消費者の多様なニーズに応えるハイブリッド店舗。その特徴と将来性
消費者の消費行動や生活様式の変化に伴い、実店舗の在り方が問われています。カスタマージャーニーやニーズも複雑化しており、実店舗をどう定義するか、小売店舗は考え直さなくてはなりません。
変革が求められる今の時代、小売業界で注目され始めているのが「ハイブリッド店舗」です。オンラインとオフライン、さらには異業種の要素を掛け合わせたハイブリッドな実店舗は、これからの顧客のニーズに応えるための1つの手段となっています。
この記事では、ハイブリッド店舗の定義や事例、注目されている背景についてご紹介します。実店舗の在り方に悩んでいる方は、ぜひ参考になさってください。
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ハイブリッド店舗は米国の小売・飲食業界でも1つのトレンドとなっています。まずはハイブリッド店舗の特徴について、事例を交えながらご紹介します。
特徴1:異業種・別業態がハイブリッドになっている
ハイブリッド店舗の特徴の1つとして、異なる業種や業態を掛け合わせたものがあります。
例えば国内では、居酒屋やウェディング事業を展開する企業が飲食店とオフィスの2つの機能を持つハイブリッドカフェをオープンしました。
もともとカフェ業態を始めるつもりはなかったそうですが、リモートワークの普及によるコロナ後の社会を見据えて開発を進めました。
店内全席に電源設置、高速Wi-Fi完備とオフィス向けの設備を整え、オープンスペースに一人ブース席、鍵付き個室といったソロワークスペースや会議室もあります。海外とやりとりする利用客も想定し、24時間営業という高機能の店舗です。
上記のカフェははコロナ禍でポイントとなった“非接触”を売りにしており、利用には専用アプリのインストールと会員登録が必要です。入店やメニューの注文はQRコードで利用客がスマホで行うので、スタッフをやりとりするシーンがほぼありません。
平均利用時間は2~3時間ですが、仕事でも使いやすいために7~8時間滞在する常連もついているようです。
特徴2:オンラインとオフラインが融合している
国内では、オンラインとオフラインを融合させたハイブリッド店舗も増えています。例えば大手スーパーでは、2016年度から親会社である海外大手スーパーのグローバル戦略を踏襲し、実店舗とネットスーパーを掛け合わせたハイブリッド店舗をスタートさせました。
ハイブリッド店舗にしたのは都内にある店舗で、1階の実店舗を2022年6月2日、さらにネットスーパーサービスは同月17日から本格稼働させました。
同スーパーの2階フロアはEC専用であり、全商品の約10%にあたる高頻度注文商品が専用棚に配置されています。ハンディターミナルの注文を見ながらスタッフがピッキングを行い、2階にストックされていない商品は1階の実店舗からピッキングするという流れです。
コロナ禍で加速したネットスーパーは、物流や配達コストが課題でした。実店舗とネットスーパーを掛け合わせた「ハイブリッド店舗」なら、この課題解決にもつながるでしょう。
特徴3:ダークストア・ゴーストキッチンの発展版
「ハイブリッド店舗」という概念が生まれる前には、似たような考え方の店舗としてダークストアやゴーストキッチンがありました。
ダークストアはECビジネスで注目を浴びた倉庫の総称で、実店舗のように棚に商品を陳列するものの、消費者が店舗に立ち寄ることは基本的にありません。ダークストアはECユーザーを対象とした設備であり、スタッフがECの注文に応じてピッキングや発送を行う店舗です。
ダークストアという概念は2010年代から生まれており、当時はスーパーなどの小売店が、まだ本腰を入れていなかったネットスーパーに対応したものでした、
ゴーストキッチンも、ダークストアと同じく消費者が店舗内で食事することはありません。フードデリバリーに特化した設備で、接客スタッフや店舗内の装飾もなく、デリバリー用の食事のみを作るキッチンです。
コロナ禍において飲食店は大きな打撃を受けましたが、アメリカも例外ではありません。ニューヨークでは、コロナ禍によって空き店舗となった物件にほぼ手を加えず、棚や什器を入れフルフィルメントセンター化する動きが起きていました。
しかしニューヨーク市では「ゾーニング法」という法律があり、店舗の用途を変更する場合は半年前後かかるほどの面倒な手続きをしなければなりません。
そこでダークストアやゴーストキッチンを運営していた店舗は、急遽エリアの一部を店舗に転換することで対策をしました。これがきっかけとなり、アメリカでもハイブリッド店舗が広まることとなったのです。
日本でもダークストアやゴーストキッチンは普及しています。コロナ禍による自粛が終わり消費者が外へ出るようになった今、ニューヨークのようにダークストアやゴーストキッチンに実店舗機能をプラスした「ハイブリッド店舗」は今後増えていくでしょう。
特徴4:販売商品ジャンルの拡大
ドラッグストアで食品を扱うことで売上を伸ばしている例や、コンビニとスーパーを融合させたいわゆる「いいとこ取り」の新しいフォーマットの店舗を展開する例など、それまで扱っていなかった商品群を取り扱うケースも増えています。従来の枠組みを再構築し、より消費者ニーズにマッチした店舗開発が進んでいることもハイブリッド店舗の特徴といえるでしょう。
ハイブリッド店舗が発達する背景と小売業界の課題
異業種や別業態、オンラインとオフラインなど様々な要素の掛け合わせで生まれているハイブリッド店舗。ここではなぜハイブリッド店舗が生まれることになったのか、その背景や小売店舗の課題について見ていきましょう。
消費者側がハイブリッドになっている
ハイブリッド店舗が生まれた大きなきっかけの1つは、生活者による消費行動の変化です。オンラインとオフラインを自由に行き来するようになり、消費者自体がハイブリッドになっています。
Criteo(クリテオ)が発表した消費者のショッピング動向や好みを調査したレポートによると、新型コロナウイルス感染拡大によって商品認知の場としてオンライン上が増えていました。
しかし一方で、ショッピングジャーニーにおいて実店舗も重要な役割を持っていることもわかっています。
ショッピング動向としては、「オンラインで商品を閲覧してから、店舗でその商品を購入している」(66%)、「店舗で商品の実物を見てからオンラインで購入する(72%)という意見が増えています。※
※参照:Criteo、進化し続ける消費者のショッピング動向に関する調査レポート 「ショッパーストーリー2022」を発表
https://www.criteo.com/jp/news/press-releases/2022/03/criteo
コロナ禍となる以前から、実店舗で実物を見てからECで最安値の商品を購入する「ショールーミング」現象は起きていました。そして今では、Webを見てから実店舗で購入する「ウェブルーミング」という逆の現象も起きているのです。
ECサイトの方が商品情報をチェックしやすく、興味があるショップを何か所も巡る必要がありません。また「この商品が欲しい」と決め打ちで実店舗を訪れることで、店舗滞在時間が短縮されるというメリットもあります。
ハイブリッド店舗が増えた大きな要因の1つとして、上記のように、消費者側の消費行動がハイブリッドになったことが考えられます。
コロナ後を見据えた消費者のニーズに応えるため
コロナ禍によって生活様式が変わったことで、消費者のニーズも変わり始めています。
まずニューノーマルな生活様式として、「非接触性」は今後も重視されるでしょう。もともと発達が進んでいたECやスマホなどのITは非接触性が高く、親和性の高い要素です。
国内の大手スーパーチェーン店では、従来通りのスーパーと非接触性のあるネットスーパーのハイブリッド店舗を開発しました。オフィスと飲食店のハイブリッド店舗を開発したカフェも、スマホアプリを活用した非接触性をアピールポイントとしています。
上記のように、時代のニーズによって急遽ビジネスの方向を変えなければならない時もあります。消費者のニーズは複雑化しているため、複数の機能を持ち合わせるハイブリッド店舗が必要となる小売店も多いでしょう。
小売業界は消費者の変革スピードを追いかけなければならない
オンラインの普及や生活様式の変化により、消費者の変革スピードは年々加速しています。小売店はこの消費者の変化を敏感に感じ取り、変わりゆくニーズに応え続けなければなりません。
しかし日本の小売業界は、産業の特徴として変革を起こしにくいという特徴を持っています。
変革を起こしにくい理由の1つとして「顧客の多さ」が挙げられます。膨大な顧客や取引先との関係を大事にすることである種の“しがらみ”が生まれ、変革したくてもできないという店舗は少なくありません。
また小売店の多くは地域密着型であり、地元顧客ありきで商いをすることがベースとなっているため「守り」の姿勢に入りがちです。地元の消費者の日常生活に根差しているため、「お客様のために変革はやめるべきだ」と考えるケースも少なくありません。
しかしDXの必要性や消費者の生活様式の変化など、時代に合わせた変化は確実に起きています。小売店舗も変革すべきところを見極め、消費者のトレンドやニーズに応えなければなりません。
変化が続く小売の一角を担うハイブリッド型店舗
消費者の消費行動や生活様式の変化に伴って開発された、ハイブリッド型店舗についてご紹介しました。変革しにくいといわれる小売業界において、複数の機能を持つハイブリッド型店舗は画期的な手法です。
ECの拡大に伴い、古くからある「実店舗」の存在価値が問われています。もはや「実店舗=商品を購入する場所」という定義は変わり始めており、今では“モノを売らない店舗”まで導入が広がっています。
ECやSNSなどオンラインで商品を購入する消費者が増えた結果、店舗は「実物を手に取って確認できる」「試着など店舗でしかできないことをしに行く」といった体験が重視されるようになりました。
そこで小売店が意識しなければならないのが、OMO戦略(Online Merges with Offline)です。オンラインとオフラインを融合して新しい価値を生み出すOMO戦略は、ECが活発になった今の市場に欠かせません。
DXやOMO戦略が重視されるこの時代に、ぜひ新しい店舗の形として「ハイブリッド店舗」を検討してみてはいかがでしょうか。