小型店舗はミニマルに多様化。「勝つための縮小傾向」がトレンドに
広大なスペースに豊富な品揃えをアピールポイントとした大型店舗のみを良しとする風潮に変化が起きています。
小型店舗が注目されている背景には、慢性的な人的リソース不足やECの利用増加といった事柄が挙げられますが、コロナの影響も小さくはありません。在宅勤務やステイホームの傾向が一般化したことで、大型店や百貨店のある大きな駅を利用する人口そのものが減り、顧客とのタッチポイントが得にくくなっています。
これまで大型店を多数出店していた企業が、住宅地のようないわゆるワンマイル圏内に小型店を出店する動きもみられるようになりました。ECを利用する年齢層も一気に広がり、注文から30分以内に商品を届けるクイックコマース(即配)の需要もじわじわと高まっています。
変容する消費者のニーズに応えるためには、DX化を活かした戦略的な小型店舗を考える必要があります。
本稿では、今後のトレンドとしての小型店舗について掘り下げながら、小型店舗の戦略的運営にとって知っておきたいリテールキーワードについてまとめています。
今後の実店舗のトレンドは「小型店舗」へ
どれだけ在庫を置いても余裕のある広大な店舗、訪れるだけで消費者のワクワクした気持ちを呼び起こすようなアミューズメント施設的な大型店は、過去のトレンドとなりつつあります。
現在注目を集めているのは、小さなスペースを使って体験や地域に特化したラインナップを提供する、ミニマルな店舗です。
日本だけでなく、米国をはじめとした海外でもコンパクト化が進んでいて、購買行動をECへと移行させる完全な体験型店舗も珍しい存在ではなくなりつつあります。
百貨店等の大型店舗は縮小傾向続く
伸び悩みの百貨店では、2006年頃から現在に至るまで縮小傾向が続いていました。
歴史のある大手の百貨店同士が相次いで経営統合、合併し、生き残りをかけるという戦略は2007年〜2009年頃にもっとも顕著となっています。
また、2010年以降は、百貨店がいくつかの拠点を閉館し、より規模を縮小させて営業を続けるというニュースがいくつも発表されました。
近年の百貨店は、専門店の集合体という強みを活かした経営が目立ちます。ある特定の要素に特化したラインナップを売りにしたり、ラグジュアリーなイメージを活かしたプロモーションを展開したりと、規模を縮小して百貨店の価値を高める手法がみられます。
従来は広い売り場面積を基本としていたブランドやセレクトショップが、80坪程度の小型店としてインショップ出店する等、生き残りをかけた試行錯誤が行われています。
建築トレンドも「小型店舗」に注目
コンビニのような元からミニマルな店舗を居抜きで使い、飲食店が小さな飲食スペースを備えたテイクアウトショップを出店するのも、小型店舗トレンドの一つの傾向です。
従来は「国内最大級」や「地域最大規模」といった謳い文句は、魅力的なキーワードになっていました。
ですが、EC利用が簡単かつ便利になったことで、広い売り場面積や豊富な品揃えは以前ほど強力なアドバンテージではなくなっています。広い店舗を構えても、売上に直接的な影響を与えられなくなってきているのです。
こうした動きを受けて、建築の分野も小型店舗に注目しています。
米国の建築コンサルタントは、実感として店舗面積の縮小化に向かっていると発信しています。店舗の役割が豊富な品揃えを誇るのではなく、その場でしか体験できないことに特化したスペースになっていく可能性は充分にあります。
店舗を縮小すると、家賃や光熱費といったランニングコストも少なくなり、少数の従業員で運営可能になるため、人件費も低く抑えることができます。
先に挙げた百貨店の縮小化も、実店舗を購入する場としてだけでなく「体験」やブランドイメージ発信に活用する動きの一環といえるでしょう。
店舗に二次元コードや専用端末を設置すれば、体験型店舗から自社ECへとシームレスに遷移できるため、購買体験もスムーズです。
今後は、こうした体験型店舗とECの連携をいかに密接かつ円滑にしていくかが、実店舗運営の重要なポイントとなることは間違いありません。
小型店舗にまつわるリテールキーワード
コロナウイルスによって大きく変わった生活。
元に戻る事柄もありますが、戻らないものもあります。
例えば、購買体験としての対面接客は、顧客にとって何にも代えがたい独特な体験であり、アフターコロナでも復活するだろうと考えられています。
しかし、オンラインショッピングや無人店舗といった消費者にとって便利に感じる体験は、コロナの影響がなくなってからも「当たり前のもの」として普及する可能性が高いといえます。
もうひとつ、小型店舗のあり方に影響を与えそうな事柄に在宅勤務やオンライン学習の普及があります。
自宅にいる時間が長くなったことで、自宅周辺の店舗を利用する傾向が強まっています。通勤で使う大きな駅で買い物をする習慣が減っていき、代わりに生活圏や自宅から近距離(ワンマイル)での買い物需要が高まっているのです。
すでに、大手家電量販店が住宅地を中心に小型店舗を出店したり、コンビニエンスストアが1坪(3.3平方メートル)の超小型無人店を拡大させたりといった動きがみられます。
生活圏の近場消費に関連したリテールキーワードには、次のようなものがあります。
無人店舗
無人店舗は、従業員が常駐する必要がないため、1坪のような小さなスペースから出店できる店舗形態です。
無人店舗は対面接客がないため、感染症対策の観点からもリスクヘッジになります。
また、省スペースでランニングコストを削減できる上、人件費もかからないため比較的低コストで出店できるのも注目されているポイントのひとつです。
監視カメラを活用して一人の従業員がオフィス等、別の場所からから複数店舗をチェックできるシステムを備えた古着店、学生や若い世代を集まりやすい土地柄を活かした無人家電リサイクル販売店、小型店舗の究極形態ともいえる自販機型コンビニ等、商圏と店舗特性を活かしたシステムによって売上を上げている無人店舗が次々と登場しています。
こうした極小規模の小型店舗は、工場や病院、マンションといった限られた人しか出入りしない場所に設置できるのも強みです。
近所にスーパーやコンビニがない、スキマ時間にわざわざ外出するのが億劫といった需要にマッチさせるのが狙いで、売上高が大きくなくても出店費用が高くないことから採算を確保しやすいシステム設計ができます。
ダークストア
ECの注文対応に特化したダークストアは、倉庫のようにピッキングと梱包そして配送のみを担う店舗だけでなく、店頭受け取りサービスの窓口を備えている店舗もあります。
コロナ禍によって閉店を余儀なくされる店舗は増加の一途を辿っていますが、その活用方法としてダークストアは注目されています。閉店させた店舗を、ECのフルフィルメント機能(注文受付・決済・在庫管理・物流・アフターフォロー)として活用すれば、新しくECの拠点を作ることなくオンラインストアを運用することができます。
後述の体験型店舗、D2Cといった新しい販売スタイルを始める場合にも、従来の店舗を有効利用して効率の良いECシステムを構築できるかもしれません。
クイックコマース
ダークストアとうまく連携することで顧客にさらなる利便性を提供できる可能性は、クイックコマースに見出すことができます。
クイックコマースは別名を即配サービスといい、顧客が注文してから概ね30分以内に配達が完了することを特徴としています。
EC注文やネットスーパーの宅配よりも早い配達が可能になるため、食料品や日用品の分野で特に注目が集まっています。
注文から30分以内という迅速な配達を可能にするためには、ダークストアとのシームレスな連携やショップ在庫の円滑な管理といった要素が不可欠です。
倉庫、店頭(ダークストア)、物流を包括的なシステムで管理することによって、分単位で利便性を提供するクイックコマースは実現します。
体験型店舗
体験型店舗は、文字通り商品を試すことに重きを置いた店舗のことです。
消費者が商品を気に入った場合、製品の購入はオンラインショップで行います。
「売らないお店」ともいわれる体験型店舗は、特に実際の体験を重視するミレニアル世代を中心とした若い世代に支持されています。
この世代は、EC利用が積極的な世代でもあります。体験型店舗に設置した専用二次元コード等から商品を購入するという動線に、親しみやすい層ともいえるかもしれません。
実際の製品を試す体験型店舗だけでなく、採寸やカラー診断によって似合うアイテムを探し出すパーソナライズな体験ができる店舗もアパレルやコスメの分野で注目されています。
D2C
D2C(Direct to Consumer)は、企業が直接消費者に向けて販売することでブランドイメージの確立や、ロイヤルカスタマーの育成にも有益と考えられています。
流通業者を通さないことで消費者の声を直接チェックすることができるため、中長期的な企業成長に役立つデータ収集も可能です。
海外では、D2Cを行うブランドや店舗が増加傾向にあり、ネットと実店舗の両方で相乗効果を狙う展開もみられるようになっています。
D2Cの延長線上には、メタバースのような仮想空間でデジタルアイテムを売買することや、インフルエンサーを通じて自社製品を販売する手法も広がっています。D2C自体は数年前から存在している考え方ですが、今後も進化していく可能性があるといえます。
消費行動の変化に対応した店舗づくりを
消費行動が大きく変わったきっかけには、コロナウイルスの拡大がありますが、それまでにも人々の行動は少しずつ変容してきました。
また、現代は、SDGsやエシカル消費といった価値観の台頭によって、企業と消費者の双方が意識改革を求められるという時代でもあります。
これからの店舗運営は、変わり続ける消費者の意識や、取り巻く状況に合わせた対応が求められていきます。デジタル社会の変化はスピードが速く、またビフォアデジタルとは比較にならないほど多様性に満ちています。
こうした変化に対応したアップデートが実店舗運営にとって必要となるでしょう。
スピード感のある変革を成し遂げるためには、日頃のデータ蓄積とその的確な分析、各部署の円滑な連携が鍵を握ります。