セキュリティー対策にみる無人レジの課題
IT技術の普及によりオックスフォード大学が認定した「10年後になくなる職業」の記事をよく目にするようになりました。ITシステムが人に代わって仕事をする。この流れはもはや止めることができません。
「10年後になくなる職業」に挙げられていたレジの仕事もITシステムを活用した無人レジに取って変わり始めています。IT先進国アメリカではすでに一般的となっている無人レジですが、日本にも導入の波が加速しています。無人レジ導入でレジ行列がなくなる未来がすぐそこまで来ています。
今回のポイントは以下の4点です。
- 無人レジ導入で買い物客の利便性が向上し、お店は人件費を大幅削減できる
- セキュリティ対策にはセキュリティゲートの設置、個人情報登録決済、指紋認証などがある
- セキュリティ対策を行ってもなお、課題は残る
- 無人レジ導入でレジスタッフは不要だが、レジサポートスタッフは必要
無人レジは店舗運営にとってどんな影響をもたらすのか?セキュリティーの面から探っていきたいと思います。
無人レジの仕組みとは?
無人レジとは、電子タグを活用し、購入したい商品を専用レジ台に置くだけで自動会計が可能なレジです。
現在もレジスタッフ(もしくは買い物客)が商品の読み込みを行い、買い物客自身で決済を行うセミセルフのレジシステムはありますが、無人レジは商品に付与されたICタグを専用の機械が一括で読み取るため、瞬時に会計が終わります。セルフレジやセミセルフレジのように1品ずつバーコードで商品情報を読み取る必要がありません。
無人レジの買い物の流れは、まず買物客が購入したい商品を買物カゴに入れて無人レジに行きます。買物カゴごと専用のレジ台に置くとレジ台に組み込まれているICタグ読み取りシステムが稼働して商品と金額を瞬時に認識し合計金額を導き出してくれます。買い物客は現金やクレジットカード等で支払いを済ませれば終わりです。一括で読み取ってくれるので、購入商品が多くても少なくてもシステムが読み取る時間はほぼ同じです。カゴや袋に商品を入れたまま会計ができるため、買物客の利便性向上と人件費の大幅な削減が可能になります。
無人レジのセキュリティ
無人レジ導入で心配になる点がセキュリティ面です。レジにはスタッフがいないため、万引きを企む人の出現が予想されます。レジが自動になって人件費が削減できたとしても万引きし放題では全く無意味ですが、当然、レジ台にはセキュリティ対策の仕組みが組み込まれています。
代表的なセキュリティチェックは重量測定によるものです。これはバーコード読み取りタイプのセルフレジでも導入されている仕組みで、購入前と購入後の総重量を測定することで購入前の商品を不正に持ち帰っていないかをチェックします。もし重量が異なっていたら不正通知のブザーが鳴る仕組みになっています。
無人レジだけでは終わらないセキュリティ対策
このようなセキュリティ対策を行っていたとしても万引きのプロはシステムの抜け道を見つけるのが上手です。重量測定によるチェックだけではいずれ見破られてしまうかもしれません。まだ国内で無人レジが普及していないため明確に断言はできませんが、レジ台だけでセキュリティ対策を行うのでは不十分でしょう。
セキュリティゲートの設置
レジ台以外のセキュリティ対策としては出入り口にセキュリティゲートを設置する方法があります。セキュリティゲートは空港の荷物検査場をイメージしてもらえばわかると思いますが、買い物客はお店から出る前にセキュリティゲートを通過するようにし、セキュリティゲートを通過しないとお店の外には出られない店舗構造にします。そしてゲート通過時にすべての商品の支払いを済ませたかをICチップで判断し、問題なければ出口のドアを開けます。万が一、レジを通していない商品があればドアを開けません。
監視カメラ+決済手段の指定
監視カメラを設置し、決済は個人情報登録済の決済手段に限定すればセキュリティに効果的です。万引きを起こした場合は、監視カメラの録画映像から犯人を割り出し、犯人の決済履歴を確認すれば、住所や氏名が分かります。
時間は多少かかりますが、決済手段に登録されている情報から犯人を見つけることができます。また、個人情報登録済みの決済手段のみ対応可にしておくことで万引き犯をお店に寄せ付けない効果もあります
事前指紋認証の義務化
また指紋認証も方法の一つです。決済前に指紋認証の実施を義務化すればセキュリティ対策の一助になります。決済手段の指定と同様、万が一のことがあっても個人を特定することができます。
セキュリティ面の課題
しかし無人レジに限った話ではありませんが、セキュリティ対策を完璧にするのはなかなか難しいものがあります。紹介した無人レジのセキュリティ対策は実施すべきですが、抜け道は作れてしまいます。決済手段を指定しても登録している個人情報が古いもの、別人のものだったらセキュリティ効果はありませんし、1つもレジを通さずに万引きをした場合は決済履歴が確認できません。
指紋認証義務化ではいちいち事前に指紋を登録しないと買物すらできませんし、指紋は作ろうと思えば簡単に複製できてしまいます。セキュリティ対策はいたちごっこの側面も見え隠れします。
機械操作が苦手な買い物客
無人レジセキュリティはシステム以外に起因する課題もあります。それは買物客に起因する課題です。
買物客には機械操作を苦手とする方も当然います。操作が得意な方はすんなりと使い方が分かりますが、苦手な方はかなり苦労するでしょう。何度トライしてもうまくいかず、誰にも聞けないのなら対応に苦慮してそのまま持って帰ろうとする買い物客が一部いるかもしれません。人は誰も見ていないとおかしな行動に出るものです。この行為自体は大問題ですが買い物客の気持ちも少しは理解ができます。相談できるスタッフが身近にいれば発生しなかったワケです。
認知症の買い物客
また、認知症の買い物客の対応も課題です。昨今、社会問題化している認知症患者の万引きですが、認知症の方は悪意がないのに盗んでしまいます。認知症患者の万引きは隠す意図がないため、有人レジの場合は万引きをする前にスタッフが対応して犯罪を未然に防ぐことができますが、無人レジの場合はそうはいきません。
今後日本は超高齢化社会に突入し、それに伴い認知症患者も大幅に増加すると言われています。となるとこのような事例が多く発生することがあり得ますし、発生した場合はその都度スタッフや警備会社が対応するのであれば、作業効率化、人件費抑制のために導入した無人レジなのにその価値はなくなってしまいます。
レジスタッフは不要でもレジサポートスタッフは必要
無人レジ設置によってレジスタッフは不要ですが、レジサポートスタッフは必要でしょう。使い方が分からない買い物客に操作を教えるために現場にスタッフを置いてもいいですし、コールセンターのような電話対応窓口で対応するのも方法の一つです。これは本来の無人レジ利用のためでもあり、セキュリティのためでもあります。
無人レジの未来
ITに強くない方にとっては無人レジ利用のハードルは高いかもしれません。買い物客である主婦の方々やご高齢の方々は比較的IT操作を苦手としている割合が高いため、無人レジを導入しているお店を敬遠してしまうかもしれません。しかし人口が減少していて働き手が少なくなっている日本では今後より一層、無人レジの導入は欠かせないものとなります。厳しい言い方をすればIT操作が苦手な方には慣れてもらうしかありませんし、お店側は慣れてもらうために様々なサポートをする義務があります。
今回紹介したように無人レジにはセキュリティ面で課題が残っています。まだまだセキュリティ対策は万全ではなく、抜け道が多い点も事実です。しかし無人レジの普及が本格化すれば課題の表面化によって新たな解決策が生み出されるのではないかと期待されています。