ミレニアル世代以下の「UX世代」に訴えかける店舗のデスティネーション化とは
ECショップが台頭し、ネットショッピングを当たり前のこととする世代は、年々増加しています。急いでほしいわけではないものはすべてネットで買えばいい、ネットの方が楽だとする考えは、主にミレニアル世代以下で顕著に見られ、日本ではなく世界で同様の変化が起こっているのです。
オフラインのリアル店舗に求められるものが大きく様変わりするなか、リアル店舗が生き残るためにはどうすればいいのでしょうか。
本記事では、小売業界が名付けた「UX世代」について、また国内外のショップがUX世代に対して行っているアプローチについてご紹介します。
【目次】
「UX」とは
盛んに使われるようになった「UX」。正式名称は「ユーザーエクスペリエンス(User Experience)」です。ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験のことを指します。
UXと似た言葉に「UI」があります。こちらは「ユーザーインターフェース(User Interface)」の略で、ユーザーと製品・サービスとの接点を指します。つまり、WEBサイトで見るテキスト、バナーなどがUI、コンテンツを見て感じることがUXというわけですね。
「UX世代」とは
小売業界でいわれている「UX世代」とは、何かを買う際、モノではなく体験に重点を置く世代のこと。小売業界が定義している層で、主にミレニアル世代より以下の若者層が中心です。
「UX世代」が求めるもの
「UX世代」は、子ども・10代頃からインターネットに慣れ親しんでいる世代に当たります。そのため、インターネットを通じて買いものをすることに対して、何らハードルを感じません。むしろ、手軽に購入でき、自宅まで配送してもらえるネットショッピングを日常的に使い、リアル店舗での買いものの割合の方が少ない人も珍しくないでしょう。
そんな「UX世代」は、ただ買うだけであればリアル店舗である必要はないと考えます。リアル店舗で買うのであれば、ネットショップでは経験できない体験をしたいと考えるのです。
リアル店舗で購入する理由
ネットショップが充実しているとはいえ、リアル店舗がゼロになるケースはなかなか見られません。
年配層だけではなく、まだまだリアル店舗で買いものをする層は存在しているのです。
では、リアル店舗で商品を購入する理由は何なのでしょうか。主な理由として挙げられるのは、以下の4点です。
【リアル店舗での購入理由】
- 現物確認
- 衝動買い
- その場で持ち帰りたい、配送の受取が面倒
- ショッパーを持てる嬉しさ
1:現物確認
年代を問わず、リアル店舗で購入する理由のひとつが「現物を確認したい」ことでしょう。サイズ感を確認したい衣服だけではなく、質感を確認したい雑貨類も該当します。
自分用ではなく、ギフト用の商品は、なおさらリアル店舗で確認してから購入したいニーズが高いでしょう。相手に喜んでもらいたいからこそ、店員と相談して商品を選びたい人もいるのではないでしょうか。
2:衝動買い
2点目は、「衝動買い」です。商品との偶然の出会いは、リアル店舗の方がまだまだ起こりやすいものでしょう。本来ならば買うつもりではなかった商品に惹かれ、つい購入してしまった経験は、多かれ少なかれ誰でもしたことがあるのではないでしょうか。
3:その場で持ち帰りたい、配送の受取が面倒
3点目は、その場で商品を持ち帰りたい需要です。「すぐに使いたい」「すぐに着たい」といった即時性は、リアル店舗の方が強いです。
また、配送の受取がわずらわしいと感じている人にとっては、購入してそのまま持ち帰れる方が手間がなくていいともいえるでしょう。
4:ショッパーを持てる嬉しさ
ブランド品であれば、ショッパーを持てることに喜びを見出す人も少なくありません。高級店であればあるほど、店舗で店員と話しながら購入し、ショッパーに入れてもらって手渡してもらえる一連の行為自体を楽しみたい人の数は増えるでしょう。
リアル店舗購入理由はECの発達により薄まる
リアル店舗で購入したい人の主な理由を4点挙げました。しかし、どの理由も、実は将来的にずっと保持されるメリットではありません。
例えば、配送に関しては、配送ボックスが最寄り駅やコンビニに設置され、仕事であまり家にいられない人でも確実に手に取れるように変わってきています。配送にかかる時間も圧縮され、都市部では即日手に入れられるケースも増えているのです。
衝動買いの楽しさにおいても、WEB上で個人の好みに合わせた別商品を勧めてもらえたり、InstagramなどSNSから新たな商品に出会ったりすることも珍しくなくなってきています。商品との出会い自体がインターネット上である場合、購入から手にするまでの時間は、リアル店舗よりもネットショッピングの方が短縮可能です。
リアル店舗で買いたい思いを支える理由は、どんどんECに取って代わられていくといっても過言ではないのではないでしょうか。
生き残れるリアル店舗とは
インターネットに慣れ親しむ層が今後ますます増加するなか、生き残れるリアル店舗は以下の2種類だといえるでしょう。
- 消費者が欲しいと思ってから商品を手に入れられるまでの時間・労力を徹底的に抑えられる店舗
- リアル店舗に行くこと自体が目的になり得る店舗
後者は、リアル店舗に行くことがレジャーになり得る店舗とも言い換えられます。こうした店舗は、「デスティネーション」となれる場所です。リアル店舗はいずれかへの二極化がますます加速していくでしょう。
世界のリアル店舗の動き
冒頭でも触れたように、「UX世代」の台頭は世界で見られる傾向です。ここでは、世界のリアル店舗が生き残るために行っている施策の事例をご紹介します。
ウニベイル・ロダムコ・ウエストフィールド
ウニベイル・ロダムコ・ウエストフィールドは、欧米最大のショッピングセンター・デベロッパーです。ウニベイル・ロダムコ・ウエストフィールドのCEOであるクリストフ・キュベリエ氏は、2018年11月に開催された「MAPIC」で行ったキーノートスピーチにおいて、「ショッピングセンターの“デスティネーション化”を推進していく」と語っています。
「MAPIC」とは、欧州・中国・米国など世界中のデベロッパー、小売店が集まる展示会です。2018年11月に行われたこの会では、ウニベイル・ロダムコ・ウエストフィールドだけではなく、多くのデベロッパー、小売業者からUX世代をどう取り込んでいくのかといった話題が繰り出されました。
ヨーロッパシティ
「ヨーロッパシティ」とは、2024年にフランスにオープンする一大商業施設です。シャルル・ド・ゴール空港から地下鉄で7分という利便性のよい場所に作られ、年間3,000万人の来場者を見込んでいます。
ヨーロッパシティのCEO、ブノワ・チャン氏は、ターゲット層を「まさにUX世代」だと語っています。
ヨーロッパシティプロジェクトは、フランスでショッピングセンター運営を行う不動産会社「CEETRUS」と中国の「大連万達集団(ワンダ・グループ)」とが共同で行うものです。
建物の建築にはデンマークの建築家、ビャルケ・インゲルス氏が携わります。インゲルス氏は、世界的な大型プロジェクトを多く手掛ける近年注目の建築家です。得意とするのは、多目的な施設を融合し、未来を描きだすような革新的な建築。
ヨーロッパシティは、インゲルス氏のマスタープランをベースに設計されて建築されます。複数の屋外シアターを備え、映画館の地下には映像コンテンツ制作スタジオを併設。中には3つ星から5つ星までのホテルも4つ含まれ、ホテルの部屋からはパリの夜景が見えるように設計されています。
ホテルやショッピングモール内にあるレストランでは、施設内の農園で栽培された野菜を使い、アグリツーリズムも体験できるとのこと。また、スイミング・船による遊覧が楽しめるウォーターパークも整備するのだそうです。
ショッピングモールで営業する各店舗は、顧客向けのワークショップを共同で企画し、開催する仕掛けを用意するのだそう。 ブランドの特徴を活かしながら、エンターテインメント化できる仕組みは、ユーザーがレジャーとして訪れたくなるリアル店舗といっていいでしょう。
ザ・ビレッジ
ザ・ビレッジは、フランス・リヨンの郊外に2018年5月にオープンしたアウトレット・モールです。ヨーロッパシティと同じく、建築とデザインコンテンツを武器にした店舗で、オープンから10日間で50万人を集客して話題になりました。
光のデザインを得意とするイタリアの建築家、ジャン二・ラナウロ氏が手掛けた建築は、木とガラスでできた真っ白な切り妻屋根の小屋が密集して繋がるもの。写真を撮りに訪れるインスタグラマーも多いスポットになっています。
リヨンのランドマーク足り得るスポットとして、多くの人が訪れています。
日本のリアル店舗の動き
海外だけではなく、日本でも特色を持つリアル店舗が増えてきています。ここでは、都内にある3店舗についてご紹介します。
【原宿】LUSH
バスアイテムを展開するLUSHが原宿にオープンした店舗は、LUSHの看板商品「バスボム(入浴剤)」の専門店です。
この原宿店では、ユーザーはARを使って遊びながら商品情報を入手できます。店内は白を基調とし、回転寿司のようにバスボムが回るレーンが設置されているのが特徴です。この内装は、既存店と異なるという意味でもファンにとって「行ってみたくなる」店舗だといえるでしょう。
LUSHの既存店では、製品を使った実演販売が行われているのが通常ですが、原宿店では実演販売も行われていません。自社開発の専用アプリ「Lash Labsアプリ」で商品をスキャンすると、画面上にバスボムが溶けたときの様子が見られる仕組みです。
この取り組みの背景には、水の使用量の削減があります。LASHの地球環境に配慮するブランド精神ともマッチしているのです。
【原宿】GU STYLE STUDIO
GUが原宿にオープンした「ジーユースタイルスタジオ(GU STYLE STUDIO)」は、GUの「次世代型店舗」です。
店内には、アバターを使ってコーディネートを楽しめる「ジーユースタイル クリエイタースタンド(GU STYLE CREATOR STAND)」を設置。自分のオリジナルアバターを使い、さまざまなコーディネートを楽しめます。アバターの情報は、新公式アプリ「ジーユースタイルクリエイター(GU STYLE CREATOR)」に連携でき、オンラインストアでそのまま購入可能。購入した商品は、自宅のほか、希望のGU実店舗、指定のセブンイレブンでも受け取れます。
【銀座】SEIKO DREAM SQUARE
「セイコードリームスクエア(SEIKO DREAM SQUARE)」は、時計メーカー「SEIKO」が銀座にオープンした4フロアからなる体験型小売り施設です。
1階には「セイコーサテライトミュージアム」が併設され、セイコーブランドの歴史や世界観を体感できるスペースになっています。
そのほか、自身のスマートフォンで館内のQRコードを読み込むと楽しめる情報体験型コンテンツ「スクエアナビゲーター」も。各フロアのカウンターで読み込むことで、自分だけのカタログを作れます。また、4つのフロアの壁面に記されたマークを読み込むことで体験できるスペシャルコンテンツも。マークをすべて集めると、デジタルギフトをもらえるエンターテインメント性も備えています。
銀座という訪日外国人観光客も多く訪れる場所を活かしたブランドを体感できる複合施設です。
「モノ消費」から「コト消費」が進むなか、特別な「UX」を
ミレニアル世代を中心とした「UX世代」を筆頭に、ますます消費は「モノ」から「コト」へと変わっていきます。そのなかで、リアル店舗が持つ役割は、「商品を買う」ことではなく「特別な買いもの体験」になっていくでしょう。
今回ご紹介した国内事例は、すでにECも展開しているブランドです。そのため、リアル店舗での購入ではなく、「実店舗で見たうえでオンラインで買う」層もいるでしょう。なかには、オンラインでの購入にすら結びつかず、体験だけで終わってしまうこともあるかもしれません。
しかし、リアル店舗での特別な体験は、ユーザーのブランド価値を向上させ、将来的な購入に至る可能性は十分にあります。結果、トータルでの売上増に繋げていくことが可能となるのです。
ECからの売上、リアル店舗からの売上とチャネルごとに分けて判断しすぎず、リアル店舗ならではの体験を売上全体の向上に繋げていく考え方が必要になっていくのではないでしょうか。