Amazon Fresh、Amazon Go Grocery——Amazonの実店舗戦略をひも解く
米Amazonは、去る8月下旬に、本格的なスーパーマーケット型業態の実店舗、「Amazon Fresh」を、カリフォルニア州ウッドランドヒルズにオープンさせました。
今年に入ってAmazonは、2月に「Amazon Go Grocery」の1号店をワシントン州シアトルに、9月初旬には同2号店をワシントン州レドモンドにオープンさせるなど、実店舗展開を加速させています。
Amazonが仕掛ける実店舗だけに、それらは全て、OMOの視点で突き詰められた質の高い購買体験を提供するタッチポイントになっているようです。
目次:
- 「Amazon Fresh」1号店と「Amazon Go Grocery」2号店、相次いでオープン
- Amazon Freshの特徴は?
- オンラインショッピングと実店舗をシームレスに繋ぐOMO店舗
- Amazon FreshとAmazon Go Groceryの違い
- ショッピングカート「Dash Cart」が実現する、顧客対応自動化の形
- ショッピングカートが実店舗での購買体験を変えていく未来
「Amazon Fresh」1号店と「Amazon Go Grocery」2号店、相次いでオープン
COVID-19の影響をまともに受けている米国の小売業界。その中にあって、4-6月期に過去最高の売上高および純利益を記録したAmazonは、その勢いをさらに加速させるかのように、8月27日に「Amazon Fresh」1号店を、そして9月9日には「Amazon Go Grocery」を相次いでオープンさせました。
これらAmazon肝煎りの実店舗、その共通項は、どちらも「レジレス」が一つの軸になっている、というところです。
Amazon Freshの特徴は?
カリフォルニア州ウッドランドヒルズにオープンしたAmazon Freshは、店舗面積約3,250平方メートルの食品スーパーです。
肉や青果など生鮮食品に加えて、加工食品、大手ブランドの飲料、そしてAmazon傘下であるWhole Foods Marketのプライベートブランド「365」の商品も扱っています。
Amazonの店舗だけに、スマートスピーカーの「Amazon Echo」などが並んだり、Amazon Prime会員であれば商品ピックアップや当日配達などのサービスも利用可能になります。
オープン直後は一部の招待客のみが利用可能ということで、そこでオペレーションやシステム等の検証を行い、間も無く一般客にも開放されると見られています。
店内には至る所にアレクサ(AmazonのAIアシスタント)と会話できるディスプレー「エコーショー」が設置されていて、商品が陳列されている場所をアシストするなど、顧客の買い物体験をサポートしています。
Amazon Freshのレジレス店舗としての肝は、最新のスマートショッピングカート「Dash Cart」にあるのですが、これについては後ほど詳述します。
レジレス店舗とは言っても、その場でオーダーを受けて惣菜を調理するスタッフや、通常の有人レジ担当など店舗スタッフは比較的多く、この辺り、アリババの「フーマーフレッシュ」が話題になったときと似たような印象を受ける部分です。
オンラインショッピングと実店舗をシームレスに繋ぐOMO店舗
もう一点、Amazon Freshの大きな特徴は、単なるスーパーとしてだけでなく、Amazon.comでのオンラインショッピングと実店舗をシームレスにつなぐタッチポイントになっている、という部分でしょう。
店内のカスタマーサービスステーションでは、Amazon.comで購買した商品を受け取ったり、返品をすることも可能です。これによって顧客は、日々の買い物のついでに、オンラインで購入した商品を確実にピックアップすることができます。返品についても同様で、しかも、返品する際は箱にパッキングする必要もないということで、購買体験としては非常に優れていると言えます。
加えて、店舗の横には数は多くないものの駐車スペースがあり、顧客が希望すれば、オンラインでオーダーしたAmazon Freshの商品、あるいはAmazon.comで購入した商品をカーブサイドピックアップ(屋外までスタッフが商品を届けてくれるピックアップ方式)できます。
これは、米国の小売業・飲食業では数年前から主流になりつつあるサービスですが、「店内に入ることなく商品が受け取れる」というオペレーションは、COVID-19の影響によって改めて注目されています。
オンラインストア、実店舗、フルフィルメントが連携することで、顧客に対し、好きなタイミングと場所で商品を購入したりピックアップしたりする自由を提供しているという意味で、Amazon Freshは非常にOMO的な視点が入った実店舗なのです。
Amazon FreshとAmazon Go Groceryの違い
Amazon Freshと同じく、生鮮食品を取り扱うAmazonの実店舗、Amazon Go Groceryも、9月9日に2号店をワシントン州レドモンドにオープンさせています。
こちらは、同じレジレス店舗でも、スマートカートは活用せず、元祖Amazon Goと同様に、天井に設置された大量のAIカメラとセンサーを用いて顧客が購入した商品を識別する仕組みになっており、この2つの実店舗ブランドはコンセプトもターゲットも明確に異なっていると言えます。
Amazon Go Grocery2号店の店舗面積は約1,200平方メートルと、Amazon Freshと比べると比較的小規模であることと、決済手段はレジレスのみに特化していることから、より買い物の規模が小さい顧客をターゲットにしていると考えられます。もう一点は、レジレスを実現するための技術向上に向けての実践的PDCAを回す場所としての位置付けも大きいと思います。
一方でAmazon Freshも、スマートカートに乗せていいバッグは2つまで、と決して大量の買い物をする顧客がメインターゲットにはなっていないようですが、通常のカートと有人レジを配置することで、それらのニーズを持つ客にまで対応する幅の広さを持たせています。
加えて、サービスカウンターの充実度やカーブサイドピックアップの導入などから考えると、Amazon Freshの方が、よりOMO的な視点を意識した実店舗展開であると言えるでしょう。
ショッピングカート「Dash Cart」が実現する、顧客対応自動化の形
Amazon Freshのユニークさを決定づけているのが、最新型のスマートカート「Dash Cart」の存在です。
自動化されたショッピングを体験したい顧客は、来店した際に、スマートフォンを使ってAmazonアプリに表示されたQRコードをDash Cartに読み込ませ、Amazonアカウントとリンクさせます。その瞬間、Dash Cartは、顧客の有能な相棒になるのです。
Dash Cartにはコンピュータ・ビジョンのアルゴリズムと自動運転分野で開発が進むセンサフュージョンの技術が使われていて、顧客は何も考えず商品を入れるだけで、カートが自動的にバーコードを読み取り、あるいは青果の重量を測って合計額を算出してくれます。そして、Dash Cart専用レーンを通過することで、レジ待ちすることなく決済を完了することができます。
加えて、顧客のAmazonアカウントとリンクしていることで、アレクサのショッピングリストを開いて、希望する商品が店舗のどこにあるかを教えてくれたり、カートに入れた商品と関連した商品を適切に提案してくれたりもするのです。
ショッピングカートが実店舗での購買体験を変えていく未来
Amazon Goのような大量のカメラとセンサーを要する「完全自動化」は膨大なコストがかかり、多くの企業にとって多店舗展開はまだ現実的に検討できるものとは言えないでしょう。加えて、日々の食料品の買い出しというシーンを考えた時、大量の商品を入れるカートがタッチポイントにしようという考えに至るのは、ある種必然的なことです。
したがって、スマートカートを活用した顧客対応の自動化は、現状、コスト的にも、効率的にも非常に理にかなっていると言えるのではないでしょうか。
この考え方に行き着く企業は他にもあり、例えば米国ではCaperというスタートアップ企業がスマートカートを軸にしたショッピングシステムをサービスとして提供をしています。
国内でも、スーパーセンター「TRIAL」において、Dash Cartと同様のコンセプトを持った「トライアルレジカート」を導入しています。
会計時の待ち時間を大幅に削減し、購買体験の質を高めてくれるスマートカートを活用した顧客対応自動化の考え方は、例えば日本の敷地が狭いスーパーマーケットでも、手に持つタイプの買い物カゴに応用できるもの、と考えられます。
AmazonからはまだDash Cartのシステムを外販するという話は出てきていませんが、Amazon Goのシステムがそうなっていることを考えると、いずれ外販されても不思議ではありません。前述したCaperやトライアルのような企業が、これからどんどん小売企業とタッグを組んで、カートや買い物カゴから実店舗での購買体験を変えていく未来が待っているかも知れません。