ID-POSデータで新しいニーズを見える化:次世代への活用最前線
ID-POSは、POS(Point Of Sales:販売時点情報管理)に顧客IDをつけたものです。
ID-POSは「誰が何をどのように買ったか」を把握できるため、POSのみよりも格段に多くの情報を取得、活用できます。
これまでにも何度かID-POSの有用性を紹介してきました。
近年、またその価値が再認識されていますので、改めてご紹介します。
本稿では、ID-POSで得られるデータを、小売の現場へどのように活用すべきかについて考えています。
多様化するID-POSデータの活用事例を紹介し、売上につながる施策とそのためのデータ活用について解説します。
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POSで得られるのは、What(どの商品が)、When(いつ)、How many(どれだけ)、How much(いくらで)売れたかという2W2Hでした。
POSの歴史は古く、1978年米国で登場して以降、世界中に広がり日本でもJANコードを活用したPOSレジが急速に普及していきました。
ここにIDを紐づけて、3W2HすなわちWho(誰が)どの商品をいつ、どれだけいくらで買ったという情報が取得できるようにしたのがID-POSです。
IDとは具体的にはポイントカード番号や、顧客No.などが該当します。
ポイントカードに登録されている情報と購入した商品を照らし合わせることで、「20代の女性はどのような商品を一緒に購入することが多いか」、「50代の男性がもっともよく購入するものは何か」といった属性ごとの動向をデータ化することができます。
今改めてこのID-POSが注目されている背景には、アプリやポイントカードのデジタル化があります。
これまで顧客の情報は、顧客台帳などの紙ベースで管理されてきました。
しかし、デジタルに移行したことで情報の見える化が達成され、情報の管理、紐付けが容易になったのです。
ID-POSデータの重要性
ID-POSデータの多くはポイントカード、ショップのアプリ、キャッシュレス決済のアプリから収集され、CRM(顧客管理)を促進するための好材料となります。
近年、止まらない物価高や情報過多社会によって、消費行動はただモノを購入するのではなく「体験ありき」の行動になりつつあります。
良い商品、良いサービスを提供するだけでなく、その提供方法や環境を整えなければ顧客はついてきません。
「良い購買体験」とは何かを追求すると、顧客を軸としたマーケティングに到達します。
顧客の行動を属性や購買歴(ロイヤルカスタマーか否か)といった、さまざまなセグメントに切り分けて分析することで、「良い購買体験」や、よりパーソナルなショッピングのあり方が見えてきます。
薄利多売の集客マーケティングから脱却し、新しいニーズに対応するためには、ID-POSデータが不可欠です。
データを小売の現場へ
活きたデータは、リアルタイムで収集するのが一番です。
商品・サービスを継続的に売り上げていくには、小売の現場における顧客のニーズを的確に把握し、それにマッチしたマーケティング施策を展開していく必要があります。
集客の従来のセオリーは薄利多売型でしたが、消費者の高齢化やECの普及、物価高やコロナ禍を経て変化したライフスタイルにより、このモデルからの脱却が求められています。
すなわち、安売りして誰にでも無差別に販売するのではなく、商品を真に求める顧客を見つけ、育成するという顧客起点型マーケティングへの転換が必要です。
これを実現するのがデータドリブン(収集したデータを元に行動を起こす手法、考え方)、すなわちID-POSデータの活用です。
なお、メーカー企業は、ID-POSデータを使って、ブランドにおける商品単位の顧客プロファイリング、競合商品の発見・比較を行います。
一方で、小売の現場ではロイヤルカスタマーの定義と発見、固定客をつくるためのプロモーションの決定、育成シナリオの構築などを主に行います。
ID-POSデータの活用方法も多様化
実際に、ID-POSデータ活用の成功事例を見てみましょう。
といっても、活用方法は多岐に渡ります。
専門の部門を設立してID-POSデータの活用を次世代の先鋒とする大企業もあれば、BIツールを上手に活用することでスピーディかつ低コストにデータ活用の道を見つける企業もあります。
ID-POSデータを使いこなすには、まず自社や商品・サービスにマッチした活用方法を見つけることから始めるべきなのかもしれません。
リテールメディア
大手総合スーパーは、リテールメディア部門によるオンラインとオフラインの垣根を超えたあらゆるメディアを組み合わせた「トータルサービス」としての支援策で、売上を伸ばしました。
オフラインとしては、商品棚での大々的なキャンペーン、フリーペーパーの設置、看板のカラーチェンジといった大胆なキャンペーンを行い、その様子をSNSで積極的に発信する、YouTuberと連動企画を行うといったオンライン施策を展開しました。
スーパーは、消費者が直接商品を手に取るショッピングスタイルですが、これはたとえ良い商品が陳列されていてもその魅力を伝えられなければ購入されないというジレンマがあります。
言い換えると、商品の良さを充分に伝えることができれば、「買う予定のなかった商品を手に取る」、「知らなかった商品を買いにスーパーへ行く」というように、消費者の購買行動を変えることも可能です。
これは、フリーペーパーや商品棚といったオフラインの対策を集中的に行なったアナログなリテールメディアの恒例ですが、同社はスマホ向けアプリでも同様の施策を展開できるよう準備を進めており、ID-POSのデータを活かしたメーカー共同のロイヤルティープログラムなどの検討もしているようです。
より確度の高い販促施策
ID-POSは膨大なデータを収集できるため、多角的な分析を実施しやすく、仮説の精度が高まるという利点があります。
これまで勘や経験に頼っていた不確実な要素も、データに置き換えることが可能になり、客層の構成比率や同時併買、購入前後の品目まで分析に組み込めるようになりました。
判断材料が多くなればなるほど、マーケティング施策の具体性は高まり、顧客のニーズに合致した戦略を打ち出しやすくなります。
例えば、「ボトルコーヒーの売上が上がった」というデータだけでは、どのような層に向けたプロモーションを行うべきか不確実ですが、20代の購買層が突出している場合は、コロナ禍や物価高騰などの影響で、カフェの代わりに自宅でコーヒーを楽しむ人が増えたのではないかという予測を立てることができます。
小売店舗でのパーソナライズマーケティング
大手菓子メーカーでは、顧客の買いたいものを見つけ出し、その購入を後押しするというスタイルでパーソナライズマーケティングを展開しています。
これは、ID-POSから得られるデータでニーズを把握し、ニーズにマッチした商品を選定し、顧客ごとに適したコミュニケーションをはかっていくというサイクルで行われています。
スーパーやコンビニといった小売店から得られるID-POSデータをメーカーのリテールサイエンス部門に集約させることで、より確かなデータ分析が実現、予測や仮説の精度が高まりました。
同社のリテールサイエンス部門では、ID-POSを次世代の基盤と位置づけて活動が行われています。
これまでの菓子業界は、卸値を下げて特売を促進するか、コストをかけてCMやPOPを作成し商品を目立つように陳列するよう掛け合うか、の二択で売上を伸ばそうとしてきました。
しかし、業界は、原材料費の高騰や慢性的な人手不足による工場稼働の限界といった要因により、この手法からの脱却を迫られています。
ID-POSデータを用いた販促施策の中には、レシートに印字するクーポンを顧客の属性ごとに出し分けることで小売店の売上に貢献するといったものも多く、メーカーと小売店が互いに利益を上げるという相互作用が今後も期待されています。
BIツールと連携
BIツールのBIは、ビジネス・インテリジェンス(Business Intelligence)の頭文字をとったものです。
財務管理や在庫管理といったビジネスに関連するさまざまな領域で活用されており、ID-POSデータを扱うBIツールもあります。
例えば、全国のドラッグストアやスーパーの売上を統計化したID-POSデータを搭載しているツールは、日用品や食品の直近データを無料で閲覧することができます。
カテゴリ別の売上上位商品から、それを購入している男女比、年齢層、リピーターの割合、市場シェアの推移などをこのツールで調べることができます。
こうしたID-POSデータをAI分析できるツールも、先日特許を取得したことで注目を集めています。
このツールではデータ分析の実行から解釈までを生成AIが行うため、自社にデータサイエンス部門がない、あるいは人材が少ない場合でも、マーケティング戦略にID-POSデータを活用することができます。
分析だけでなく、売り場での販売仮説、売り場設計、販促物の設置、実店舗の販売検証を総合的に行えるプログラムも開発されています。
データ分析というと、専門のスキルをもった人材の確保から始めなければならないと焦る企業も少なくありませんが、自社にない部分はBIツールの導入や外注を検討することで、スピーディに対策を実行できるケースがあります。
例えば、BIツールの活用自体に不安がある場合は、ツールの導入とマーケター企業への外注を併せて計画していくと、より迅速で確実な効果が見込めるでしょう。
確実に売上につなげるためのデータ活用
現代の消費者は、EC、実店舗、SNSからのダイレクトショッピングなど、多様なチャネルを意識することなく使い分けています。
実店舗で実物を見てからECサイトで購入したり、ECサイトで購入したものを実店舗で受け取ったりといった横断的な利用もあり、まさにオンラインとオフラインの境界線は溶けてなくなりつつあると言っても過言ではないでしょう。
ID-POSは、このように多様化、複雑化する購買体験を可視化するために欠かせないシステムです。
IDを付与することで、「この商品がどのように購入されたか」というデータは鮮明になり、複雑にチャネルを横断していたとしても、解析が容易になります。
チャネルが多様化した現代では、ECだけのデータ、実店舗だけのデータを分析していると正確な結果が得られにくくなり、致命的な読み違いを引き起こすリスクが高まります。
しかし、それらを一つの総合的なデータとして分析可能なID-POSならば、膨大な情報を活かし、正解の見えにくいマーケティングの今を照らす強い力となるはずです。