モーターシティからカムバックタウンへ。アメリカ・デトロイトで小売店が出店している理由
アメリカの小売業では近年苦戦が続いており、事業の縮小が続いています。
2017年の小売業チェーンの廃業件数は上半期だけで3,500店舗以上が報告されました。なぜ小売店舗の廃業が続いたのか、はっきりとした原因は判明していません。
一部では小売店舗の数が消費者の数に対して多すぎることが原因ではないかとも言われています。またAmazonといったEコマースの台頭も小売企業の実店舗の廃業に関連しているのではという見方もありますが、アメリカでは消費者はいまだに実店舗での買い物を好み、9割以上が実店舗で買い物をするという結果もあるため、Eコマースは直接的な原因ではないと考えられます。
参考:アメリカの小売業低迷の理由は本当にAmazonだけ? 相次ぐ米・小売業の大量閉店の原因とは
https://orange-operation.jp/posrejihikaku/self-checkout/10992.html
アメリカでは今後も同様に小売業で事業縮小が続いていくのでしょうか。
ミシガン州デトロイトでは異なった様相を見せています。アメリカ国内で大手企業のチェーン店が閉店しているなか、デトロイトでは大手企業の出店やオフィス移転といったニュースが続いています。デトロイトでは一体何が起こっているのでしょうか。
ミシガン州デトロイト、かつての「モーター・シティ」の現在
ミシガン州デトロイトはかつては車産業や工業を中心に栄えてきました。しかし中産階級の人々がほとんどだった街は製造業の衰退とともに活気も下がり、失業率はアメリカ全土の平均より約2倍も高く、近年の国勢調査によるとデトロイトの住人のうち約35.7%は貧困層という結果が得られました。
参考:Forbes, How Detroit Denim, Nike, Whole Foods And Shinola Are Rebuilding Retail In Detroit
https://www.forbes.com/sites/pamdanziger/2018/03/07/tour-retails-urban-future-with-whole-foods-shinola-nike-and-detroit-denim-in-detroit/#6f5098b45987
以上の点だけ聞くと明るいニュースはないように感じますが、近年デトロイトでは小売業の店舗がオープンするというニュースが続いています。特に、アパレル企業の出店が目立ちます。
なぜデトロイトに小売店舗が集中しているのか、その理由を探ってみたいと思います。
モーター・シティから「カムバックタウン」へ
なぜ小売店、特にファッションの店舗数が増えているのでしょうか。デトロイトについて書かれているニュース記事では頻繁に”comeback(「復帰」、「返り咲き」と言った意味)”という単語が用いられています。
また、なぜデトロイトがアパレル企業の出店が目立っているのか、その理由について解説された記事があります。以下の記述はVisitDetroit.comの記事を参考にしています。
参考:visitdetroit.com
https://visitdetroit.com/7-reasons-detroit-is-a-fashion-city/
1.デトロイトには有名なファッションデザイナーが多い
デトロイト出身のファッションデザイナーにはJohn Varvatos, Tracy Reese, Kevan Hallなどがいます。彼らはデトロイトのファッションコミュニティ団体Detroit Garment Group(DGG)が毎年主催するFashion Speakという講演会の基調スピーカーとして参加しました。
DGGは2012に設立され、デトロイトのファッションシーンを牽引・またコミュニティの形成のために積極的にはたらきかけています。ファッション・ビジネスの教育に対するニーズが高まったことからスタートし、今ではファッション・ビジネスの教育だけではなく、ネットワークの形成やいくつかのコミュニティ・カレッジで失業者や働くことが難しい人に向けた工業用縫製プログラム証明書を与えるなど働く機会を与えています。
参考:DGG
http://www.detroitgarmentgroup.org/
2.地元のデザイナーやブランドの才能が芽吹く場所
デトロイトには数百人のファッションデザイナーが新しいブランドを作り上げています。Detroit Denim, Cyberoptix Tie Lab, Lawrence Hunt, Rebel Nell, Mr. Song Millinery, Maggie’s Organics, Brightly Twisted, Jolie Altmanなど新規ブランドが続々と誕生しており、若手のファッションデザイナーが集まりやすい印象を与えています。
3.デトロイトの最初のファッション・インキュベーター
上記に紹介した通り、DGGはファッションコミュニティの形成やファッションビジネスの教育に力を入れています。これによって、ファッションデザイナーが集まりやすい環境にあります。
4.ミッドタウンに多くの小売店が集まる
ミッドタウンには有名な小売店舗が集まっており、ショッピングに最適です。ギフトショップのCity Bird, アパレル企業のThe Peacock Room, 時計販売のShinolaやギフトショップのNora、他にも新しいアパレル企業が近い場所に店舗を出店しており、コーヒーやギャラリーを提供する場所もあるため、ショッピングしやすい環境があります。
5.工業縫製産業のニーズが増えている
Empowerment Plan, Detroit Sewn, Shinola, Douglas and Co. DetroitやDetroit Denimといった地元の企業向けの工業縫製産業が盛んになってきています。上記に紹介したDGGは工業用縫製技術を習得するために失業者や不完全雇用の人に向けたプログラムを提供しています。
6.ファッションに関連する学校が充実している
ウェイン州立大学、セントラルミシガン大学、ミシガン大学、ミシガン州立大学などは、ファッションデザインとファッションマーチャンダイジングの両方のプログラムを提供しています。これらの学校を卒業した生徒は能力が高く、またデトロイトのアパレル関連企業に就職を希望しています。
7.ファッションイベント Fash Bash(ファッシュバッシュ)
毎年8月にデトロイト美術館とアパレル企業のNeiman Marcusが協力して募金活動をおこなっています。このイベントは華やかなファッションイベントで、毎年多くの人が集まります。
参考:Detroit Institute of Art
https://www.dia.org/fashbash2017
デトロイトでアパレル関連のニュースが多く見られるのは、ファッションビジネスのための教育が充実していることやファッションデザイナーを受け入れるのに魅力的なコミュニティがあること、地元のアパレル関連企業から仕事が発生することで良い循環を生み出しているため、徐々にファッションハブとしての印象を与えるようになってきているのではないかと考えられます。
アパレル企業以外でも大企業の新規店舗出店やオフィス移転のニュースが続く
Googleはデトロイトに自動車運転技術のための施設を作ることを発表しています。また、Fordも約220人のスタッフを改装された工場に移すことを発表。自動車用シートの有名なサプライヤ・Adientはデトロイトの歴史的な建造物であるマーケット・ビルを改装し本部とすることを発表しています。
食料品店大手のWhole Foodsもデトロイトでの出店を決めています。Whole Foodsの調査によると、デトロイトの地元住民は2億ドル相当の食料品をデトロイト以外の都市で購入しており、デトロイトでは1平方マイルあたりの食料品店の数が少ない点に着目。新たな可能性を見出しています。
アパレル関連企業だけではなく、様々な企業がデトロイトに新規店舗出店やオフィスの移転を発表していることから、デトロイトはかつての自動車産業の街から大きく様変わりして発展していく可能性が見えてきました。
まとめ
以上、デトロイトが小売業、特にファッション分野を中心に熱を帯びていることがわかりました。
その理由についてまとめると、次のような要因からデトロイトがファッション・ハブとしての印象を徐々に強めていることが伺うことができます。
- 多くのファッションデザイナーが住んでいる
- デトロイトにファッション関連のコミュニティがある
- ファッションビジネスについて学ぶ機会が豊富にある
- 雇用の問題を抱えている人が工業用縫製について学ぶ機会があり、雇用にもつながる
- ミッドタウンでファッション関連の小売店舗が多く並んでいる
- 様々なファッション関連のイベントがある
デトロイトは自動車産業や工業で発展した街であるため、ものづくりには強い基盤があります。工業用縫製技術を身につけた人たちが増えれば、多くの人がアパレル関連だけではなく自動車用シートや時計の革バンドルやその他の工業品を作るために働くことができるため、失業率や貧困の改善にもつながるのかもしれません。
デトロイトのこれからの発展に目が離せません。
※この記事はHow Detroit Denim, Nike, Whole Foods And Shinola Are Rebuilding Retail In Detroit及びCan Fashion Help Detroit Make a Comeback?を本ブログが日本向けに編集したものです。