@cosmeが考える「ネットとリアルの融合」。ユーザーとブランドが作る新しいステージ
2020年1月28日(火)~29日(水)、東京ビッグサイト青海展示棟でイーコマースフェア東京2020が開催されました。流通小売業界向けの最新システムから運営ノウハウまで、オンラインビジネスに関わる企業が一堂に集結するイベントで、EC、オムニチャネル、マーケティングといった様々なテーマで展示やセミナーが行われました。
本稿では、株式会社コスメネクストの代表取締役である遠藤 宗氏によるセミナー『ユーザーとブランドが創る「共に楽しむ世界」~ネットとリアルの融合で生まれる新しいステージ~』をレポートします。
店舗の未来を考えるうえで欠かせない「ネットとリアルの融合」について、コスメネクスト社の考え、原宿にオープンした新店舗、@cosme TOKYOの狙いなどが語られました。ぜひご覧ください。
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株式会社コスメネクストは、コスメの口コミサイトで有名な@cosmeを運営している、株式会社アイスタイルのグループ会社です。アイスタイルグループ内の小売事業を担当しています。代表取締役社長の遠藤 宗 氏は、株式会社アイスタイルの中でビューティー事業を手掛けてきた実績があり、店舗DCや海外店舗、海外貿易など物を動かすビジネスに関わってきました。13年前に@cosmeの店舗運営をスタートした際の立ち上げメンバーで、そこからECサイトや広告事業を手掛け、現在ではグループ全体の経営などを管轄しています。
アイスタイルグループを支える3つの事業
@cosme
コスメの口コミ総合サイトとして20年以上運営しており、20代~30代の国内女性のうち過半数が毎月利用しています。当初は自社商品のネガティブ情報を発信される可能性に抵抗感を持つメーカーもありましたが、生活者側からマーケティングを変えていこうと取り組む姿勢がメーカー側の考え方も変えつつあります。
@cosmeショッピング
2002年頃にスタートしたECサイトです。取り扱いブランドは1,900、商品数は39,000店を超え、化粧品を取り扱うサイトとしては最大となっています。月間1,300~1,400万円ほどの売り上げがありますが、実はリアル店舗の売上の1/3程度であり、国内ECサイトはまだこれから伸びる分野であると遠藤氏は語ります。
店舗運営
アイスタイルグループでは13年ほど前から@cosme STOREという化粧品店舗を運営しています。売上高は100億円を超え、化粧品業界のマーケットでさまざまな影響を与える存在となっています。
コスメネクストが考える店舗運営の在り方
2020年1月10日に新店舗オープン
原宿駅前にあるエリアに、@cosme TOKYOという新しい店舗を作りました。店舗の立ち上げを決めたのは2018年の秋ごろで、2019年中のオープンを目指して準備をしていましたが、オリンピックの影響もあり金物資材などの調達に時間がかかり2020年明けとなりました。
店舗名は@cosme “STORE”ではなく@cosme “TOKYO”です。新しい時代のネットとリアルの融合を目指して@cosmeを強調し、そしていつかは世界に発信出来たらいいなと思い「TOKYO」としました。
13年前からネットとリアルの融合を構想していた
我々が13年前に店舗運営を開始した時、「ネットとリアルの融合」という考えは誰も言っていませんでした。
しかし我々は、新しい時代の店舗の在り方として以下の3つを考えました。
- リアルの中でネット情報に触れられる環境を作る
- ネットの情報を軸に品ぞろえを行う
- ネットの考えで店舗を考える
@cosmeというWebサイトの情報を基にお客様が化粧品を購入するという行動は、すでに取ってくれていました。しかし、店舗内ではインターネットの情報がほとんどありません。
ユーザーから「ネットの情報を店舗でもわかりやすくしてほしい」という声があり、我々は店舗内でもネット情報に触れやすくする環境が必要だと感じました。
通常商品を仕入れる際は、掛け率や返品ルール、ロット数などメーカーと“条件”を基に折衝してビジネスを行うことが、通常の商習慣となっているでしょう。しかし我々は条件を無視して、「@cosmeで人気か?」「ユーザーに支持されているか?」という軸で商品を選びました。
客単価は意識しない
基本的にどのビジネスでも、売り上げは客数×客単価と考えます。もちろん僕らも客数や買い上げ点数は意識していますが、実は客単価はあまり見ていません。
一般的にリアル店舗で化粧品を販売すると、CV(コンバージョン)率はかなり高くなります。その理由は「購入したい商品がある」「試してみたい商品がある」といった“目的”がないと、店舗に行かないためです。
我々は「お店に来たら買わなくてはいけない」という店舗づくりは目指していません。CVは通常で30%ほど、MAXでも40%程度でいいと考えました。
cosmeが考える「ネットとリアルの融合」とは
ユーザー・ブランド・店舗が繋がる体験を作りたい
今回の@cosme TOKYOの進出では、「これからのネットとリアルの融合とは?」を社内でよく考えました。
我々は本格的な店舗進出を13年前から行っていますが、最近はAmazonやアリババなどの実店舗進出が増えています。
大事なのは、店舗を入り口にして考えることです。店舗内にお客様がいるときは、当然お客様とつながります。しかし、「店舗内にいない時もユーザーと店舗だけではなく、ブランドまでもつながる体験をどう作るか?」ということを、@cosme TOKYOのテーマを考えるうえで軸にしました。
「店舗・ECサイト・メディア……様々な所でその人が取った行動を軸に、その人にとって有益な情報を提供しながら色んなものが繋がっていく世界を作りたい」、これが最初に@cosme TOKYOという店舗づくりで考えたことです。
ネットとリアルの体験は販促的ではない
僕らが考えるネットとリアルの融合の姿は、1つの体験がリアルにつながり、ネットの体験がリアルに味わえる。さらにその体験が繋がっていく…ということです。
今ではO2OやOMOなどいろいろな言葉で語られ、ネットとリアルの体験は販促的に語られることが多いですが、僕らはネットとリアルの融合を販促的に捉えたことはありません。
社内で語られることは、「ネットとリアルがどういう風に繋がるか?」「体験をどう繋げるか?」という事のみ。
1人のユーザーがネットで物を購入したりコスメの情報を知ったりするし、リアル店舗でも同じ行動を起こします。ネットやリアルで得た体験をリアルでも感じられるかが大事ですし、そういった体験を得てもらえるように取り組んでいきたいです。
@cosmeに100円~数十万円のコスメを揃えた理由
@cosme TOKYOは館全体で600坪くらいの建物です。売り場は400坪くらい使っており、取り扱いブランドは600ブランドほど存在します。
コスメの価格は100円~数十万円までの幅があり、いわゆるドラッグストアで購入できる“プチプラコスメ”から、百貨店で販売している“ラグジュアリーコスメ”を1つの空間で販売しています。
幅広い価格のコスメを同じ売り場で販売する理由は、@cosmeというメディアにあります。
たとえば化粧水1つで見ても、@cosme内では安価ものから高級な化粧品まで売り場に関係なくランク付けされています。つまり、安価~高価なコスメを同じ空間で展開することで、@cosmeのリアルを感じられるのです。
400坪程度の売り場面積を活用しながら@cosmeをそのまま体現することで、「ネットの世界のリアルだ」と感じてもらえるような作り方にこだわりました。
3階を一切売り場にしなかった理由
@cosme TOKYOは1階2階を売り場にしていますが、3階には売り場を一切設けていません。原宿駅前一等地というエリア中で売り場を作らないのは、正直勇気がいる決断でした。
しかし、3階は“コンテンツを作る場”として活用したいという思いがあります。@cosme TOKYOは1階2階で商品を販売し、3階でコンテンツを作る…という店舗にしました。
化粧品メーカー向けの説明をする場としても活用でき、1度に120人ほど収容できます。@cosmeのアプリを持っていれば誰でも入場可能で、小さなファンミーティングのようなイベントができる環境にしています。
リアルでコンテンツを作り、それをネットで発信して新しい人との出会いを作る…。イベントを通して生活者とブランドの出会いは作れますが、そこからさらにコンテンツ化して新しい出会いを作るという循環を作りたいと思っています。
旗艦店@cosme TOKYOの取り組み
情報発信を目的に、@cosme TOKYOは以下のようにさまざまな取り組みを行っています。
@studio
インフルエンサーさんなどと番組を毎日発信していき、「モノ入り口ではない出会いの創出」をやっていきたいと思っています。TikTokで有名な方を招いた時は、直前のTwitterでも大変盛り上がっていました。
ポップアップベース
原宿駅から見える場所で色んな化粧品メーカーとユーザーが出会い、さらに繋がれるようにスペースを展開しています。ユーザーが出会った行動をデータとして蓄積して、その後コミュニケーションが取れるようなサービスを提供しています。
ベスコスタワー
@cosmeでは「ベストコスメアワード」という年1回の表彰を長年やっています。店舗に入ってすぐ見られるベスコスタワーでは、その受賞商品を含めて多くの商品が一度に見られるようにしています。
@コスメウィークリーランキング
@cosmeでは毎週ランキングを更新しています。店舗でも実施したいと思い設置しました。手間はかかりますが、ネットの世界とリアルの世界が近づくことが目的です。土地柄として訪日外国人が多いため、今流行っている日本のコスメのリアルも見てもらえます。
POS連動サイネージ
実際にPOSを通ったものがデザインされ、万華鏡のようなデザインで表示されます。リアルタイムでも表示できますがシステムに負荷がかかるため、15分ほど遅れて出るようにしています。別のお客様の購入体験も味わえます。
多言語対応
JANコードをかざせば、4つの言語で@cosmeの情報が表示されます。訪日外国人にも日本で人気のコスメを知ってもらえるきっかけを作りたいと設置しました。
共通カウンセリング台帳
化粧品メーカーごとに台帳は付けているはずですが、@cosmeではその台帳を1つにまとめて接客に活かしていきたいと思っています。メーカーはサンプルを作ってユーザーに渡しますが、実は誰にどう渡ったかというデータはとっていません。「買わなかった行動」までデータ化して、ユーザーにどうアプローチするか考えるきっかけにしたいです。
ネットとリアルの融合で大事なこととは
店舗運営を行う時、あまりにビジネスモデルで考えるとお客様の楽しさが消えてしまうケースがよくあります。
ネットとリアルの融合で大事なことは、そもそも前提として「リアルが楽しい」という事です。
リアル店舗に足を運ぶために電車に乗ったり歩いたり、それだけで面倒なことです。だからこそ、移動する代わりに店舗に足を運ぶ楽しさがなくてはいけません。
@cosmeでは、「リアルがいかに楽しいか?」という点を店舗の基本としてやってきました。たとえばテスターバーを設置し、“試す楽しさ”や“試す出会い”を研究しています。
今もツールを探していますが、将来的にはテスターバーで何を試したかデータ化できるようにしたいですね。
店舗はPOSデータがあるため、購入データはわかります。しかし、“買わなかった”という結果が不透明です。興味があってコスメを試した結果“買わなかった”、という情報をデータ化、可視化していきたいです。
@cosmeが考える店舗のミライ
店舗運営では接客が重要
我々は13年間リアルビジネスをやってきて、人が人と接する“接客”がいかに重要かをよく理解しています。今ではネット事業がリアルに進出していますが、強い店は店頭スタッフの接客応対がいいですね。
「お客様が楽しいか」という点しか考えていないので、店舗運営での無人化は全く考えていません。
決まった物をリピート購入するとか、コンビニ的な要素が強い販売には無人化は大変良いと思います。しかし化粧品販売において、お客様が無人化接客で楽しいかどうかは別の話です。
商品選びに迷った時店舗スタッフに助けてもらえなければ意味がないですし、買い物が楽しいものではなくなってしまいます。
@cosmeは買い上げ率に執着しないから成功した
13年前に店舗運営をスタートした時から、「すべて我々の店舗で購入いただかなくてもいい」という話をしていました。
@cosmeの店舗は買い上げ率が30%、ポイント還元が1%と決してお得感は高くありません。
しかし、「@cosmeで試してみよう」「一度見てみよう」という軽い気持ちでご来店いただけるような、地域の“ハブ”のような存在になれたらいいと思いビジネスを展開していました。
それは、@cosmeというメディアがあったから割り切れた部分もあります。しかし、この買い上げ率にこだわらないスタンスのおかげでお客様が多く来店された結果、買い上げ率30%でも売り上げの大きな店舗を作れました。
@cosme TOKYOは、買い上げ率でみると30%も到達していません。もちろん目標にしていますが、「70%の人が購入しない店」と割り切り、他店に行っても構わないというスタンスです。
しかし、その購入しなかった70%のお客様が何らかのコスメに触れたりサンプルをもらったりするまでに至ったデータは、可視化して蓄積していきたいです。
データを可視化して蓄積していくことが、リアル店舗を運営する1つの意味だと思っています。
これからやりたい事
今回は、リアルとネットがどう融合していき、この先にどんな世界があるのかという考えをお話ししました。
これからは単純に販促的な考えではなく、リアルの体験とネットの体験の違いをどう感じるか・ネットとリアルの融合において、いかにリアルが楽しいものか伝えることが大事です。逆に、ネットの体験をいかにリアルのように楽しくできるかという事も大事になると思います。
生活者は今後もいろいろな体験をしますが、楽しくなければ続きません。その楽しい体験がネットとリアルでいかに作れるか、今後も考えていきたいと思います。
編集部より
いかがでしたか?
次世代型店舗を模索する@cosme TOKYOの取り組みは、他の業態であっても参考になると感じました。
顧客体験をどのようにデータ化して取り込んでいくのか、今後の展開に注目です。