キャッシュアウト・サービスがキャッシュレス推進につながる?東急線の駅券売機で現金引き出し可能に
2019年5月8日から、駅の券売機で現金が引き出せる「キャッシュアウト・サービス」が東急線の各駅(※)でスタートします。
スマホアプリに表示されたQRコードを読み取ることで、提携金融機関の銀行口座から現金の引き出し(キャッシュアウト)が可能になるサービスです。駅の券売機で現金を引き出す必要性や、キャッシュレス化の推進を進める政府や金融業界、各関連業界との関連性について、取材しました。
※世田谷線とこどもの国線を除く
【目次】
キャッシュアウト・サービスの概要
キャッシュアウト・サービスとは、デビットカード機能を利用して銀行以外の場所で預金を引き出せるサービスをいいます。
イオンでは2018年4月から一部店舗でレジから現金を引き出せるサービスを開始。また、ATMの数が少ない環境の八丈島でもキャッシュアウト・サービスが普及していると言います。
2018年7月には東急電鉄、横浜銀行、ゆうちょ銀行、GMOペイメントゲートウェイが「駅の券売機でのキャッシュアウト・サービス開発」を発表しました。
そしていよいよ2019年5月8日から、実際にサービスが提供開始となります。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000386.000010686.html
キャッシュアウト・サービス提供の背景
キャッシュアウト・サービスが可能になった背景には、銀行法の改正があります。
2017年4月に施行された「銀行法施行規則改訂」によって、銀行口座からの払い出し業務を外部委託できるようになったのです。
今回のプロジェクト概要
利用できるのは、横浜銀行「はまPay」、ゆうちょ銀行「ゆうちょPay(2019/5/8リリース)」の利用者です。
各スマホアプリで引き出し金額を指定し、表示されたQRコードを券売機の読み取り機にかざすことで、預貯金の引き出しを可能にするサービスです。キャッシュカードがなくても利用でき、急な現金の需要にも対応できます。
利用可能時間は5:30~23:00、引き出しが可能な券種は1万円札のみで、上限は3万円。一日の利用上限も三万円です。
利用手数料ははまPayが平日108円、土日祝日が216円、ゆうちょPayは108円となっていますが、5/8~6/30までは手数料無料キャンペーンを実施するとのことです。
渋谷駅の券売機でキャッシュアウト・サービス体験
では、どのように駅の券売機から現金を引き出すのか、手順を解説します。
※はまPay、ゆうちょPayとも手順は同じです。
1:スマホアプリで現金引き出し金額を指定し、暗証番号を入力します。
2:QRコードが発行されます。QRコードの有効時間は5分間です。
3:券売機で「QRコード・バーコードを使う」ボタンをタッチ。
4:券売機のQRコード読み取り部分にスマホをかざします。
5:QRコードが認証され、引き出し金額と手数料が券売機の画面に表示されます。
6:確認ボタンを押すと、預金口座に照会、現金が出てきます。
この際、明細書が必要な場合はボタンをタッチすると、出力されます。
操作してみての感想は、券売機の前でアプリを操作すると、他の利用客の妨げになってしまいそうだなと感じました。事前にQRコードを発行しておく必要がありそうです。
ただ、様々なメニューが用意されているATMと違い引き出しだけでシンプルなので、操作は分かりやすいですね。また、暗証番号を券売機で入力する必要がないので、不特定多数が行き来する駅という場所での引き出しでも安心感がありました。
駅の券売機でキャッシュアウト・サービスを提供する意義とは
本プロジェクトにかかわった各社担当者より、キャッシュアウト・サービスを駅で提供する意義を説明いただきました。
- 生活動線上の駅を利用する利便性の高さ
- キャッシュレス化推進への近道
- キャッシュレスニーズと現金ニーズを合わせて提供
生活動線上の「駅」を有効活用
東急線の券売機は2015年からQRコード読み取り機が搭載されています。定期券の予約番号を入力する手間を省くために搭載されたQRコード読み取りシステムを、今回新たにキャッシュアウト・サービスに有効活用したということです。
現金の流通がなくならない限り、日常的にキャッシュレス決済を利用していても、現金が必要な状況は引き続き生まれると考えています。そのためキャッシュレス化の普及のためには、いざ現金が必要な時にストレスなく現金が入手できる状況でなくてはなりません。
ATMやコンビニを探し回らず、現金が手に入る安心感、環境整備が必要と考えています。
生活動線上にある「駅」は最適であり、また「券売機」は改札口付近に必ずあるため探し回らなくても場所の把握ができる最高のツールだと思います。
ICカードやスマホアプリの普及により券売機の利用率は低下しており、キャッシュレス化の進展が予想されていますが、社会インフラとして現金がある限り、駅にある券売機はなくならないでしょう。
この特性を活かし、地域の現金取り扱い拠点として沿線の皆さまの利便性に貢献していきたいと考えています。
なぜ今キャッシュアウト・サービスなのか~キャッシュレス化推進への近道~
スマホによるキャッシュアウト・サービスは日本におけるキャッシュレス決済普及の近道になるのではないかと考えます。
日本人がスマホのQR決済をあまりやらない理由は、ある調査では「うまくできなかったら恥ずかしい」「後ろに他の人が並んでいるのに失敗したらどうしよう」といった意識があるからだと出ていました。
キャッシュレス決済に抵抗があるユーザーが多いのであれば、まずは身近な駅の券売機でQRコードを使って現金を引き出す、キャッシュアウト・サービスの体験を通じて慣れてもらい、それからキャッシュレスでお買い物をしていただければいいのではないかと思います。
また、横浜銀行では病院の自動精算機でのキャッシュアウト・サービスも準備をしております。スーパーのセルフレジや調剤薬局のチャージ機などから現金を引き出せたら便利だ、という意見もいただいております。
そうした中で東急電鉄様を始めとした鉄道事業者様、スーパー、病院など身近な場所でQRコードによるキャッシュアウト・サービスが普及すれば、キャッシュレス決済の場面でも抵抗なく利用していただけるのではないかと考えております。
キャッシュレスニーズと現金ニーズを合わせて提供
5/8、キャッシュアウト・サービスの提供開始と同時に「ゆうちょPay」をリリースする予定です。
ゆうちょPayは銀行口座直結型の決済サービスで、身近な存在となったスマホを活用したサービスです。
ゆうちょPayを通じて、ゆうちょ銀行の口座をお財布代わりとして使っていただき、新しい便利を提供できるサービスとなっています。
店頭での利用や、自宅に届く払込票の支払いの際にゆうちょPayを使えば、その場で決済が完結します。
これにキャッシュアウト・サービスを加えることで、キャッシュカードを使わずにキャッシュレス・キャッシュアウトが可能になり、より利便性の高いサービスをご提供できるようになります。
キャッシュレスニーズと現金ニーズを合わせて提供し、様々なお客様のニーズに広く応えていきたいと考えています。
鉄道事業者様が運営している交通系ICカードとの連携なども視野に入れ、更なる利便性の向上や、様々な業態の事業者様と連携することで全国に輪を広げていければと思います。
銀行Payの仕組みとキャッシュアウト・サービス基盤について
銀行Payは決済事業のひとつとして横浜銀行様と2016年に共同開発しました。
銀行口座と連動したスマホ決済サービスで、各金融機関様にOEMでシステムを提供、口座保有者と法人顧客様にご提供いただいています。
読み取り方式はCPM、MPM両方式に対応しています。
銀行Payという総称にしていますが、はまPay、ゆうちょPayの他、地方銀行各行で導入されています。相互乗り入れという形でマルチバンク対応となっているのが特長で、銀行、地域を超えて決済ができるインフラとなっています。
キャッシュアウト・サービスについては、この銀行Payのシステム上にキャッシュアウト基盤を構築し、券売機とのAPI連携をおこなってQRコードをかざすと現金が引き出せる仕組みになっています。
銀行Payは、POSレジや決済端末、自動精算機、調剤薬局の管理システムなど外部デバイスとの連携を実現しており、今後も増やしていきたいと考えております。
ただ、どこがQRコードを持つか、といった観点からも店舗などでの引き出しは検討中です。自動精算機など現金を保持しているところから引き出すことは視野に入れています。
まとめ
政府や金融機関、関連業界がキャッシュレス化を推進するなか、現金引き出しサービスを提供する…一見時代に逆行するようなサービスですが、プロジェクトのコンセプトにはキャッシュレス化が内包されており、実際に運用が開始されて利用率が上がることでキャッシュレス決済がより身近になっていく可能性があると感じました。
POSレジやセルフレジ、自動精算機といった現金を保持するシステムとの連携も新たな店舗運営のミライが見えるプロジェクトではないでしょうか。