店舗の動線分析で「見える」もの
店舗内での来店客や従業員の動線は、店舗運営において重要なヒントを持っています。
昨今では動線分析ツールが開発されており、AIやビッグデータといった技術の発展によって詳細なデータを取得できるようになっています。 それぞれの動きを把握すれば、意外なものが見えてくるかもしれません。
この記事では動線分析について、店舗において分析できるものやその方法、得られるデータについてご紹介します。
動線分析では店舗内で「誰が」「どう動いているか」を把握する
店舗の動線分析では、来店客と従業員という2つの対象があります。昨今ではあらゆる店舗の情報がデータ化されていますが、技術の向上によって動線分析はハードルが下がりました。
まずは、小売店舗において動線分析をすることで得られるものと動線分析の方法について見ていきましょう。
来店客の動線を分析する
店舗においてまず気になることは、「来店客の行動」です。お客の動きを可視化することで、店舗運営を改善するヒントを得られます。
動線設計という言葉もあり、小売店において、リアル店舗における来店客の予測は欠かせません。分析した結果、店舗側の狙いとは違う動きが起きている可能性もあるものです。
またコロナ禍において多くの小売店がなかば強制的にEC運営を始めており、公式サイトや大手ECモール、SNSなど販売チャネルが急増しています。
店舗運営では、オンラインとオフラインを融合させたOMO戦略も不可欠となっており、マーケティングにおいても来店客の動線分析が重要です。
従業員の動線を分析する
動線分析といえば来店客に注目しがちですが、実は従業員の動線分析も重要です。例えば来店客で混みあう時間帯に従業員の数が足りない、反対に来店客の少ない時間に従業員が多い、などが分かれば配置の見直しができます。
またリアル店舗では新型コロナウイルス感染対策により、入店時のアルコール消毒や検温、レジに並ぶ際のソーシャルディスタンスの確保といった対策も欠かせません。
これらも店舗の動線に大きく影響しているため、「動線に悪影響を与えていないか?」「従業員を配置すべき場所はあるか?」といった視点での分析が必要です。
店舗を任されている従業員の立場からすると、「ムダな動きはない」と思う人が少なくありません。日々接客をしながら店舗運営業務をこなすスタッフの多くは、現状の動きが限界と感じている人が多いでしょう。
しかし動線を改めて分析すると変化があるかもしれません。動線分析をして目に見えるデータがあれば、店舗の運営改善について従業員からの理解を得やすくなるというメリットもあるのです。
動線分析の方法
動線分析の方法は様々ですが、今回は以下の3つのツールについてみていきます。
- Wi-Fiセンサー
- カメラセンサー
- RFIDタグ
Wi-Fiセンサーは、来店客・従業員両方が持っているスマートフォンに搭載されているWi-Fiを利用した分析ツールです。Wi-Fi信号を受信してカウントするので、店舗内が混雑していても動線を追跡でき、他の人と入違ってしまうことがありません。
Wi-Fiセンサーは文字通り「Wi-Fiの受信数」のみを追跡するため、スマートフォンのWi-FiがOFFになっている場合はカウントされません。そのため検知できないリスクがありますが、アプリ連動でWi-FiをONにするなどの技術が生まれています。
カメラセンサーは監視カメラのようなものを設置して、動画を元に動線を分析します。AIが動画内から人を識別して分析してくれるので、人の目で追跡する必要がありません。さらに年齢や性別といった情報も分析します。
カメラセンサーは来店客の動きも詳細に把握できるので、例えば「どんな商品をカゴに入れたのか?」「手に取ったが棚に戻した商品はどんなものか?」といった細かい分析もできます。
小売店でもよく扱われる「RFIDタグ」(電子個別識別システム)も動線分析に活用できます。セルフレジやカードキー、交通カードに使われるRFIDタグは、入店退店記録はもちろん、ポイントごとの滞留時間などもデータ収集できます。
複数の技術を組み合わせたツールもある
動線分析はWi-Fiやカメラのセンサー、RFIDタグを活用する方法があると前述しましたが、複数を組み合わせたツールもあります。
例えばスプリームシステム株式会社が開発した動線分析ツール「Moptar」(モプター)は、センサーまたはカメラ+AIを採用した高精度な動線追跡で、長時間の追跡にも対応しています。
リアルタイム検知&アクションやすぐに使える動線分析テンプレートなど実用的な機能が多く、リアルとデジタルを融合したOMO施策を高速化させてくれるツールです。
DXが求められる昨今ですが、DX施策では「実行しても成果がでない」と悩む以前に「そもそも何をすべきかわからない」と悩む企業も少なくありません。この悩みを解決するためにも、店舗内のデータ収集が必要です。
動線分析ツール「Moptar」については「データ×DX – 新デジタル時代への準備と対策~03. コロナ禍に店舗のDXを加速するデータ×ストアデジタル」でもご紹介しておりますので、ぜひご参照ください。
動線分析が店舗を改善するヒントになる
動線分析で得られるデータは、以下のような点で店舗改善に大きな変化を与えてくれます。
- 売場、販促改善
- 接客改善
- マーケティング活用
動線分析が注目される背景と期待できる効果について、順番に解説していきます。
店舗運営において動線分析が注目される背景
動線分析以外にも人流分析という言葉もよく聞くようになりました。動線分析などの技術が注目される背景には、技術の進化があります。
まず生活者が当たり前のようにスマートフォンを持ち歩くことで、位置情報を取得しやすくなりました。動線分析の方法としてご紹介したWi-Fiセンサーは、スマートフォンが普及したからこそ活用できる技術の1つです。
さらにAIなど分析技術の向上により、取得したデータを分析しやすくなった点も大きく影響しています。動線分析では画像をAIが解析し、人の動きを把握したり手に取った商品を分析したりといったことが可能です。
カメラなどの画像データの活用については、個人情報保護やプライバシー保護といったリスクがありました。しかし2022年3月に経済産業省が「カメラ画像利活用ガイドブック」として、プライバシーに配慮したカメラ画像の利活用についてガイドブックを制定しました。※
※参照:経済産業省 「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」を策定しました
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220330001/20220330001.html
ガイドブックでは、店舗設置カメラについて配慮事項を組み込んだ適用ケースや配慮すべき事項、カメラ画像の取り扱い方について明記されています。
国がカメラ画像の取り扱いについてガイドブックを定めたことで、企業側は配慮すべきポイントがわかり進めやすくなった点も影響しているでしょう。
動線分析で得られる店舗改善のヒント
動線分析では、売り場改善や接客改善など多くのヒントを得ることができます。そのヒントについて見ていきましょう。
■売場、販促改善
売場づくりは店舗運営において重要度の高い要因です。動線分析のデータを取得できれば、今の売場の課題が浮き彫りになります。
例えばスーパーなら顧客がどの棚から棚へ移動しているか?といったエリアの相関性を知ることができます。仕事帰りにスーパーに立ち寄る人が多い時間帯はレジの混雑がピークに達する…といった情報をデータとして蓄積します。
ショッピングセンターなら、フードコートから出たお客がその後どのフロアに行くのか?といった動線を追跡できます。ショッピングセンターなど大きな施設はアンケートや優待サービス付きのカードから分析する方法もありますが、これではリピーターのデータしか取得できません。
そのため、動線分析で店舗に訪れた人を平等に追跡できる動線分析が効果を発揮するのです。
■接客改善
動線分析でお客の動きがわかれば、接客改善の大きなヒントになります。来店が多い時間帯の分析はもちろん、店舗内のどの場所に人が多いかも分析できます。時間によって接客スタッフが足りないことが分かれば、増員したり接客方法を見直したりといった改善が見込めるでしょう。
また動線分析ツールによっては、接客を必要としている人を通知する機能も持っています。接客を必要としている顧客を分析してくれるので、「接客が必要な人を見抜けなかった」というミスが起こりません。
店舗は面積が広くなるほど行き届いた接客が難しくなるものです。動線分析なら、データによって接客を見直すことが可能となります。
■マーケティング活用
動線分析で顧客それぞれの動きを把握することができれば、One to Oneマーケティングの実現も可能です。
例えばアパレル店においてワイシャツの購入履歴がある顧客が入店したら、デジタルサイネージで関連商品をレコメンドしたりメールやアプリで関連キャンペーンを案内したりできます。
動線分析なら顧客のより詳細な動きもデータとして取得できるため、マーケティングに活用しない手はありません。
データで店舗を見直すメリット
店舗運営をデータで見直すメリットは、以下が挙げられます。
- DX推進につながる
- 効率的に現状を把握できる
- データに基づいた意思決定ができる
小売業界でも求められるDX(デジタルトランスフォーメーション)では、新しいビジネスの立案が求められています。立案には需要の分析が不可欠で、市場や生活者にどのようなニーズがあるかは調査してみなければわかりません。
そのため、動線分析など顧客の動きは特に重要なデータとなります。
また各店舗における現状把握も、有効なデータが多いほど効率的に進められます。新型コロナウイルス感染拡大における来店傾向の変化など、データ活用の体制が整っていれば不測の事態にも素早く対応できるでしょう。
企業における意思決定は、経営層の経験値や個人の感覚に依存しがちです。しかし事実だけが並んでいるデータがあれば、明確な根拠に基づいた意思決定ができます。その結果、周囲と認識を共有しやすくなる・検証しやすくなるといったメリットが期待できます。
店舗における動線分析について、店舗が把握できるデータや得られるヒント、データを店舗で見直すメリットについてご紹介しました。
技術の発達によって社内でノウハウを持っていない店舗でも、容易に動線分析できる時代となっています。来店客・従業員両方の動線を分析すれば、予想外のデータを取得できるかもしれません。
「店舗運営をもっと改善したい」「店舗における課題を解決したい」と考えている小売店は、ぜひ動線分析を試してみてはいかがでしょうか。