DXで店舗が目指すべきものとは?効率的な進め方もご紹介
DXが叫ばれる昨今、リアル店舗もITによる進化が求められています。
小売店ではコロナ禍によりECに注力する企業が増えましたが、DX=ECとは限りません。むしろDXはリアル店舗の価値を高めるものでもあり、店舗運営をする企業にとって、店舗ありきの進化が必要です。
この記事ではリアル店舗のDXに課題を持つ小売店に向けて、店舗DXの目指すべき方向やDXが顧客にもたらすメリット、デジタル化効率的に進めるポイントを解説します。
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DXは企業が一丸となって取り組む施策であり、部分的な改修で完結するものではありません。だからこそ店舗運営において、DXの方向性に悩む企業は多いのではないでしょうか。
まずは、小売店舗がDXを行う意義について解説します。
小売企業が行うDXの意義
小売企業が店舗DXを行う意義は、以下の3つが挙げられます。
- リアル店舗でのリピーター確保
- 労働生産性の向上
- 新たな価値創出による生き残り
人口が減少している現代では、新規顧客の獲得がどんどん難しくなります。そこで店舗のDXを武器に、リピーターを獲得する施策が必要なのです。
店舗のDXでリピーターの獲得が必要である理由は、顧客の消費行動の変化にあります。
オンラインとオフラインが融合するOMOによって、消費者は店舗とECを自分に合わせて使い分ける消費行動が当たり前となりました。その使い分けの1つに、“初めて購入するブランドはまず店舗で実物を確かめ、気に入れば2回目以降はECで購入する”という行動があります。
つまり初回購入でリアル店舗を訪れた時、その顧客体験(CX)が今後の購入を左右するということです。DXにより顧客体験を高める施策ができれば、顧客はECでも買い物を続け優良なリピーターとなってくれるでしょう。
また店舗運営では労働生産性の向上も重要です。労働生産性は粗利を総労働投入量で割ることで算出されるため、DXでいかに総労働投入量を削減できるかも課題となります。
上記のような点は、キャッシュレス決済やテーブルトップオーダーの導入といったデジタルシフトで取り組んでいる企業も多いのではないでしょうか。しかし、デジタルシフトを進めるだけではDXとして成功とはいえません。
もちろん、キャッシュレス決済やテーブルトップオーダーといったデジタルシフトも必要です。しかし、DXでは“いかに新しい価値を創出できるか”が課題となります。ITで業務を効率化するだけで顧客にメリットがなければ、顧客体験を高めることはできません。
顧客体験のデジタルシフトと新たな価値の提供
人による接客を受けられる店舗といつでも使えて便利なECサイト、まずはこの2つをDXによって融合して、顧客体験をデジタルシフトさせることが重要です。
アフターコロナでは、リアル店舗に回帰する顧客も増えるでしょう。しかし店舗に対するニーズはコロナ禍以前と同じではありません。ECサイトの利便性に慣れた“デジタル消費者”となった顧客に対応するべく、店舗も新しい顧客体験の提供が必要となるのです。
一例として、日本の店舗DXのトレンドでは以下のような事例が挙げられます。
・バーチャル店舗
オンライン上で店舗を作り、リアル店舗に近い店舗体験を提供する。インテリアや家具を扱う業界で積極的に導入される。
・オンライン接客
実際の販売員がオンライン上で接客を行う。ビデオ通話やチャット、メールでリアルタイムにやりとりすることで、顧客はリアル店舗に近い接客を受けられる。
・店舗内行動計測
来店数や滞在時間、時間別の混雑具合、店舗内の行動などをデータ化して、ECと同様に顧客行動を数値化し、店舗オペレーションの改善やマーケティングに活用する。
・体験型ショップ
商品の販売ではなく、体験にフォーカスして店舗を運営する。タブレット端末とセットで商品を陳列し、顧客は端末で詳細情報を確認する。来店者の行動データは細かく計測し、その後のビジネスに活用される。
しかし上記のようなDXの前に、まずはオムニチャネルの推進が必要です。オムニチャネルによってチャネル間のシステムを統合させ、在庫システムや顧客情報を一元化します。一元化してオフラインとオンラインを融合できれば、サービス全体の融合も進めやすくなり、それだけ高い顧客体験を生み出すことにつながります。
店舗DXがユーザーにもたらすメリット
店舗のDXでは、ユーザーに以下のようなメリットが期待できます。
- LTVの向上
- コストダウンだけではない価値の提供
- 新しい接点の提供
順番に解説します。
ワークマンは自社の強みを捉えなおして顧客のLTV向上
DX推進で顧客LTV向上を向上させた、ワークマンの事例です。
作業服を中心に現場作業や工場作業向け用品を展開するワークマンは、2020年2月に大手ECモール楽天市場を閉店しました。そして、ECで購入(Click)してリアル店舗で受け取る(Collect)「C&C」をコンセプトに戦略を練り直し、顧客のLTV向上に成功したのです。
大手ECモールは集客力が高いといったメリットがある反面、返品作業やサイズのマッチングに課題があります。「AIGES」(イージス)などの大ヒット商品を持つワークマンは、熱心でLTVの高い顧客を大切にするべく、ECモールを卒業して冒頭のC&Cに踏み切りました。ECの受注情報と全店舗の仕入れ販売管理情報を連携させることで実現するC&Cは、DX施策の1つとなります。
AIGESとはワークマンが販売する防水ウェアです。高機能かつ低価格なAIGESは、一般消費者がSNSで絶賛したことを機に、ワークマンを作業服メーカーから“コスパの良いアパレルメーカー”と進化させます。毎年デザインが変わるAIGESは熱心なファンが多いことでも知られており、発売されるたびにインターネット上で特集されています。
EC化に向けて多くの企業が利用するECモールは、メリットも多い反面前述のように返品作業が煩雑といったデメリットもあります。そのためアメリカでも大手ECモールAmazonを卒業する小売業が増えており、自社のECとリアル店舗を融合させるBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)へと方向転換を始めているケースも少なくありません。
ワークマンはECモールを卒業してDXで販売の仕組みを進化させながら、自社の顧客提供価値を最大化することに成功しています。
コストダウンとは別の視点で価値提供
DXでは業務効率化・在庫管理などコストダウンを重視しがちです。しかし顧客にとってのメリットを考えると、コストダウンとは別の価値を提供しなければいけません。
例えばデジタルシフトの一環で、飲食店ではテーブルトップオーダーを導入する企業が増えました。そこで人気ハンバーグ店「びっくりドンキー」を運営するアレフは、店舗DXを拡張した「ディッシャーズ」にて、テーブルトップオーダーで新たな顧客のメリットを提供しています。
ディッシャーズのテーブルトップオーダーでは、端末からメニューのカスタマイズができるという新しい価値を生み出したのです。
カスタマイズによって、顧客はカロリーや値段の調整ができます。端末を使い自分のペースでシミュレーションできるこの手法はSNSを中心に評判を呼び、来店のきっかけとなっています。
端末で表示されるイメージ図はそのままキッチンに転送されるため、スタッフはカスタマイズ内容を暗記する必要がありません。また顧客もイメージ図があるため、カスタマイズした商品が「イメージと違う」と落胆するリスクもカバーできます。スタッフと顧客双方にメリットが生まれ、新しい価値の創出に成功しています。
単にデジタル化を進めるだけでは、店舗の価値が下がる結果にもつながりかねません。DXの推進は急務ですが、その前に自社が提供するべき価値を見直すことも重要です。アレフのような+αの価値を見出し、さらに利益やメリットにつなげるアイデアも必要となります。
新たな顧客接点の提供
小売業では、ECよりリアル店舗に強みを持つ企業が大多数です。DXの推進ではリアル店舗をベースとして、店舗における顧客体験の最大化を目指す取り組みが必要となります。
コロナ禍によって店舗の在り方は大きく変わりましたが、以前からDXを進めていた小売店では、コロナ禍によって大きな方向転換が迫られたわけでありません。もちろん非接触や検温など部分的な対応はありますが、ネットはあくまでも“リアル店舗の補完”と考える店舗が多いのです。
例えばコーヒーショップとして圧倒的な支持を得ているスターバックスコーヒーでは、DXの一環としてアプリで事前注文や決済ができる「モバイルオーダー&ペイ」を推進しました。アプリ決済でレジ対応業務が効率化しましたが、効率化して短縮した時間は顧客とのコミュニケーションに充てることで顧客体験の向上を狙っています。デジタルでブランドの体験を完結できると考えず、店舗での体験を最大化させるための“手段の1つ”としてデジタルを導入しているのです。
リアル店舗の最大の魅力である接客をどう提供するのか、DXではこの点も大きなポイントとなります。
効率的なDXの進め方
チャネルの統一や新しい価値の創出など、DXは企業にとって大変大きな取り組みとなります。そのために「なにから始めればいいかわからない」「どう取り組めばいいかわからない」と悩む企業も少なくありません。
DXを効率的に進めるためには、以下の方法がおすすめです。
- システムの一元化から進める
- すでにオンラインで提供している体験を店舗に導入する
- 外部パートナーと組む
売上集計や在庫管理、発注システムが統合されていないなら、まずはそれらを一元化することがDXの第一歩となります。急速にデジタル化を進めた結果、各システムがバラバラに運用されている企業も少なくありません。例えばPOSシステムを店舗運用プラットフォームとして導入できれば、在庫管理や売上集計なども1つのシステムで行えるので、業務の効率化とDXに直結します。
タブレットの全店導入やデジタルサイネージでの商品提案・購入など、DXは大規模な取り組みをイメージしがちです。難しく考えてしまいますが、すでにオンラインで提供できている体験を店舗に導入するという方法が近道となります。“店舗 with オンライン”としてDXを導入できる部分から始めることで、ハードルを下げられるのです。
DXは新しい取り組みですが、国内でもすでにノウハウを持った企業があります。DXに難航する企業は、DXに明るい外部パートナーと組む方法もおすすめです。デジタル文化の知見が少ない企業にとって、外部パートナーは大きな戦力となってくれるでしょう。
DXで成果を上げる店舗は増えています。時代に見合った新しい価値を生み出し、コロナに負けない店舗づくりを進めていきましょう。