AIが店舗運営の利便性を高め、新たな顧客体験を創出する未来
店舗運営におけるAIは、身近な存在として次々に導入、活用が始まっています。
世界的な大手フードチェーンは、Googleとの提携により大々的にAIを導入する決定を発表、韓国の百貨店ではAI通訳サービスが外国人客の増加に対応するために登場するなど、店舗のAI活用は世界的な動きとなっています。
国内でも、2024年問題がいよいよ現実のものとなった物流業界でAIの需要予測が重要視され、販売計画支援やワークスケジュール管理システムの導入などが進んでいます。
店舗運営では、AIによる自動値下げの実証実験やPOSデータのAI活用が注目されており、運営、顧客体験の価値創出の両面で、AIが不可欠視されています。
マーケティング分野では、AIによる高精度の売り上げ予測や、ゲームAIでキャラクターを使う人流シミュレーションも登場しました。
本稿では、実際に導入されて成果を挙げている店舗のAI技術を紹介しながら、店舗の課題解決、運営支援としてのAIについてまとめています。
無料メルマガ登録はこちら:ストアデジタルの今をひも解くメルマガをお届け広がる店舗でのAI活用
世界的な大手フードチェーンは今月、Googleと提携して大々的に生成AIを導入するという決定を発表しました。
具体的な活用方法や導入サービスはまだ明らかになっていませんが、利用客の待ち時間が短くなるようなフローを組むために活用したり、質問機能を使って従業員の研修を効率化したり、接客・バックオフィス両面での活用が検討されているようです。
接客面
顧客の言語に合わせた言葉でスムーズな購買体験を提供する、そんな未来はすでに現実のものとなりつつあります。
韓国の百貨店では、外国人の来店者数増加に伴ってAIの通訳サービスが導入されました。
この百貨店の外国人客による売上は2022年〜2023年で約2倍に増加し、今年に入ってもすでに1〜3月の売上が前年比50%以上に達していて、ヘルプデスクでも多様な言語に対応する必要性は増しています。
百貨店が導入したAI通訳サービスは、英語、日本語、中国、スペイン語など13ヶ国語に対応していて、透明なLEDディスプレイに向かって喋ると、韓国語と各国語に各自翻訳される仕組みです。
導入後から3日間で1,000人以上がこのサービスを体験し、好評を博したということで、インバウンド消費が増加している日本に登場する日も近いかもしれません。
バックオフィス〜物流面
2024年問題を抱えながら稼働する物流業界にとって、AIの需要予測は、逼迫を回避するための有効手段となり得ます。
AIを活用した販売計画支援システムや、ワークスケジュール管理システムは、業務の属人化を解消して人手不足に強い仕組みを作るツールですが、物流面にも良い結果をもたらします。
こうしたシステムは、うまく活用することで年間200万人以上の人時を新たに創出できるという予測もあり、現場に合わせた活用が強く求められています。
AIを使ったシステムでは、来店者数の予測に基づいた的確な人員配置や、膨大なデータに基づいた仕入れ予測などが可能です。これらは、小売店において「経験と勘」で運用されてきた面が大きく、属人的であることが問題視されていました。
また、コロナ禍のように大きく社会の様相が変わると、その予測も正確性を欠いてしまうということも課題となっています。
すべての業務をシステマティックに行うことだけが唯一の正解というわけではありませんが、AIの強みである膨大なデータを処理する能力、多くの課題を短時間でこなせるパワーを上手に活用して、人が行うべき部分に最大の力を注げる環境づくりをしていくことが、働き手不足が加速するこれからの社会で求められていくはずです。
購買以外のデータ取得にも期待
国内の百貨店では、AIカメラを導入したことで「買わない客」の可視化に成功した例があります。
百貨店は若者離れが著しいといわれて久しく、もっぱらそれを前提とした施策が展開されてきました。
しかし、ある百貨店でAIカメラを導入したところ、実際に来店する顧客のボリュームゾーンは30〜40代、次に多いのが20代という結果が得られたといいます。
この年齢層の顧客は「百貨店に足を運ぶけれども、買わない顧客」でした。
すなわち、商品を購入した顧客のみをデータとして得ているPOSレジや会員カードのシステムでは透明化してしまう、潜在的な顧客です。
この百貨店では買わない客、つまり通過する顧客をどのようにショッピング体験へつなげるかという視点を持つことで、ボリュームゾーンである若者層の滞在時間を増やし、購入へつなげる施策を打ち出すことができました。
このようなデータ上に出現しにくい顧客を可視化するためには、膨大な人数の年代や性別といったデモグラフィック(人口統計学)の情報を、大量かつ瞬時に判別できるAIカメラが最適なツールといえるでしょう。
データの取得から分析へ
AIが身近になる以前と以後では、データ分析の可能性が大きく変化しています。
AIがこれほどまでに近しい存在でない時、ビッグデータを的確に分析するのは難しい課題の一つでした。
小売業界でも、POSレジや包括的な顧客管理システムでどのように「使える」データを取得するか、そしてそのデータをどのように活用するかについては、様々な変遷を辿ってきました。
ここへきて、ChatGPTの台頭などもあり、AIはより自然で身近な存在になりました。
大量のデータを処理するためにAIを導入するだけでなく、リアルタイムのカメラ映像を瞬時に分析したり、従業員が先輩社員に質問するように自然な形で問いを投げたり、多様な活用の可能性が拓かれています。
マーケティング分野では、より精度の高い売り上げ予測がAIによって可能になり、ゲームを使った人流シミュレーションといったユニークなシステムも登場しています。
店舗運営におけるAIは、廃棄ロスや人的コストといった小売業にとって長年の課題になりつつある問題の解決を支援するツールとなっており、実証実験も含めて多種多様な取り組みがなされています。
マーケテイング
現在のマーケティングは、いかにパーソナライズな購買体験を創出するかという点が出発点になっています。
ある調査によると、消費者の約7割は画一的でないパーソナライズされた対話、接客を企業に望んでいるとされています。
さらに、パーソナライズされた購買経験を経た消費者は、商品を購入する可能性がおよそ2倍高いことも分かっています。
こうした傾向を受けて、マイクロソフトは購買行動全体を包括的にサポートする生成AIと、それに伴うデータソリューションを発表しました。
現在リリースされているのはプレビュー版ですが、小売のあらゆるデータを統合し、AI分析を行うことにより、店舗運営やパーソナライズな購買体験の提供が可能になるとしています。
AIを使って、モールなどの大型店舗にテナントを出店させるかどうかという判断を行うソリューションもあります。
これは、出店候補の店舗について、既存店舗の売上、国内外の商圏データ、商圏人口、競合店舗、家賃などのデータを組み合わせ、出退店の判断を支援する仕組みになっています。
AIを使って膨大なデータを処理し、組み合わせることで、高精度の売上予測が可能になり、出店すべきかを数字で判断することができるようになります。
AIで箱庭を構築し、実際の人流を予測するシステムもあります。ゲームAIと呼ばれるこのシステムは、ゲームの中に記憶や思考をする本物の人間のようなキャラクターが存在し、構築された環境に順応しながら行動するようになっています。
彼らがユニークな展示の前で立ち止まったり、買い物に疲れたら休憩したりと、実際の人間のような行動を取ることで、最適な通路の幅や展示の配置感覚をシミュレーションすることができます。
ゲームAIは、人流をあらかじめシミュレーションすることで、設計にかける時間を短縮することができる上、災害時の避難計画なども立てやすくなることが期待されています。
店舗運営
国内スーパーでは2023年、世界初となるAIを活用した「自動値下げ」の実証実験が行われました。
これは、廃棄ロスの削減と粗利の最大化、店舗の省人化など複数の課題を一挙に解決できる可能性を秘めています。
実証実験は、各商品の売り場にカメラを設置して行われました。カメラに映し出される現在の品物の状況と、過去の販売データ、現在の在庫データなどをAIが組み合わせて検討し、自動で値下げするかどうかを判断するという手法です。
カメラとAIは電子棚札とも連携していて、値下げを行うのに人の手は必要ありません。レジシステムとも連携しているので、値下げ後の会計もスムーズに行われる仕組みになっています。
24時間カメラを稼働させていると、分析にコストが嵩むため時間限定という制限はあるものの、廃棄ロス削減、省人化などで一定の成果が上がっています。
飲食業では、POSレジで収集したデータを十二分に活用するためのAIが注目されています。気象やSNSといったデータをPOSのデータと組み合わせることで、ABC分析や時系列分析がこれまでよりも容易に行えるようなシステムが開発、リリースされています。
これまでのデータ分析は専門的な視点や読み取りが必要でしたが、AIの進化によって自然言語(プログラミングなどで使う言語ではなく、人が生まれながらに使っている言語)での分析が可能になりました。
これにより、データ分析が多くの従業員にとって身近なものとなる可能性が高まり、現場目線でのデータ活用が期待できます。
顧客の購買体験を改善する手段に
顧客はパーソナライズされた購買体験を望む傾向にあります。
パーソナライズされた購買体験は、データの積み重ねと分析によって、より個人個人に深く結びついたものを提供しやすくなるため、新しい体験の価値創出にはAIが不可欠になると予測されます。
AIの活用は、省人化や適切な在庫管理による物流問題の解決、廃棄ロスの削減といった課題といった面でも奏功する可能性を秘めています。
これまで従業員の勘に頼っていた部分、ヒューマンパワーでカバーしていた部分などをAIに置き換えると、店舗運営の未来が見えてくるのではないでしょうか。
AIを活用できるかどうかは、「AIを使う人間」にかかっているといっても過言ではありません。その利便性と可能性は未知数と言えるでしょう。