日本でWeChat PayやAlipayのQRコード導入が進まない理由
中国で急速に利用者が増加しているコミュニケーションアプリのWeChat(ウィーチャット)。
WeChatにはチャット上で送金をおこなうことができる「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」という機能が備わっています。WeChat PayはQRコードを読み取るだけで支払いが完了する手軽さから、多くの中国人が決済手段のひとつとして利用しています。また、WeChat Payの他にもAlipayというアプリもWeChat Pay同様多くの中国人が利用しています。
近年訪日外国人客数は増加の一途をたどっており、中でも一番多いのが中国からの旅行客です。
2017年の国籍・地域別の訪日外国人旅行消費額では中国からの旅行者が消費した金額が1兆6,946億円と第一位を記録しています。
日本でもWeChat PayやAlipayに対応している店舗も徐々に増えてきましたが、そう多くの店舗で導入が進んでいるとは言えない状況です。
今回は日本でQRコード決済の導入が進まないのにはどういう理由があるのか、掘り下げて行きたいと思います。
目次
- 日本におけるQRコード決済導入の問題点
- 日本でQRコード決済導入が進まない理由
- WeChat PayとAlipay両方に対応している店舗は少ないのは何故?
- 日本のQRコード規格化の動き
- 2020年東京オリンピック後もインバウンド需要を見込む
日本におけるQRコード決済導入の問題点
中国国内では電子決済が急速に普及しており、WeChat PayやAlipayといった決済手段がいたるところで利用できますが、中国以外では勝手が違います。決済手段のひとつとして導入しているところが限られているため、中国以外の国ではスムーズな決済を行うことが難しくなります。
WeChat PayやAlipayが広まらない理由としては次のような問題点が挙げられます。
1:中国の銀行口座と紐付けが必要
WeChat PayやAlipayを利用するためには中国の銀行口座か本人確認できる証明との紐付けが必要なため、中国に在住している人しか利用できない点がネックとなっていました。
そのため、中国以外の国に住んでいる人はWeChat Payを利用することができず、中国以外の国でWeChat Payの導入が普及しない理由にもなっていました。
※2018年にはWeChat Pay、Alipayともに中国の銀行口座以外に国際クレジットカードでも紐付けができるようになりました。ただ手続きがやや煩雑であるようです。
2:小さな個人商店などでは電子決済に対応していない
中国人旅行者が買い物でよく訪れる場所として日本のドラッグストアや百貨店、小売店や免税店が挙げられますが、これらの場所は頻繁に中国人が買い物に利用することから近年ではWeChat PayやAlipayに対応する店舗が増えてきました。
しかし、これらの場所以外の小規模な店舗となると、導入自体がされていない店舗が多いため中国人がQRコードで決済できないことで買い物を諦めるパターンもあります。
中国人がQRコード決済を頻繁に利用することは今ではよく知られた話ですが、日本ではそもそもQRコード決済自体が浸透していません。これは一体どういう理由があるのでしょうか。
日本でQRコード決済導入が進まない理由
中国ではWeChat PayやAlipayのようなQRコードを用いたキャッシュレス決済が主流ですが、日本ではそれほど普及していません。
中国でQRコード決済が広まった理由として次のようなものが挙げられます。
中国でQRコード決済が広まった理由
- クレジットカードを持たない人が多い
- スマホ保有率が高い
- 偽札が多く出回っている(現金に対する信用が低い)
- ECサイトの場合、偽物の商品が届くことがある
このような理由があるためQRコードを店頭に張り出してスマホで読み取りを行うだけで簡単に、かつ安心して商品の取引ができる方法が広まりました。
一方、日本での決済手段は現金をメインとしてEdyやSuicaなどの各種電子マネーやクレジットカードによる支払いがほとんどです。銀行ATMやコンビニATMもいたるところにあることで現金はほぼいつでも引き出せる状態であり、偽札が出回る頻度は非常に少なく、決済手段は現金しか受け付けていない店舗も多いため現金に対する信頼度が高い点が中国と異なる点でしょう。
日常生活で現金を使いたくない人は電子マネーかクレジットカード(もしくはその両方)を利用している人が多いため、QRコード決済を利用する理由に乏しいとも言えます。
日本でよく利用されている決済手段についてまとめると、上述の中国でQRコード決済が広く利用されるようになった理由と真逆です。
日本で利用されている決済手段
- 現金に対する信用が高い
- 現金以外では電子マネーやクレジットカード利用者が多い
- ECサイトなどで偽物が出回る可能性はそう多くない
また、日本国内でWeChat PayやAlipayを利用しようと思っても、登録・認証手順が煩雑なために日本人で実際に利用している人はごくわずかです。日本に在住している日本人で、WeChat PayやAlipayを利用するメリットは中国に出張や旅行で頻繁に行く人以外はほぼないといって良いでしょう。
WeChat PayとAlipay両方に対応している店舗は少ないのは何故?
インバウンドを意識している企業や店舗であればQRコード決済ができるPOSレジ導入について考えたことがあるのではないでしょうか。
しかしそこで悩むのが、WeChat PayとAlipayのどちらを導入するかです。利用者数でいうとWeChat Payの方が約8億人、Alipayは約5億人と言われていますが、どちらにしても利用者数は多く、できれば両方の決済手段を導入したいと思う人が多いでしょう。店頭で見かけるのはWeChat PayもしくはAlipayですが、両方導入している店舗が少ないのはこの2つの決済サービスがライバル関係にあるからです。
ほとんどのベンダーが提供しているPOSレジシステムではWeChat PayかAlipayのどちらかしか導入できませんが、最近では両方の決済手段が利用できるPOSレジシステムを提供しているベンダーも登場しています。
日本のQRコード規格化の動き
2018年4月には経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」というキャッシュレス社会の早期実現を目指す方針を明らかにしました。7月にはキャッシュレス推進委員会を立ち上げ、まだ協議中ですがQRコード支払い普及への対応や消費者・事業や向けのキャッシュレス啓発、関連統計の整備等を行っていく予定です。またQRコードの規格統一も進められています。
参考:経済産業省
http://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180703002/20180703002.html
2月には三菱東京UFJ、三井住友、みずほの3行がQRコードの規格統一のために連携するというニュースが報じられています。
このように日本でもようやく独自のQRコード決済の規格化の動きが出ていますが、はたして効果がどれほど出るのかは未知数です。日本でもQRコード決済が利用できるサービスとして楽天PayやLINE Pay、Paymo、Origamiなど様々なものがありますが、どれも一般的に普及しているとはいいがたく、一部の人が利用しているという状況です。
電子マネーはここ数年で利用できる店舗が増加しましたが、後発のQRコード決済が出てきたとしても、利用できる店舗数が限られているのであればあまり浸透しない可能性も考えられます。日本でQRコード決済を普及させるためには、電子マネーやクレジットカードより便利でお得だとアピールする必要があります。
2020年東京オリンピック後もインバウンド需要を見込む
今後日本でQRコード決済は進んでいくかという点では、インバウンド向けであれば伸びる可能性があります。2020年の東京オリンピックではこれまで以上の訪日外国人客数が予想されるため、インバウンドに対応するため、またスムーズな決済方法を提供する意味でも導入を検討したほうが良いでしょう。
2025年に開催される国際博覧会では大阪への誘致に向けアピールが積極的に行われています。もし国際博覧会の開催地が大阪に決定すれば、東京オリンピックの5年後にも大きな伸びが期待できるでしょう。
一方、日本人が利用するQRコード決済が伸びるかどうかは不透明です。QRコード規格化の動きもあることから、QRコード決済に関するニュースをチェックしながら対応するかどうかを決めた方がよいのかもしれません。
※「QRコード」は(株)デンソーウェーブの登録商標です。