実用化前夜?2020年要注目の国内無人店舗事情
国内における小売の無人店舗化へ向けての取り組みが加速しています。
コンビニなどに代表される比較的商品単価が小さな商品を扱う小売店では、事業者と消費者、双方に無人化によるメリットが大きく、無人店舗化の実証実験自体は数年前から事あるごとに話題を集めてきました。
特にAmazon Goの登場以降、国内でもレジレス型(ウォークスルー型とも)の店舗実用化に向けた開発で、大手小売企業と大手SIerが手を組み、業界内でしのぎを削っています。
そこで、本稿では2020年要注目の無人店舗事例を紹介していきたいと思います。大部分は未だに実証実験という位置付けですが、カメラやセンサー類の精度向上をはじめ、その他システムやオペレーションの成熟度合いから見て、いずれも“実用化前夜”という様相を呈しています。
目次:
- TOUCH TO GO
- セブン-イレブンの「レジなしデジタル店舗」
- ローソンゴー
- ファミリーマート佐江戸店
- KASUMI LABO
- hotel koé Tokyo
- 「部分的無人化」の導入が増えそうな傾向
- さいごに
TOUCH TO GO
無人決済店舗などの開発を手がける株式会社TOUCH TO GO。同社が2020年3月に開業予定のJR山手線「高輪ゲートウェイ駅」構内にオープンさせる「TOUCH TO GO 1号店」は、今回紹介する事例の中で唯一、実証実験ではなく「実用化」という位置付けであり、今の所無人店舗カテゴリーの中では一歩抜きん出ている印象です。それは、株式会社TOUCH TO GOがいち早く無人店舗の実証実験に取り組み、そこで得られたフィードバックを元に、ブラッシュアップを繰り返してきたからだと言えます。
JR東日本スタートアップと金融向けシステムコンサルティング企業サインポストの合弁会社である同社は、2017年にはJR大宮駅で、2018年にはJR赤羽駅で、それぞれ無人店舗の実証実験を行ってきています。
そして、今回満を辞してオープンする「TOUCH TO GO1号店」は、利用者と商品をカメラとAIで認識し、利用者が商品を手に取ってから決済エリアに立つと、タッチパネルに購入した商品と金額が自動的に表示される仕組みになっています。
赤羽駅で行っていた実証実験では、店舗が狭いこととカメラの認識精度に課題があったために一度に入店する人数に制限を設けていましたが、TOUCH TO GOでは課題をクリアし、人数制限は設けられていません。
現状、決済手段が交通系ICカードのみとなっていますが、今後各種決済手段に対応していく予定となっているようです。
セブン-イレブンの「レジなしデジタル店舗」
セブン-イレブン・ジャパンは、DX推進のパートナーであるNTTデータとともに2019年の10月から「レジなしデジタル店舗」の実証実験を進めています。
実験店舗の場所は、NTTデータが六本木で展開しているデザインスタジオ「AQUAIR」内で、こちらは一般公開はされていないため、実際に買い物を体験することはできません。
仕組みとしては、Amazon Goに近い「ウォークスルー型」で、スマートフォンに専用のアプリをダウンロードした上で、個人のクレジットカードと紐付けたQRコード認証で入店。店内に設置された55台のカメラと重量センサーを通じて顧客と商品の動向を捉えて自動的に決済までを済ませるため、商品を手にとってそのまま退店できます。
こちらの実験店舗では、今の所陳列されているのは菓子類やカップ麺、清涼飲料水などホットスナックや酒類などを除いた加工食品となっており、実験終了予定などはまだアナウンスされていませんが、競合となる他コンビニエンスストアの動向に鑑みても、本格導入までそこまで時間はかからないのではないでしょうか。
ローソンゴー
セブンイレブンがまだ無人店舗の本格導入時期について明確なアナウンスがない中、大手コンビニの一角・ローソンは、レジレス店舗「ローソンゴー 」の2020年内での出店を検討している、と発表しました。
同社は現在、横浜市の「ローソン氷取沢町店」にて、深夜時間帯のみ店舗を無人化する実験を行っています(正確には、バックヤードに最低1名のスタッフが常駐はしています)。
こちらの実験店舗では、深夜0時になると通常営業を終了し、入り口の自動ドアがロックされます。深夜以降の利用客は「事前にローソンアプリに登録した入店用のQRコード」「近隣に配布された入店カード」「入店管理機器で撮影した顔写真」のいずれかで入店する仕組みになっています。
決済方法は「ローソンスマホレジ」でのキャッシュレス決済か、現金が利用可能なセルフレジでの決済という2種類が採用されています。
無人運営中は、酒類やタバコなど年齢確認が必要な商品、ホットスナック、インフラ料金の収納代行などの販売・サービスは停止されます。
実証実験の内容だけを見ると、2020年の導入を目指す「ローソンゴー」は 競合社が展開しているような、カメラとセンサーによる顧客の動向認識およびウォークスルー型といった形にはなりそうもありませんが、実際はどうなるのか気になるところです。
もしかしたら、全国のフランチャイズへ展開するにあたり導入コストのかからない形を模索している、という見方ができるのかもしれません。
ファミリーマート佐江戸店
もう一つの大手コンビニ、ファミリーマートは、パナソニックグループをパートナーに迎えて無人店舗実現への取り組みを進めています。その一環として、2019年4月にオープンしたのが、横浜市都筑区内にあるパナソニック佐江戸事業場に店舗を構える「ファミリーマート佐江戸店」。こちらも位置付けとしては実証実験店となっています。
同店舗では、現時点で「顔認証決済/物体検知」「業務アシストシステム」「IoTデータマーケティング」「店内POP・電子棚札」「モバイルオーダー」「対面ホンヤク」「イートイン・空間演出」といった7つのソリューションを導入しており、特に顔認証決済/物体検知に関してはパナソニックの得意領域として、今後に期待がかかっています。
この実験は、上記ソリューションの内容からも分かるように、単なる店舗の無人化のみならず、消費者、従業員どちらにとっても快適な店舗となるように、店舗運営の全方位でデジタル技術を取り込んでいることが特徴となっています。
特に、モバイルオーダー対応や「対面ホンヤク」による多言語対応などは、現状他店には見られない取り組みで、総合的にコンビニエンスストアの価値を高めようとしている姿勢が感じられます。
株式会社ファミリーマートの澤田代表取締役社長は「できるものはすぐにでも導入したい」と語っており、今後さらに開発~導入のスピード感は増すのではないでしょうか。
KASUMI LABO
コンビニ以外の事例も、少しだけ挙げておきます。
茨城県つくば市のスーパーマーケット、カスミなどイオン系スーパー3社の持ち株会社、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)は、2019年10月、カスミ本社内に無人の実験店舗「KASUMI LABO」をオープンさせました。
買い物の仕組みとしては、やはりまずスマートフォンに専用のアプリをダウンロード、クレジットカード情報の登録という流れから始まります。そして、スマホのカメラで購入商品のバーコードを読み取り、アプリ上で購入金額を合算していきます。最終的に会計画面に進んで購入を確定させると、決済後に表示されるQRコードを店内のリーダーにかざすことで買い物を終了させます。
最後のQRコードをリーダーにかざさないと、セキュリティとしてアプリがロックされ、次回の買い物ができなくなるようです。店内のカートには、スマートフォンを固定できるホルダーもついており、商品がスキャンしやすくなるよう配慮されています。
もともとカスミは、「カスミ筑波大学店」でいち早く完全キャッシュレスを導入するなど、リテールテックへの一早い投資で競合との差別化を図ってきており、無人店舗の実用化に対するスピード感も高いと考えられます。
hotel koé Tokyo
最後に、コンビニ・スーパーとは全く違う業種からの事例をご紹介します。
アパレル事業を手がける株式会社ストライプインターナショナルが渋谷で展開している「hotel koé Tokyo」は、同社のライフスタイルブランド「koé」のグローバルフラッグシップショップとなっています。
ここはホテルでありながら2階にアパレルショップが併設されており、日中は通常の店舗として運営されています。しかし、夜間21時~23時の時間帯は店舗スタッフがおらず、利用客が自らスマートレジでキャッシュレス決済を行う無人店舗に切り替わるのです。
施設全体がユニークな存在として注目を浴びるkoéですが、この事例は、コンビニやスーパー以外での買い物のスタイル、ひいては利用者のライフスタイルを変えていく可能性を秘めていると言えるのではないでしょうか。
「部分的無人化」の導入が増えそうな傾向
ここまでいくつかの無人店舗事例を見てきましたが、傾向として、多くのケースで「完全無人化」を目指している訳ではない、ということが言えると思います。
これには、コスト面やサービス面など、いくつかの理由があるでしょう。
まず、コスト面から言えば、大手のコンビニエンスストアのように全国規模でフランチャイズ店を展開している場合、それら全ての店舗に数百台のカメラやセンサーを設置することが今はまだ現実的ではない、という側面が大きいと思います。
サービス面においては、コンビニエンスストアの価値は、実はホットスナックや納入代行、ECで購入した商品のピックアップポイントなど、レジ周りが作っている(=現状は有人である必要性がある)ことからも、完全無人化はかえってその価値を下げてしまう可能性もあります。
したがって、それらを総合して考えると、ローソンの実験店舗のように、深夜の時間帯だけ「売り場の無人化」をするなど、時間的、システム的に「部分的な無人化」を、コストを抑えて推進する、という現実路線での実用化を進めるケースが多いのではないでしょうか。
特にコンビニエンスストアは従業員の労働環境問題が近年取り沙汰されていることもあり、各社実用化へのスピードを上げている感があり、2020年の間に導入されるケースが複数ありそうです。
さいごに
完全無人化にせよ、部分的無人化にせよ、確実に言えるのは、企業側の事情や都合だけで店舗の仕組みを考えない方がいい、ということです。
利用客にとって購買体験の質が上がること、そして、従業員の業務負担が軽減されること、それらが重なるポイントが何であるのか。それを考慮しながらDXを推進することが大切なのではないでしょうか。