ものづくり補助金を活用した店舗ブランディングの可能性
- ものづくり補助金は、中小企業のさらなる活躍にかかる設備投資の一部を支援するもの
- 採択案件はITや機械業といったジャンルが多数を占めるが、革新的な「デザイン」と「ブランディング」の計画も補助金の採択対象になっている
- 中小企業のブランディングにおいては外部連携がカギ
ものづくり補助金の基本情報
ものづくり補助金とは
ものづくり補助金は、全国中小企業団体中央会が公募する「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金」のこと。
中小企業と小規模事業者を「日本経済の屋台骨」とし、その生産性向上をはかるためのサービス開発、試作品開発、生産プロセスの改善にかかる設備投資の一部を支援するというのが、具体的な概要です。
新しいサービスや商品の具体的なビジョンはあるが、しかし資金は足りないという事業者にとっては、「夢」でしかなかった計画を実現できるチャンスを得られる可能性がうまれるでしょう。
ものづくり補助金の公募期間は、2月~4月の間のおよそ2ヶ月ほど。それほど期間が長くないので、事前の準備が大切です。公募要領は、支援ポータルサイト「ミラサポ」、もしくは全国の中央会事務局のサイトからダウンロードすることができます。また、過去の採択案件は、中小企業庁のサイトからPDFでの閲覧が可能です。
申請の対象となる要件
ものづくり補助金の申請対象となる要件は、大きく分けると3つです。
- プロジェクトないし従来のプロセスの改善が「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」に示された方法でおこなわれること
- 付加価値額の年率3%の向上を3~5年で達成できる計画であること
- 経常利益の年率1%の向上を3~5年で達成できる計画であること
参考資料:経済産業省「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」
http://www.meti.go.jp/policy/servicepolicy/service_guidelines.pdf
これらの条件にくわえ、いくつか詳細の要件を満たしたプロジェクトが、ものづくり補助金の公募へチャレンジできる企画となります。
ちなみに、平成28年度におけるものづくり補助金への応募総数は、全国で15,000件以上とのこと。ここから審査に通ったのはおよそ6,000件、倍率は2.5倍となります。
そしてこの補助金をデザインやブランディングの分野で活用しようというのが、今回クローズアップする「ものづくり補助金による店舗ブランディング」です。
ブランディングにおいて補助金を活用するために
ものづくり補助金におけるブランディングとは
そもそもブランディングは、企業のマーケティング戦略の1つです。サービスや企業におけるユーザーあるいは消費者の信頼を積み上げていき、プラスのイメージを維持することで企業の価値を高めていく手法をさします。
AIやIoTなどのIT系や、精密機械など機械工業関連が採択されるイメージのあるものづくり補助金ですが、デザインの資源価値を向上させるプロジェクトも、イノベーションの達成として認識されています。
とはいえ、ブランド性の確立は中小企業だけでできるものではありません。中小企業庁も、ブランディングにあたっては、企業とデザイナーなど第三者との連携が重要だとしています。
では、連携によって企業イメージやブランディングの成功例には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
実際にものづくり補助金を受けたブランディングの実例を、いくつか見てみましょう。いずれも、外部のデザイナーやデザイン会社と共同でおこなっているものばかりです。
ブランディング例1:東大阪市「モノづくりのまち」
大阪府東部の東大阪市は工場密度が高く、中小企業が多く集まる地域です。しかし、その地域の特殊性と高い技術力はそれほど知られてはいませんでした。
その技術集団ともいうべき工場群を、市をあげてアピールしたのが「東大阪デザインプロジェクト」です。デザイン関連セミナーを市が主催したり、海外の工業デザイナーの招聘、デザイン会社とものづくり企業とのマッチングもおこなっています。まち全体のブランドづくりと、各企業の発信する製品のデザイン性を高めるというブランディングを同時並行的におこない、その価値を工場させました。
ブランディング例2:株式会社オーシン「COOKPOT」
「モノづくりのまち東大阪」の中で誕生した製品が株式会社オーシンによる土鍋「COOKPOT」です。この土鍋は、熱伝導プレートを土鍋本体と分離させる技術により、IHとガスの両方で使えるようになっています。国内だけでなく海外の多様な調理方法に対応できるよう、煮る、蒸す、炊く、焼くに対応する機能を装備、「土鍋」のイメージを払拭するおしゃれな見た目で販売。フランスの展示会で好評を得て、国内外で販路を拡大しています。
ブランディング例3:小野金物卸商業組合(播州刃物)
播州地方(兵庫県南西部)で250年以上の歴史をもつ播州刃物は、職人の高齢化や、安い海外製品の普及によって生産量が激減していました。これを解決したのがブランド性を高める取り組みです。
若手の職人が中心となって播州地方の鍛冶屋の連携を呼びかけ、鍛冶屋や職人の垣根を超えた「播州刃物」としてブランド化。国際展示会にも出品し、フランスやシンガポールなど海外へのアピールをおこないました。
そのブランディングにおいては、デザインの合同会社「シーラカンス食堂」が中心となり、播州刃物の魅力を伝えるリーフレットを作成したり、美しさやデザイン性に優れたシリーズを新たに発表するなど、デザインに重きを置いたプロモーションを展開しています。
ブランディング例4:株式会社大直(SIWA)
1,000年以上にわたり和紙の産地としての歴史を刻んできた山梨県市川三郷町で、障子紙の製造と販売をおこなう株式会社大直は、2008年に和紙小物のブランド「SIWA(紙和)」を立ち上げています。同社が開発した障子紙「ナオロン」の破れにくく丈夫で軽いという特性をいかし、バッグや財布といったファッションアイテムを発表。伝統的な産業における新素材開発と、そのデザインの価値を高めるという2つのイノベーションに成功しています。
アイテムのデザインだけでなくブランドの名称やコンセプトにいたるまで、すべてプロダクトデザイナーとの連携によっておこなわれているのが、成功のポイントといえるでしょう。
まとめ
ものづくり補助金の企画で重要なのは、「イノベーション」です。そして店舗ブランディングにおいて重要なのは、多角的な視点をもつことです。
ブランディング広告やデザインに予算を多くさけない中小企業や小規模店舗だけでは、よりよい発想が出づらい状況にあるでしょう。しかし、デザイナーや市町村との連携によって新たな可能性や発想を得ることで、企業としての成長も見込めます。
企業や店舗のよいところは分かっていても、その「魅せ方」が分からないという時は、デザインやブランディングのプロの手を借りるのがよいのではないでしょうか。