国が変わればサービスも変わる:世界のQRコード決済事情
世界中の通貨にそれぞれ違いがあるのと同様、QRコード決済サービスもそれぞれの国や地域で特徴が違うことをご存知でしょうか。
中国ではAlipayとWeChatPayが人気を二分している、東南アジアではスタートアップ企業がQRコード決済を開発しているなど、国や地域によってさまざまな違いがあります。
今回は、中国、東南アジア、欧米、日本の主要なQRコード決済サービスを紹介し、今後の日本でのQRコード決済の展望について考えてみました。
- 中国のQRコード決済「Alipay」
- 中国のQRコード決済「WeChatPay」
- インドのQRコード決済「paytm」
- インドネシアのQRコード決済「GOPay」
- 東南アジアのコード決済はスタートアップ企業が中心となって開発
- アメリカのQRコード決済「Chase Pay」
- アメリカのQRコード決済「Venmo」
- フランスのQRコード決済「Lydia」
- イギリスのQRコード決済「Yoyo Wallet」
- QRコード決済に世界規格が登場する日はくるか
- 日本の主なQRコード決済
- 日本のQRコード決済サービスはどのような路線をたどるのか
中国のQRコード決済「Alipay」
Alipay(支付宝/アリペイ)は、中国のアリババグループが運営する巨大ECタオバオを中心に広く利用されています。
アクティブユーザーは2018年1月で5億2,000万人を突破、中国モバイルペイメントの約半数以上のシェアを占めています。同じくアリババグループが運用するクレジット・スコアサービス「芝麻信用(セサミ・クレジット)」と併せて、中国人の生活を丸ごと変えてしまったといわれるほど市場に影響を与え続けているサービスです。
日本でもインバウンド消費対策として、2015年から店舗用決済として導入されはじめ、着実に加盟店を増やしています。
中国のQRコード決済「WeChatPay」
WeChatPay(微信支付/ウィーチャットペイ)は、中国のIT業界における大企業テンセントが開発したコミュニケーションアプリ「WeChat」に組み込まれているQRコード決済サービスです。
「WeChat」はLINEのようにやり取りができるアプリ。「WeChat」自体のアクティブユーザー数は2018年3月で10億人、そのうちのおよそ半数である6億人以上がQRコード決済WeChatPayを活用しているといわれています。
実店舗、オンラインでの支払いのほか、後ほど紹介するLINE Payのように相手のIDを知っていれば友人間で送金をおこなうこともできます。
インドのQRコード決済「paytm」
paytm(ペイティーエム)は、インドのデリーを本拠地とする「One97 Communications」が運用しているアプリで、インド全体のおよそ3億人がユーザーとして利用しています。
paytmは、「Pay Through Mobile(モバイルを通じた支払い)」を略したもので、同社がリリースしている「Paytm Wallet」アプリを使うことで、航空券やタクシーの予約、電気代の支払いなどもおこなうことができます。
2015年に中国のアリババから6億2,500万ドルの融資を受けています。なお、2017年にはソフトバンクが1億4,000万ドル(およそ1,550億円)を新たに融資しています。
アリババから資金を調達した初のインド企業であり、株式評価額は2017年当時で80億円(およそ8,800億円)に到達していました。
インドネシアのQRコード決済「GOPay」
GoPayは、バイクタクシー「Go-Jek」が提供しているモバイルペイメントサービスです。
現在は、バイクタクシー業務だけでなくデリバリーサービス、美容師やネイリストの派遣、ECサイトの配送サービスなどあらゆる移動サービスを提供しています。
WeChatPayを運用しているテンセントから1,200億円以上を調達し、2016年から「Go-Jek」にともなうモバイルウォレットサービスとして「GoPay」をリリースしました。
GoPayは、イスラム教における断食月であるラマダンの時期から寄付金を受け付けたり、ゴミを拾ってリサイクルするとGo Payにポイントとしてチャージされるキャンペーンをおこなうんだお、社会福祉事業も展開しています。
東南アジアのコード決済はスタートアップ企業が中心となって開発
ASEANに加盟している東南アジア諸国では、スタートアップ企業がこぞって電子マネー決済サービスをリリースしています。
強いパワーをもつ大企業ではなく地元のベンチャーがそれぞれのサービスを開発しているため、今後どのQRコード決済が主流となるのかといった予測がしづらい状況となっています。
アメリカのQRコード決済「Chase Pay」
「Chase Pay(チェース・ペイ)」は、米国金融業界の大手であるJPモルガン・チェースが2015年にリリースしたモバイル決済サービスです。
小売業者のコンソーシアム(共同事業体)の「Merchant Customer Exchange」と提携し、ウォルマートやベストバイといった店舗で利用できるようになっています。
アメリカのQRコード決済「Venmo」
Venmo(ベンモー)は、米国の若者の間で流行している個人間送金アプリです。
個人間送金サービスは、「P2P(Peer to Peer/ピアツーピア)」サービス、つまり対等の者同士が複数の端末間で通信をするサービスとも呼ばれます。
Venmoのサービスは2009年からスタートし、2013年にPayPal傘下となりました。
主に、家賃の支払いや割り勘をする場面で活用されています。
米国では大きい金額のやり取りをする際に小切手を使いますが、デポジットや換金の手間がかかります。Venmoはこれを解消するために生み出されたアプリですが、若者の間では割り勘やケータリングの支払いに便利によく用いられているといわれています。
フランスのQRコード決済「Lydia」
フランスの主なQRコード決済サービスとして知られているLydiaは、スタートアップ企業によるアプリです。
段階的に2,300万ユーロ(およそ30億円)という多額の資金を調達しており、今後英国やポルトガル、スペインなどにサービスを広げるのではないかと噂されています。
当初Lydiaは、米国のVenmoと同様に、個人間で送金をおこなえるP2Pサービスでした。現在では、店頭やオンラインサイトでの支払いにも対応しています。
2017年時点でのアクティブユーザー数は100万人に達しており、多い時には毎日2,000人の新規ユーザーを獲得しているとされています。
イギリスのQRコード決済「Yoyo Wallet」
日本を含めたアジア太平洋地域における展開にも意欲的なのが、英国発のモバイルウォレットYoyo Walletです。
Yoyoのアプリを通じて支払うことで、店舗のモバイルポイントカードとしての機能をつけることも可能。これは、購買行動追跡機能がプラットフォームに搭載されているためで、これがPayPalやApple Payといった世界的なシェアを握る現行サービスとの違いとして打ち出されている特徴のひとつでもあります。
Yoyoはシンガポールに試験的な拠点をつくるなど、ヨーロッパだけでなくアジアへの拡大も視野に入っています。日本では、小売業界を中心にモバイル決済市場の20%獲得を目標に動いていると伝えられています。
QRコード決済に世界規格が登場する日はくるか
各国のQRコード決済は、サービスも手がけている企業もさまざまです。
中国:大企業による運用
東南アジア:中国から資金を調達したベンチャー企業による運用
米国:各世代にとって使いやすいモバイルペイメントがある
ヨーロッパ:欧州や米国、アジアにも拡大を計画中のサービスがある
運用形態も将来的なビジョンもそれぞれ異なるため、世界規模でモバイルペイメントにおける何らかの規格が統一されることは現実的ではないように思われます。
少なくとも今後数年は、それぞれの国のライフスタイルに合わせたサービスが台頭し続けるでしょう。各国の市場にQRコード決済が充分に普及した段階で、何らかの統一事項が出てくる可能性はあります。
日本の主なQRコード決済
先進国の中で、日本のモバイルペイメントの比率は低いといわれています。
ですが、そんな中でも数種類のQRコード決済が登場し、普及しつつあります。
代表的な決済サービスを5つ挙げました。
日本のQRコード決済「PayPay」
TVCMで一気に知名度が上がったPayPay(ペイペイ)は、ソフトバンク株式会社とヤフー株式会社、2社によって設立されたPayPay株式会社によるQRコード決済サービスです。
チャージした「PayPay残高」のほか、クレジットカードやYahoo!マネーで支払うことも可能。訪日中国人観光客を対象にアリペイと連携するなど、インバウンド消費対策もおこなっています。
日本のQRコード決済「楽天ペイ」
楽天ペイは、コード決済すると楽天ポイントがたまるため、英国の「Yoyo Wallet」とも似ているといえるかもしれません。
実店舗、オンライン両方の決済に対応しており、5,000サイト以上のECサイトがオンライン決済に楽天ペイを導入していると発表されています。
日本のQRコード決済「LINE Pay」
LINEのアカウントに基づいた利便性の高さが特徴の「LINE Pay(ライン・ペイ)」。以前から類似サービスとして知られる中国「WeChat」の「WeChantPay」と同様、店舗のアカウントを「友だち登録」してもらうことで、顧客の囲い込みやマーケティングへの活用が期待できます。
割り勘機能も実装されており、米国の「Venmo」のように若い世代を中心に利用されています。
日本のQRコード決済「Origami Pay」
オレンジ色が目印のOrigami Payは、日本経済新聞が決定した日経優秀製品・サービス賞2017において最優秀賞を獲得したQRコード決済サービスです。
Origami Pay限定の割引クーポンなど、ほかとは異なるサービスも実施しています。
日本のQRコード決済「pring」
「pring(プリン)」は、お金コミュニケーションアプリというキャッチフレーズで運用されています。
米国の「venmo」のように個人間送金ができるP2Pサービスで、銀行口座に直結しているからこそ実現できた0.95%という低い決済手数料が特徴です。
みずほ銀行と地方銀行らが提携して開発し、2020年に発行予定とされる仮想通貨「Jコイン」の実証実験におけるウォレットとして採用されています。
日本のQRコード決済サービスはどのような路線をたどるのか
海外諸国と比較すると、日本はいずれかのサービスが一強を担うまでには成長しきれていない感があります。PayPay、LINEペイ、楽天ペイをみると、中国のように大企業がQRコード決済サービスの覇者となるように推測されますが、今後ベンチャー企業が中国や米国から資金を調達することで一気に形勢を逆転させる未来も可能性としてゼロではないでしょう。
日本のキャッシュレス化を左右する要素のひとつである「Jコイン」がどのくらい普及するかなど、QRコード決済以外の成長や普及も大きく関与すると考えられます。
まとめ
東南アジアのQRコード決済に中国のアリババやテンセント、日本のソフトバンクが多額の出資をしているように、良いプランをもったベンチャーが資金を調達すれば一気にその国のモバイルペイメント業界でシェアを獲得できる可能性があります。
年単位ではなく月単位で勢力図が変わりかねない状況は、注目に値するといえるでしょう。
※「QRコード」は(株)デンソーウェーブの登録商標です。