人手不足の解消策?セルフPOSや顔認証で無人店舗の実証実験実施
スーパーやコンビニで実証実験がおこなわれている無人店舗。その実験に使われているのがセルフPOSです。顔認証やQRコードといったテクノロジーとセルフ決済を活用した無人店舗は、人手不足解消の救世主となるのでしょうか。
今回は、最新の無人店舗実証実験について紹介します。また、セルフPOSのメリットとデメリットについても改めて振り返ってみました。
【目次】
- 無人店舗の実証実験が続々と!人手不足を解消できるか
- ローソン深夜の無人「スマート店舗」QRコードや顔認証
- ジョイフルサンアルファなど顔認証&セルフPOSの無人店舗を展開
- ソフトバンクによるオフィスの無人販売「スマートマルシェ」
- JR武蔵境駅セルフPOSのみの「NewDays」キャッシュレス決済専用
- 無人コンビニの市場規模:2種類の「無人店舗」とは
- 無人店舗にできる?セルフPOSのメリットとデメリット
- 無人店舗は人物特定、セルフPOSは決済方法がポイント
無人店舗の実証実験が続々と!人手不足を解消できるか
お店にスタッフが誰もいなくても、欲しいものが買える時代。そんな無人店舗の実証実験が各地でおこなわれています。
今、リアル店舗は慢性的な人手不足に悩まされています。
2018年6月に公表された日銀の「全国企業短期経済観測調査」によると、全産業で雇用人員判断は軒並みマイナスの低水準でした。雇用人員判断は、人員が過剰と答えた企業の割合から不足と回答した企業の割合を引いたものです。
人手が少ないとコストがかかるのは世の常で、小売業や外食店といったサービス業の人件費は高騰、原材料費のコスト増と併せて決算の数字は悪化の一途をたどっています。
人手不足の解消と人的コストの削減を解決する対応策として注目されているのが、「リアル店舗の省人化」。無人店舗の実証実験もこの省人化の一環です。
では、各社がどのような技術を用いて無人店舗を作ろうとしているのか、実際の実験についてみてみましょう。
ローソン深夜の無人「スマート店舗」QRコードや顔認証
ローソンがおよそ半年の予定で8月23日0時からスタートさせたのは、ローソン氷取沢町店(横浜市磯子区)の「スマート店舗(深夜省人化)実験」です。
これは午前0〜5時まで実施している実証実験で、この時間帯には店員は1名のみ、それもバックヤードでの勤務となります。なお、今後の実験進行次第で、完全無人で営業をおこなう展開も実施される予定です。
スマート店舗になっている期間(時間帯)の入店については、以下のいずれかを実行している人のみ可能になっています。
- 事前にアプリへ登録された入店用QRコードを入手している
- 近隣住民に配った入店カードを持っている
- 入店管理機器で顔写真の撮影をしている
つまり、入店は、QRコードもしくは顔写真で入店管理システムに登録されている人のみが可能ということです。このシステムはNECが開発しており、QRコードか顔写真で利用者確認をしてから自動ドアが開くようになっています。なお、人物の解析にはNECの顔認証AIエンジンが活用されています。
決済方法は、アプリ「ローソンスマホレジ」を使うか、自動釣り銭機能のついた「完全セルフレジ」を使います。「完全セルフレジ」は、現金だけでなく、クレジットカードや電子マネー、バーコード決済にも対応。キャッシュレス決済もできるようになっています。
しかし決済の性質上、たばこやアルコール、切手やチケット発行は取り扱い不可となっています。
ローソンは、氷取沢町店の実験を通じて店舗オペレーションや防犯上の課題などをチェックし、「スマート店舗」の拡大展開を検討していくとしています。
ジョイフルサンアルファなど顔認証&セルフPOSの無人店舗を展開
長崎市内に11店舗のスーパーを展開するジョイフルサンアルファと穴吹ハウジングサービス、NECソリューションイノベータの3社は24時間営業の小型無人店舗を共同開発しました。2019年8月から穴吹ハウジングサービスが管理している分譲マンションの「コアマンション長崎ガーデンヒルズ(長崎県長崎市)」の共用部分において、2019年8月30日~2020年8月29日まで無人店舗の実証実験をおこないます。
取り扱うのは産地直送の新鮮な野菜や果物など、一般のスーパーでは取り扱いが難しい商品も含まれる予定とされています。
システムの核となるのは、NECの顔認証技術を使った入退館システムとセルフPOSシステムです。これは、事前に居住者の顔情報をシステムに登録しておいて、利用者をカメラで撮影して認識し店舗に入る仕組みです。
POSシステムにも人的コストはかけず、現金なしのキャッシュレス決済を実装しています。なお、キャッシュレスの仕組みとしてはジョイフルサンアルファの電子マネーカードが使われます。
また、無人店舗には、穴吹ハウジングサービスがデジタルサイネージで発信する地域情報提供サービスも実装されるということです。
この実証実験を通して、無人店舗の事業性、システムや技術の運用検証や課題抽出がおこなわれる予定です。
ソフトバンクによるオフィスの無人販売「スマートマルシェ」
ソフトバンクは2019年5月22日に、菓子や飲料、日用品といった商品をキャッシュレスで購入可能な無人販売サービス「スマートマルシェ」を発表しました。
東京23区を対象に、セルフPOS用のタブレットと決済端末、棚や冷蔵庫といった設備を設置費、運用費不要で導入することができます。
購入方法は交通系電子マネーやPayPayなどのキャッシュレス決済で、こまかいお釣りがいらないため、さまざまな商品を取り扱えることをメリットとしています。
想定されている設置場所はオフィスや学校、病院。タブレット経由で売上データが蓄積され、ソフトバンクがそのデータを基に適切なタイミングで商品補充をおこないます。こうした小さな無人店舗は、購買や休憩所の運営に対する人手不足解消の一手となり得るかもしれません。
JR武蔵境駅セルフPOSのみの「NewDays」キャッシュレス決済専用
無人店舗とは少し違いますが、スタッフの負担軽減を目的としてオープンしたコンビニもあります。
JR東日本リテールネットが7月30日からスタートさせた「NewDays 武蔵境 nonowa口」がそれです。JR武蔵境駅(東京都武蔵野市)に位置するこのNewDaysは、決済方法を交通系電子マネーもしくはクレジットカードに限定。スタッフは商品の品出しや案内といった業務をおこない、会計にはタッチしません。レジにスタッフを配置しないことで、働き手の負担軽減を目指すのがねらいです。
なお、こちらもローソンの深夜無人店舗と同様に、たばこやアルコールの購入、収納代行サービスやチケット発券サービスは利用できません。JR東日本リテールネットは、この試み後に課題を抽出して、首都圏を中心に同様の運営形態の店舗を増やす計画を立てています。
無人コンビニの市場規模:2種類の「無人店舗」とは
無人店舗はセルフPOSや画像解析、AIを活用したシステム構築によって急速に進化を遂げています。人手不足を解消するための対応策としても有効とみられる無人店舗、市場規模は一体どれくらいとみられているのでしょうか?
無人店舗は、現在ローソンやNewDaysが試みているような「既存店舗を無人に置き換える」かたちと、徒歩1分圏内をターゲットとした「自動販売機のような新しい店舗」のかたちという2種類に分類されます。
コンビニは500m、スーパーは5,000mが商圏とされており、こうした既存店舗を無人に置き換えるのは、今おこなわれている「物を買う」というスタイルを変更することなく購買に用いる手段を変えていこうという考え方です。これらは、それぞれ国内で10兆円の市場規模があるとされています。
今後さまざまな場所で実証実験が広がり、改良や課題抽出がなされていく中で利便性は高まり、対人レジで会計するのと変わらずに無人店舗で買い物をする日がくるかもしれません。
一方、新しいかたちの無人店舗は、穴吹ハウジングサービスなどの3社が共同で開発したマンションの共有部分に新しく店舗を設置するようなスタイルをさします。ソフトバンクの提供する「スマートマルシェ」もこれに該当します。
これは半径50m以内(徒歩1分圏内)をターゲットにしています。オフィスやマンションといった人の集まる空間に設置するこのような無人店舗も、長期的な視野においては充分な市場規模を獲得する可能性があるという見方があります。
無人店舗にできる?セルフPOSのメリットとデメリット
コンビニのように、任意の時間帯を無人で運営したい、人手を少なくして運営したいと考えるのであれば、セルフPOSの導入は不可欠といえるでしょう。
では、導入を考えた場合のメリットとデメリットはどのようなものがあるでしょうか。
セルフPOSにおいては、飲食店の方がメリットが大きかったり、店舗を訪れる消費者の年齢層に利便性が左右されたりします。無人店舗に限らずセルフPOS(セミセルフPOS)はスーパーなどで導入が広がっていますが、取り入れるにあたっては当然ながらメリットとデメリットをそれぞれ理解しておく必要があるでしょう。
セルフPOSの店舗側メリット
セルフPOSを導入したことで生じる店舗のメリットは、
- 会計の時短化を実現
- お金と商品を分けて衛生を保てる
- 省人化
の3つです。
一般的に、セルフPOSの方が対人レジよりも1件あたりの会計時間が短くなることが分かっています。
しかし一方で、「自分で会計すると、後ろに並んでいる人にイライラされそうで気がひける」というユーザー側の声もあります。
そのためにセルフPOSを使うのをためらうという顧客も少なくないため、導入にあたっては並ぶスペースを広めに確保して顧客同士がスムーズに利用できるようにする、後ろの人に気兼ねなく会計できるような動線を確保するといった配慮が必要になってくるかもしれません。
また、食品を扱うスーパーや飲食店では、スタッフがお金に触れることがなくなるためお金を触った手で飲食物を触らずに衛生的というメリットもあります。
3つめのメリット、省人化は今現在この理由のためにコンビニやスーパーなどが実証実験をおこなっているといっても過言ではありません。セルフPOSならば、レジの台数分必要だった人件費を削減できるからです。多くの店舗経営者は、セルフPOS導入を人手不足を解消する特効薬のひとつとして考えているのではないでしょうか。
セルフPOSのユーザー側メリット
セルフPOSで会計をするユーザー側メリットは、
- お金と商品を分けて衛生を保てる
- 慣れてくれば自分のペースで会計できる
の2点です。自分が食べる食品にお金を触った手で触れてほしくないという人にとっては、スタッフがお金に触れることのないセルフPOSは衛生的な安心感があるでしょう。これは、店舗側のメリットでも挙げているので、双方にとっての利点といえます。
店舗側のメリットで挙げた会計の時短化と、2点めの「慣れてくれば自分のペースで会計できる」というのは一見矛盾しそうですが、対人レジよりも焦ったり待ったりすることが少なくなり、結果的には対人レジよりも短い時間で会計を済ませることができるといわれています。
とはいえ、セルフPOSを敬遠する人も少なくないので、このメリットを大多数の人が利点と感じるのは少し先のことになるかもしれません。
セルフPOSのデメリット
一方、セルフPOSのデメリットは次の2点が挙げられます。
- 場合によっては説明するためのレジ横スタッフが必要
- 商品数が少ないと対人レジよりも1つの会計に時間がかかる
セルフPOSは、初めて見る人でも使いやすいとはいえ、機械が苦手な人や高齢者は「やり方が分からない」、「どこを操作したら会計できるか分からない」という不安や不満を抱くケースがあります。特に導入直後などは、買い物をする顧客全員がスムーズに会計できるよう、セルフPOSの横に説明のためのスタッフが常駐する必要があるかもしれません。
酒類やたばこなど、年齢確認が必要な品目を扱う場合も、スタッフが操作をすることになるでしょう。
また、会計する商品数が少ないとかかる時間は対人レジよりも長い場合があります。これも限られた時間でできるだけ多くの会計をこなしたい店舗としては、回転率が悪くなるため困る点です。
とはいえ、セルフPOSは年々改良され、より分かりやすく使いやすくなっています。例えば、当初のセルフPOSは現金払いが一般的でしたが、現在ではクレジットカードや電子マネーに対応したレジが増えてきています。
無人店舗は人物特定、セルフPOSは決済方法がポイント
無人店舗は、商品と購買者を紐づける必要があります。そのためには、利用者を限定したり、事前の利用登録を促したりするケースも。一方で実証実験の一環として、自由に訪れることができる形態の店舗もあります。
人物の特定には、QRコードだけでなく顔認証や画像解析システムが使われることもあります。
また、無人店舗の決済はセルフPOSが担うことになりますが、現金とクレジットカード、電子マネーなど幅広く取り扱うか、現金を扱わずにキャッシュレス決済のみで実施するかによっても違いが出てきます。
こうした新しいテクノロジー活用の一方で、セルフPOSに慣れない高齢者やおつかいに来る子どものユーザビリティをどのように維持するかという課題もあります。無人店舗の代名詞的存在であるAmazon Goも、完全なる無人店舗から、人的コストを接客に回す、米国におけるキャッシュレス禁止の流れを受けて「現金取り扱いなし」を撤回するなどサービスを変容させています。
日本においても同様に、無人店舗といっても完全に無人化するのではなく、レジ対応はしないけれどアドバイザーや接客スタッフとして人員を配置するという動きが求められるのではないでしょうか。
まとめ
今後は、首都圏に限らずさまざまな地域でさまざまな形態の無人店舗実験が実施されることでしょう。人手不足を解決するソリューションとなるのかどうか、今後の動向にも注目したいところです。