「セルフレジを導入するだけ」の省人化に、ちょっと待った!小売業や飲食業が真に求めるべき省人化とは
最近、「省人化を図りたいのでセルフレジの導入を検討したい」といった類のご相談をよくいただきます。お客様の業種は飲食店からサービス業、コンビニまで実に様々ですが、「働き手の不足」という点においては、全企業に共通する経営課題と言えます。
働き手が足りないから、リソースや工数を極力削減できるシステムを導入する「省人化」。その考え方は一見理にかなっているように見えます。しかしながら、そこにはもっと踏み込んで紐解くべき課題が潜んでいます。解決すべきなのは、本当にリソースや工数を削減すること「だけ」でしょうか?
目次:
- 具体性のない省人化
- 省人化の「真の目的」とは
- 省人化はシステムだけの話ではない
- 「Amazon Go」が突きつける理想と現実
- 自社ならではの「選択と集中」を実践している「スシロー」
- 「顧客に任せる省人化」と「接点を減らす省人化」
- 「省人化」の相談によくある問題点
- さいごに
具体性のない省人化
現在、各企業が直面している人材リソース不足は深刻な上、労働力の確保も難易度が上がっています。採用が思うようにいかないという課題もあるし、上がり続ける最低賃金がコストを圧迫するという側面もあるでしょう。
特に飲食店の場合は売上を増やすためには出店戦略が肝になってくる訳ですが、店舗を出せば出すほど人材不足が進んで立ち行かなくなる、という状況を懸念している企業も多いと思います。
こういった状況を突破するために「省人化」が必要なことは間違いありません。しかし、日頃多くのお客様と話をして感じるのは、その「省人化」に具体性がないまま、私たちの元に相談が届くというケースがほとんどである、ということです。
誤解がないようにしておきたいのですが、この手の相談の場合、「手段」としての具体性はあるのです。「省人化をしたいからセルフレジを導入したい」というように。私が具体性に欠けていると言ったのは、省人化の「目的」についてです。
省人化の「真の目的」とは
省人化には、厳密にいうと「人を減らす」ということの先に「無駄を省いてリソースを有効に使う」という考え方があるはずです。つまり、オートメーション化できるところはしつつ、人がやった方が企業の価値が高まる部分にリソースを集中させ、顧客満足度を高める、というのが真の意味で今やるべき省人化なのです。
ともすると、「人を削減するから、削減した給与分がいくら浮くのでコストパフォーマンスはこれぐらい」という見方をしてしまいがちなのですが、それでは省人化のシステム導入は単なる「設備投資」以上の意味を持たなくなります。
私たちが提案したいのは、そういったリソースや工数削減の先で新しい価値を生めるシステムの在り方です。極端な例え方をするならば、あるアパレル店にスタッフが5人いるのであれば、それを3人にするという考え方ではなくて、接客に5人を投入してサービスを分厚くできるようにするとか、飲食店であれば、ホールを全てオートメーション化して、キッチンに5人回して味の質を徹底的に高める、といった考え方を実現することが、私たちの考える「省人化」です。
そしてこれは、単純にセルフレジやセミセルフレジを導入しただけでは実現できません。
省人化はシステムだけの話ではない
「労働力の確保」という観点で言うと、店舗スタッフを全て賃金の低いアルバイトで構成するといった手段を採る企業もあるかもしれません。しかしながらそれは、現状のシステムとオペレーションを残したまま、労働力に対するコストを短期的に下げようとして行き着く手段と言わざるを得ません。すると、結果的にサービスのクオリティが落ちる可能性があり、顧客満足度の低下にも繋がる訳です。
顧客側に「手厚いサービス」に対する期待値がない業態であればそれも在り方の一つかもしれません。しかし、省人化を長い目で見て顧客のファン化にまで結びつけるという大きなリターンを得るためには、限られたリソースを「選択と集中」でどこに充てるべきかを考え、それを実現するための仕組みをシステム、オペレーションの両面からディスラプト(創造的破壊)する必要があるのです。
「Amazon Go」が突きつける理想と現実
なぜAmazon Goが「省人化」という文脈でここまで注目されるかというと、一見、リソース不足に悩む大企業にとっては理想的な省人化の形に見えるからです。何しろ無人店舗です。リソースとしてはバックヤードで在庫補充する人材がいれば成り立つかもしれないと色めき立つ訳です(実際はAmazon Goはその分接客を厚くしているという側面があるのですが)。しかしながらこれは、Amazonの明確な意志の元で抜本的に仕組みを変え、そこに莫大なコストをかけられるからこそ可能な話です。
実際には、一店舗あたりの投資額が大き過ぎるため費用対効果が悪すぎるという見られ方をしますし、多くの企業はそもそもそこまでのコストをかける体力がありません。結局、どのレイヤーの企業にも刺さらず、Amazon Go的なことに本気で取り組む企業はなかなか現れず、いくら良い手法に見えても普及には至りません。
このように、Amazon Goのような「スタッフをゼロにする」という極端な省人化は、未来に投資できる相当な体力がないと実現が不可能です。したがって、多くの企業にとっては、やはり「選択と集中」でリソースを効果的に活用し企業価値を高める、という省人化が現在のトレンドとなるのです。
自社ならではの「選択と集中」を実践している「スシロー」
「スシロー」は6月に兵庫にオープンした新型店舗で、自動受付システムや、画像認識による「自動皿会計システム」を導入しています。これは、ホールの仕事をシステムによって自動化することで、寿司の旨さに直結するキッチンの仕事にリソースを集中させるという目的の元に実施した、スシローならではの省人化の「答え」と言えると思います。
もちろん、このシステムを構築するためにレーンの入れ替えなど含め、かなり大きなコストをかけているはずです。ですから、現状はPoCという位置付けで新店舗の1店のみでスタートし、設定したKPIと成果を照らし合わせながら、今後局所的に展開していくことを考えていると思います。そしておそらく、この店舗は今後大きな成果を上げるのではないでしょうか。
https://toyokeizai.net/articles/-/290155
「顧客に任せる省人化」と「接点を減らす省人化」
ここまで読むと、それでは自社にとっての最適な省人化とは具体的にどう考えればいいのか、という疑問が湧いてくると思います。「仕組み」の部分を分解して考えてみましょう。
ある店舗ではお客様が入店してから退店するまでの間に、10回スタッフが手をかける接点があるとします。これを省人化するには、実はふた通りのやり方があります。
一つは、10回という接点の数は変えずに「一部を顧客に任せる」というやり方です。セルフレジやセミセルフレジは、まさにこのやり方ですね。
もう一つは、この10回の接点自体を8回、7回に減らす、というやり方です。Amazon Goなどは、「会計する」という行動接点自体をテクノロジーの力ですっ飛ばしている訳です。
どんなやり方が顧客にとって最も心地よい購買行動になるかは、企業ごとに違うとしか言いようがありません。それが例え同業種同士であってもです。
高級レストランであれば、行動接点は多く、座っているだけでオーダーから配膳、会計まで全てスタッフがやってくれることが価値に繋がるでしょうし、ファーストフードであれば会計も配膳も客任せにするけれど、味はよくてとにかく安くて早いということが価値になるでしょう。
一部のハイブランドのように来店客に対して「ドアを開ける」ためだけにリソースを割くことで高級感を演出する企業もあれば、同じく高級感が大事な業態でも、ゴルフ場などはセルフレジを迷わず導入します。なぜなら、ゴルフはプレー中がもっとも重要な顧客体験であり、会計時にもてなす必要がないからです。
つまり、何を大事にするかはその企業の在り方やブランディングによって全く変わってくるのです。
これは、「家事の負担を、何を大事にしてどう軽くするか」という話と実は構造が同じです。外出が好きで常にフロアをツルツルにしておきたい家庭ならロボット掃除機に投資するでしょうし、大家族でとにかく洗濯物は洗えて乾けばいい、服の多少の傷みは気にしないという家庭ならドラム式洗濯乾燥機に投資するかもしれません。あれもこれも実現したいけれど、予算の上限によって優先度をつける、という側面もあります。
まずはロボット掃除機を導入して、来期の予算(ボーナス)で食洗機を入れましょう、みたいな感じですね。
「省人化」の相談によくある問題点
ここからは、省人化の相談をいただいた時によく直面する問題点についてお話したいと思います。
視野が狭くなってしまう
省人化、というとすぐにセルフレジやセミセルフレジを導入したいという話になるケースが多いのですが、本来、省人化の手法にはもっと色々あります。
小売業の場合なら、根本の目的が「とにかく接客にリソースを寄せる」ことであれば、会計や袋詰めといった決済時の業務負担を軽くすること以外に、バックヤード業務を軽くする、という考え方もあるわけです。したがって、再三申し上げているように、その省人化の「真の目的」まで視野を広げて考える必要があります。
仮に、真の目的に照らし合わせてもセルフレジの導入が望ましいという結論が出たとします。この時にも視野を広く持たないといけません。なぜなら、セルフレジを導入するために、実はもう1、2個仕掛けを作らなければいけない可能性が高いからです。ここに気づいていないお客様は結構多いのです。
セルフレジとよくセットで語られるのがRFIDです。RFIDとセルフレジを組み合わせればリソースも削減できるし、決済が一瞬で済むのでレジの渋滞も減らせて回転率も上げられる、そんな期待感のあるテクノロジーです。
しかし一方で、空のRFIDに商品番号を入力していくリソースとコスト、そのRFIDタグを商品に一個ずつ取り付けていくリソースとコストはどう考えていますかと問うと、そこに気づいていなかったというお客様がほとんどだったりします。
費用対効果への過剰な期待とKPI設定
省人化のご相談をいただくお客様は必ず「費用対効果」を気にされます。これは仕事である以上当然だと思います。コストをかける以上、必ず成果を計測する指標は必要です。ただ、先ほども申し上げたように、省人化のためのシステム導入費に対する削減できた賃金額などで効果を検証するのには少し違和感を覚えます。
省人化の費用対効果を測りたい場合、リソースの選択と集中を行った結果、集中した部分でどれぐらいの成果を出せたのかを指標として設定するのがあるべき姿なのではないかと思います。それは、飲食店なら回転率や提供までの時間かもしれないし、小売業なら接客した人数や時間かもしれません。
しかし、残念ながらこれらは短期のうちに目に見える成果を出すことが難しいという側面もあります。なぜなら、オペレーションが変われば、スタッフがそれに慣れるまでに相応の時間を要するものだからです。
それを理解した上で、店舗のどの部分でどの程度の成果を求めているかを明確にし、それについてどれぐらいのコストを投資できるかを設計するところから「省人化」はスタートします。つまり、実行しようとしている省人化の「納得感」をどこに持つかについて、あらかじめ会社全体でコンセンサスを取っておく必要があるのです。それがないままプロジェクトが進むと、どこかで大事な部分が抜け落ちたり、ちぐはぐな施策へと成り下がってしまう危険性があります。
結局、この問題も、やはり「真の目的」が見えているか否かに起因しているのだと思います。
「真の目的」が見えているか否か
私がお話をさせていただくお客様は、相談を持ちかけてくる時点で、会社の上層部から「とにかく省人化しなさい」「セルフレジを導入しなさい」と号令をかけられている場合がほとんどです。
私は必ず、なぜその結論に至ったのか、その背景にある最も大事にすべき目的、経営課題は何かをお尋ねします。しかしそれに答えられないお客様も多いのです。そこがすっかり抜け落ちて、「省人化、セルフ」というワードだけが現場に落ちてきているというのが、私の率直な印象です。
本来であれば、経営課題から紐解いて最適な省人化の方策とKPIを設定し、オペレーションまで設計するのは、組織横断した決裁権を持てる人間の役割であるべきだと思いますが、実際は、そこまで設計されていない状態でご相談をいただく場合がほとんどなのです。
さいごに
色々と書きましたが、もしこの記事を目にされて、「今まさに省人化や省力化という課題に直面している」という企業のご担当者がいらっしゃいましたら、あまり深く考えず、まずはお気軽にお声がけいただければと思います(その時点で経営課題まで紐解けていなくても気になさらないでください)。
私たちは、この「省人化」というテーマに対しても、経営課題まで紐解いて、システムの構想からオペレーションまでを具体策に落とし込むアイデアと、それを実現するシステムデリバリーのノウハウを持ち合わせていますので、ただ設備を入れるだけではない、「納得感」と未来がある「真の省人化」をご提案させていただきます。
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この記事を書いた人
清水秀大
株式会社エスキュービズム DXコンサルティング部 シニアコンサルタント
銀行・証券・保険を中心としたのシステム営業を10年勤めた後、満を辞して小売業界へ。年間200社以上の企業と商談を重ねるITコンサルのエキスパート。セールスという立場でありながら、クライアントから要件定義へのアサインをリクエストされることもしばしば。趣味はゴルフと長距離ドライブ(沖縄以外の46都道府県を走破)。