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「地球上にほぼ無尽蔵」な資源活用で世界を救う「TBM」〜CEO Japan Summit 2019レポート〜

2019年5月15日・16日にホテル椿山荘東京で開催された「CEO Japan Summit 2019」。このイベントは、各業界で注目される企業の経営者が登壇し、経営課題に対する向き合い方、課題解決の方法など、実体験に基づいた貴重な話を聞かせてくれるセミナーとなっています。

今回、同イベントの中から、今、世界中から注目されている新素材開発ベンチャー、「株式会社TBM」の代表取締役CEO、山﨑敦義さんの講演をレポートします。

山﨑さんは、中学卒業後すぐに社会人となり、20歳で起業家となった異色の経歴を持っています。

そんな山﨑さんが「命がけ」で事業化を実現した新素材LIMEXとは?その開発プロセスで山﨑さんを待ち受けていた数々の困難をどう乗り越えてきたのか?非常に興味深いお話を聞くことができました。

また、講演のレポートに加えて、この新素材が店舗経営にどのような効果をもたらすかについても追加でお話を伺いましたので、そちらも併せてお届けします。

目次:

講演者プロフィール:
山﨑敦義(やまさき のぶよし)
1973年大阪市岸和田生まれ。岸和田市立久米田中学校卒業後、大工になる。20歳で中古車販売業を起業、複数の事業を起ち上げる。2008年、台湾製のストーンペーパーの輸入を開始。その後、ストーンペーパーの製品的課題と向き合う中で、自社での開発・製造を決意。2011年株式会社TBM設立。ストーンペーパーとは全く異なる製造法を確立し、新素材LIMEXの開発に成功。

講演レポート:グローバルで挑戦するこれからのベンチャー企業

株式会社TBMは、石灰石を原料としたLIMEXという新素材を開発しているスタートアップです。会社名TBMは、「Times Bridge Management」の頭文字を取ったもので「次の時代に橋を架ける」という想いが込められており、ソーシャルイノベーターとして、SDGsやサーキュラーエコノミーへの貢献を目指し、日本だけでなく、アメリカ、中国、欧州、サウジアラビアなど国内外でLIMEXの持続可能な循環モデルの構築を目指しています。

TBMの大きな特徴は、日本が高度成長期にものづくりで世界と戦っていた時期に第一線で活躍したたくさんのシニア世代が働いているということです。例えば、同社会長の角(すみ)祐一郎氏は、現在90歳ですが、「いまだに技術開発で先頭に立ち、毎朝電車通勤しながら、若いメンバーを叱咤激励しています」。

事業には、研究開発のために大きな先行投資が必要になるのですが、経産省の補助金やNEDOからの助成金の他、資金調達額は100億円を超え、昨年(2018年)、日経新聞の「NEXTユニコーン調査、研究・開発部門の推計企業価値ランキング」において1位にランキングされています。

革新的な新素材「LIMEX」とは

TBMが開発したLIMEXは、石灰石を主原料にしています。石灰石は、資源がほとんどないと言われているこの日本においても、唯一100%自給できる鉱物資源です。そして、石灰石は、世界中にほぼ無尽蔵と言っていいぐらい、豊富に存在しており、なおかつ安価です。

この石灰石を使うことで、貴重な木や水を使わずに紙の代替素材を作ったり、石油の使用量を大幅に削減してプラスチック代替素材を作ることが可能です。つまり、石灰石を主原料にすることで、資源の枯渇問題や、世界が求めるサステナブルな社会づくりに大きく貢献できるのです。

「紙代替」としてのLIMEX

まず最初に、紙代替としてのLIMEXの特徴を説明します。

普段我々が何気なく使っている紙ですが、1トンの紙を作るのにだいたい20本の木を必要とします。また、日本は水資源が比較的豊富な国なのであまり問題視されないのですが、1トンの紙を作るのに85トンぐらいの水が必要です。

一方でLIMEXの場合、これらの木や水を使わずに、安価で豊富な石灰石で紙代替を作ることができます。

現在、水不足の問題は本当に深刻で、ダボス会議でも今後10年で起こり得るグローバルリスクの中で、直近5年間、常にトップ5にランキングされていますし、2050年には世界中の40%の人が水ストレスの生活に陥ると言われています。

そんな中、LIMEXを水資源の乏しい国で生産していただくことには非常に大きな意味がある貴重な取り組みと言えるでしょう。

「LIMEX名刺」を水不足問題解決のキッカケに

TBMは、まず最初にLIMEXを使った名刺を製品化することから、水問題へのアプローチをはじめました。

1トンの紙を作るのに85トンの水を使用するということから逆算すると、1箱分の名刺100枚を作るのに10リットルの水を使用することになります。

LIMEX名刺には「石から生まれたLIMEXの名刺100枚で約10lの水を守る」というメッセージが印刷されており、日本国内では現在3,400社以上の企業がこの名刺を配ることで、LIMEXの認知を広めるとともに環境意識を高めることにも貢献していると言えます。

このコンセプトが非常に有意義ということで、LIMEX名刺はグッドデザイン特別賞「ものづくり」を受賞、海外でも、ドイツで行われるレッドドットデザインアワードでも受賞しています。

全国に広がりつつあるLIMEXの紙代替

LIMEXの紙代替は、吉野家や、スシロー、いきなり!ステーキなど、全国チェーンの飲食店のメニュー表にLIMEXが採用されています。

これまでのメニュー表は、印刷した後にプラスチックでラミネートするのが一般的でしたが、LIMEXは耐久性・耐水性に優れているためラミネートせず使用でき、手間もコストも削減できます。

それ以外にも、電車の中吊り広告や、東京マラソンのマップに使われたりと、LIMEXの用途が次第に広がってきているのです。

「プラスチック代替」としてのLIMEX

現在、私たちが使うプラスチックは100%石油由来です。これを、LIMEXで代替することで圧倒的なエコノミーとエコロジーを両立することが可能となります。

「エコノミー」に関して言えば、例えばプラスチックの原料になるポリエチレンやポリプロピエレンに対して、石灰石は世界中にほぼ無尽蔵にあるため、非常に安価です。

プラスチック代替の用途としては、昨年食品衛生法の基準をクリアして、LIMEXの食品容器が使われはじめています。その他では、いわゆるレジ袋やゴミ袋を、「LIMEX Bag」として今年の4月にローンチし、早速全国チェーンのアパレル企業などに採用されています。

この、プラスチックバッグをLIMEXに置き換えるという動きを世界中に広げて行こうと、TBMは現在、様々なパートナーと共に取組みを進めているとのこと。さらに、バイオワークスという企業と手を組んで、100%石油フリーとなるLIMEXの開発も進めているそうです。

画像提供:株式会社TBM様

ヨーロッパの街並みが、LIMEXを産んだ?

山﨑さんは大阪の岸和田で生まれ育ち、中学を卒業してすぐに大工になりました。その後、これから先の可能性に対して大きな挑戦をしたいという想いから、20歳で中古自動車販売会社を起業したのが、起業家としてのデビューでした。

起業して10年経ち、生まれてはじめてヨーロッパ旅行に行ったことが、山﨑さんにとって転機となったのです。

「私はそれまで、こんなに重厚な歴史がある街並みを見たことがありませんでした。何百年もかけて作った建物が当たり前のようにそこら中にあり、何百年も持続する街がある。それを目の当たりにした時に、この街の歴史と同じように100年後も残って、人類に貢献できる、『兆』がつく事業を成し遂げると決意したのです」

山﨑さんが30歳の時でした。

LIMEXの原型、「ストーンペーパー」との出会い

それから数年後の2008年、山﨑さんは今の事業のルーツとなる台湾製の「ストーンペーパー」と呼ばれるものと出会いました。それは、LIMEXと同様、木や水を使わずに、石灰石で作った紙でした。

「ちょうど社会現象としてエコが注目されていた時期でもあったため、これは面白いと思って調べると、まだ日本での輸入元が確立されていなかったので、私が台湾に渡って交渉し、ストーンペーパーの輸入商社をスタートしたのです」

日本でストーンペーパーの普及活動を行うと、期待はされるものの、なかなか売れませんでした。これは理由が明確で、ストーンペーパーはとにかく重くて価格も高く、さらに品質が不安定だったからです。

そこで、山﨑さんは品質改良の話をしに毎月のように台湾に渡りました。台湾の企業も、最初のうちは「こういう話がありがたいのだ」と言って喜んでいたものの、途中からは会ってくれすらしないという状態。

品質改善をしたいのに解決策が見つからず、途方にくれている時に山﨑さんが出会ったのが、現在の会長、元日本製紙専務の角祐一郎氏だったのです。「紙の神様」ということで知り合いから紹介してもらった角氏は、その時すでに81歳でしたが、「日本の技術を台湾に提供することができれば、ストーンペーパーの品質は間違いなく改善できる」とアドバイス。そこで、山﨑は台湾側に角を技術顧問にしてくれと頼んだのですが、取り合ってはもらえなかったそうです。

大きな赤字も続く中、どうしたものかという時に、台湾企業の特許状況を調べると、もう10年間も新しい特許が出ていなかったそうです。

「それを見て、もうこれ以上彼らとやっても無駄だなと思いました」

すると角氏から「技術を結集すれば自分たちで比重の軽い、ストーンペーパー以上のものを作れる」という言葉をかけられ山﨑さんは覚悟を決めます。

「僕は絶対あきらめないから、角さん、最後までお付き合いください」と角氏に懇願し、そこから二人三脚でLIMEXの開発が始まったのです。2010年半ば頃のことでした。

ベンチャー界の「ゴッドファーザー」との出会い

角氏の努力の甲斐あって、遂に紙と同じ比重のサンプルを生み出すことに成功した山﨑さんですが、当時はリーマンショックの影響もあり、ベンチャーに資金が集まりにくいタイミングでした。

「特に、私たちのようにサービスローンチまでに何十億もかかる起業に投資するVCや投資家は日本にいない方がいいと言われて驚いたものです」

このような事業は海外の方が需要があるので、水資源が乏しい国で、投資資金が潤沢にある中近東やシンガポールなどに投資を募りに行った方が良いというアドバイスを受けた山﨑さんは、伝手をたどってバーレーンやアブダビ、ドバイ、シンガポールといろんな国を回りました。それでもやはり、期待はされるもののゼロを1にする資金はなかなか出してもらえませんでした。

その時に出会ったのが山﨑さんのもう一人の恩人、野田一夫氏でした。野田氏は、ソフトバンクの孫さんが師匠と崇め、日本ベンチャー界ではゴッドファーザーと呼ばれているような方です。

ある日、山﨑さんが事業の話をしたところ、野田氏はその話に食いつきました。これは絶対にこの日本発でやらなくてはダメだということで、その後山﨑さんは野田先生の事務所に頻繁に通うようになりました。そこでアドバイスを受けたり、様々な企業を紹介されたり、経済産業省に話をする機会を作ってもらったりしたそうです。

「ただ、日々の資金繰りが苦しくて枯渇状態になっているということは、流石に伝えていなかったんですよ。そんな中で野田先生に、『皆さん、なかなかリスクが高いと言って資金を出してくれないんですよね』ということを少し話すと、すごく笑われまして。『確かにそうだ』と。『日本人はリスクという言葉を、ネガティブな意味で使う。しかし、リスクの語源はリジケアと言って、これは勇気を持って試みるという意味なんだ。だから本来ポジティブな意味でリスクをいう言葉を使わなくてはいけないのだ』と。『だから、君の事業に対して勇気を持って試みてくれる人に出会った時に、その話を魂を込めてすればいい』という、ありがたいお言葉をいただき、それを支えに資金調達に動き続けたのです」

起死回生の「イノベーション促進事業補助金制度」

とは言え、なかなか資金が集まらなかった中、起死回生となったのが、経済産業省が当時新設した補助金制度、「イノベーション促進事業補助金」です。
これは、TBMのように新しい事業にトライする時に、設備資金の最大2/3まで補助しましょうという制度。当時のTBMは設備費として14億円を必要としていたので、山﨑さんは最大の9億円補助してもらえるように申請しました。

「仮に満額じゃなくても、少しの金額でも補助金が出れば、政府からのお墨付きをいただいたのと同じなので、それをエビデンスに再度調達に回ろうと考えていたんですね。それが、申請額満額で採択されたのです」

2013年2月6日のことでした。

しかし、補助金が採択されてからが本当の勝負でした。採択されてから3ヶ月で、それまでの未払いを綺麗にし、そこから資金計画を立て、交付決定通知をもらいます。

補助金というのは年度内の予算なので、年度内に設備を導入して試運転まで終わらせないといけないため、ギリギリのタイミングで設備を発注して、補助金が振り込まれるまでの建て替え資金を集めるために、山﨑さんはありとあらゆる手を尽くしたそうです。

「そこから1年経って、2015年2月に遂に工場が竣工し、地元の子たちが作業服を着て、ここから世界に新素材を出していくんだという思いを持って、やっている姿を見て、本当に命がけで戦って来てよかったなと思いました」

経済産業省の働きで、その年に行われたミラノ万博で、初めてLIMEXの印刷物がデビューしました。

「日本で初めて印刷できたLIMEXを、僕が十数年前に起業への決意を新たにしたヨーロッパで、みなさんが手に取ってくれている姿というのは感慨深いものがありましたし、頑張って来てよかったなと。工場ができて、最初の製品ができてよかったと心の底から思いました」

LIMEXの見据える未来

「そこから先は本当に景色が変わりました」

と山﨑さんが語る通り、その後は日本を代表するような企業や銀行から出資を受け、資本業務提携を結んで事業に挑戦し、海外からも、500を超える問い合わせが舞い込むようになりました。

そんな山﨑さんは、さらなる展開を生み出そうとしています。それが、「LIMEXのアップサイクル」です。

「具体的には、お使いいただいたLIMEXの印刷物を回収して、それを成形して、プラスチック代替品としてお使いいただいたり。例えば福井県鯖江市では、そこに漆を塗って、日本の伝統工芸×新素材というコンセプトで、アップサイクルした製品化を図るといった取り組みを行なっています」

さらに、TBMは2019年5月に環境先進都市を目指す神奈川県とともに「かながわアップサイクルコンソーシアム」を発足し、LIMEXのアップサイクル実証事業を展開することを発表しました。

「神奈川県は人口と経済規模を考えても、ヨーロッパの一国ぐらいの規模があると。神奈川県でこの柔軟型のモデルが成立すると、世界中でこれができるのだということの実証も可能というわけです」

バーゼル条約の改正(※)でプラスチックゴミの問題がますます取り沙汰される中、山﨑さんがチャレンジするLIMEXのアップサイクル事業は、昨年12月にポーランドで行われた「COP24」でも脚光を浴び、世界からも注目されています。

※有害廃棄物の国際的な移動を規制するバーゼル条約の締約国会議は10日、世界中の海を汚染しているプラスチックごみを規制対象に加える改正案を採択した。(2019年5月10日 ジュネーブ ロイターより)

今後もプラスチックの製造自体が規制されていく潮流の社会情勢の中、TBMは、世界中の既存施設で、大きな先行投資をせずともLIMEXを製造できる仕組みづくりにも精を出しています。

「今は圧倒的なスピードでLIMEXを世界中で作ることが可能になってきています。スマホが世界中に一気に広まったように、LIMEXが世界中に浸透させることをとにかくやっていこうと考えています」

と語る山﨑さんは、サステナビリティという考え方がすごく日本人に向いていると言います。それは、日本人がSDGsに欠かせない「正確さ、おもてなし精神、仕組みづくりの巧さ」の三つの素質を生来兼ね備えているから。

「私たちはLIMEXを世界中に広めていく中で、このサステナビリティ革命のトッププレイヤーになるのだという気概でチーム一丸となって挑戦していきます——」

100年後、世界を救っているかもしれない山﨑さんの挑戦はまだ始まったばかりです。

画像提供:株式会社TBM様

講演後の追加質問:店舗におけるLIMEXの導入メリット

山﨑さんの講演後、「店舗のミライ」として、LIMEXの導入によって得られる店舗のメリットなどについて追加で質問をしました。

——現在、LIMEXの導入事例はどのぐらいあるのでしょうか?また、目標としている導入店舗数やロードマップがあれば教えてください。

山﨑さん(以下敬称略):現時点では、先ほどお話した吉野家さんやスシローさんの他にも、4000社以上の企業様にLIMEX製品を導入いただいています。現在開発している用途に止まらず、新たな市場への参入を目指した開発を進めるだけでなく、海外での普及も目指していきます。すでにグローバル展開に向けて日米欧中を含めて世界30ヵ国以上で特許を登録済みです。

——LIMEX製品を小売店舗が活用することによるブランドへの効果にはどのようなものが考えられますか?

山﨑:小売店でのBtoC向け製品の導入が増えることで、一般消費者のライフスタイルの中にLIMEXのブランド認知・浸透が進んでいくと考えています。また、それを通じて、これまでの「ゴミは捨てるもの」という常識から「ゴミは再利用・再資源化可能なもの」へと一般消費者の意識改革も、導入企業様からのメッセージとして行うことができると考えています。

SDGsの観点で言えば、LIMEXを導入していただいている企業様は、目標12「つくる責任 つかう責任」を中心に、目標6「安全な水とトイレをみんなに」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさを守ろう」への貢献が可能です。

——LIMEX製品は、店舗でのオペレーションに対してどのような効果を与えることができるでしょうか?

山﨑:LIMEXは新素材ですが、従来の店舗オペレーションに大きな負荷をかけることなくスムーズにお使いいただけます。例えば、LIMEX製品は寿命が長く、交換頻度も抑えることができ、店舗オペレーションの負荷低減にも貢献できると思います。

——ありがとうございました。

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