店舗設計・運営にも欠かせないマーケティングセグメンテーション
「セグメンテーション」は、商品開発やプロモーション戦略を決める際に重要なマーケティングのフレームワークとして広く知られていますが、実は、店舗設計・運営においても不可欠になってくるものです。
店舗の設計や運営も、広義ではマーケティングの一部と捉えるべきですから、適切なセグメンテーションに基づいて行われるべきなのは当然です。
本稿では、セグメンテーションについて、改めておさらいすると共に、店舗設計・運営に必要なセグメンテーション視点の持ち方について考察したいと思います。
【目次】
セグメンテーションとは?
セグメンテーション(segmentation)とは、「分割」「区分け」「区分」といった意味の英語であり、マーケティング用語としては、様々な変数を持つ環境分析の結果に基づいて、商品やサービスを売りたい市場を、同じ性質の塊に切り分けること(市場細分化)を指します。
セグメンテーションは、流通小売業であれば、商品が効率よく売れ続けることを目指すことを目的に行います。
情報量が限定的でマスコニュニケーションが全盛だった時代であれば、ニーズが最大公約数となる商品やサービスを生み出すことさえできれば売上を伸ばすことが可能だったかもしれませんが、特に今は、生活者のライフスタイルが多様化し、商品がスペックだけでは売れなくなった時代です。
これからのリアル店舗が求められるのが、生活者にとって自身のライフスタイルや価値観に合致した「体験」の提供であることを考えると、それらの体験も、生活者の価値観を軸にしたセグメンテーションに基づいて生み出されるべきでしょう。
いくつかの変数を掛け合わせて市場を切り取る
セグメンテーションにおいて用いられる変数には「地理的変数(ジオグラフィック)」や「人口統計分布(デモグラフィック)」、「心理的変数(サイコグラフィック)」、「行動変数」などが挙げられます。
上でも述べたように、今の時代は生活者のライフスタイルや価値観がより多様化、細分化されていますから、年齢や性別、年収などのデモグラフィックだけでなく、サイコグラフィックが重視される傾向にあると言えます。
また、テクノロジーの飛躍的な進化と共にOMO(Online Merges with Offline)の時代が到来し、オンラインデータのみならず、これまで集計・分析が難しかったリアル店舗における購買行動データも集めることが容易になってきているため、今後はますます行動変数に基づいたセグメンテーションが重要視されるようになっていくでしょう。
セグメンテーションにどんな軸を採用するかによって、市場は全く違う表情を見せます。セグメンテーションを行う際には1種類の変数だけを見るのではなく、ありとあらゆる変数を集計・分析した上で、いくつかの軸を組み合わせることで、勝ち筋が作りやすいセグメンテーションが可能になります。
筋のいいセグメンテーションを確認する「4つのR」
切り取った市場で、自社の商品やサービスが果たして本当にパフォーマンスを発揮できるのかどうかは、以下4つの条件に照らし合わせることで確認するのが有効であると言われています。
Rank
そのセグメントが自社の商品やサービスにとってどれぐらい優先度が高いかどうかをランクづけします。そのセグメントにそもそもニーズが存在するのか、競合他社の存在はどうかなどを総合的に見て優先度を判断します。
Realistic
そもそも切り出したセグメントにおいて自社の商品やサービスが収益を上げることができるのか、その規模があるセグメントなのかを確認します。
Reach
そのセグメントに自社の商品やサービスを実際に届けることができるのか、実現性を確認します。
Response
そのセグメントでの顧客行動データを集計し分析することは可能かどうかを確認します。
これは、それぞれのポイントの頭文字を取って「4つのRの原則」と呼ばれています。
「STP」でワンセット
基本的に、セグメンテーションはそれ単体で行われるものではなく、ターゲティング(セグメンテーションで細分化した市場のどこを狙いに行くかを決定する)、ポジショニング(定めたターゲットに自社の何を価値として届けるかを決定する)、という要素と合わせて行うフレームワークです。いわゆるSTP(Segmentation, Targeting, Positioning)と呼ばれる手法です。
セグメンテーションやポジショニングを行う際は、4象限マトリクスを用いると、狙うべき方向性が明確になるでしょう。
筋の良いセグメントを切り出し、的確なターゲットに対して最適なポジショニングを取ることができれば、それに基づいて4Pなどのマーケティングミックスを行うのが一般的な流れになっています。
セグメンテーションに基づく店舗設計・運営を考える
商品開発やプロモーションのみならず、なぜ店舗設計・運営においても常にセグメンテーションを意識するべきなのでしょうか。
スマホが起点の店舗運営
今の時代であれば、スマートフォンの所持率は非常に高く、スマートフォンを持っている人、いない人という軸で市場を切り取ることが可能です。さらに言えば、その中であらゆる日常行動の起点がスマートフォンとなっている生活者も、かなりの人数がいるでしょう。そのような軸をセグメンテーションの一部として選びターゲティングした場合、リアル店舗で提供する購買体験においても、行動の起点はスマートフォンとなるよう店舗を設計しなくてはターゲットの体験価値は上がりません。一番振り切った形で設計するならば、例えば「現金不可のキャッシュレス店舗」という形が一つの答えとなるでしょう。
この場合、様々な事情から現金が併用できるようにすることはあっても、キャッシュレス決済の手段を用意しない、ということはあり得ないわけです。なぜなら、それは明らかに狙ったセグメントのターゲットに対して、響く体験を提供できない、つまり、STPで約束したポジションを無視していることになるのです。
レジレス店舗や無人店舗に適したセグメンテーションも
今は店舗におけるテクノロジーが進化していますから、レジレス店舗や無人店舗といった形でさらに利便性の高い体験を用意することも可能です。セグメンテーションに対して尖った設計をすればするほど、選んだセグメント以外の層は捨てることになる(この場合、スマートフォンを持っていない人、現金派の人)になりますが、販売チャネルが多様化し、オンラインオフラインの垣根がなくなりつつある時代の店舗では、それぐらい思い切った設計をしないと、存在価値が希薄になってしまう可能性さえあるでしょう。
逆に、「人と人とのコミュニケーションに価値を感じる」「自分の価値観に合うコミュニティに属することに喜びを感じる」といった特性を持ったセグメントに対しては、店舗業務を自動化できるテクノロジーを導入し、空いたリソースで魅力的な店舗スタッフをなるべく多く店内に配置する、スタッフとの快適なコミュニケーションを生み出すためにレジカウンターは設置しない、そのために持ち運び可能なタブレットPOSシステムも導入する、といった思想の店舗設計や運営が必要になってくるかもしれません。
さいごに
流通小売業では今、店舗のデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が叫ばれていますが、多くの場合、必要に差し迫られた省人化・省力化を目的としたDXの推進となっているようにも感じます。本来であれば、さらに上流に遡り、定めたセグメンテーション、ターゲットに照らし合わせた店舗設計/運営を行うべきではないでしょうか。