リスクマネージャーが身につけるべき危機管理能力とは
健全で安定した店舗運営を考える上で重要とされているのが、リスクに対する意識です。
今日ではリスクマネジメントという言葉が一般的に広まりつつあるように、リスクを未知の脅威ではなくコントロール可能なものとして管理すること、つまりマネジメントすることによって、可能な限り危険を避けることは売り上げを伸ばす施策と同程度に重要とされています。
リスクという言葉は個人や場合に応じて様々にその姿を変える存在ですがm店舗を経営する中で意識すべきリスクとはどのようなもので、どう対処していく必要があるのでしょうか。
今回はリスク管理を担うリスクマネージャーが意識しておくべき店舗運営における危機管理能力についてご紹介していきます。
【目次】
リスクマネジメントとは
リスクマネジメントとは、発生する可能性のある危険に対して組織的な管理を試み、実際に想定していたリスクが発生した際の損失を回避、あるいは最低限に抑えるための施策を指します。
リスクが現実になる場合まで想定して対策を講じておくところまでが正しいリスクマネジメントのあり方です。
余計なリスクを負いたくないというのは至極当たり前の感覚であるため、従来からリスクマネジメントに類する施策はどの企業や店舗においても慣習的に行われてきました。
しかしながら運営規模の拡大に伴う従業員の増加や、業務のアウトソーシングによって人員の管理が複雑化していくと、感覚的なマネジメントでは十分なリスク回避ができなくなってしまいます。
賠償問題回避もリスク管理の範囲に
例えば店舗ごとのサービスや接客に問題があるのにも関わらず、放置してしまった場合では、以下のような影響が考えられます。
- 品質の低下によるクレームの増加や客足の減少
- サービスや製品の品質低下による業務停止命令
- 莫大な損害賠償請求が発生するような事故
特に少子高齢化が進む中で、賠償責任問題は今後さらに深刻化されていくとみられます。
災害弱者とされる高齢者とのトラブル増加や、人手不足による対応の遅れなど、考えられるリスクは適切なマネジメントによって確実に管理下に置いておく必要があるでしょう。
業種にもよりますが、適切なマネジメント技術の浸透はどの分野においてもその重要性を増していると言えます。
リスクマネジメントの実施方法
それではリスクマネジメントを考えるとき、どのようなアプローチで取り掛かる必要があるのでしょうか。経済産業省が中小企業向けに公開しているフローチャートを参考にすると以下のような手順が必要になります。
リスクの把握
一つ目にリスクの把握です。店舗運営においてどのようなリスクがあるかをあらかじめピックアップし、可視化しておくことで対策を練る必要があります。
組織運営の中で想定外のリスクに対応することは困難を極め、規模が大きな組織ほどリスクの存在は危険なものとなってしまいます。
リスクをコントロールするためには、まずどのようなリスクが潜在的に存在しているかを確認することが重要です。
リスクの評価
どのようなリスクが存在するかを把握した後は、それぞれのリスクがどのような被害を店舗にもたらしかねないかを評価する必要があります。
リスクが現実のものとなる頻度はどれくらいか、もし現実となった場合、被害額はどれくらいになるかなど、慎重に検討しておくようにしましょう。
このプロセスはリスクアセスメントとカタカナで表記されることもあるため、後述します。
リスクの処理
リスク評価の後はリスクを実際に処理していきます。
いわゆるリスクコントロールはこのステップに含まれ、リスクの軽減や発生頻度、損害規模の軽減に取り組みます。
さらにリスクを財務的に処理するプロセスとしてリスクファイナンスも考慮しておく必要もあります。火災保険などに加入することでリスクを第三者に移転することで、直接リスク被害を受けてしまうことを防ぎます。
再評価・実施
リスク処理が完了したら、改めてリスクを評価します。リスクの把握や評価に見落としがないかや、リスクコントロール、リスクファイナンスの実施に漏れがないかを見直します。もしこれまでのプロセスに漏れがある場合は再度フローチャートをさかのぼり、残存リスクのケアを行います。
リスクマネジメントはこのようなフローチャートをなぞりながら取り組むことで、効果的な管理を実現できるようになるとされています。
参考:http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/h28/html/b2_4_1_4.html
店舗で起こりうるリスクについて
上記のチャートは全般的な組織運営における汎用性の高いものでしたが、店舗運営においてはどのようなリスクが考えられるでしょうか。
リスクコントロールに向けた問題の洗い流し
店舗運営において注目すべきリスクはいくつか存在します。損保ジャパンの公開しているレポートによると、最も注意すべきリスクは四種類に分けられます。
参考:http://www.sjnk-rm.co.jp/publications/pdf/r159.pdf
火災事故
一つは火災事故です。火災は発生頻度こそ少ないものの、仮に発生してしまった場合の被害額は甚大なものとなってしまうため、優先的にコントロールを行っておく必要があります。
ただ、火災発生件数は年々減少傾向に入っており、建物の堅牢性や防災設備が整っているために万が一発生しても被害は最小限に抑えられるようにはなりつつあります。それでも飲食店など、業務の中に火の使用が含まれる店舗では細心のコントロールを行う必要があるでしょう。
侵入窃盗事故
二つ目に侵入窃盗事故です。こちらも火災事故と同様、近年では減少傾向にあり、各店舗におけるセキュリティの徹底が功を奏していると考えられています。
ただ、裏を返せば今日窃盗被害に遭っている店舗ではセキュリティ意識の低さに起因しているとも考えられ、決して窃盗犯罪が行われなくなったわけではありません。無人の時間帯が店舗に存在しないか、閉店後の出入り口や窓が侵入を容易にさせていないかなどをきちんと評価しておく必要はあるでしょう。
賠償責任事故
三つ目は賠償責任事故の存在です。この事故は所有または管理する施設において偶発的に発生したアクシデントによって、第三者に対し損害賠償責任を負わなければならないものを指しています。
エレベーターや自動ドアなど、店舗につながる設備も責任の範疇とされることは多く、怪我や死亡事故に発展してしまった場合には甚大な損害額を被ってしまうことになります。
基本的に設備は店舗スタッフではなく保守点検業者が安全管理の任を負いますが、少しでもリスクを小さくするためには、日頃から事故防止のための取り組みを行う必要があるでしょう。出入り口のドアの異常などを確認した場合、きちんと報告するようなコミュニケーションもリスクマネジメントの一環です。
駐車場内事故
四つ目に駐車場内事故です。駐車場を備える店舗では発生頻度の高いリスクと言え、駐車場も敷地内であることを念頭に置いた取り組みが必要です。
駐車場内で発生するアクシデントとしては自動車の接触事故や施設物との衝突などが挙げられます。
狭いスペースであることから公道で発生するような重大な事故になることは稀なケースですが、私有地で発生する事故である分、警察の介入が期待できず、民事トラブルとなって問題解決が長期化してしまう懸念もあります。
これら四つのリスクはポピュラーなものであるため、きちんと自社店舗に沿って確認を行っておく必要があるでしょう。またこれ以外にも発生しかねないリスクがないかどうか、日々の店舗運営から可能な限りブラッシュアップすることがリスク管理の第一歩です。
リスクアセスメントを考える
続いてリスクアセスメントです。想定しうるリスクを可視化した後は、それらのリスクがどれくらいの頻度で発生し、どのような損害をもたらすかを評価する必要があります。
リスクアセスメントの目的
リスクアセスメントの目的は、まず現場に存在するリスクがどのような結果をもたらしかねないかを一人一人が認知し、その脅威を理解することに意味があります。
どれだけマネジメント担当がリスク管理に気を揉んでいても、日々店舗で業務を遂行するスタッフにそのことが伝わっていなければ脅威レベルを押し下げることはできません。職場のリスクを明確にし、店舗内でそのことを共有しておけば、細かな業務におけるルーティンワークやルールを遵守しようとする空気を作ることにもつながります。
また、リアルタイムで発生している危険にも各スタッフが敏感になることができるため、自発的に事前に脅威を排除する能力を養わせることにもつながるでしょう。
未知のリスクを発見・対処するために
上で紹介した4つのリスクの他にも、日々の業務の中で気づく新しいリスクも存在します。いわゆるヒヤリ・ハットの共有などもその一環で、高いリスク管理実現には大きな役に立つことでしょう。リスクアセスメントを通じて、より個々人の危機管理能力が高まればさらに安心な店舗運営を行っていくことができます。
リスクファイナンスについて
リスク処理の段階において、リスクコントロールと同時にチェックしておきたいのがリスクファイナンスです。
店舗向けに細かな災害にも各種保険が取り揃えられているため、潜在リスクの大きなものに関しては積極的に保険に加入しておくことをお勧めします。
企業財産向けの保険
火災や窃盗などによって商品に危害が加えられ、損害を被るリスクは財物リスクにカウントされ、企業財産向けの保険が適用されます。多くの小売店ではこの保険への加入がリスクマネジメントに大きな役割を果たしていると言えます。
賠償責任保険
あるいはドアに挟まれて顧客が怪我をしてしまったり、店の陳列棚が倒れて下敷きになってしまったなどの事故が発生した場合、賠償責任リスクが発生しますが、これには賠償責任保険が適切です。リスクを保険会社に任せ、店側の負担は最少限度に抑えることができます。
事業休止保険
店舗が何らかの外的な要因で延焼してしまったり、業務停止命令を受けてしまった場合は利益・費用リスクが発生します。これには事業休止保険が当てはまり、こちらも事業休止中の負担を軽減する役割を果たします。
労災保険
従業員が業務中に重大な事故に巻き込まれたり、過労死などが発生した場合は労働災害、いわゆる労災のケースに当てはまりますが、これは従業員を保険に加入させることで回避することができるでしょう。
仕組みを工夫するだけでなく、財政負担を負ってでもリスクを回避する姿勢を持つことで、万が一のケースで深刻なダメージを負ってしまうことのないよう努めましょう。
被害者から加害者へ、という意識
リスクマネジメントを担う上で、最も心がけておかなければいけないのは、リスクの責任者になることで被害者から加害者になってしまう恐れがあるということです。
店舗内で発生したトラブルがいくら自分とは関係のない事故であったとしても、その店舗のリスク管理を任せられていた以上はその責任を取らなければならず、リスクを小さく抑えられなかった場合は正しく管理されない、職務を放棄していたとして経営に危害を加えたとされてしまいかねません。
リスクマネージャーになると店舗の安全を守り、できる限りダメージを小さくすることが仕事であるため普段は日の目を見ることはないかもしれませんが、もしもの事態が起きた時、あるいはもしもの事態にならないよう、毎日のケアを怠らないことが肝要になります。