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リアルとデジタルを高次元で融合させる「OMO」の実践例・ファーストリテイリング「有明プロジェクト」のすべて

小売業関係者であれば、近年提唱されている「OMO」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

OMOとは、「Online Merges with Offline」の略であり、簡単に言えば、顧客データをフル活用し、あらゆるタッチポイントで徹底的に顧客の購買体験を高めることを重視する戦略のこと。

オンラインとオフラインを融合させる…言葉の意味はわかっても、実際それをアウトプットするとどうなるのか、想像が付きにくい人も多いかもしれませんね。

デジタルの進化スピードが早い中国においては、すでにOMOが浸透しつつあり、アリババが運営するネットスーパー「盒馬(フーマー)」などでその具体的な実践例を見ることができます。

それでは、ここ日本ではどうでしょう?

「OMO 事例」で検索しても、表示されるメディアで語られている事例のほとんどは、やはり中国のものばかりで、国内の事例は出てきません。

しかし、OMOという括られ方こそされていませんが、ファーストリテイリングが推進する「有明プロジェクト」こそ、紛れもなく国内のOMO実践例と言えるでしょう。

それも、言葉の表面だけをなぞった施策ではなく、経営戦略としてそれを据え、オフィスの構成からチーミング、システム、物流の在り方まで徹頭徹尾やり切ることを貫いた「全社改革」なのです。

【目次】

「有明プロジェクト」とは? 〜本当の意味での「ファーストリテイリング」へ〜

ご存知の通り、現状の「ユニクロ」は消費者からするとファストファッションというカテゴリーに属するブランドでしょう。「ファストファッション」が、低価格でそこそこの品質の服を大量生産して販売する業態、言い換えれば「消費される服」を製造販売する業態を指すのだとすれば、ファーストリテイリングは、「有明プロジェクト」でそれを根底から覆そうとしています。

柳井正会長兼社長曰く、「アパレルの製造小売業から情報型製造小売業(デジタルコンシューマーリテールカンパニー)への変革」がプロジェクトのコンセプト。

その意味するところは、「消費される服ではなく、消費者が本当に欲しいものだけを高速で企画開発・生産・配送するアパレル」を目指すことにあります。

つまり、本当の意味で「ファストファッション」「ファーストリテイリング」となることが狙い なのです。

そして、有明プロジェクトにおいて実行されるすべての施策は、一点の曇りもなくそこを目指して組まれていることが伺えるのです。

「全社改革」だけあって、「有明プロジェクト」の名のもとに実行される施策の範囲は広く、多岐に渡ります。

以下では、それらをざっと見ていきたいと思います。

すべての機能を集約した有明オフィス

ファーストリテイリングは、もともと六本木ミッドタウンにあった本部機能を2017年の2月に東京都江東区有明に移転しました。

ここは「ユニクロシティトウキョウ」と呼ばれ、本部機能に仮想店舗や物流センターも併設することで商品の企画開発から販売までを一気通貫し高速サプライチェーンを実現する、いわば有明プロジェクトの心臓部となります。

特に物流システムの先進性については特筆すべきものがあり、それは改めて後述します。

そして、OMOを根底から突き詰めるとこうなるのだな、と思わせるオフィスの構成の仕方にも注目したいところです。

ミッドタウン時代、ファーストリテイリングのフロアは7フロアに分かれていたそうですが、「ユニクロシティトウキョウ」では、約16500㎡という広大なワンフロアに、ユニクロの商品開発・商売に関わるすべての機能を集約しています。

約1000人というスタッフが、物理的に近い、かと言って窮屈ではない距離感で、気持ちよく交流しながら働くことで、「真の意味のファーストリテイリングを目指す」という一体感を醸成しているのですね。

仮想店舗も同じ建物内にあるため、商品陳列やオペレーションのテストもスピード感を持って実施可能です。

働き方についても、意思決定のプロセスが部門間のリレー方式だったものを、プロジェクトごとに各部署の担当者がチームとなって同時に動き「即断・即決・即実行」ができる、「コンカレント」なものへと変革し、ここでも「ファースト(高速)」を実現しようとしています。

ECと店舗の融合

ファーストリテイリングが有明に機能を集約したのは、すべてのプロセスにおいてスピードアップを図るということだけが目的ではありません。

店舗に比べECの業績が好調な同社としては、ECにおける顧客の動向を的確に掴み、その情報に基づいて商品開発のサイクルを高速化し、顧客の要求により的確に応えるという狙いがあります。

デジタルとリアルの分け隔てなく顧客との接点を改革していく視点、冒頭でもお伝えした通り、まさにここが、有明プロジェクトがOMOの実践例である所以でもあります。

有明プロジェクトを推進する中でも、ここ数年の気候の変動によって、毎年ごとに欠品を出したり過剰な在庫を抱えたりしてしまったという苦い経験が続き、需要予測の精度については引き続き改善が望まれる状況のようです。

しかしながら、消費者が望むものを最速で製造し提供する、と言うコンセプトに基づいてサプライチェーン全体で対応していく変革が進めば、過剰に在庫を抱えることは今後なくなるのではないでしょうか。

店頭受け取りサービスの利用率は30%を超える

「顧客接点改革」のわかりやすいアウトプットで言うと、ECで購入した商品の店頭受取サービスが挙げられるでしょう。

2018年4月に無料化した同サービスは、世間的に配送料の値上げが避けられない中で極力安く商品を受け取りたいと言う顧客のインサイトを見事に捉え、件数ベースで言えばECにおける売上の30%以上が利用している試算となっています。

GUから始まった「新しいショッピング体験」の提供

もう一点、顧客接点で言えば、「リアル店舗主導の新しいショッピング体験」と言うのもキーワードになってくると思います。

何故なら、今後テクノロジーが進化することによって、これまで不可能だった「オフラインでの顧客動向データ」が取得できるようになるからです。

オフラインで顧客がどんな商品やショッピング体験に興味を示しエンゲージしたかというデータをデジタルに繋ぎこんだり、商品開発にフィードバックすることで「本当に顧客が欲しい」と思っている商品を、ごく自然な形で提供することが可能になります。

ファーストリテイリングが昨年原宿にオープンしたショールーミング特化型店舗「GU STYLE STUDIO」などは、その第一歩であり、今後はそのようなオフライン施策もどんどん展開されていくことになるでしょう。

最新鋭の物流が「顧客のエンゲージ」を高める

事業のバックエンドにもあたる物流も、OMOにおいては顧客エンゲージを飛躍的に高める大切なポイントです。

ファーストリテイリングが推し進める「物流改革」はそれを見据え、有明プロジェクトの中でもかなり大きな役割を担っていると思われます。

上述しましたが、そもそも有明プロジェクトの進行中においても、同社はヒートテックなどの過剰在庫に悩まされたり、売れ筋商品が出庫ルート上で渋滞を起こし配送スピードが遅くなるなど、小売業者であれば誰でも抱える課題を、同じように抱えていました。

同社は、それらの課題が顧客エンゲージを著しく下げることに直結することを骨身に沁みて理解していたのでしょう。それらを解決するにあたり、人海戦術では限界があることも。

そしてファーストリテイリングが出した改革の答えが、「物流の完全無人化」でした。

ちなみに現状はまだ完全無人化までの途上ですが、マテリアルハンドシステム(以降マテハン)の大手企業、ダイフクとパートナーシップを組み、最新鋭の物流システムを本格稼働させています。

完全無人化ではなくても、かなりハイレベルな自動化技術が活用されており、それに伴って成果もすごいことになっています。

パートナーの「ダイフク」がもたらしたソリューション

マテハンとは、半導体など精密機械や自動車生産ラインで用いられる、物資の移動や保管、それに関わるソフトやハード全体のことを指します。

ダイフクはマテハン業界の中でも世界トップクラスの業績を誇っており、特に日本で初めて自動車生産ラインを構築したことで知られています。

ファーストリテイリングがダイフクのノウハウから得た恩恵は、ECにおける「リードタイムの短縮」です。

配送においては、商品が発注されてから正しく商品をピックアップし、梱包し、出荷するまでの時間がリードタイムとなるのですが、ダイフクは自動車の生産ラインにおけるナレッジが豊富であり、それがアパレルECの物流にも活かされているのです。

それでは具体的にはどうやって短縮したのでしょう?
ポイントは二つあります。

ピッキング以外の作業を自動化

まず、ピッキング(集荷)以外の作業を全て自動化したことです。

RFIDを用いて商品の位置と動きを追跡することによって、入庫、荷下ろし、検品、出庫指示、梱包用の箱作りから商品の入った箱の容積最適化、コンテナの後片付けまで、ほぼすべての工程を、「機械の手」とベルトコンベヤでこなしてしまいます。

唯一残っている人力の仕事が、発注された商品を配送用の箱に詰めることだけ。それも、作業にあたる人間は「一歩も」動かないでいいほど、完璧な自動化がなされています。

これによって、ファーストリテイリングそれまでかかっていた8-16時間のリードタイムを1時間以内、最短15分にまで短縮できたと言います。

出荷商品の渋滞を解消

もう一点は、「売れ筋商品」の出荷ルートとそれ以外を分けて構築することで、出荷商品の渋滞を無くしたことが挙げられます。

自動車生産ラインでは、部品だけを組み上げるラインと、組み上げた部品を車本体に搭載していくラインのルートやスピードを変えることでスムーズに作業することは常識なのですが、これが、ダイフクならではのノウハウとしてファーストリテイリングの物流にも活かされたというわけですね。

2018年に本格稼働を始めたばかりの物流センターですが、両者による開発は進化を止めることなく、「遅くとも1年以内に」唯一残っていた人力のピッキング作業も自動化し、「完全無人化」を達成する見込みとなっています。

リードタイムが最大98%も短縮されるとあっては、単純に、それだけ早く商品を手にすることができる顧客のエンゲージがかなり高まるのは想像に難くありません。

「攻め」の物流改革で世界へ

大抵の場合、物流の自動化などの施策は、そこにかかるランニングコストの削減という位置付けで捉えられ、一部のシステム改修に止まることも多いのではないでしょうか。

しかし、ファーストリテイリングは物流を「プロフィットセンター」と捉え、攻めの改革を推進しています。その結果、ECにおける売上は2018年度第一四半期(2018年9月−11月)で前年同期比30%以上の増収を見せています。

それだけに止まらず、有明以外の国内の拠点倉庫にも順次このシステムを導入、海外拠点での開発にも着手しており、投資額は1拠点あたり10億円から100億円にも登ると言います。

まさに、時代が何を求めているのかを見据え、どこに「張る(投資する)」のかを極めた「攻め」の改革であると言えるのではないでしょうか。

まとめ

「有明プロジェクト」の全体像を知ろうとすればするほど、戦略とは一部の特定部署の人間による企画書や机上の議論だけでは成立しないのだと思わされます。

「OMOはオンラインとオフラインの融合を目指すことである」と、言葉にすることは容易ですが、それを全方位で実践に落とし込むためには、それこそ全社的な改革意識が浸透しないと難しいでしょう。

もちろん、ファーストリテイリングという、世界規模の企業だからこそ可能な部分もあると思いますが、その逆に、それだけの規模の中で全社的な意識を徹底的に変えていくことの難しさも同時に存在するはずです。

そして、企業の都合を時代は待ってくれません。ゆえに、

  • 経営課題として捉える
  • 攻める姿勢
  • スピード感を持って進める

シンプルなこの3つの心構えを持った改革を高次元で実現することこそ、これからの時代を生き抜く小売業者に求められているのではないでしょうか。

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