デジタルバンキングがもたらす金融業界の変革
窓口対応やATMなど、クローズドな場であった銀行に変化が起きています。
デジタル技術を活用して銀行操作ができる「デジタルバンキング」は、国内でも事例が増えています。ITが進んだ現代では、企業もインターネット上で銀行業務を行えるようになりました。
この記事ではデジタルバンキングの概要やメリット、事例をもとに、小売店が検討すべきことも解説します。
クローズドだった金融機関がオープンな場へ
インターネット上で銀行操作ができるデジタルバンキングの導入で、金融機関がオープンな場へと変化しています。まずはデジタルバンキングの概要とメリットから見ていきましょう。
デジタルバンキングの概要
デジタルバンキングとは、デジタル技術を活用して、インターネット上で銀行操作を完結できるサービスを指します。振込や預金、決済や融資といった銀行業務をオンライン上で操作できるデジタルバンキングは、既存の伝統的な金融機関も移行する動きが起こっています。
今までもネットバンクやオンラインバンクがありました。これらとデジタルバンキングとの最大の違いは、銀行以外の事業者も金融サービスを提供しているという点です。GAFAも新たなビジネスとしてデジタルバンキングを始めており、その動きは国内でも広がりを見せています。
デジタルバンキングは、Fintechによって24時間365日銀行操作が可能になります。さらにデジタルウォレットやSNS、一般企業とのサイトとの融合も始まっており、今後さらなる進化を遂げるでしょう。
デジタルバンキングは2013年頃に登場しました。日本はデジタルバンキング先進国と比較すると、3~4年ほど遅れているといわれています。
そもそも伝統的な金融機関の仕組みは、対面を前提とした実物経済に向けたものです。もちろん伝統的な金融機関も進化しており、1960年代には機械化を進め、1990年代にはオンラインバンキングサービスも開始しました。
しかし「いつでも、好きな場所で、即座に」というニーズがある現代では、物足りなさを感じるユーザーが増えています。銀行サービスは伝統的な金融機関におけるクローズドな仕組みから、オンラインバンキングによるオープンな仕組みへと進化を始めているのです。
デジタルバンキングのメリット
デジタルバンキングの導入は、ユーザーと企業双方にメリットがあります。業務効率やコスト削減、さらにパーソナライゼーションやセキュリティの向上などが期待できます。
まずデジタルバンキングでは、伝統的な銀行で必須の紙処理がありません。ソフトウェアの導入により、ヒューマンエラーのない正確な処理が実現します。結果として紙代や人件費の削減につながり、業務効率化とコスト削減期待できるのです。
インターネットで完結するデジタルバンキングなら、顧客は24時間いつでもアクセスできます。モバイルアプリがあれば、仕事や家事の隙間時間に操作できます。単純な銀行操作のために窓口に長時間並ぶ必要がなくなり、顧客体験が向上するのです。AI搭載のチャットボットでリアルタイムにカスタマーサービスが提供できる点は、最大のメリットともいえるでしょう。
さらにデジタルバンキングなら顧客のデータが活用できます。AIがデータを収集・分析することでパーソナライゼーションが向上し、ユーザーの行動予測が可能です。
そしてFintechにおいて懸念されていた、セキュリティも強化されています。企業の社会的信用を失墜させる外部攻撃は金融機関でも大きな脅威であり、デジタル化を阻害する要因でもありました。しかし今では「分散型台帳技術」という分散システムをはじめ、Fintechによりさらに堅牢なセキュリティ対策が行われています。便利で安全となれば、スマートフォンユーザーはデジタルバンキングを歓迎するのです。
国内外で進むデジタルバンキング化
企業にも顧客にもメリットがあるデジタルバンキングは、国内外で導入が進んでいます。国内外の展開状況や、国内初のデジタルバンキング事例を解説します。
各国の展開状況
デジタルバンキングは各国の大企業も参入を始めています。GAFAを始め、中国の大手IT企業BAT(Baidu,Alibaba,Tencent)も参入しており、世界的に導入が進んでいる状況です。
【米国の展開状況】
- Google:新しいGoogle Payとして、「Plex」を発表。米国11行と共にデジタルバンキングサービスを開始
- Facebook:Facebookが主導するステーブルコイン「Diem(ディエム)」が、CBCS(中央銀行デジタル通過)の発行インフラを提供する可能性がある
- ゴールドマンサックス:Appleにクレカ決済と無担保ローンの提供、Amazonに出店者への限度額100万ドルまでの融資提供
【中国の展開状況】
- Baidu:2017年に中国四大銀行の1行である中国農業銀行と業務提携を発表。AIを駆使した金融サービスの研究をはじめる
- Alibaba:オンラインとオフライン両方で決済できるAlipay(アリペイ)サービスを提供
- Tencent:巨大SNSであるWe Chat Payからネット銀行「We Bank」を提供
国内初のデジタルバンキングが5月にサービスイン
国内では、「みんなの銀行」というデジタルバンキングサービスが始動しはじめています。2021年1月4日に銀行システムの稼働を開始し、同年5月下旬にはサービス開始を目指しています。成功すれば、国内初のデジタルバンキングとなるのです。
みんなの銀行は、ふくおかフィナンシャル・グループの子会社です。デジタル起点でゼロベースから設計した金融サービスで、普通預金や貯蓄預金のほかに、他行口座やカード明細を管理できるアカウントアグリゲーションといった機能があります。
さらに口座開設と同時にJCBのバーチャルデビットカードが発行され、Apple PayやGoogle Payに自動登録。クレジットカード情報を紐づけなくても、スマートフォンだけで口座直結の買い物が実現するのです。プレミアムサービスを利用すれば、5万円まで一時無利息でキャッシングできる貸越サービスも提供します。
みんなの銀行がターゲットとするのは、伝統的な銀行がカバーできていないデジタルネイティブ世代。つまり40代以下のスマートフォンユーザーです。
また、みんなの銀行はBaaSとして法人へのサービス展開も考えています。※BaaSについては後述します。
銀行の窓口やATM、通帳は過去のものに
銀行業務までデジタル化が始まった現代では、もはや銀行窓口やATM、通帳は過去のものになりつつあります。仕事や家事の間に銀行窓口やATMに並ぶ、通帳記入を行うといった習慣は、どんどん衰退していくでしょう。
しかしデジタルバンキングにはまだまだ課題があります。まずシステム上ではデジタル基盤の導入が不可欠で、ノウハウを持った人材の確保や設備投資が課題です。AIやチャットボットの精度を上げ、より人間的なやりとりが必要となります。
また、戦略的なデジタル化も必要です。DXによってより新しい価値が求められる今、デジタル化+αの取り組みが求められます。企業それぞれがDXによって自社の価値を生み出さなくてはいけません。
BaaSで企業が金融機関になる
BaaS(Banking as a Service)とは為替や預金、融資といった銀行業務をサービスで提供することを指します。BaaSによって、銀行業務ライセンスを持たない事業者でも自社ブランドで金融サービスを展開できるのです。
BaaSを活用している事例
BaaSの事例は国内外で増えています。
【米国】ゴールドマンサックス Marcus
2019年からApple社が提供するクレジットカード「Apple Card」に、GSのBaaSであるMarcusが使われています。そして、2020年4月には航空会社JetBlue Airwaysが「MarcusPay」として分割払いサービスを提供。さらに2020年6月にはAmazonとGSが組み、Amazonに出店する中小事業者を対象にビジネス融資を始めました。
【日本】住信SBIネット銀行 NEOBANK
住信SBIネット銀行が提供するNEOBANKは、BaaSとしてヤマダ電機を展開するヤマダホールディングへ提供しました。情報家電購入者向けにバンキングサービスを提供しており、利用したユーザーにはヤマダポイントが付与されます。新たな融資商品として、市場への参入を果たしました。
またJALと協業した「JAL NEOBANK」という実績もあります。JAL NEOBANKはJALペイメント・ポート社が銀行代理業者となり、金融サービスを提供しています。ユーザーにはマイルが溜まる、振込やATM手数料が1回/月無料になるといったメリットがあり、新たな価値創出につなげているのです。
NEO BANK公式サイト:https://www.netbk.co.jp/contents/neobank/
【日本】新生銀行 BANKIT
住信SBIネット銀行のNEOBANKは「カフェテリア方式のプラットフォーム」として、自社の事業内容に応じて必要な金融サービスを提供しています。
2020年4月時点では、ウォレット、チャージ、コード決済、Visa決済、送金、ATM入出金、後払いと、クーポンポイント、位置情報いった機能をすでにリリースしました。今後はタッチ決済やバーチャルクレカ、レンディングや給与前払い、保険や資産運用といった機能も提供予定となっています。
新生銀行 BANKIT公式サイト:https://www.bankit.jp/
よりオープンになっていくFintech
小売企業の投資といえば、店舗アプリやセルフレジが挙げられます。そして「○○ペイ」と呼ばれる独自決済サービスは、それらに続く大きな施策の1つとなるでしょう。
例えば、小売店として数々の成功事例を持つ無印良品は、「MUJI passport Pay」をリリースしました。すでに提供している店舗アプリ「MUJI passport」に搭載され、アプリによる決済が可能です。
また、ユニクロも店舗アプリ「ユニクロアプリ」内で決済できる「UNIQLO Pay」サービスの提供を開始しました。UNIQLO Payは2021年4月時点で三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行の6行での銀行口座払いも可能で、クレジットカードを介さない決済が実現しています。
国内外でFintechは進んでおり、もはや銀行はオープンであることが求められています。小売店はCXの向上やポイント文化による顧客の囲い込みを考えると、独自決済サービスの導入は必至でしょう。
APIが解放されデジタルバンキングを導入するには、設備投資や人材確保といった課題が残ります。日本ではCOBOLなど古い言語を扱う技術者が多く、Javaやスマホアプリ開発の人材が足りていません。
DX推進のためにも上記のような課題に向き合い、デジタルバンキングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。