析やAIを駆使した未来型のスマートストアについてご紹介します。小売業界ならではのAI活用法、デジタルシフトの潮流についておさえておきましょう。

【目次】

リテールAIとは:第四次産業革命の価値創造へ向けて

リテールAIは、小売業界でのAIテクノロジー活用をいいます。
店舗のマネジメントや、商品・サービスのマーケティング分野へAI技術を活用することによって、リテール分野における「第四次産業革命」の価値創造が可能になるとされています。

産業革命というと、蒸気によって大きく工業分野が発達した18世紀の出来事のように思われがちですが、現代に至るまで産業はさまざまに発達を遂げてきました。
電気と石油の登場によって大量生産が可能になったことを第二次産業革命、コンピュータの台頭によってオートメーション化が進んだことを第三次革命と位置づけ、第四次産業革命はインターネットでさまざまなモノがつながってAIが制御する少し先の未来をさしています。第四次産業革命というワードは、2012年にドイツが発表した技術戦略の中で使われだしたものとされています。

第三次産業革命まで、機械を制御するのは人間でした。しかし、すぐそこまできている第四次産業革命においては、機械を直接制御するのはAIとされています。AIを活用していかに自動制御を可能にするかが、きたるべき新時代の鍵といえるわけです。
日本では、2017年に「一般社団法人リテールAI研究会」が発足し、AIに関する技術の研究と情報共有、人材育成などがおこなわれています。

出典:https://retail-ai.or.jp/

AIが分析するデータを収集するID-POSとは

AIは、膨大なデータを高スピードで処理し、独自の視点で分析をします。しかし、現在のところ何もないところから自ら思考することはできません。つまり、AIを活用するためには学習材料であるデータが不可欠です。データはリテール分野でいえば購買データや売上データ、過去のマーケティングデータなどを意味します。
ID-POSは、POSシステムをIDで紐づけることによって、よりAIの分析を深化させるツールです。

POS(Point Of Sales)は、日本語で「販売時点情報管理」といい、いつ、何が、どれだけ、どれくらいの価格で売れたのか、という情報を管理することができます。
このPOSにIDをつけることによって、上記の情報にプラスして「誰に売れたのか(誰が買ったのか)」を取得できるようになります。
例えば、クレジットカードやTポイントカード、楽天ポイントカードなどは、レジにカードを通すことでIDが認識されるので、購入した商品と顧客情報が紐づいた状態で決済されていることになります。

また、専用アプリを使って購入しない顧客(POSに反映されない顧客)の来店を把握する試みもテナントの多く入ったモールなどでは実施されていますが、これも取得データを少しでも増やそうという施策のひとつです。

ID-POSは購買行動データを蓄積できる

通常のPOSデータは、1ヶ月間にあるTシャツ100枚が3,000円で売れた、という「販売実績データ」です。
しかし、これにIDを紐づけると、Tシャツ100枚がどのような層に、どのような売れ方をしたのかという「購買行動データ」も同時に蓄積できることになります。どのような年齢層の人が多く購入しているのか、まとめ買い傾向が多いのか、1枚で購入する人が多いのか、リピートして同じ商品を購入している消費者はいたかなど、AIが分析する上での材料となる情報を取得することができます。

さらにこのデータがある程度収集されると、セグメント(集団)単位のデータ分析も可能になります。1人の人物をさまざまなセグメントに分類することによって、多角的なデータを得ることができます。例えば、Tシャツを購入した20代の男性がいたとします。ID-POSでデータを取得すれば次のような切り口でカテゴライズすることができるでしょう。

  • 性別(男性は何を購入するのか)
  • 年齢(20代は何を購入するのか)
  • ステータス(学生は、社会人は何を買うのか)
  • 来店頻度(来店曜日など)
  • 購入金額(季節によって金額が変わるかなど)

ID-POSによって分析の仕方は多様化します。ID-POSは、AIを活用する上でも取得データの増加だけでなく、与える課題(分析方法)の選択肢を広げる意味において有益です。

AIを活用したデジタルシフトな小売業・流通とは

リテールAIには、デジタルシフトという概念への理解が重要です。
デジタルシフト(Digital shift)は、ビッグデータといった概念やIoT、AIなどのデジタル技術の本格的な活用によって多くの情報が統合可能になり、一度に取り扱える情報が増えることをいいます。

つまり、リテールAIもデジタルシフトという大きな潮流におけるひとつの形態をみなすことができるでしょう。
デジタルシフトを理解し、リテールAIを理解するためのポイントは3つにまとめることができます。

デジタルシフトとリテールAIのポイント:データ活用

前述したID-POSのような技術により、膨大なデータを収集、蓄積することはすでに可能になっています。
しかし一方で、取得したデータを充分に活用できているかという点においては課題を残す企業が少なくありません。デジタルシフトの先進国である中国などに日本が遅れをとっている現状は、このデータ活用がうまくいっていないためといわれています。

手元にあるデータをAI技術や情報を扱うスペシャリストによってどのように有効活用するか、それがデジタルシフトの流れにおいて重要です。

デジタルシフトとリテールAIのポイント:リテールメディア

リテールメディアは、「小売業のメディア化」です。店内のデジタルサイネージやレジタブレットによって、店舗内でプロモーション手段の一つであるメディアを展開する手法がこれに該当します。

また、棚のプライス札を電子化し、POPの役割を併用させる試みもリテールメディアのひとつです。需要と供給にあわせて価格を設定するダイナミック・プライシングをおこなうことで、消費者のニーズと売上効率を同時に達成しやすくなります。
なお、チラシやメルマガの形式で無作為に配布するのではなく、店舗で購入した商品によるデータ分析に準じたレシートクーポンを付与することもリテールメディアを活用した戦略といえます。

デジタルシフトとリテールAIのポイント:AI活用

AIは、収集したデータの効率的な分析だけに使われるわけではありません。最適な出店場所を計算したり、ブランドイメージを伝えるためにどのようなプロモーションが求められているかを分析するなど、小売業の現場、マーケティングリサーチ、プロモーションというすべてのシーンにおいて価値を創造する可能性があります。

リテールAIのデータ活用事例:日本初のスマートストア

IT企業として設立し、現在は全国200店舗以上の実店舗を展開するトライアルホールディングスは、2018年に株式会社Retail AIを新設し、その開発技術によって小売店に新たなテクノロジーを導入しています。

世界初:小売特化型AIカメラ

2019年4月にリニューアルオープンした「メガセンタートライアル新宮店」に用いられている1,500台のカメラは、世界初となる小売に特化した独自開発リテールAIカメラです。
エッジ処理からクラウド処理までを連携できるプラットフォームソフトウェアにAIを搭載することで、高額なサーバーなしに小売に必要な基本情報を取得することができるようになっています。1,300万画素カメラによって、ハイビジョン動画と高精細な静止画を撮影可能にし、Wi-Fiと有線LANの両方で周辺機器に接続されています。

人物カウント、商品認識といった小売ならではの情報をAIによって分析し、デジタルサイネージと連動させて顧客に合わせた情報を流すという使い方も可能。導入コストをおさえて大量導入を可能にしている点も、小売に特化した開発といえるでしょう。

日本初ポイント:夜間無人化

トライアルがメガセンターよりも以前にオープンさせた「トライアル Quick大野城店」では、夜間の無人化を日本で初めて実施しています。
24時間営業のうち、22時から5時までの間を無人化。専用アプリのQRコード、プリペイドカードを入り口にかざして入店し、セルフレジで会計をする仕組みです。

QRコードで入店といえば、レジレスで大きな衝撃を与えたAmazon Goが有名です。
Amazonは、顧客の利便性を第一にレジレス店舗のAmazon Goを実現するためのテクノロジー開発をおこなってきました。そして顧客のユーザビリティを追求していく過程で、さまざまな購買データの取得もまた可能にしています。

例えば、店舗の棚から手に取った商品をリアルタイムで記録するセンサーやカメラは、スマホアプリで自動的に会計をすませ、レジレスで店舗を出るために必要な技術ですが、同時に実店舗での顧客行動分析に使えるデータの収集にも役立てられています。

Quick大野城店において夜間無人化は、人件費の削減を主な目的として実施されています。コンビニをはじめとする終夜営業の店舗は、夜間の時給を高くせざるを得ません。そのため、日中よりも人的コストの高い夜間を無人化することは、経営戦略として妥当といえるでしょう。

そして主目的であるコスト削減とともに、Amazon Goのように購買データを効果的に取得できる可能性もまた高まります。
訪れる購買者にQRコードを使用してもらうことによって、ユーザーと購入データの紐づけが容易になるため、「夜間に店舗を訪れる人の買い物動線」や、「ユーザーがどれくらいの頻度で店舗を訪れているか」、「どのくらいの金額を使っているのか」といったデータが取得しやすくなると予想されます。
これからの実店舗運営は、店舗を訪れる人の利便性を第一にしつつ、購買データも効率よく取得できる取り組みについて、検討、戦略展開をする必要性が高まっていくのではないでしょうか。

参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000023909.html

日本初ポイント:プリペイドカードチャージ

「トライアル Quick大野城店」は、小売店においては日本初となるチャージ方法も導入しています。
これは日本電子決済推進機構が運営するJ-Debitサービスによって、銀行のキャッシュカードを使い、銀行口座からキャッシュレスでプリペイドカードにチャージできる方法をいいます。
専用アプリを使えば、スマホから決済や残高を確認することもできます。

日本は諸外国と比較すると、キャッシュレス決済が進んでいないといわれています。経済産業省の消費・流通政策課は2017年に「キャッシュレス・ビジョン」の中で、2027年までにキャッシュレス決済率4割を目標
として掲げており、PayPayやLINE Payなどキャッシュレス決済サービスもここ数年で大分認知度が上がりました。
その一方で普及率が上がったとはいえない現状ではありますが、小売店のキャッシュレス化が進めば、消費者にとってキャッシュレスが身近に感じられるようになるかもしれません。

トライアルの情報活用「リテールマップ」

トライアルは、10年以上にわたってID-POSデータを蓄積していますが、小売のデジタルシフト、リテールAIにとってより注目したいのは、その管理方法です。トライアルでは、蓄積データをもとにした「リテールマップ」を作成し、売上増減や商圏情報などを可視化。膨大な情報を各所で眠らせることなく一元的に管理し、効率よくデータを活用できる環境を整備しています。

また、商品に関するデータ分析は「MDリンク」として、各メーカーが利用できるように。現在は240社が月間およそ4万5000件の処理リクエストをおこなっていると発表されています。
多くデータを収集しても、チェーンの各店舗や担当者のみが情報を抱えていては第四次産業革命の波にのることは難しいでしょう。
デジタルで時と場所の制約が急速になくなりつつある今こそ、現場とマーケティングを連携させ、活きた情報を即時的に活用できる環境づくりが求められています。

まとめ

リテールAIにおいては、トライアルのリテールAIカメラのように「小売ならではのAI活用」、「小売だからこそ必要とされるデジタル技術」がポイントになります。
ほんの少し前まで、AIといえばアシモフのロボット三原則をベースに製作された「アイ, ロボット」や、キューブリックからスピルバーグに引き継がれた「A.I.」といった映画の中のフィクションでした。
自ら思考するAIはまだ未来の話ですが、ビジネスにAI技術を取り入れる戦略は全世界的に加速度を増しています。この数年の間に、小売業界も大きなデジタル変革が起こるのではないでしょうか。

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