アメリカの飲食店システムはどうなっているのか。現地で感じたNYの今
日本でビジネスを始める、あるいは事業をさらに発展させたい場合、時代の先を行くアメリカで評価の高いもの、あるいは流行っているものを参考にしたいものです。
アメリカの最先端の流れを掴むためにはインターネットで検索をかけてみるのも良いのですが、やはり現地に足を運び、そこで目にしたものや得られた体験に勝るものはありません。
今回は筆者が実際に昨年(2016年)ニューヨークに滞在していた中で見ることができた、アメリカの飲食店ビジネスの姿を、以下のポイントを中心にご紹介します。
- 大手・個人で微妙に違う店づくりのアプローチ
- ニューヨークの家賃の高騰により小型化が進む店舗
- しかし家賃の高騰こそ、料理の質の高さによる競争を生み出した
大手飲食店はより合理的に
アメリカは民族のサラダボウルと呼ばれるほど多様な人種が住んでいる国で、その多様性は他の国の追随を許さないものがあります。そしてその多様性は、あらゆる文化の受容、住み分け、そして多角化をもたらしてきました。
こういった背景こそアメリカ人のタフな精神性と、世界に評価されるビジネスやコンテンツを生み出すことのできた理由だと私は考えているのですが、それは飲食という業界においても同じことが言えるでしょう。
スリムな体制を高めていくアメリカ国内の大手チェーン
大規模な飲食ビジネスを展開しているアメリカの大手チェーン企業は、アプリによる行列の解消や自動注文システムの導入で人員コストの削減に積極的です。とにかく合理性の追求に関してのフットワークの軽さは目を見張るものがあります。
CSRや店のイメージを崩さないということは重要なので(改善されてきたという表現が正しいのかもしれません)ある程度はお金をかけていますが、それでもコストカットできるところはとことんカットする、というのがアメリカ流と言えます。
高級料理×カジュアル市場の開拓
今は大規模ではなくとも、大規模展開を考えているアメリカの企業は合理化に対して積極的です。ニューヨーク発祥のロブスターレストランである、RED HOOK ROBSTER POUNDはその例の一つと言えるでしょう。
ニューヨークのレッドフック地区に本拠地を置くこちらのお店ですが、本店は写真を見てもらえると分かる通り、かなり雰囲気のあるオシャレなロブスター料理のレストランです。
(参考:http://www.redhooklobster.com/)
少し前からフードトラックによるベンダー販売や、マンハッタンの中心にあるグランドセントラル駅の近くにあるurban space(http://urbanspacenyc.com/)というフードマーケットでも出店を開始し、ニューヨークでは人気のスポットとなっています。
店舗や調理スペースの小型化
ポイントはロブスター料理というやや高価格帯の料理でありながら、店舗や調理スペースの小型化で集客に成功している点です。
小型の店舗やベンダーといえば、日本人の私たちからすればファーストフードを食べる場所くらいのイメージを持ってしまうかもしれませんが、ロブスター料理というものは決して安いものではなく、そこそこの調理スペースがなければ一から料理を作ることはできないわけです。
そこでRED HOOK ROBSTERが導入しているのは日本でもよく知られているセントラルキッチン方式です。
この方式自体は日本でもファストフードやファミレスでよく導入されており、珍しいものでもなんでもないかもしれませんが、ポイントはロブスターやシーフード料理でこのシステムを導入していることでしょう。
あらかじめ調理場で仕込まれたものを、ベンダーや小型店舗で盛り付けるというやり方は、アメリカでは高価格帯のレストランでも活用されています。一つ20ドルは前後するロブスターサンドやサラダ、スープなど、ほぼ全てが別の場所で調理されている品々です。
さすがに赤ちゃんほどのサイズのあるパックを開封してスープを鍋に注ぎ込んでいる場面を見た時はやや抵抗がありましたが、それでも味はよく、値段相応の料理を楽しめるのであれば、省スペース+セントラルキッチン+高級料理も決して悪い選択肢ではないのでしょう。
日本でも「俺のフレンチ」シリーズや「いきなり!ステーキ」など、省スペース+高級料理の成功例はいくつか見ることができます。
大手・個人で微妙に違う店づくりのアプローチ
飲食店に限った話ではないのですが、ニューヨークで店を構えて事業を始める場合、やはりネックになるのが毎年高騰していく高額な家賃です。
高額な家賃は特に個人経営のお店など、小規模な事業や新規参入の可能性を阻害する厄介な問題なのですが、この問題はニューヨークにおいても顕著です。
結果としてニューヨークではマンハッタンから小規模なお店や新規のレストランは姿を消し、代わりに隣接している地区であるクイーンズやブルックリンの方で盛り上がりを見せることとなりました。
家賃の高騰は必ずしも悪い影響ばかりではない
実は結果的にマンハッタンの家賃の高騰が周辺地域の治安の改善に役立ったという面もあり、というのもつい20年ほど前まではブルックリンやクイーンズ、そしてブロンクスのようなエリアはアメリカ人にとっても悪名高い地域だったわけです。
それがここ何年かの家賃の高騰で、マンハッタンは観光客向けの場所となり、ニューヨークに「住む」人たちは家賃の安い上記のエリアに引っ越したり、その地域にオシャレなレストランやファッショナブルなエリアが形成されることで(家賃の安さはニューヨークに拠点を置くアーティストにとっても重要なポイントです)、地域の治安改善や地価の上昇につながったのです。
そして今ニューヨークで起きているのは、マンハッタンに限らないニューヨークシティ全体での地価の上昇です。少しでも安い地域があると、すぐに人が集まってはまた安いエリアを探すという、非常に流動性の高い人々の移動が都市の中で行われているのです。
超小型店舗に求められること
家賃に左右されるのは飲食店も同じことです。頻繁に家賃が上がるとメニューや価格改定を頻繁に行わざるを得ず、ましてや赤字続きでは経営もままなりませんから、新規参入者や個人経営のスタイルとしてトレンドなのは、超小型店舗のスタイルです。
前述のロブスター料理のお店でも小型店舗の話はしましたが、少なくとも今のニューヨークでは余程の資金力がなければ、いきなり大型店舗というのはあり得ない話で、「小さいお店で試して、成長が見込めそうなら少しずつ大きくする」ことを繰り返すのが多く見られました。
個人店は限られたスペースで何をするのかがポイント
この例はニューヨークのコーヒーショップなどを見るとわかりやすく、例えば「mixtape bushwick」というコーヒーショップは、完全に店内のイートイン設備を廃したスタンド特化のお店です。(参考:https://www.instagram.com/mixtapebk/?hl=ja)
日本で一般的に持ち込まれるニューヨークスタイルの飲食店は、どうしてもニューヨーク「らしさ」を出すためにインテリアや内装にこだわってしまいがちなのですが、今ニューヨークでもてはやされているスタイルは、限りなく「ムダ」を減らしたものであることはポイントです。
来店客の回転率を考えなければならず、維持費もかかる「店内イートイン設備」は「ムダ」ですし、もちろんレジスターも余計なスペースを取るため、iPadなどのタブレット端末+レジアプリは当たり前です。私もニューヨークで様々な個人経営の飲食店に足を運びましたが、レジアプリを使っていないお店はもはやゼロでした。
一見自分の都合ばかりで店を運営しているように思われますが、実はそのお店を利用する人たちもテイクアウトが多く、イスとテーブルは「あれば使う」ぐらいで考えているので、そういったテイクアウト特化のお店はニューヨーカーのライフスタイルにマッチしているとも言えるでしょう。
日本の「中食」もある種の「ニューヨーク化」なのでは
日本でも最近は「中食(なかしょく)」というワードに注目が集まりつつありますが、要は自分専用のスペースで食事を取りたいというテイクアウトへのニーズの高まりです。
省スペースでテイクアウト特化、というと日本ではなかなかキャラクターを出すのが難しいのかもしれませんが、上の事例でもあるように、この合理的な手法は少なくとも「ニューヨークスタイル」というブランドを獲得している点は大きいです。
ムダの少ないやり方は経営者のお財布にも優しいですし、消費者のニーズにもマッチしている。このトレンドは飲食店経営を始めようとしている人にとっても、見逃せないムーブメントなのではないでしょうか。
多様化と合理化が進んだ今のアメリカの飲食店に求められていること
原点回帰のムーブメント
アメリカにおける大手飲食店と個人規模の飲食店の特徴的なポイントをご紹介しました。
当たり前の話ですが、こういったトレンドのやり方を抑えているからといって必ずしも成功するわけではなく、ニューヨークは一年ごとに店が入れ替わる程競争の激しいエリアです。その激しさは個人でも大手でも変わることはありません。
そんな中でやはり頼りになるのがリピーターのお客様、常連客なのですが、それはつまりお店で提供される食事の味の良し悪しが店の命運を握っているといっても過言ではないでしょう。
味で勝負できる競争の到来か
どれだけムダを省くためのシステムを導入し、instagramなどのSNSを活用して集客を見込んでも、店で提供されている食事が美味しくなければ継続的な集客は見込めません。
店舗の省スペース化やテイクアウトの常態化はまさに飲食店の原点回帰とも言えるムーブメントで、小手先のテクニックだけではなく、少しでも多くの人が場所を問わず美味しく食べられるものを提供することこそ、今の飲食店に求められているニーズなのでしょう。
家賃の高騰、そして徹底したコストカットの姿勢は、結果的に味の追求をアメリカの飲食店にもたらしたのではないでしょうか。