IT導入補助金とは:概要からA類型・B類型の違いまで
IT導入補助金とはITツールの導入を検討している中小企業や小規模事業者への支援事業であり、IT導入支援事業者も、法人、コンソーシアムとしてこの事業に関わることができるようになっています。
この記事では、IT導入補助金の対象となる企業や事業者について、またどのようにITツールを導入すれば補助を受けられるのかについて解説しています。
さらに、法人やコンソーシアムとしてIT導入支援事業者がどのように事業に関わるかについてもご紹介しています。
2019年度の募集は7/17に開始した二次公募まで終了していますが、来年度の募集に備えて2019年の応募要項についてみていきましょう。
【目次】
IT導入補助金とは
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者向け支援事業のひとつです。
企業や事業者の課題を解決するために導入するITツールの経費を一部補助する制度で、ソフトウェアの費用や導入に関連する費用に対して補助を受けられるようになっています。
以下に、対象者と対象経費、上限額などをまとめました。
2019年度IT導入補助金の補助対象者
中小企業および小規模事業者が対象です。
飲食、宿泊、卸・小売から運輸、医療、介護、保育といったサービス業も対象になっています。
しかし、該当する業種であればどのような規模でも補助の対象になるわけではありません。制度が定めている中小の規模に該当していることが条件になります。資本金が多かったり従業員の数が一定数を超えていると、中小規模以上とみなされ、今回の補助の対象とはなりません。
また、要件を満たしている場合も、発行済株式のほとんどを大企業が保有していたり、大企業の役員や職員が役員の半数以上を占めている、いわゆるみなし大企業とされる企業は、申請をすることができないようになっています。
自社が対象かどうかは、「IT導入補助金2019」の該当ページでチェックできます。ITツールの導入を考えているという企業や事業者は、まずここで申請できるかどうかを確認してみましょう。
・IT導入補助金2019
https://www.it-hojo.jp/overview/
補助対象経費
補助対象経費となるのは、「IT導入補助金2019」サイトに公開されているITツールのソフトウェア費用および導入関連費です。
補助金のサイトでは、IT導入支援事業者とITツールの検索ができるようになっています。
・IT導入支援事業者・ITツール検索
https://portal.it-hojo.jp/h30/search/?_ga=2.253390665.1501385090.1566199113-984031179.1566199113
補助金の上限・下限はA類型とB類型で分かれており、どちらも補助率は2分の1以下と決められています。
A類型とB類型の必須条件と補助金額
この補助金制度では、ソフトウェアを3つの大きな種類に分類しています。
1種類めの「業務パッケージソフト」には、次の8つの業務プロセスがカテゴライズされています。
- 顧客対応・販売支援
- 決済・債権債務・資金回収管理
- 調達・供給・在庫・物流
- 人材配置
- 業種固有プロセス(実行系)
- 業種固有プロセス(支援系)
- 会計・財務・資産・経営
- 総務・人事・給与・労務
2種類めの「効率化パッケージソフト」には、自動化・分析をおこなうソフトが含まれます。3種類めは、汎用パッケージソフトとなっています。
この3種類の中から、どのような組み合わせでパッケージソフトをいくつ導入するかによって、A類型とB類型どちらで申請できるかどうかが決まります。
A類型とB類型は、導入するITツールが担うプロセス数と導入費によって分けられています。
【A類型】
A類型は、3分野のパッケージソフトから2種類以上を組み合わせて導入する必要があり、40~150万円未満が補助金の上限・下限となっています。
必須条件として、業務パッケージソフトの個別プロセスは最低1つ以上を導入すること、つまり最低1つは業務パッケージソフトを導入することが課されています。また、2020年から2022年まで3回の事業実施効果報告をおこなう必要があります。
【B類型】
B類型は、3種類のパッケージソフトの中から5つ以上を導入する企業や事業者に適用されます。なおこちらでも、業務パッケージソフトは最低3つ以上を導入する必要があります。
補助金の上限・下限は150万円以上450万円以内に定められています。
事業実施効果報告は、2020年から2024年まで5回する必要があります。
つまり、A類型、B類型どちらにおいても補助金の対象となるためには、必ず複数の業務パッケージソフトを導入する必要があるということです。8つのプロセスのうち必要なものが分からないという時には導入コンサルティングを、また運用に不安がある時には導入設定や導入研修といった役務を活用するとよいでしょう。これらの費用もソフトウェア導入関連費として補助金の対象に含めることができるからです。
ちなみに、機能拡張やデータ連携ツールといった「オプション」費用も、補助金の対象となります。
IT補助金の対象にならないものをチェック
IT補助金の対象となるのは、サイトに掲載されているITツールや、この事業のパートナーとして登録しているIT導入支援事業者のコンサルティングにかかる費用です。
PCやタブレットといったハードウェアの購入や、独自システムを構築するスクラッチ開発費用、広告宣伝費やハードウェアなどのリース料金は対象外となります。
導入支援は、あくまで市販されているITソフトウェアを使って効率化をはかるという目的でおこなわれるため、ソフトウェアを大幅にカスタマイズした場合も補助の対象外となります。
IT導入補助金の支援事例
ITツールの導入といっても、具体的な効率化の姿やソリューションを思い描くのが難しいという事業者は多いでしょう。
ITを導入したことで研修が必要になったり、業務が煩雑になったりしたら却って効率が悪くなると身構えてしまうこともあるかもしれません。
しかしITツールは、適切に導入すれば売上アップやスムーズな顧客管理を実現することができます。
公開されている過去の事例には、次のようなものがあります。
飲食業:原価率の見える化と給与計算の効率化
飲食業に、原価や顧客、業務、給与の管理ツールを導入したところ原価率の見える化を実現、ツールを導入したことで仕入れの削減など具体的な経営改善案を出せるようになりました。
また、手書きで半日かけていた給与計算をExcelで効率化。必要な作業時間は半日から1時間になり、その分の時間を別の業務に充てることができるようになります。
製造業:管理帳票作成の効率化と残業時間削減
ITツールを使ってデータを得るということは、効率化と見える化に通じます。製造業では、人事シフトや業務管理ツールによって残業時間を即時把握できるようになり、残業を減らすための意識改革に一役かったという報告がなされています。
また、2日かけておこなわれていた給与計算や管理帳票の作成は、ITツール導入により、数時間ですべてをおこなえるようになったという報告もあります。
ソフトウェア:クラウド導入でデータ入力作業時間を削減
多くの情報を即時管理、把握できるようになるクラウドも、ITツール導入の恩恵を感じやすいツールです。
受発注システムや業務管理、財務・会計管理をシステム化することによって、入力作業を0に、月次の経営管理資料作成にかかる日数を5日間削減など、効率の良い業務報告があがっています。
経営診断ツールを活用して自社の状態をチェック
自社の経営状態を客観視し、必要なITツールを見極める道具として、「経営診断ツール」が公開されています。
業種や従業員数といった基本情報と、最新決算期を含めた2期分の決算関連情報、5つの質問に答えることで、事業計画を立てる上で把握しておく必要がある課題がみえてきます。
決算関連の情報は、年間の平均労働時間や借入金、減価償却費、純資産合計、負債合計などこまかく記載する項目があるため、必要な情報が載っている台帳をあらかじめ用意してから始めるとスムーズです。
・経営診断ツール
https://www.it-hojo.jp/applicant/checktool.html
法人とコンソーシアム、2種のIT導入支援事業者
IT導入補助金事業には、共同事業者として登録しているIT導入支援事業者がいます。
これは、補助金を利用する中小企業や小規模事業者の生産性向上のために適切なITツールを提案し、導入や事業計画策定の支援およびサポートをおこなう事業者のことです。
IT導入支援事業者は、法人とコンソーシアムいずれかで登録をした事業者になります。
法人は、登録要件をすべて満たしている単独企業および事業者としての登録です。1つの法人が、ITツールの登録から事業実施効果報告までを単独でおこなうようになっています。
一方、コンソーシアムは幹事社1社と構成員からなる登録形態です。法人の要件をすべて満たしていない企業や事業者でも、構成員の要件を満たしていれば幹事社のもとで構成員として登録をし事業に参画することが可能になります。
過去のデータからみるIT導入補助金の活用状況
平成29年度に実施されたIT導入支援事業のデータによると、交付申請を受けた業種の割合は次のようになっています。
卸売・小売‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥18.1%
建設業‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥16.6%
学術研究・専門・技術サービス業‥‥‥‥‥‥‥‥13.2%
製造業‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥10.5%
医療・福祉‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9.3%
宿泊業・飲食サービス業‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6.6%
平成29年度のIT導入支援事業においては、卸売を含めた小売業や建設業における関心が高いことが分かります。卸売や小売、建設業の中小企業および小規模事業者はITツールの導入について前向きに検討している、あるいは導入の必要性にせまられている業者が多いのかもしれません。
ちなみに、宿泊業以降には、不動産業や娯楽業、情報通信業、教育・学習支援業などが続いています。
なお、申請した事業者のうち、56.2%つまり半数以上がIT投資活用を初めておこなうという事業者でした。
そして、ITツールの活用状況については、44.7%の事業者が「導入されたITを積極的に活用していて、今回更なる拡張を考えている」、14.5%が「導入されたITに対して不満があり、充実させたい」、40.0%が「今まで導入していないが、新しくIT化をするので補助金を利用したい」、残りの0.9%が「どのように使われているか、わからない」と回答しています。
これを整理すると、前回補助金を申請した事業者のうち、半数以上はIT投資活用に初めて取り組む事業者であったこと、ITを利用している事業者の多くは、今後更なるITツールの拡張的な利用を計画しているか、現状のITツールに対する不満を改善したいと考えていることになります。
ちなみに、申請した事業者の50.9%は、従業員数が5人未満という小規模事業者でした。大企業よりも少人数の方が、導入ツールの利便性や効率化を身近に体感しやすいかもしれません。
今年度の申請によって補助金を得る事業者がどのような回答を寄せるのか、次回のデータではこの平成29年度との違いも含めて注目したいところです。
まとめ
業務の一元管理やクラウド共有が当たり前になっている企業が増えてきた一方で、給与計算を手書きでおこなっていたり、必要なデータを別々の台帳から都度引用しなければならなかったりする企業や事業者もまだまだ少なくありません。IT導入補助金は、ITツールの導入に踏み切れずにいた企業や事業者にきっかけを与え、売上アップや効率化につながる成果へと導くものでもあります。
ただし、補助金はあくまで導入の手助けであり、その後どのようにツールを活用していくかについては各企業にゆだねられます。便利なツールを充分に活かすためには、ITツールやソフトウェアに精通した専門事業者のサポートが大きな役割を果たすでしょう。
ITツールを活用する企業が増加することでソフトウェア業界が活性化し、日本企業全体がさらなる効率化を実現できる、というのが理想の未来図ではないでしょうか。