NFC Pay:実証実験で見えてくる未来のタッチレス決済
電子マネーの国際規格であるNFC Pay。日本では独自規格のFeliCaが一般的に普及しているために使えるところが少ない印象がありますが、海外ではNFC決済が主流です。
そのため、2018年頃から国内でもNFC Payを導入するチェーン店や企業が増え始めました。オリンピック開催イヤーである2020年に完全普及とはいきませんが、今後も大阪万博を次なる目標として、NFC決済を導入する動きが加速していくと考えられています。
NFCの高精度な認証技術を最大限活用すべく、端末をかざすことすらスルーできる「タッチレス対応」の実証実験がおこなわれるなど、技術自体の進化も加速しています。
本記事では、
- NFC Payの概要
- 国内のNFC Payについて
- タッチレス対応の実証実験
- NFC Payが店舗にもたらすメリット
についてまとめています。
目次:
- 国際標準の電子マネーNFC Payとは
- NFC規格一覧
- NFC Payの各種技術と対応クレジットカード
- ドコモ&SONY「おサイフケータイのタッチレス対応」実験
- タッチレスが店舗にもたらすメリット
- 日本におけるNFC Payの大波は2025年に向かう?
国際標準の電子マネーNFC Payとは
NFC Pay(Near Field Communication)は、別名EMV Contactlessともいいます。日本語では「近距離決済」、「非接触決済」などと称される技術で、要するにNFC Pay対応端末なら、タッチせずにかざすだけで決済ができるものをいいます。
これはVISAやMasterCard、アメリカン・エキスプレス、JCBといった国際的企業が提供している規格で、決済情報はクレジットカードおよびデビットカードと紐づけられています。つまり、クレジットカードで支払うのと同じような感覚で使用し、請求もクレジットカードやデビットカードの利用料金と併せて支払うかたちがとられています。
海外の電子マネーは、ほぼこのNFC Pay(TypeA/B)を標準規格として統一されており、欧州、米国、オーストラリアなどは電子マネーとNFC Payがイコールで結ばれています。
NFCができる決済以外のこと
NFCは、「認証」と「データのやり取り」を得意としています。
そのため決済以外にも技術が使われています。
ロゴマークを近づければWiFiに即接続
IDやパスワードの入力が面倒なWiFi接続も、NFCに対応している機器ならロゴマークを近づけるだけで認証され、接続できます。
Android Beamで端末間のデータ移送
Androidスマホ間でデータをやり取りできる「Android Beam」もNFCの技術です。これは、NFCで転送先のデバイスを認証、Blutoothでデータを送信する技術です。
ちなみに、データをやり取りする手法は、iPhoneのAirDropと似ていますが、AirDropはBluetooth LE(低消費電力規格のひとつ)を使って転送先を割り出しWiFiを使ってデータ通信をおこなうので、両者は仕組みが異なっています。
NFC規格一覧
先ほど、海外の電子マネーはNFC Pay(TypeA/B)を標準規格としていると書きましたが、NFCの規格にはいくつか種類があります。
Type Aは、Mifare(マイフェア)ともいい、比較的安価なことも手伝ってもっとも多くの国で国際規格として利用されているものです。日本ではtaspo(タスポ)に利用されています。
Type Bは、国内において免許証や住民基本台帳カードなどに使われている規格です。また、NFCの規格にはISO/IEC 1569もあり、これは物流のICタグに用いられています。
日本の電子マネーはNFCのTypeF「FeliCa」に分類
そしてNFCのTypeFに分類されるのが、SONYの開発したFelicaです。これは日本だけの独自規格で、iPhoneは日本にApple Payを導入するためにFeliCaを組み込みました。
国内でFelicaを採用しているサービスには、
- 楽天Edy
- nanaco
- WAON
などがあります。交通系ICカードにも活用されています。
日本でNFC Payが利用可能な場所は少ない
国内ではFeliCaが一般的な規格として普及しているため、NFC Payが使えるところはまだ少ないのが現状です。
原則、NFC Payのマークを掲示している店舗のみの利用に限られ、チェーン店ではTSUTAYA、IKEA、ゼンショーグループの各店舗、マクドナルドなどでは利用できるようになっています。また、コンビニ系ではローソンがNFC Payに対応しています。
2020年以降には、
- イオングループ
- セブンイレブン
- 三菱地所グループの一部エリアのテナント
などがNFC Payの導入を検討しています。
以前にはオリンピックに伴う訪日外国人客増加を見込んで、インフラ整備を急ぐ動きがみられましたが、諸外国ほどNFC Payを定着させるまでには至りませんでした。
NFC Payの各種技術と対応クレジットカード
国内でNFC Payを利用できるのは、Apple PayやGoogle Payのほか、VISA、Mastercard Contactless、JCB Contactless、American Express Contactlessといった非接触技術に対応しているクレジットカードです。
NFC Payは国内でまだあまり使えるところがありませんが、海外によく行くという人は、登録しておくことでスムーズに会計ができます。
Apple PayとGoogle Pay
Apple PayでNFC Payを利用するためには、アメリカン・エキスプレスやマスターカード、JCBカードなどのNFC Payに対応している種類のクレジットカードを登録しておく必要があります。
Google PlayでNFC Payを利用するには、ジャパンネット銀行、ソニー銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行(埼玉りそな銀行)、関西みらい銀行などを発行するデビットカードの登録が必要になります。
VISA
VISAの非接触技術は、Visa Paywaveという名称が用いられていたこともありました。
- 三井住友カード
- イオンカード
- オリコカード
- 銀行系デビットカード
などの一部カードに付帯しています。
Mastercard Contactless
Mastercard Contactlessは、プリペイドカードなどでも利用されているMastercardの非接触技術です。
コストコ・グローバルカードやオリコカードなどにも、利用可能なカードがあります。なお、JCBのJCB Contactlessも、Mastercardの技術を採用しています。
American Express Contactless
American Express Contactlessは、AMEXの非接触技術で、日本ではAMEXプロパーカードで利用可能です。
ドコモ&SONY「おサイフケータイのタッチレス対応」実験
支払い時にスマホを取り出さなくても、バッグやポケットに入れたまま決済ができたら便利ですね。その実用に向けて、「おサイフケータイのタッチレス対応」実証実験がおこなわれていました。
これは、株式会社NTTドコモ(ドコモ)とソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社(SONY)が、Blutooth、Felica、UWBなどの技術を用いておこなったもので、UWB向けのICチップや関連技術、開発環境の提供は、NXP Semiconductorsが協力しています。
UWB(Ultra Wide Band)は高精度な測距術で、スマホに元から搭載されている無線技術であるBluetoothと共に利用することにより、端末にスマホをかざさなくてもスマホを認識し支払いを実行できるようになります。
レジでスマホを取り出さずに会計する以外に、例えばドライブスルーで車から手を伸ばすことなく支払いが完了するようなシチュエーションも想定されています。
関連情報1:JR東日本がタッチレス改札を開発中
タッチレスに関連するインフォメーションとして挙げられているのが、JR東日本による「タッチレス改札」の開発です。
JR東日本は、2019年11月に、交通系ICカードをかざすことなく通過できる改札を開発中であることを発表しました。
改札の天井からミリ波を照射してカードを認証する案を軸に、チケットレスに向けてさまざまな角度から仕組みを考案中とされています。
実証実験や導入の具体的な日取りは未定ですが、運行やサービスの側面から鉄道を質的に変革する「スマートトレイン」の実現に向けたひとつのプロジェクトとなっており、数年のうちに導入が予想されています。
関連情報2:大阪メトロ2024年度に向けて「顔認証チケットレス」準備
大阪メトロは、2024年度に、全駅で顔認証チケットレス改札を導入することを目標として、改札機の実証実験をおこなっています。
もっとも実験で顔認証改札機を使用できるのは、同社の社員のみ。改札機に設置したカメラで顔を認識し、事前に登録した写真と照らし合わせて改札を開閉する仕組みです。
実験の実施予定は2020年9月までで、動作状況をみながら課題を洗い出し、実用化につなげるとしています。
タッチレスが店舗にもたらすメリット
現金いらず、スマホも端末にタッチせずに会計できる。
これは、一見消費者にとってのみ、便利なソリューションのように感じられるかもしれません。しかし、タッチレス対応は支払いにおける工数の削減、ひいては店舗の運営を省人化する動きにもつながっていきます。
QRコード決済や従来のキャッシュレス決済は、「バーコードで情報を読み取る」、「端末を提示してデバイスをかざしてもらう」という動作が必要です。実際、キャッシュレス決済を導入したはいいものの、決済方法の確認に手間取る、端末操作で混乱が生じる、ポイントカードの処理と併せると却ってレジ対応に時間がかかってしまうという声もきかれます。
つまり、現場レベルでは、キャッシュレス決済の利便性を実感しにくい状況が続いているということです。
さらに2019年10月からは、消費税増税にともなってキャッシュレス決済の関連事業がスタートしているため余計に混乱しているという現場もあるでしょう。
政府は、キャッシュレス決済を推進する理由の一つに、対面販売の省人化を挙げていますが、現段階ではそれを達成しているとはいえません。
しかし、タッチレスが実用化されれば
- 決済方法(QRコードの種別など)の確認
- 端末を提示する/かざす
- バーコードスキャン
といった工程は不要になります。対面販売における一人当たりのプロセスを大幅に省略できるため、省人化に大きく近づけるといえるのではないでしょうか。
日本におけるNFC Payの大波は2025年に向かう?
数年前は、オリンピック開催年である2020年を目標にNFC Pay周辺のインフラ整備が進められると予測されていましたが、間に合いそうにありません。
そこで、NFC Pay普及における次なる目処と予想されているのが、2025年の大阪万博です。
現に、大阪は顔認証のチケットレス改札について実証実験をすでにスタートさせており、都内よりも取り組みが進んでいるようだという声もあります。
今後は、さらに各地域で、各方面のデジタル技術進化と併せて整備が進められていくのではないでしょうか。
まとめ
FeliCaが圧倒的多数派の日本社会において、NFC Payがなかなか普及しにくいのは当然といえるかもしれません。しかし、世界基準の視野をもっていれば、NFC決済に対応する方が、より多くの潜在的な顧客にアプローチする力を手にできるということになります。
オリンピックの次のインバウンド消費における大舞台、大阪万博に向けて、今から対策を講じておくとよいかもしれません。