小売店が銀行とつながるエンベデッドファイナンスの技術。独自決済が増えた理由とは
エンベデッドファイナンスとは「組み込み型金融」と呼ばれ、企業が自社サービス内に金融機関を組み込む技術です。事業者はこのエンベデッドファイナンスによってよりシームレスなサービスを提供できるようになり、消費者のCX向上に貢献してくれます。
この記事ではエンベデッドファイナンスについて、期待できるメリットや企業の事例について解説します。国内におけるエンベデッドファイナンスの事例もご紹介しますので、決済や金融サービスの導入をお考えの方はぜひ最後までお読みください。
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エンベデッドファイナンスとは、非金融企業が自社サービスに金融機能を組み込める技術です。事業者が自社で金融機能を持つことで、消費者は決済において金融事業者にアクセスする必要がありません。
エンベデッドファイナンスが進んだ背景には、法整備とデジタル技術の発達の2つの要因があります。銀行では2018年からAPI提供の努力が義務化されており、多くの銀行ですでに提供がはじまっています。
また、IoTやスマートデバイスの普及といった環境が整ったことでデジタル技術が発達しました。その結果技術的に実現できることが増えたことも、エンベデッドファイナンスが生まれた要因の1つです。
エンベデッドファイナンスにより、消費者は「メルカリ」や「Uber」といった慣れ親しんだサービスから決済や融資、保険や証券といった金融プロダクトにアクセスできます。
エンベデッドファイナンスには3つのプレイヤーがいる
エンベデッドファイナンスには、以下3つのプレイヤーが存在します。
- ライセンスホルダー:金融機能の提供ライセンスを持っている(金融機関)
- ブランド:顧客接点を持つ存在。(小売業など)
- イネーブラー:ライセンスホルダーとブランドの間に入り、システム的な連結をする(フィンテック企業など)
金融ライセンスを持つ「ライセンスホルダー」は金融商品やサービスを提供する事業者のことで、例えば三井住友銀行などが挙げられます。エンベデッドファイナンスにおいてAPIを提供するのは、このライセンスホルダーです。
小売業などの事業者は「ブランド」という立場で、自社サービスやアプリにライセンスホルダーが提供するAPIをつなげることでサービスを向上します。
そして「イネーブラー」は、ライセンスホルダーとブランドの間に入りシステムで両者をつなぐ立場です。フィンテック企業などがこのイネーブラーの役割を担い、APIプラットフォームを通じてブランドに基盤を提供します。
このイネーブラーの存在があるからこそ、「ブランド」である小売業は、1から金融サービスを構築・開発する必要がありません。
エンベデッドファイナンスという概念は、上記3者が協力しあうことで実現しています。
エンベデッドファイナンスが小売業にもたらすもの
エンベデッドファイナンスを導入することで、小売店は以下の2つのメリットが期待できます。
- シームレスな消費体験の実現
- 高額な商品の購入支援
昨今では自社アプリに決済機能が搭載されており、消費者はアプリにクレジットカード情報を登録することで商品が届く前に決済を完了できます。
またタクシーアプリを使った際もアプリにクレジットカード情報を登録しておけば降車時に決済されるので、お財布を出す必要がありません。
上記のようなシームレスな消費体験は、決済機能をアプリに搭載できるエンベデッドファイナンスがあってこそ実現するものです。
また後払いシステムである「BNLP」(Buy Now Pay Later)はキャッシュレス潮流の1つとなり始めていますが、エンベデッドファイナンスと大変親和性が高いサービスです。
クレジットカードを持たない消費者はBNLPによって高額商品の購入ハードルが下がるケースが多く、小売店側には単価アップのメリットがあります。BNLPについてはBNPLはキャッシュレス化の潮流の一つで解説しておりますので、ぜひご参照ください。
エンベデッドファイナンス推進の背景にはデジタル化がある
エンベデッドファイナンスが加速した理由の1つには法整備があります。2018年6月施行の銀行法改正により、金融機関ではオープンAPI実装が努力義務として課されました。2018年12月時点でオープンAPIについて130行が導入方針を表明しており、今後も多くのAPIが提供される見込みです。(※)
オープンAPIに対する銀行界の取組み
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/sankankyougikai2019/fintech/dai1/siryou3.pdf
APIを提供している金融機関にもメリットがあります。金融機関は、APIの提供によって投資や保険といった金融サービスについて、銀行がリーチできなかった消費者へ届けることができるのです。
サービスとして金融機能を提供するBaaS(Banking as a service)という概念がありますが、 エンベデッドファイナンス はこのBaaSによって生み出されたサービスといえます。
国内のキャッシュレス決済比率は伸長
日本でもキャッシュレス決済比率は年々上がっています。2017年には21.3%だったキャッシュレス決済比率は2021年には32.5%まで上がり、金額ベースでは100兆円ほどの成長です。(※)
エンベデッド・ファイナンスの新潮流。NTTドコモの取り組みに見る金融体験の近未来
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2023/0509/
政府はキャッシュレス比率を80%程度まで上げる目標を掲げており、今後もキャッシュレス文化は進化していくでしょう。
エンベデッドファイナンスはキャッシュレス決済を後押しする1つの要因となり、今後も成長に貢献します。
エンベデッドファイナンスで日本社会全体の変化を支える
フィンテックの発達やコロナ禍における生活様式の変化が影響し、キャッシュレス決済は年々浸透率が上がっています。小売店側も非接触性が保たれ、釣銭の管理やレジ作業の負担削減につながっており、消費者・事業者両方にメリットがあります。
昔はキャッシュレスといえばクレジットカードが主流でした。今でもキャッシュレス決済でクレジットカード派は多いですが、技術が向上しエンベデッドファイナンスのようなサービスが発達したことが要因となり、今ではモバイル非接触やQRコード決済が増えています。
通信・小売・自治体で進む多様なエンベデッドファイナンス
エンベデッドファイナンスはすでに国内でも導入が進んでいます。ここでは通信・小売・自治体の3つの分野における事例をご紹介します。
【通信】 NTTドコモ
NTTドコモは、通信業界の中でもエンベデッドファイナンスを積極的に取り入れている企業です。たとえば2022年12月に「dスマートバンク」の提供を開始しており、三菱UFJ銀行の口座を持っていれば、dカードの引き落としが簡単になったりdポイントが溜まったりする。
上記のサービスは、三菱UFJ銀行のBaaSやインターネットバンキング機能によって実現したものです。
またドコモでは融資サービスである「dスマホローン」、保険サービスである^「ドコモワンタイム保険」「AI保険」「ドコモスマート保険ナビ」、投資サービスである「ポイント投資」、「THEO+(テオ)」、「日興フロッギー」といった複数の金融サービスを展開しています。
【小売】ユニクロ
ユニクロは、会員証の提示と決済を会員証アプリ内で完結できる「UNIQLO Pay」という独自サービスを2021年から始めています。
■関連記事:続く小売業界の独自決済導入 その狙いとメリットは
ユニクロでは三井住友銀行のAPIを自社アプリに埋め込んでおり、同銀行のQRコード決済を実装しました。会員証アプリに三井住友銀行の口座またはクレジットカード情報を登録しておけば、アプリ内のQRコードを読み込むだけで支払いが完了します。
キャッシュレスや後払いなどの決済機能の埋め込みは、エンベデッドファイナンスの中でも最も多く使われる機能です。消費者はUNIQLO Payの利用により、アプリを提示するためのスマホのほかに財布を出す必要がありません。消費者は手軽に決済でき、ユニクロ側はレジの混雑緩和と両方にメリットがあるサービスです。
参照:「機能」になった銀行はどこへ? 4つのBaaSビジネスモデルを解説
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2023/0112/
【自治体】銀行と競合でデジタル地域通貨をスタート
NTTデータの傘下であるDearOneはフィンテック企業と共同で、デジタル地域通貨を扱うスマホアプリの提供サービスを始めています。アプリに銀行口座をつなぎ地域通貨にチャージすることで、自治体内での買い物を行う機能です。
最初の取り組みとして岐阜県の自治体で取り組みを進めており、十六銀行と協業します。さらに今後は地方銀行と手を組み、全国の自治体に販売する予定です。
デジタル地域通貨は特定の地域でのみ利用できる独自の決済手段で、都心に集中しがちな資金を特定の地域内で流通させる狙いがあります。地域活性化の一助となる取り組みで、多くの自治体で導入・検討されています。
エコシステムの構築がエンベデッドファイナンスの推進に重要
今後さらにエンベデッドファイナンスを推進するためには、エコシステムの構築が重要なポイントです。
さまざまな業界のプロダクトやサービスについて垣根を越えて連携させるエコシステムは、大きなプロダクトやサービスを作るうえで欠かせません。企業同士がプレイヤーとして協力することでエンベデッドファイナンスのような便利なサービスが生まれ、多様化する消費行動をサポートすることができます。
銀行からAPIが提供されても、事業者側にシステムを構築する技術がなければ新しいサービスは実現しません。エンベデッドファイナンスを使ったプロダクトの実現にはエコシステムが重要ですが、社内で構築するためのノウハウも必要です。
そのためには、多くの企業で課題となっているデジタル人材の確保も重要でしょう。DXやエンベデッドファイナンスといった新しい取り組みには、新しい技術を持った人材も必要となります。
デジタル人材の確保については、DX時代に知っておくべき「デザイン思考」とデジタル人材の確保についてで解説しておりますのでぜひご参照ください。
自社アプリをもっと使いやすくしたい、CXを高めたいとお悩みの方は、ぜひエンベデッドファイナンスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。