ハイブリッド展示会はBtoBビジネスの活路となりえるか
BtoB企業にとって重要な顧客開拓の選択肢だった「展示会」。2019年までは、一年を通して様々な業界の大規模展示会が頻繁に開催され、多数の来場者を集めてリードを獲得し受注を取るのがビジネスの指標の一つでもありました。
しかし、コロナ禍によって展示会ビジネスは実際の展示会場に集客をすることが困難になり、さらにオリンピック開催が延期となったことでも会場使用の制限が再度かかることとなりました。そこで新たに導入されたのがオンラインでの展示会開催です。
2021年現在、展示会ビジネスは感染症対策を行った上でリアルの場での展示会でも復活してきていますが、オフラインとオンラインで同時に開催する「ハイブリッド展示会」を行うケースも増えてきています。
本稿ではオンライン展示会の今後や、ハイブリッド展示会がBtoB企業にとって新しいビジネスの活路となるのか、考えていきたいと思います。
- 在宅勤務(テレワーク)の導入率
- 展示会ビジネスはハイブリッド型展示会へ
- オンライン展示会が持つメリット
- 展示会ビジネスもOMO化が進む
- オンライン展示会の今後の課題
- ハイブリッド型展示会は展示会ビジネスの発展形
在宅勤務(テレワーク)の導入率
株式会社パーソル総合研究所が2020年12月に発表した正社員のテレワーク実施率は全国平均で24.7%となっています。平均値は一回目の緊急事態宣言が発出された2020年4月に27.9%となって以降、徐々にポイントが下がり、25%を下回っている状態です。
都道府県別では東京都が45.8%、次いで神奈川県が34.9%、千葉県が26.2%、大阪府が24.4%、埼玉県が24.0%と続きます。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000455.000016451.html
テレワーク実施率について 株式会社パーソル総合研究所 プレスリリース
テレワークの実施率が今後どのような推移になるとしても、不特定多数が集まる場所にはなかなか行きにくいのが実状です。
展示会ビジネスはハイブリッド型展示会へ
3月に東京ビッグサイトで開催された日経新聞社主催の総合展示会リテールテックは、オンライン展示会も併催のハイブリッド型展示会です。
2019年の開催時には4日間の開催で127,871人が来場した大型の展示会で、小売に関するテクノロジーを様々な角度から紹介しています。毎年3月に開催されていますが、2020年は感染症対策が模索されている段階だったため、やむなく中止となりました。
2021年は無事に展示会場での開催と、新たにオンライン展示会が行われました。
来場者数は4日間で39,537人、オンラインの来場者数は53,947人と発表されています。単純に合算して比較すると26%の減少となります。
しかし、オンライン展示会は2021年4月30日までコンテンツが公開されており、今後もオンラインの来場者の増加が見込めることはメリットといえるでしょう。
オンライン展示会が持つメリット
1、自宅やオフィスから参加できる
当然といえば当然ですが、オンラインなのでどこにいても参加できます。在宅勤務中でわざわざ外出しなくても、展示会に参加し商談を行ったり最新情報を取得したりできるのが一番のメリットでしょう。また、感染症対策というだけでなく地震などの災害でオフライン展示会が開催できなくなった場合でも、オンライン展示会を実施するなどリスクヘッジにもなり得ます。
2、時間的な制約が少ない
オフラインのリアル展示会では、セミナーなどの解説コンテンツを聞くには決まった時間にその場にいることが大前提です。また、人気セミナーの場合は予約をしたり、早めに該当ブースに行ったりといった制約も加わります。
オンライン展示会のコンテンツは動画が中心となっており、公開期間内であれば時間的な制約は受けずにいつでも視聴が可能です。名刺交換ツールが準備されていますので、WEB上でボタンを押すだけで登録情報が出展企業に提出され、コンテンツの閲覧が可能になります。
3、収容人数の制限が少ない
オフライン展示会ではブースの広さに限りがあり、来場人数に上限を設けなくてはならない場合もあります。オンライン展示会では理論上制限なく集客ができるため、実際のブースは小さくてもオンライン展示会の集客人数を多く集めてビジネスの機会を広げられます。
4、検索ができる
出展企業がどのような内容を展示しているか、検索がしやすいのもオンライン展示会のメリットの一つです。リアル展示会では紙の一覧を見ながらあちこちと練り歩くのが通常ですが、WEB上で検索し、出展企業のブースを訪問するため時間的なロスがありません。
ただし、来場者が想定していない情報には出会いにくいというデメリットの裏返しともいえます。検索キーワードを最初にうまくコンテンツに入れておくことが重要になってきます。
5、データ取得、分析ができる
出展者側のメリットとしては、名刺情報と紐づけて詳細なデータ解析が可能な点も大きいでしょう。アクセス解析だけでなく、ヒートマップ解析などの行動解析もオフライン展示会より容易です。数値分析によって、来場者の関心がどこに集まっているのか可視化し効果測定することができます。今後の改善施策検討にも活用できるでしょう。
展示会ビジネスもOMO化が進む
これらのメリットを見ていると、実店舗とECサイトの相互関係によく似ていることにお気づきでしょう。
実際に展示会場に足を運んで、デモやプロトタイプを試したり、未知の新しい技術やサービスを発見したりといった体験はしにくいものの、時間的な制約の少ない中で関連サービス検索や競合他社比較はしやすいという状態はまさに小売の現場が持っているオフラインとオンラインのメリットとデメリットと同じです。
開催されているオンライン展示会に参加したところ、現在はまだOMO型とまではいっていないものの、徐々にオンラインとオフラインは相互作用を強め、ビジネスを拡大する新たなチャネルとなる可能性は高まっています。
オンライン展示会では名刺交換機能、動画埋め込み機能、資料閲覧機能などが実装されているプラットフォームを活用していることがほとんどですが、静的なコンテンツ以外に展示会場のライブ配信や、商談がその場でできるインタラクティブなコミュニケーションなど、出展者と来場者がよりビジネスを進めやすい環境づくりが進んでいくでしょう。
オンライン展示会の今後の課題
オフライン展示会では来場者動線を考慮したブースの施工、テーマに沿ったセミナーやプレゼンテーションの企画、デモンストレーション、配布資料といったものがコンテンツとして展示されていました。
オンライン展示会では動線設計は検索のしやすさやインプレッションを集める特別企画など別の意味合いとなり、コンテンツはWEB上に掲載できる動画や資料がメインとなってきます。オン・オフともに共通するのは展示のテーマを明確にし来場者にきちんと伝えることですが、オフライン展示会のセミナーを動画化するだけでなく、オンライン展示会ならではの工夫が必要です。
出展者側にはWEBマーケティングの企画推進、デジタルコンテンツの拡充といった新しい視点が求められ、開催者側ではそれを支えるシステムの整備が急務となってきています。
ハイブリッド型展示会は展示会ビジネスの発展形
日本ではまだまだ感染症対策が継続して必要であり、展示会に限らずオンラインに移行またはオンラインとのハイブリッド化が進むチャネルも増加するでしょう。新しいチャネルで得られるメリットは今後も有効であり、コンテンツは企業の資産として蓄積されるからです。
データの利活用についてもOMO化が進むことによってオンラインとオフラインの境界は徐々に交じり合っていくと考えられます。
BtoBビジネスの現場でもオンラインはオフラインを内包し始めています。OMOを日常的に捉えられるようになれば、自社のビジネスを新しい視点で構築しなおすきっかけになるのではないでしょうか。