小売店がオープンデータをDXに活用するには
国や官公庁が公開する「オープンデータ」には、企業がビジネスを成長させるために必要な情報がたくさんあります。しかしデータを公開する自治体側と利用する企業側の両方において活用は芳しくなく、様々な課題が残っている状態です。
デジタル時代となりデータが溢れている今、企業はオープンデータを活用する事でより最適なビジネス戦略が行えるようになります。
この記事では、オープンデータの概要と活用事例、企業がオープンデータを活用するために行うべきことをご紹介します。
小売店がオープンデータをDXに活用するには
国や自治体が公開するオープンデータには、小売店が有効に活用できる情報が散在しています。オープンデータを取り入れてビジネスに活かすためにも、DXへの取り組みが必要です。
オープンデータとは
オープンデータとは誰でも使えるように公開されたデータのことであり、分析など二次利用を前提として公開されるものです。オープンデータは無償で公開され、企業はもちろん国民全員がインターネットを介して簡単に利用できるものを指します。
1人1台のスマホやPCが当たり前となった今、世の中には膨大なデータ(ビッグデータ)が生まれています。そのデータを放置して宝の持ち腐れにすることなく、積極的に公開していくことで社会全体で有効活用する時代となりました。
▼オープンデータの種類
国は、以下のようなデータをオープンデータ化するよう各自治体に推奨しています。
- AED設置箇所一覧
- 介護サービス事業所一覧
- 医療機関一覧
- 文化財一覧
- 観光施設一覧
- イベント一覧
- 公衆無線LANアクセスポイント一覧
- 公衆トイレ一覧
- 消防水利施設一覧
- 指定緊急避難場所一覧
- 地域・年齢別人口
- 公共施設一覧
- 子育て施設一覧
- オープンデータ一覧
引用:オープンデータセンター「日本政府はどんなデータをオープンデータ化するよう推奨しているのでしょうか?」
https://odc.bodik.jp/ufaqs/prepare14/
例えば国が提供しているオープンデータ活用サイトe-Statでは、以下のようなデータが入手可能です。
- 家計調査
- 社会生活基本調査
- 国民生活基礎調査
e-Stat公式サイト
https://www.e-stat.go.jp/
消費者の家計や生活といった情報は、小売業におけるマーケティングに大変有効活用できます。
何をオープンデータとするかは、公開する側が公開済のデータを含めて利用者のニーズなどから検討します。利用する側は、民間団体や自治体が運営するWebサイトからダウンロードして入手できます。
▼ オープンデータの利活用状況
中小企業の経営者および役員400人を対象としたアンケートでは、オープンデータを自社で活用した経験がある企業は約20%でした。つまり約80%の企業はオープンデータを活用した経験がなく、日本は決してオープンデータが浸透している状況ではありません。
株式会社コネクトデータプレスリリース:中小企業の経営者・役員に聞いた「オープンデータの活用に関する調査」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000069789.html
一方でオープンデータを公開している企業は、2021年7月時点で約66%でした。政府は2020年までにオープンデータ化100%を目指していたため、自治体側も難航していることがわかります。
総務省「オープンデータ取組済自治体一覧」
https://cio.go.jp/policy-opendata#jichitaisuu
中小企業が抱えるオープンデータ活用の課題
前述のアンケートによると、企業がオープンデータの活用で抱える主な課題は以下の4つです。
- コスト面の懸念
- オープンデータを活用できる人材の不足
- 欲しいデータが見つからない
- データ収集に時間がかかる
オープンデータ活用は高い経済効果があるとされますが、データ活用は費用がかかるため多くの企業がコスト面で導入が進まない状況です。またオープンデータを使ってみても、「欲しいデータがない」「形式がバラバラで前処理に時間がかかる」と有効活用できなかった企業も少なくありません。
ECでは年間22.5兆円もの市場規模を持つオープンデータですが、上記のような理由から日本では難航しているのです。
DXに活用するカギは「オルタナティブデータ」にある
企業がオープンデータをDXに活用するためには、オープンデータを基とした「オルタナティブデータ」がカギとなります。
オルタナティブデータとは今まで活用されてこなかったデータのことで、具体的には位置情報や決済情報、クレジットカードデータなどがあります。対義語はトラディショナルデータで、財務情報や経済統計といった投資業界で伝統的に使われてきたデータを指します。
企業は顧客エンゲージメントの最適化など自社の目的達成のためにオープンデータを活用することで、より効果的にDXを進められるのです。
オープンデータの活用事例
すでに国内でもオープンデータを活用する企業は増えています。国内でのオープンデータ活用は難航していますが、その中でもビジネスに活かしている事例があります。国内で進むオープンデータの活用事例を4件ご紹介します。
スシローはオープンデータで日々の売上を分析
大手回転すしチェーンあきんどスシローは、2021年6月からオープンデータを提供する「CO-ODE(コ・オード)」を採用したと発表しました。スシローはCO-ODEが提供する天候情報を活用して、日々の売り上げ分析を行うことを明らかにしています。
CO-ODEは自治体や国が公開しているオープンデータを加工して配信・提供するサービスで、利用者が分析しやすい点が特徴です。
さまざまな自治体から提供されるオープンデータは、形式が統一されていません。そこでCO-ODEのようなサービスが間に立つことでデータ形式を統一して、オープンデータを活用しやすくなるのです。
新型コロナウイルス感染者数をダッシュボードで確認
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。国内では、都道府県ごとに感染者数や病床数、使用率を一覧で確認できる「新型コロナダッシュボード」でオープンデータが使われています。
サイトでは全国の患者数や対策病床数の他、累積退院者や死亡者といった数も確認できます。都道府県ごとに感染率を一目でチェックできるこのダッシュボードは、各地方自治体が提供するオープンデータを基に作成されているのです。
おでかけサイト「いこーよ」は自治体と連携
子どもお出かけサイト「いこーよ」は国内最大級の情報サイトで、各自治体が公開しているオープンデータを活用していることで知られています。すでに多くの自治体と連携しており、より自治体のオープンデータを有効に活用しているサービスです。
2018年には国のオープンデータ活用事例「オープンデータ100」に選定され、多くの消費者に利用されています。
参照:いこーよ公式サイト|プレスリリース
https://iko-yo.net/press/releases/347
飲食店の持ち帰りやデリバリー情報をオープンデータ化
エンジニアの民間団体コード・フォー・ジャパンは2020年7月、飲食店のテイクアウトやデリバリー情報をオープンデータ化する「OPEN EATS JAPAN」を立ち上げました。
これは飲食情報を扱う企業や民間団体と協力して標準フォーマットを作る取り組みで、誰でもアプリやサービスで利用できるオープンデータの構築を目指すものです。飲食店の名称や所在地、メニュー以外にもテイクアウトやデリバリー対応状況といった項目を「飲食店情報オープンデータ項目定義書」として標準化し、Googleスプレッドシートに集約しています。
コロナ禍でテイクアウトやデリバリー対応が急ピッチで進む飲食企業にとって、有効なデータが集まるサービスです。
ZOZOは10年分のファッションデータをオープンソース化
ファッション通販サイトを運営するZOZOテクノロジーズは、2021年9月に「Shift15M」というデータセットをオープンソースとしてGitHubで公開しました。
Shift15Mが公開するデータは、服のコーディネート約255万件と200万件を超えるアイテムを含むデータセットなどです。服のコーディネートを試せる「IQON」というアプリで2010~2020年内に投稿されたコーディネート情報や投稿日時、いいねの数といったデータを公開しました。
Shift15Mのデータは、アパレル企業などが商品開発・戦略などに活用できるでしょう。
自社のDXに必要なデータをオープンデータから得る
データ経営が重視される時代となり、企業では社外の膨大なデータが必要となりました。世の中にあふれるデータは活用できなければ無用の長物であり、社会に貢献できません。
DXでビジネスを変革するには、オープンデータをはじめ外部のデータが必要なのです。
自社だけのデータでは限界がある
顧客の年齢や家族構成、購買履歴といった社内のデータは重要です。しかし、より確かな経営戦略を打ち立てるためには外部情報が欠かせません。
特に昨今では新型コロナウイルス感染症により、世の中が目まぐるしく変化しています。感染拡大状況や天気情報など社外のデータと社内データを上手く活用しなければ、ビジネスにおいて最適な答えは導き出せないのです。
国の働きかけにより自治体がオープンデータを進めている以上、企業は自社に必要なデータを集めてより効果的に課題解決を行う必要があります。
自社に必要なデータとは
オープンデータやビッグデータなど、膨大なデータを扱う時に悩むことといえば「何が必要なのかわからない」という点です。データの量が多すぎるからこそ、その扱いに悩む企業は少なくありません。
自社に必要なデータを見極める大きなポイントは「目的」です。データ収集や活用には必ず目的があります。「顧客の年齢層を知りたい」「ECサイトの購買率が高い時間を知りたい」「顧客満足度を高めたい」など、企業によってデータを活用する理由は様々です。
一般的に、データの分析は以下のステップを経て行います。(※)
- 目的の設定
- 分析課題の設定
- データ収集と設定
- データ加工
- データの見える化
- データ分析
- 戦略の策定と効果の検証
オープンデータの活用は、3のデータ収集と設定からです。つまりオープンデータ活用の前には、目的や課題の設定が必要です。
オープンデータのような膨大なデータを活用するためには、上記のような手順を把握し、データ活用のノウハウを持った人材が必要です。データを使いこなす技術があってこそ、オープンデータが「企業の宝」となります。
企業全体による体制づくりが急務
前述の通り、オープンデータの利活用には官・民両方で課題が残ります。オープンデータを受け取る側である民間企業は、コスト・スキルの面でデータを活用できる環境が構築できていない企業が少なくありません。
データ活用を妨げる主な要因として、「経営方針や戦略が具体的に定まらない」「分析する人材や組織が不足している」「データ活用に必要な投資が十分ではない」という3つが挙げられます。
小売業がオープンデータをビジネスに活用するためには、上記の課題解決が必須です。ただペーパーレス化などデジタル化を進めることがDXではなく、ビジネスそのものを進化させなければいけません。
経営層にも、データ活用に明るい人材の配置が必要でしょう。ノウハウを持った人を巻き込むことでDXのための経営方針が明確になり、施策が進みやすくなります。
また社員にもデータ活用ができる人材を増やすだけではなく、人事評価基準の見直しや風通しのいい社風づくりなど、身近な部分から変革させる必要があります。
会社全体でDXを受け入れる体制を作ることで、オープンデータの活用が進みビジネスを進化させられるでしょう。