粗利益を理解するために大切な要素とは
企業の能力を評価する上では欠かせない基準とも言われる粗利益。日常生活で耳にすることは少ないにもかかわらず、ビジネスの場でこうも重要視されるのにはどのような理由があるのでしょうか。
また粗利を重要視するあまり、時として粗利だけを基準に会社の評価を下す人も見受けられますが、これは必ずしも正しい判断であるとも限りません。
時と場合によって数字の意味合いが変わってくる粗利ですが、今回はそんな粗利についての知識や、粗利の数字の見方についてご紹介します。
【目次】
会社にとっての「儲け」とは何か
「儲け」とは、利益(得る価値が、得るのにかかったものより上回る分)です。
会社にとっての儲けとは、事業を行い売上を得て、様々な諸費用を支払い、最後に残る金額になります。
会社経営をしていく上で、最も欠かせないことは、「利益=儲け」をあげることです。利益を上げなければ、会社の存在意義はありません。そのため、会社は利益を出すために、売上を伸ばす、費用を抑えるなどの様々な方法を考え日々努力する事になります。
「儲かっている」とは何か
では、会社が「儲かっている」とはどのような状態なのでしょうか?
一見、お客様が多く、製品や商品が売れていて、売上高が大きい会社は、儲かっている様にみえます。しかし売上高は大きくても、赤字(利益がマイナス)の会社はたくさんあります。
実は、いくら売上高があっても赤字では、儲かっているとは言えません。 では、利益がでていれば儲かっていると言えるのでしょうか。ここで出てくる「利益」が重要なポイントになってきます。
「利益」には種類があります
利益が出ているなら、儲かっていると思われがちですが、一概に利益が出ているから、儲かっている!とは言えないのです。よく耳にする「利益」には、実は種類があります。
この、利益の種類を知ることで、本当に儲かっているか、今の経営状態をわかりやすくすることが出来ます。
日々の売上とともに、利益を把握し、日常業務や、経営にぜひ活かしていきましょう。
5種類の利益の違い
一口に「利益」と言っても、利益には種類があります。決算書上ではいくつも出てきており、この利益の意味が解ることで、決算書もわかりやすくなるでしょう。
利益には、多くの人が聞いたことがある粗利や経常利益をはじめ、営業利益、税引前当期純利益、当期純利益など全部で5種類あり、それぞれに意味があります。どれか一つだけ見て儲かっていると判断するのではなく、総合的に見て判断する必要があるでしょう。
ここでは、それら5種類の利益の違いや、計算式をわかりやすく説明してきます。
粗利益(売上総利益)
粗利益は、一番基になる利益と言えるでしょう。粗利益がマイナスなら、原価倒れしているよくない状態です。粗利益を把握する事で、その会社の扱っている製品、商品、サービスがどれだけ利益を生み出しているかがわかります。
・粗利益(売上総利益)=売上高-原価
ここで言う「原価」は、あくまでも売上を上げるために仕入れた金額であり、宣伝費、人件費などは含まれません。そして、もう一つ注意が必要なのが「原価」は業種によって違うという点です。
例えば、飲食店であれば肉、野菜、米などの食材の仕入れにかかる金額、iPhoneを製造していれば、iPhoneを作るのに必要な基盤などの材料費が原価ということになります。
原価がかかる業種と、ホームページの制作やWEBサービスを提供するIT企業の様に原価がかからない業種では、粗利益は、かなり違ってきますので、一概に粗利益で会社の営業状態をみることはできません。
売上から差し引かれるもの
売り上げ(売上高)は、お客さんに商品やサービスを提供した対価として受け取るお金で、ここから粗利、そして純利益と繋がっていきます。売り上げが多ければ多いほど、会社に入ってくるお金は増えますが、その全てが懐に収められる訳ではありません。売り上げが純利益として懐におさまる前に、まず差し引かれるのが売上原価になります。
売上原価とは、お客さんに提供するモノやサービスを生み出すためにかかるお金のことを指します。商品を販売する際にかかるコストと考えるとわかりやすいでしょうか。
少しややこしい売上原価の計算
また、売上原価の計算方法は業種によって微妙に異なります。これが粗利の捉え方をわかりにくくするもう一つの理由なのですが、後で詳しく説明します。
小売業・卸売業の場合
小売業・卸売業の場合、売上原価の計算はシンプルです。例えば1着2000円で仕入れができるシャツを50着実際に仕入れた場合、2,000×50=100,000円が原価になります。それを1着5000円で販売し、仕入れた50着がすべて売り切ることができた場合、25万円の売上を手にすることができ、そこから仕入れにかかった10万円の原価が売上原価として計算され、粗利は15万円となります。
ここで「10万円の原価が売上原価となる」という回りくどい言い回しをしたのには理由があります。というのも、仮に仕入れた50着のシャツが全部売り切ることができなかった場合は売上原価は10万円ではなくなるからです。
例えば50着仕入れたシャツが40着しか売れなかったとしましょう。この場合の売上高は5,000×40で20万円になりますが、粗利益を求める際の売上原価もまた40着分の原価で計算することになっているからです。
そのため、50着のシャツを仕入れて40着だけ売れた場合の粗利は売り上げの20万円から売上原価の2,000×40=8万円となり、20万円から8万円を引いた12万円が粗利として計算されます。
製造業などの場合
続いて製造業など、商品を作る業界のケースです。販売業では商品の仕入れや在庫管理など、もののやり取りにかかるお金だけを見つめておけば問題なかったのですが、製造業の場合はものを作るためのコストの計算をする必要が出てきます。つまり、販売業では売上原価に組み込まれなかった人件費などのコストが売上原価として加わるようになるためです。
ただ業種によって算出の条件は変わっても、粗利は売上あっての数字です。どれだけ多くのものを仕入れたり製造したりしても、売上高がなければ粗利益を算出することはできない、ということを覚えておきましょう。
営業利益
営業利益とは、営業活動で得た利益のことです。ぜひプラスにしたい利益です。
・営業利益=粗利益(売上総利益)-販売費および一般管理費
販売費は、荷造運搬費や、広告費、販売員給料など、管理費には、役員報酬、事務員給料、通信費、通勤交通費、交際費などが含まれます。
営業利益がプラスなら、粗利益で経費(販売費および一般管理費)を賄えています。営業利益がマイナス(営業損失)ということは、営業活動で儲けが出ていないことになります。
営業利益を出すには、売上高を伸ばすか、原価を減らして粗利益を増やす、もしくは、販売費および一般管理費を減らす努力が必要です。
経常利益
経常利益とは、臨時ではなく繰り返し出てくる利益です。
・経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用
営業外収益とは、営業活動以外で得た収益のことです。例えば、受取配当金、受取利息、所有している土地建物を貸した賃料や、不要になったOA機器、什器を売却して出た収益などです。
営業外費用とは、本業以外でかかった費用のことです。例えば、銀行から借入を行っている場合にかかる支払利息、社債利息、手形を割り引いた時の割引料などがあります。上記は営業活動以外で発生しますが、経常的に発生するものですので、それらが粗利益で賄えているかどうかという点を見ることができます。
税引前当期純利益
税引前当期純利益とは、名称の通り、法人税等を引く前の当期の利益です。
・税引き前当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失
特別利益とは、臨時に特別な事情で当期のみに発生した収益、本業とは関係なく入ってきた収益のことです。
例えば、固定資産売却益(建物や土地などを売却した収益)、有価証券売却益(株などを売却して得た収益)などです。継続的な事業収益なのか、当期のみ特別に出た収益なのかが解り易いように、営業外収益と項目が分かれています。
特別損失とは、臨時に特別な事情で当期のみで発生した損失、本業とは関係なく出ていった費用のことです。
例えば、固定資産売却損、有価証券売却損などです。また、火災や盗難などで、仕入れた商品などが無くなってしまった場合にも特別損失として扱います。
当期純利益(税引き後当期純利益)
当期純利益とは、法人税等を支払った後の最終的な利益のことです。一般的に黒字や赤字と言っているのは、この当期純利益がプラスかマイナスかをみています。
また、当期純利益は、税引前当期純利益から税金を引いた利益という意味で税引後当期純利益、最終的な利益と言えるので最終利益、または、単に純利益とも言われることがあります。
・当期純利益=税引き前当期純利益-法人税等
これが最終の利益になり、黒字であれば儲かったと言えるでしょう。しかし気を付けたいのが、粗利益や営業利益がマイナスだとしても、特別利益で大きなプラスがあれば、当期純利益は黒字になります。この場合、当期はたまたま特別な利益が出ただけで、会社としては製品やサービスに魅力がなく、営業力もないという見方ができます。
なぜ粗利益が重要視されるのか
粗利益が重要視される理由として大きいのが、やはり粗利益が純利益に至るまでのプロセスとして、最も流動性が高く、かつ純利益に直結している数字だからと言えるでしょう。
純利益と関係性が深い粗利
純利益とは、売上高から原価や税などのあらゆるコストを差し引いて、実際に懐に収まったお金のことを言います。
純利益は、実際にその会社が事業によって生み出すことに成功した価値を、数値化したものという見方もでき、利益がゼロに近いほど、それだけその会社は社会にとっての貢献度が低いことになります。純利益がマイナスともなれば、社会の足を引っ張っているとみなされ、その会社の存在意義すら危うくなってしまいます。
会社の実力を測るものさしにもなる粗利
そのような理由から、人から必要とされる会社となるためには、純利益という明確な結果が必要になります。粗利益は、原価という最低限のコストを差し引いた利益であるため、原価に対してどれだけの利益を上げているのか、つまりその会社は、どれだけ商品の価値を高めることに成功しているのかという指標にも繋がるため、粗利益は多くの人にとって重要視されているのです。
粗利益額と粗利率(売上総利益率)
粗利に関する会社の価値を評価するための材料として、粗利率という数字もあります。粗利益率とは、売上に対する粗利益額の割合です。
・粗利益率=粗利益額÷売上高
粗利益額は、会社規模や、業種の違いによって大きく変わってきます。そのため、粗利益額だけで他社と業績を比較することは難しいでしょう。
そこで、粗利益率で把握すると、粗利益の状況が解り易くなります。ただ、業種や業界によって偏りがあるので、同業他社と比べることが必要です。粗利益率が高いほど、収益性の高い企業といえます。同業他社の粗利益額と粗利益率の平均を知って、商品力、競争力の向上を目指しましょう。
粗利益額と粗利率【製造業】
粗利益計算する際の、製造業の原価は、製造原価になります。
平成28年企業活動基本調査報告書(経済産業省発表)によると、製造業の1企業当たりの売上高は21,083.1百万円、粗利額は4,262百万円で粗利益率は20.21%です。
粗利益額と粗利率【卸売業】
粗利益計算する際の、卸売業の原価は、仕入原価になります。
平成28年企業活動基本調査報告書(経済産業省発表)によると、卸売業の1企業当たりの売上高は36,936.7百万円、粗利額は4,333.6百万円で、粗利益率は11.73%です。
粗利益額と粗利率【小売業】
粗利益計算する際の、小売業の原価は、仕入原価になります。
平成28年企業活動基本調査報告書(経済産業省発表)によると、小売業の1企業当たりの売上高は24,327.0百万円、粗利額は18,249,972百万円で、粗利益率は28.59%です。
最も使われる粗利率
粗利率は、売上と売上原価のバランスが取れているかの指標になります。売上原価を押さえたまま売上を伸ばすことができれば粗利率は増加、つまり純利益が大きくなることが予想されます。一方で売上は伸びても売上原価も相対的に大きくなったり、あるいは売上も伸びず、売上原価は変わらないということになれば、粗利率は変動がないか減少し、純利益が小さくなってしまうことが予想されます。
この場合、純利益を維持するためには、営業利益や経常利益でいかに損失を抑えるかなど、別の側面からのアプローチで賄う必要が出てくることになるでしょう。
また粗利の話で最もテーマとなるのは、この粗利率の話題でもあります。「今季の粗利率は~」「あそこの会社の粗利はどれくらい?」「30%くらいですね」など、具体的な粗利益では客観的な判断を下しにくいため、割合を用いて粗利の話は取り上げられます。
ただ粗利率の話題を取り上げる際に気をつけなければいけないのが、粗利率の良し悪しは業界によって微妙に異なってくるという点です。
必ずしも粗利率の比較が有効であるとは限らない
前述したように、業界によって粗利率を計算する際に、必要な売上原価の計算は微妙に異なります。確かに小売業同士、サービス業同士のような同業者間での粗利率の比較はある程度参考になるかもしれませんが、小売業と製造業を粗利率で比較するのは、原価の捉え方が異なるため無理が生じてしまいます。
例えば、机を作っているメーカー同士で比較して、どちらがより効率的に机を作っているのかという指標に対して、両者の粗利率を比較するのは有益かもしれませんが、机メーカーと実際に机を売る小売業者での、粗利率の比較に意味はあるのかと考えればわかりやすいのではないでしょうか。
業種によって、粗利益率の傾向があるので、業種別の粗利益率も把握しておくといいでしょう。
また、粗利率の違いは、企業の規模の違いでも出てくる可能性はあります。従業員数が多い企業の方が、基本的に利益率が高くなります。なぜなら、小規模の企業の方が、売上に対しての販売費および一般管理費の割合が多くなるからです。
ただ、粗利益率がよいからと言って、販売費および一般管理費が多いと、赤字になりやすい体質だと言えるでしょう。
会社の業績を数字で評価するのは、確かに効率の良い評価方法であると言えます。しかし、その数字がどう言った意味を持っているのかというところまで掘り下げておかなければ、時として思わぬ見当違いの評価を下してしまうこともあり得ます。
粗利益も一度話を聞いておけばそこまで難しい話ではありませんが、その数字がどう言った意味を持つのかをきちんと判断していなければ、正しく企業を見つめることはできません。よく耳にする単語でも、意外ときちんと意味を理解できていないこともありますので、ポピュラーなキーワードこそ、慎重に捉える姿勢が大切になってくるでしょう。