世界の小売売上ランキングから測る2021年の傾向
世界中がパンデミックとの戦いを余儀なくされた2020年。小売の売上も大きな影響を受けました。
ですが、全世界のすべてが減収傾向というわけではなく、活路を見出したり「巣ごもり」需要に即応したりと、増収を達成したところも少なくありません。
2020年の各国のコロナ対策、小売売上をみることで2021年の我々が取るべき姿勢も見えてきます。
本記事は、米国とアジア圏、日本の2020年小売業界をデータで振り返りつつ、2021年そしてアフターコロナをどのように見据えていくべきかについてまとめました。
2020年はどうだった?米国とアジア圏の小売売上
小売業界にとって、2020年は怒涛の一年でした。全世界がコロナウイルスに立ち向かうためにさまざまな対策を打ち出しましたが、小売業はそれによって変化を余儀なくされています。 各国とも、ウイルスの感染状況や国の施策によって明暗が分かれる傾向にありました。
米国では、インターネットによる注文や宅配購入サービスを掲げる大手企業が大幅に売上を伸ばしました。
アジア(マレーシア、タイ、シンガポール)では政府の発令した制限令が人々の消費行動に影響をもたらし、売上にも反映されています。
米国の小売はTOP企業は10社すべてが増収増益
パンデミックによって大きな衝撃を与えられたかに見られる小売市場ですが、素早く対応した大手企業は軒並み増収増益となりました。
商務省発表によると、2020年の米国小売業販売総額は、前年比3.1%増。EC化を整備した素早い対応や、行動制限された消費者のニーズに沿った販売に切り替えられた企業は業績を伸ばしたかたちです。
販売額第1位のウォルマート、2位のアマゾン・ドット・コム、3位のCVSヘルス(ドラッグストア)、を筆頭に、10位までの企業はすべて前年比2ケタ増を達成しています。
特に大きく売上増となったのは、内食需要に応えるかたちでコロナ禍に対応した食品を扱う企業です。
また、宅配サービスや、ネットで注文した商品を店頭でスムーズに受け取れる店舗受け取りサービスなど、デジタルテクノロジーと実店舗をシームレスに連携させた企業も、大きく売上を伸ばしました。
デジタルシフトに対応したフルフィルメント体制を整備した生鮮食品販売と比較すると、CVSヘルスを始めとするドラッグストアの売上増は小幅といえますが、ドライブスルー式の検査場を展開したりワクチン接種の会場として施設提供をするなど、社会的な意義や立場は非常に大きくなっています。
2021年はワクチン接種が順調に進められていることもあり、好調が続くとみられています。
実際、2021年3月の売上高は前月比9.8%の増加となりました。直接給付で消費行動が活発化したこと、事業活動の再開によって雇用が増加したことが理由とみられます。
アジア圏:マレーシアでは減収傾向
マレーシアで最初のコロナウイルス感染者が確認されたのは、2020年1月25日です。3月18日には全土に活動制限令(Movement Control Order:MCO)が発令され、5月12日まで日常生活や経済活動は大きく制限される状況が続きました。
5月13日に制限が解除されてからも、2020年秋に特定地域のみ活動制限令が再発令されるなど、経済や小売にとっては厳しい一年となりました。
初めの活動制限令下では、小売売上指数がマイナス6.6%(3月)、マイナス32.4%(4月)、マイナス16.1%(6月)と大きく落ち込みました。
マレーシア国内でもっとも減少率が大きかった小売売上は、次の項目です。
- 情報/通信‥‥マイナス31.0%
- 住宅設備関連‥‥マイナス48.3%
- レクリエーション/教養‥‥マイナス53.2%
ただし、ここから徐々にマイナス9.2%まで回復し、2020年12月までは比較的低い減少率を維持しています。
全体の減収傾向において堅調だったといえるのは、混合商品を取り扱っている一般小売チャネルと、食料品や飲料、タバコといった商品を扱う専門店です。また、カタログやネットなどで個人から注文を受けるいわゆる無店舗小売業も増収となりました。
特に、食料品や飲料、タバコの専門店では2020年7月以降12月まで売上増加が続く結果となっています。
アジア圏:タイでは減収後、徐々に回復
タイでは、2020年3月から断続的に非常事態令、夜間外出禁止令が発令、延長されてきました。
ただし、この制限中にすべての小売が減収を余儀なくされたわけではなく、明暗が分かれたかたちになっています。
- 【1年を通じて減収傾向】
- アパレル(履物/皮革)
- 文化/レクリエーション
- 金物類(塗料/ガラス)
- 家電品(家具/照明)
- 百貨店/スーパーマーケット/雑貨店
特にアパレル(履物/皮革)と文化/レクリエーションは、3月、4月、5月を通じて40〜60%前後の売上減少となりました。 百貨店/スーパーマーケット/雑貨店は、2020年4月にマイナス21.7%の減収率となったものの、そこから徐々に回復しています。
- 【増収傾向】
- 通販/インターネット
- 医療品/トイレタリー
- AV機器
活動が制限され、外出禁止となった消費者の「巣ごもり」需要がタイでもあらわれました。通販/インターネットは4月に117.6%、5月に149.1%と大幅な増収を記録しています。 AV機器は、8月に前年比23.9%という高い増加率になりました。
一方で、医療品/トイレタリーの増加は制限令発令による「買いだめ」行動で売上を伸ばしたことが大きく、パニックが収まった5月には前年比から減収の傾向がみられます。
タイの2020年は、非常事態令によって売上の増減がみられたものの、秋以降には徐々に改善されたという傾向がデータから読み取れます。2020年4〜6月はマイナス10〜30%と落ち込んだGDPですが、12月には、前年同月比マイナス0.2%にまで改善されました。
アジア圏:シンガポールは堅調を維持、百貨店は苦戦
シンガポールは、2020年4月7日部分的なロックダウンであるサーキットブレーカーを発令しました。
結果的にこの対策は6月1日まで延長して続けられましたが、その後も、ロックダウンは部分的に解除するのみにとどめています。同国の経済活動が本格的に再開したのは2020年12月28日のことで、それまでは部分的なロックダウンや飲食店サービスの提供停止などの措置が続けられていました。
シンガポールの小売売上で打撃を受けたのは、アパレル、化粧品(トイレタリー/医薬品)、食料品(アルコール)、時計/宝飾品、眼鏡、書籍などの分野です。こうした特定の商品のみを扱う専門店チャネルや百貨店は、12月28日以降に経済活動が本格再開してからも低迷が続いています。
一方で、スーパーマーケットは売上を前年比から大きく伸ばしています。
また、専門店チャネルのEコマース化が進んだことも注目すべき点です。
制限のある生活が続く消費者に訴求するためか、専門店チャネルのコンピューター(通信機器)、家具の分野でEコマース化が進みました。
日本の小売業界も明暗くっきりか
日本の2020年は、業態によって売上増減が大きく異なる結果となりました。
帝国データバンクが公開した2020年の4〜12月の業績データでは、小売の35.7%が増収、ほかは減収となっています。減収の割合は、10〜30%という減収率がもっとも高く、30%以上減収したとされる小売業も全体の5.5%となりました。
2020年、日本の感染対策を振り返る
日本国内で初めて感染者が確認されたのは、2020年1月15日です。
2月末には全国に学校の臨時休校が要請され、4月16日に全国に向けた緊急事態宣言が発令されました。
感染者数減少を受けて7月22日にはGo Toトラベルキャンペーンが始まりましたが、断続的かつ全国的に感染者数の微増が続き、12月3日には大阪府が医療非常事態宣言を発令しました。
2021年もまん延防止措置、緊急事態宣言などの対策がとられ、小売業にとって2020年から引き続き柔軟な対応が迫られる毎日が続いています。
好調なのはコンビニ、ドラッグストア。百貨店は苦境
2020年に売上高が高かったのは、セブンイレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンなどのコンビニと、ウエルシアHD、ツルハHDなどのドラッグストアです。ドラッグストアは医薬品以外にも多様な商品を取り扱うようになっており、消費者にとってコンビニと同じような役割を担いつつあります。
コンビニとドラッグストアの好調に押されてか、イオンリテールやイトーヨーカ堂といったスーパーマーケットは前年比から現状維持あるいはマイナス成長となりました。
また、コロナ以前から低迷が続いていた百貨店は、消費者の外出自粛、テレワーク推奨などの影響を受けて苦境に立たされています。
また、百貨店の衰退にともなって、貴金属製品卸、高価な革靴や革製バッグといった皮革製品製造なども需要減となりました。
飲食店、宿泊業も緊急事態宣言、休業要請などによりそれぞれ2020年4〜12月は11.3%減、9.6%減となっています。
2021年も引き続き、ステイホームやテレワークが市場に影響すると考えられます。
その兆しとなるデータとして挙げられるのが中古車販売業の伸長です。感染のリスクを少しでも回避しようとマイカーの購買層が増え、結果として中古車市場も需要が高まる結果となりました。
スーパーマーケットや百貨店は、低調からの離脱を図るためにデジタルトランスフォーメーションを加速させ、新たな購買体験のあり方を模索しています。2021年も引き続き、コロナや感染状況を注視しつつ展開していくことが求められるでしょう。
2021年、世界はアフターコロナへ
コロナの自粛生活によって購買体験はデジタルシフトしてしまったと想定しがちですが、実は実店舗回帰の動きも見られます。
マスク着用、アルコール消毒、ソーシャルディスタンスの確保など、実店舗にはいくつもの感染予防のための対策が必要です。しかし、少しずつワクチン接種が具体性を帯びてきています。米国がワクチン接種を進めて少しずつ日常を取り戻しているように、国内にもいずれは実店舗に安心して人々が訪れることができる「ウェルカムバック・チャンス」が訪れるでしょう。
米国では、こうしたビジネス・チャンスによって昨年より最大8.2%の売上高アップが見込めると予測されています。
ただし、実店舗に戻ってくる消費者はコロナ前と全く同じというわけではありません。実店舗に帰ってくるのは、2020年の一年でオンラインショッピングに慣れ、デジタルシフトした新しい消費者です。
コロナウイルスによって自粛生活を余儀なくされてきた消費者は、アフターコロナの時代に、強い購買欲をもち、人と人とのふれあいを欲すると予想されています。また、実店舗を訪れて店員と対面でショッピングをすることは今まで以上に特別なことになるでしょう。
アドバイザーに助言をもらいながらコスメや洋服を選ぶ、誰かに伝えたくなるような今までにない特別な買い物体験をするなど、新たな実店舗の購買体験が求められるはずです。
尤も、この実現にはデジタルに内包されたリアルという2021年の「今」を確実に捉える必要があります。
オンラインの購買履歴を元に顧客一人一人にマッチした商品を提供したり、パーソナライズされた購買体験を創り出したりといった、デジタルの活用を常に実店舗とセットで考えていかなければなりません。
オンラインとオフラインを融合させたOMOの概念なしに、2021年の実店舗回帰の波に乗ることは難しいでしょう。デジタル端末で際限なく検索できるオンラインショッピングに慣れた消費者には、それを超える冒険にも似た新しい購買体験が必要なのです。