サーキュラー・エコノミー(循環型経済):日本のヒントになる海外事例をご紹介!
大量生産、大量消費といった直線型の経済に代わる概念として欧州を中心に盛り上がっているのがサーキュラー・エコノミー(循環型経済)という考え方です。
サスティナブル(持続可能)な社会を維持するための新しいビジネスのあり方は、まだ日本での事例が少ないですが、今後世界的なトレンドになっていく可能性も。この記事では、
- サーキュラー・エコノミーの概要
- アクセンチュアの提示している類型
- 環境省の見解と海外事例
についてご紹介しています。
目次:
- サーキュラー・エコノミー(循環型経済)とは
- サーキュラー・エコノミーと循環型社会の違い
- 環境省は「共有」でサーキュラー・エコノミーを実現する考え
- アクセンチュアによるサーキュラー・エコノミーの類型
- サーキュラー・エコノミー海外企業の事例
- アムステルダム市は行政主導でサーキュラー・エコノミーに
- サーキュラー・エコノミーは日本にも浸透するか
- 日本のサーキュラー・エコノミーが目指すのは品質の高さ
サーキュラー・エコノミー(循環型経済)とは
サーキュラー・エコノミー(Circular Economy)は「循環型経済」と訳され、頭文字をとってCEと略されることもあります。
再生し続ける経済環境という概念で、製品や部品といった資源の価値を減らすことなく永続的に再生するビジネスモデルをさします。
このビジネスモデルは、産業革命以来続いてきた消費行動とは大きく異なる経済の概念として注目されています。
直線型経済から循環型経済への移行
世界は、長らく大量生産・大量消費の原則にしたがって経済を回してきました。資源を取得し、それをもとに製品を作り、売れなくなったら廃棄するという従来の経済は、直線型経済といわれます。生産から廃棄までモノが一方通行に流れていくためです。
しかし、こうした直線型経済は結果として深刻な環境破壊をもたらしました。また、資源は無尽蔵ではなく、枯渇するものも少なくありません。ゆえに今、直線型から循環型経済への転換が求められているのです。
欧米では、2050年頃に現在の社会が持続不可能になるという見通しが浸透しています。サーキュラー・エコノミーの実現は、世界や社会を持続可能にするためにも不可欠といえるかもしれません。
サーキュラー・エコノミーと循環型社会の違い
現在、10~20代の若者を中心にサスティナブル(持続可能)な社会を求めて世の中を変えたいという動きが高まっています。これにともなって、「循環型社会」という考え方も浸透しつつあります。循環型社会とは、使用済みのモノをリサイクル業者に託すことによって燃料や材料として再利用され、結果的にモノが循環し、社会で回っていく概念のことをいいます。いわば、個人や企業がそうした再利用の考え方をもつことで無駄を減らし、資源をできるだけ有効活用しようという考え方のことです。
サーキュラー・エコノミーが循環型社会と違う点は、生産の段階から再利用を視野に入れてプロジェクトを立てるということです。企業は、使用後の再利用方法、再利用先を検討してものづくりをおこない、生産・販売をおこないます。
環境省は「共有」でサーキュラー・エコノミーを実現する考え
環境省は、サーキュラー・エコノミーの実現には、3R(リデュース・リユース・リサイクル)のうちリデュース、リユースを重視する見解を示しています。
具体的にはシェアリング・エコノミーの拡大をはかることで、天然資源投入量、廃棄物発生量の削減、CO2排出量の削減を達成することができ、環境保全につながるとしています。
参考:環境省「平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
第1部第3章第3節 モノは所有から共有へ
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010303.html
アクセンチュアによるサーキュラー・エコノミーの類型
環境省は、シェアリング・エコノミーを重視していますが、総合コンサルティング会社アクセンチュアによって示されたサーキュラー・エコノミーの類型には、次のようなものがあります。
再生型サプライ
再生型サプライとは、100%再生できる、もしくは生物分解が可能な原材料を用いて生産することを意味します。製品が廃棄されることになっても「ごみ」にはなりません。
分解されずに流出した使用済みストローが、海の生物を傷つけているという報道がなされて久しいですが、生物分解可能な原材料を使用することによって、こうした環境破壊も減らすことができるでしょう。
回収・リサイクル
これは、現在おこなわれている一般的なリサイクルだけでなく、これまで廃棄物とされてきたあらゆる物を活用することを前提としたシステムづくりをさします。サーキュラー・エコノミーに即した生産・消費のシステムを構築することを説いています。
製品寿命の延長
買い替えを前提とした製品づくりではなく、回収・保守・改良といったプロセスによって製品寿命を延長し新たな価値を付与することが提唱されています。
シェアリング・プラットフォーム
日本の環境省が現在推進しているのがこちらのシェアリング・プラットフォームの強化です。
製品の貸し借りや共有、交換によってより効率よくさまざまな人が製品やサービス・時間を利用できるようにするのが理想です。
サービスとしての製品
サブスクリプション・サービスもこれに合致するシステムのひとつといえるでしょう。
製品・サービスを利用した分だけ支払うことは、販売「量」を重視することから「成果」重視に変わることをも意味します。この価値観によって、大量に販売する従来の方法を脱却することができると考えられています。
サーキュラー・エコノミー海外企業の事例
日本ではまだなじみの薄い印象のあるサーキュラー・エコノミーですが、海外では多くの企業が実現を目指して取り組みをおこなっています。
欧州を中心に、事例を紹介します。
オランダ「フェアフォン」
オランダのスタートアップ企業フェアフォン(Fairphone)は、2013年に世界初となるエシカルなモジュール式スマホを発表しました。
現在は第3世代まで発売されています。
フェアフォンは、壊れたり不具合を起こしたりしているパーツだけを買い替えすることで長く使い続けられるという特徴があります。ユーザーはバッテリーのみ、カメラのみ、ディスプレイのみを必要に応じて買い替えしながら使い続けることができます。
フェアフォンは、製品のあり方だけでなく原材料や製造の過程にも気を配っており、フェアトレードから得たレアメタルを使用、組み立て工場では従業員が安全で健康に働くための制度を取り入れています。
オランダ「フィリップス」
オランダの大手電機メーカーであるフィリップスは、日本国内では電気シェーバーや電動歯ブラシなどでおなじみです。
実は1891年に炭素フィラメント電球を製品化して販売した老舗企業ですが、現在は「明かり」そのものを価値として提供するサービス「LaaS(Lighting as a Service)」でよく知られています。
これは、法人の照明インフラを担うとともに電力削減のためのシステムも併せて提供し、削減量に応じて報酬を得るというビジネスモデルです。このシステムは明るさに応じて料金を支払うため「Pay Per Lux(ルクス)」とも呼ばれています。電球を販売するのではなく、人々の求める「明るさ」そのものを提供する仕組みは、今後日本でサーキュラー・エコノミーを意識する上での大きなヒントになりそうです。
フィリップス
https://www.philips.co.jp/a-w/about-philips/company-profile.html
2020年に東京でもローンチ予定「ループ」
リサイクル業界の世界的大手テラサイクルは、世界初の循環型eコマースショッピングシステムLoop(ループ)を発表しました。2019年はニューヨークとパリのみで展開していましたが、2020年には東京でもローンチが予定されています。
ループは、詰め替え容器による飲料、洗剤、おむつなどのサブスクリプション制宅配サービスです。
特徴は、使い捨て依存からの脱却。一般消費財容器や食品パッケージを耐久性が高く繰り返し利用できるものに変えることで、利用者は環境に配慮した買い物ができるようになります。これを実現するために、世界的な大手消費財メーカーであるプロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble)を筆頭にネスレ、ユニリーバ、ダノングループなどが提携しています。
アムステルダム市は行政主導でサーキュラー・エコノミーに
企業だけでなく、市や行政が一丸となってサーキュラー・エコノミーの確立に尽力しているのがオランダのアムステルダムです。
同市は2015年、サーキュラー・エコノミーを推進し、2050年までに行政主導でサーキュラー・エコノミーを確立すると発表しています。
先に事例として挙げたフェアフォンやフィリップスの企業姿勢も、社会全体の思想として循環型経済が根づいているからこそ受け入れられているといえるかもしれません。
サーキュラー・エコノミーは日本にも浸透するか
事例やアムステルダムのような行政主導の姿勢を見ると、日本の環境省が掲げる「シェアリング・エコノミーの拡充」だけでは、真の循環型経済は達成されないと考える人も少なくないでしょう。
もちろん、車や時間といった有形無形のモノを他者と共有することは、誰もが所有していらなくなったら廃棄する従来の経済よりも「循環」してはいます。しかし、分解可能で壊れた部品だけを交換して使い続けられるスマートフォンや、明るさという概念の販売に成功したフィリップスを見ると、従来のビジネスモデルからは180度思い切った構想が必要であることも明白です。
サーキュラー・エコノミーに付随するキーワードには、
- サスティナブル(持続可能な)
- エシカル(倫理的、道徳上)
- オーガニック(有機栽培)
などがあります。
この中で、オーガニックはコットンや野菜といった商品の枕詞につくことも多く、日本人にもなじみぶかいものといえるでしょう。
しかし、「エシカル」は欧米諸国と比較してそれほど重視されていない印象を受けます。
「エシカル(倫理的、道徳上)」は、法律で定められていなくても社会的、倫理的に正しいと思われることという意味合いから転じて、現在ではもっぱら環境保全や社会貢献といった意味で使われるようになっています。例えば、エシカルジュエリーは紛争の資金源に使われることがないジュエリー、採掘や加工の過程で違法な労働に従事させられている人のいないジュエリーという意味で用いられています。
世界では、フェアトレードとともに、倫理的に正しく環境に配慮された「エシカル消費」をおこなうように心がけている消費者が増えてきていますが、国内ではそれほど一般的な言葉になっていないかもしれません。
日本のサーキュラー・エコノミーが目指すのは品質の高さ
しかし、サーキュラー・エコノミーに移行することが無駄かといえば、決してそのようなことはありません。
日本の高いリサイクル技術や製品づくりを活かし、従来よりも高い品質のプロダクトを作り出すことが、サーキュラー・エコノミーの鍵になるでしょう。
日本には、サーキュラー・エコノミーを実現するために不可欠な3Rのノウハウやテクノロジーがあります。
使い捨てや廃棄が当たり前の消費行動を一因とした環境破壊はもはや待ったなしの状況であり、温暖化を食い止めるための規制やCO2の削減目標は今後も厳しくなり続けるでしょう。
それらを解決する手段としてもサーキュラー・エコノミーという概念は重要であるため、世界が直線型経済に立ち戻ることはないと予想されます。
さいごに
サーキュラー・エコノミーは、長らく続いた直線型経済に代わる概念として、欧州諸国を席巻しつつあります。日本ではまだそこまで浸透していませんが、環境破壊による異常気象や災害に危機感をもつ人は格段に増えています。人が暮らしている世界を守るためにも、循環型経済を考えていくべきではないでしょうか。