3Dホログラムがコールセンターで活躍する?
何もない空間に、あたかもそこに存在するかのような映像が立体的に浮かび上がる——“3Dホログラム”と聞くとまず、そんな映像特性を活用したエンターテインメントを想像するものです。
実際、有名アーティストのライブや、デモンストレーションディスプレイ、ゲームなど、実用化目前の3Dホログラムを活用したエンタメ事例は枚挙にいとまがありません。
しかし、2019年11月に日本でも出荷開始された3Dホログラムを投影する拡張現実ウェアラブルコンピュータデバイスであるMicrosoftの「HoloLens 2」は、明確にビジネスユースを想定したプロダクトであることが示されています。
例えば、それはコールセンターだったりします。未来感やワクワク感が溢れる3Dホログラムの活用法が、コンシューマーからは見えづらいコールセンターだというのは、ちょっと予想外だと思いませんか?
本稿ではその話題も含め、3Dホログラムの現在地から、HoloLens 2の概要、店舗におけるその他活用法の可能性まで、幅広くお伝えしていきます。
目次:
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まず最初に、本稿で言及する「3Dホログラム」について、定義を明確にしておきます。と、言うのも、後ほど取り上げるHoloLens 2で使われている技術は、正確にはホログラフィではないからです。
そもそも3Dホログラムとは、物体を光の干渉を利用して立体的に記録し、そのデータを特殊なディスプレイに投影することで立体映像を浮かび上がらせる技術のことを指します。そして、この場合、ホログラムを見るために特殊なデバイスなどは不要であり、肉眼で立体映像を見ることができます。
しかし、MicrosoftのHoloLens 2はそれ自体が“特殊なデバイス”であり、明らかに従来の3Dホログラムの定義からは外れたものです。
それでも3Dホログラムを謳っているのは、「ホログラフィック」の語源であるギリシャ語が、「全体」と「描写する」を表しているところから来ているようです。
HoloLensは、物体を光で描写すること、そして3Dで全体的に見られることから、Hololensで使われている技術を「ホログラフィックコンピュータ」と表現しており、デバイスに投影される映像を3Dホログラムと呼んでいるのです。
VR、ARを超えた「MR」
「HoloLens」は、第1世代機が2016年に発売された、Microsoft初のMR(Mixed Reality:複合現実)対応のウェアラブルコンピュータです。
MRは、VR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Argumented Reality:拡張現実)を超越した概念であり、現実世界に高解像度の3Dホログラムを投影するもの。ARは単に画像や映像をその場に重ねるだけなのに対して、MRでは投影したホログラムを、実際に存在する物体と同じように触ったり動かしたり操作することができるのです。
この技術の活用法として、Microsoftは発売当初からビジネスユースを想定したプロダクトであることを明言しており、第1世代機で指摘された「視野角の狭さ」も、現実世界の周囲が見渡せ、装着したまま安全に歩き回れることを重要視しているためだとしています。
この辺りが、仮想現実の世界に没入してゲームなどを楽しむことが前提となっているVRデバイスと一線を画す部分と言えるでしょう。
第2世代機のHoloLens 2も、ビジネスユース路線であることに変わりはなく、その上で、装着時の快適性や視野角の狭さ、アプリの操作性などが大幅に向上されています。
中でも、ディープニュートラルネットワークが組み込まれたAIコアプロセッサのHPU2.0が搭載されたことで、機械学習のスピーディーな処理が可能になっていることが大きな特徴です。
HoloLensが可能にする世界
ビジネスにおけるHoloLensの使い道には、様々なものが想定されています。
例えば、工場のラインや工事現場などパソコンの持ち込みが難しい作業現場で、不具合箇所のチェックや、トラブルシューティングのオペレーションなどの指示を、現場から離れた本部とやり取りするというもの。
現場にいるスタッフはHoloLensを装着すれば、両手が空いた状態で、目の前に具体的な指示が浮かび上がるため、安全かつ効率的に作業を進めることができるでしょう。それは、さながら某人気漫画に登場する「スカウター」を装着しているようなイメージとも言えます。
また、建設現場に建造物の完成形を実物大で重ね合わせることで、デスクトップ上では想像がつかない動線設計や作業工程の計画などをより鮮明にすることができるかもしれません。
あるいは、建築のコンペティションなどで、建設予定地でHoloLensを使ったプレゼンを行う、といった使い方も魅力的だと言えます。少なくとも、建築家の名前と外観デザインのみで判断されることを防ぐ手段にはなりそうです。
冒頭で述べたコールセンターにおけるHoloLensの活用事例も、このようなビジネスユースの延長線上にあるものです。
コールセンターの「バーチャライゼーション」
イタリア発の高級路線コーヒーメーカーを展開しているデロンギ・ジャパンと、コールセンターのアウトソーシングサービスを提供しているベルシステム24は、HoloLens 2を活用した「コールセンターのバーチャライゼーション」を推進しています。
デロンギのコーヒーマシンは、誰でもボタン一つでクオリティの高いコーヒーを抽出できる高性能なものであり、それだけに複雑な機構を持っています。したがって、これまではコールセンターに商品の全ラインナップを用意しておき、故障や不具合などの問い合わせがコールセンターに入った時は、顧客と同型の商品をスタッフが操作しながら対応していたと言います。
ここには二つの課題が潜んでいました。
- 対応する場所と時間の制限
- 属人的な環境
前述の通りコールセンターには10kgを超える商品の実物を用意しなくてはならないため、対応する場所や時間が制限される、ということ。
そしてこれまでは商品に詳しいスタッフが対応しないと高品質なサポートを維持できないという属人的な環境だったということが、課題となっていたのです。
「場所や時間に縛られず働ける環境」「コールセンターというタッチポイントにおいて最高の顧客体験の提供」という二つの課題を解決する糸口となったのが、HoloLens 2でした。
実機を目の前に用意せずとも、操作ができるホログラムが目の前に現れる、しかも、機械の細部が見たいときは拡大したり、機械を分解することなく内部が観察でき、抽出のシミュレーションも自由自在——いつ、どこにいようとも、実機以上の観察を可能にするのがHoloLens 2なのです。
デロンギのコールセンターバーチャライゼーションはまだ実証実験の段階ではあるものの、いつでもどこでも対応が可能なこの技術が実用化された暁には、“働き方改革”や、“高齢者の雇用機会拡大”にも直結する可能性を秘めていると言えるでしょう。
さいごに
本稿では、主に事業のバックエンドにおける3Dホログラムのユースケースをご紹介しましたが、小売業で考えれば、2018年に話題になったMicrosoft×東映によるプロモーション「ゴジラ・ナイト」のように、エンターテインメントとしてのMR体験店舗への集客に活用することも当然考えられます。
さらに、テクノロジーが発展した先には、HoloLensを装着して商品を体験しながら、気に入ったモノを目の前に浮かんだコマンドを操作する「MRコマース」で購買できる店舗なんかも、顧客体験として非常に面白いものになるでしょう。
あるいは、HoloLensのようなデバイスが一般家庭にも広く普及するようになるのなら、自宅でMR試着しつつMRコマースで購入、といった世界観が実現できるかもしれません。
現状はまだ、Microsoftが公開しているHoloLens 2のPVのようなクオリティは実現できていないとも言われていますが、今後、その使用用途の広がりも含めて、3Dホログラムが持つポテンシャルにはますます注目しておきたいところです。