ポイント還元から1ヶ月!キャッシュレス決済の最新動向
消費増税から1ヶ月半が経過し、増税に伴って導入されたキャッシュレス決済によるポイント還元事業も、どのような状況で利用されているかというデータが見えてきました。
全体としてキャッシュレス決済の利用率は上がっていますが、1度の会計に使う金額は少額傾向になっています。コンビニでのキャッシュレス決済の利用率がアップしたことが、この数字と背景となっているかもしれません。
今回は、
- キャッシュレス決済の概要と現段階の加盟店舗数
- 改善が発表された地図アプリの最新状況
- 2019年10月のデータでみるキャッシュレス決済のこれから
について、順に解説しています。キャッシュレス決済で得られるビッグデータの活用など、キャッシュレス決済の先にある未来を考えてみましょう。
目次:
- キャッシュレス・ポイント還元事業の加盟店数
- キャッシュレス決済の市場規模は1日10億円規模に
- 経産省公式アプリの地図機能は11月中旬より改善予定
- キャッシュレス決済の利用率は20%増
- 主要コンビニは軒並みキャッシュレス決済率がアップ
- キャッシュレス決済・ポイント還元の先にあるキャッシュレスビジョン
キャッシュレス・ポイント還元事業の加盟店数
経済産業省の実施するキャッシュレス・ポイント還元事業は、中小・小規模事業者の店舗を対象とした事業です。
代金を現金以外で支払った場合のポイント還元を支援するもので、2020年6月末までの限定的な事業として展開しています。
2019年10月31日までの登録申請数は約92万店で、登録加盟店数は約64万件と公表されています。
つまり、現時点では登録申請された店舗がすべて事業に参加できているわけではありません。街では、経産省による赤色の「CASHLESSポスター」を貼っている店舗を見かけることも多くなりましたが、まだ申請が承認されていない店舗があるということは今後こうした店舗は段階的に増えていくことが予想されます。
キャッシュレス決済の定義
キャッシュレス決済は、
- クレジットカード
- QRコード決済
- 電子マネー
などを活用して現金を使わずに商品やサービスを購入する方法をいいます。
日本では普及率があまり高くありませんが、海外ではキャッシュレス決済が主流になりつつある国も少なくありません。
Suicaをはじめとする交通系ICカードやスマホを使って決済するため、消費者には小銭を財布から取り出さなくてよいというメリットがあります。
店舗には、レジ締めにかかる時間の短縮や、大金を店舗に置かなくてよいという安全上のメリットがあるとされています。
キャッシュレス決済の市場規模は1日10億円規模に
キャッシュレス決済におけるポイント還元制度では、10月25日時点で1日平均10億円強のポイントが消費者に還元されています。
好調な滑り出しと評価される一方で、期日を待たず3月末に原資が不足してしまうおそれも指摘されています。
もともとポイント還元制度は、2020年6月いっぱいまでの限定的な制度です。しかし、それまでに追加予算もしくは何らかの対策を講じないと、事業を維持する資金がなくなってしまう可能性が浮上したということになります。
政府は、追加予算を検討するとしたものの、具体的な金額やどこから予算を調達するかといった問題は明確にしていません。
ポイント還元制度は、キャッシュレス決済後進国ともいえる日本で、キャッシュレス決済を普及させるために考案されました。普及のためと思えば、当初の予定よりはやく還元制度を打ち切るような展開は避けると想定されますが、念のため今後の動向や政府の発表に注意しておきましょう。
経産省公式アプリの地図機能は11月中旬より改善予定
経産省は、加盟店を検索できる公式アプリ「ポイント還元対象店舗検索アプリ」をリリースしています。
以前は、店名入力検索ができない、同一店舗なのに地図上に複数のピンが表示されてしまうという点から使いにくさが指摘されていましたが、10月下旬のアップデートと11月中旬以降の修正対応により改善していくものと予想されます。
同一店舗が複数表示されてしまうのは、名寄せに問題があるとされています。名寄せは、複数のデータから重複した情報(ここでは店舗情報)を照会し抜き去る作業をいいます。
アプリ以外にも、都道府県別の「登録加盟店一覧」に同一店舗が別の店舗として複数登録されるという事態が報告されていますが、名寄せ問題の解決によってどちらも解消されると経産省は発表しています。
・公式アプリ「ポイント還元対象店舗検索アプリ」
https://apps.apple.com/app/id1477479075
キャッシュレス決済の利用率は20%増
株式会社マネーフォワードは、自社の提供するアプリ「マネーフォワード ME」ユーザー1,576名を対象として「キャッシュレス決済利用実態調査」を実施し、11月1日にその結果を公表しました。
この調査によれば、2019年10月の個人キャッシュレス利用回数は昨年同月比で20%増加しているとのことです。
データによれば、アプリユーザーは、平均して1日に1回程度キャッシュレス決済を利用しています。
一方で、2019年9月と10月を比較すると、1回あたりのキャッシュレス決済金額は、
- 2019年9月:平均4,129円
- 2019年10月:平均3,801円
で、7.9%の減少がみられます。
要するに、2019年10月のキャッシュレス決済は、少額でもキャッシュレス決済を利用するユーザーが増えたことを示しています。
これまで、カード払いといえば高額な商品を購入する時に限るという暗黙の了解がありました。海外ではドリンク1杯でも気軽にカードや電子マネーを使うことが当たり前になっていますが、日本では「手続きが煩雑でお店に悪い」、「数百円の買い物にカードを使うのは格好悪い」という風潮がありました。
この調査結果は、キャッシュレス決済のポイント還元制度によって、こうした認識に変化が生じたことをあらわしているのではないでしょうか。
なお、このデータの調査対象になったキャッシュレス決済サービスは、クレジットカード、デビットカード、プリペイドカード、電子マネー、QRコード決済(LINE Pay、au Pay)と公表されています。
主要コンビニは軒並みキャッシュレス決済率がアップ
ポイント還元でもっとも「お得感」があるのは、これまで値引きや割引という概念が導入されにくかったコンビニです。
ポイントが還元されれば実質の値引きとなるため、コンビニでは現金払いではなくキャッシュレス決済が支持されるようになっているのでしょう。
セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップともにキャッシュレス決済の比率は上がっています。
4社のキャッシュレス決済比率は、次のように公表されています。
【セブンイレブン(金額ベース)】
キャッシュレス決済比率42%(8月時点では35%)
【ファミリーマート(件数ベース)】
キャッシュレス決済比率25%(9月時点では20%)※前年比60%増
【ローソン(件数ベース)】
キャッシュレス決済比率26%(9月時点では20%)※前年比70%増
【ミニストップ(金額ベース)】
キャッシュレス決済比率27%(9月時点では22%)
各社ともに、経産省のキャッシュレス・ポイント還元事業と、QRコード決済事業者によるキャッシュレス決済キャンペーンが、比率アップの原因としています。
ただし、諸外国ではキャッシュレス決済率が50〜60%に迫る国も少なくなく、それらと比較すると日本は現金信仰の国であるといわざるをえない側面があります。
もともと、日本は贋金が作りにくい、釣銭間違いのないしっかりとした接客がおこなわれているなど、現金が便利に使える社会です。そのため、キャッシュレス決済のポイント還元が実施される以前には「現金で充分便利なのに、いまさら新しい決済方法なんて‥‥」とキャッシュレスに否定的な意見も少なくありませんでした。
一方で、日本の貨幣に慣れていない海外からの旅行客に消費を促すためにはキャッシュレス決済が便利であり、2020年のオリンピック、パラリンピックに向けてキャッシュレス決済の土壌を確固たるものにしたいという声もあります。
キャッシュレス決済・ポイント還元の先にあるキャッシュレスビジョン
好調なポイント還元制度の先にあるのが、2018年4月に経産省がまとめた「キャッシュレスビジョン」です。
キャッシュレスビジョンは、小売業の効率化と生産性の向上を、キャッシュレスによって達成しようという狙いをもって掲げられています。
キャッシュレス決済が普及すれば、
- 店舗の無人化(省人化)
- 年間1兆円とされるレジの現金取り扱いコストの節約
- 平均4時間とされるレジ労働時間の削減
につながり、余った時間をより付加価値の高い労働に割り当てることができるのではないかと考えられています。
店舗における人手不足は深刻な域に達しており、少子高齢化という日本の社会現象とあいまって、これから加速度がつくことが想定されています。
そうしたなか、自動化、効率化できる作業は効率化し、人にしかできないことに労働力をあてようというのは自然な動きなのかもしれません。
しかし、そのためには課題もあります。
ポイント還元制度が終了しても、消費者が「現金よりもキャッシュレスの方が便利」と思い続けられるかどうか、そして、各事業者の収集するビッグデータを効果的に活用できるかどうかといったことです。
・経済産業省「キャッシュレスビジョン」
https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-1.pdf
プライバシーにつながるデータをどこまで活用するのか
キャッシュレス決済をすると、現金払いよりも多くの情報が事業者の元に集まります。
お金の流れをデータとして管理可能になることで、日々の移動や貯蓄の傾向、商品の購入傾向から公共サービスの利用度まで、個人の生活をまるごとチェックすることも可能になります。
しかし、JR東日本ではSuicaに記録される移動データをはじめとして、プライバシーにつながる情報を運営に活用しないことをすでに断言しています。
一方で、ローソンでは「Pontaカード」によって収集したビッグデータを商品開発や流通の効率化に活用してきた経験から、キャッシュレス決済によって得られるデータ活用の効果が大きいことを認めています。
また、PayPayもすでに公共料金支払いサービスに参入しており、今後も記入サービスなど生活ツール全般にわたる事業との提携を視野に入れていると述べています。
収集されたデータに関しては、このように各社が活用方法や活用範囲について模索をしている段階です。国内で統一の企画や方針が定められているわけではありません。こうした状況こそ、キャッシュレス決済の定着を不透明にしている要因のひとつであり、今後のあり方が見えにくいとされる理由といえるのではないでしょうか。
キャッシュレス決済に背を向けるサイゼリヤ
各社がキャッシュレス決済へ目を向ける中で、ほとんどの店舗を現金決済のままで維持するサイゼリヤが話題になっています。
サイゼリヤの1,100店舗のうち、キャッシュレス対応になっているのはSC(ショッピングセンター内)にある店舗のみ。キャッシュレス端末が乱立状態のうちは、ハードにコストをかけたくないというのがその理由のひとつです。
キャッシュレス決済の未来が不透明な今のうちに商品の設計やシステムを整えておき、キャッシュレス決済の規格統一などがなされた時に本格参入しようというのがサイゼリヤの現在の方針のようです。
もっとも、2019年7月から、サイゼリヤはすでに現金支払いの釣銭を2%上乗せした金額のAmazonギフト券で発行するというキャンペーンを展開していて、キャッシュレスやポイント還元にまったく無関心というわけではありません。
あくまでキャッシュレス決済に慎重派というだけで、真っ向から否定を貫いているわけではなさそうです。
まとめ
お得に買い物をしたいという消費者の心理によって、好調な展開をみせるキャッシュレス決済・ポイント還元事業。このキャンペーンによってキャッシュレス決済が日本の消費活動に定着するか、はたまた一過性のものとなってしまうのか、今後も注意して動向をみていきたいところです。