小売企業が担うインターネット広告とリテールメディア発展の可能性
昨今、インターネット広告出稿を促す動画広告をよく見かけるようになりました。また、リテールメディア構築の必要性について考える機会が増えた方も多いのではないでしょうか。
消費者が1人1台スマホやタブレットを所有するようになり、多くの企業がマス媒体からインターネット広告へとシフトしはじめました。今ではインターネット広告が広告全体の半分を占め、その種類も多様化しています。
インターネット広告ではサードパーティークッキーが廃止へと向かったことで、その運用方法を見直す必要が生じました。そして小売業は自社のデータを使い、より精度の高いリテールメディアの構築や成長に取り組んでいます。
この記事では最近のインターネット広告の状況について、市場の大きさやリテールメディアの今後、広告運用で効果を出すポイントを解説します。
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まずは、インターネット広告がどれほどの割合に迫っているか見ていきましょう。
マス媒体<インターネット広告の時代に
一昔前は「マスコミ4媒体」として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌の4つの媒体が高い広告効果を期待できるとして定番でした。現代でも、商材やターゲットによってはこのマス媒体が有効なケースもあります。
しかし、消費者が1人1台のスマートフォンやPC・タブレットを保有する時代となった今、大衆へ向けて高い広告効果を出すためには、マス媒体よりもインターネット広告に費用をかける広告主がほとんどです。
電通の調査によると、インターネット広告の市場規模は毎年右肩上がりで急激に拡大しています。
インターネット広告の市場の動きとして顕著なのは、YouTubeやInstagramといった動画配信プラットフォームでの広告出稿が増えていることです。
コロナ禍で急速にEC化やデジタル化が進み、2023年のインターネット広告費は3兆3,300億円と過去最高を記録しました。(※)これは日本の総広告費全体の45.5%を占めており、ほぼ半数に迫る勢いです。
※参考:2023年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2024/0312-010700.html
インターネット広告市場が伸びた背景には、ECの成長も影響しています。生活様式の変化によって多くのリテールがEC化を進めたこともあり、インターネット広告でリーチできるユーザーの年代も広がり、より高い成果を期待できるようになりました。
インターネット広告は多様化が進んでいる
一口にインターネット広告といっても、その種類はさまざまです。最近では、以下のようなインターネット広告が利用されています。
インターネット広告として電通が分類している媒体は、以下の5つです。
- ディスプレイ広告
- 検索連動型広告
- ビデオ(動画)広告
- 成果報酬型広告
- その他のインターネット広告
上記の中で主流となっているのは、検索連動型、ディスプレイ広告、ビデオ(動画)広告の3つです。中でも群を抜いているのは「検索連動型広告」で、この広告だけで市場はすでに1兆円を突破しています。
検索連動型広告では、消費者が入力した特定のワードに応じて掲載するのが特徴で、リスティング広告とほぼ同義です。インターネット広告の中で最も採用されている検索連動広告は、今後も成長し続けるでしょう。
2024年に入り、最も高い伸び率を見せたのは「ビデオ(動画)広告」です。インターネット広告の中でディスプレイ広告が28.7%を占め、ビデオ広告は25.5%と2番目に入っています。
これは動画サイト以外に地上波テレビの見逃し配信など、テレビメディアサービスが増えたことが一因です。インターネット回線に接続された「コネクテッドTV」の普及により、ビデオ広告も需要が高まっていくと予想されています。
物販系ECプラットフォーム広告費の伸び率も高まる
電通は市場調査においてインターネット広告媒体費には含んでいませんが、「物販系ECプラットフォーム広告」という媒体も大きな成長を見せています。
2019年は1,064億円だった広告費は2023年には2,101億円まで伸びており、物販系ECプラットフォーム広告費は急成長している媒体の1つです。(※)
※参考:2023年 日本の広告費
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2024/0227-010688.html
もともと、広告主の中で店舗または物販系ECプラットフォームに出店する事業者が行う物販系ECプラットフォーム内の広告配信元は、インターネット広告費に含まれていませんでした。
しかしその存在感の大きさから電通も注目しており、広告媒体を再定義して物販系ECプラットフォームをインターネット広告にしたほどです。
リテールメディアの発展は小売企業が保有するデータ活用が鍵
コロナ禍における生活様式の変化、そしてサードパーティークッキーの廃止などの影響を受け、国内でもリテールメディア市場が成長し始めています。
サードパーティークッキーに替わるデータとして「ファーストパーティーデータ」の価値が再認識され、リテールメディアの今後は価値あるデータを保有している小売企業自身が担うといっても過言ではありません。
サードパーティークッキーの廃止が大きな影響を与える
インターネット広告の運用で大きな影響を与えたのが、サードパーティークッキーの廃止です。データの取得先が変わり、当初は困惑する広告主も多かったことでしょう。
国内でも多くの広告主が使っていたサードパーディークッキーが廃止に進んでおり、Google Chromeでは何度か延期を発表しつつも、2025年初頭に廃止が決まっています。Googleは代替案を出してはいるものの、従来のサードパーティーデータと比べて同じ効果が期待できるかは未知数です。
サードパーティークッキーについてはサードパーティーcookie廃止に向けて 位置情報で次世代マーケティングを展開する にて紹介しておりますのでぜひご参照ください。
サードパーティークッキーの移行によって、期待が高まっているのが「リテールメディア」です。リテールメディアとは、店舗を持つ小売企業やEC専業の小売企業が提供する各種オンラインメディア広告の総称です。ECサイトや店舗アプリのオンライン広告、店舗でのサイネージ広告といった媒体がリテールメディアとなります。
リテールメディアの大きな強みは、顧客の購買データやアプリのログといった自社が持つファーストパーティーデータを使えることです。脱サードパーティーへの取り組みとして有効で、多くの企業が注目しはじめています。
ファーストパーティーデータの活用で「フライホイール」を目指す
ファーストパーティーデータの活用により、リテールメディアの成果を左右する「フライホイール」という概念が生まれています。
「弾み車」を意味するフライホイールは、ポルトガルのコンサル会社が提唱している概念です。
「流入」というトラフィックが「商取引」であるトランザクションを生み、そのトランザクションが「販路」という強いチャネルを生む、という考えのフライホイールは、中心にファーストパーティーデータがあります。
このファーストパーティーデータが強くなることで、より高い収益を見込めるビジネスモデルになる……というのが、フライホイールの基本的な概念です。
日本では馴染みのない概念ですが、ファーストパーティーデータの基盤を強くすることで、「フライホイール現象」を狙うことができます。まだまだリテールメディアの発展途上である日本では、まず「流入」というトラフィックを増やすことが必要です。
ファーストパーティーデータを使うことで、より精度の高い広告効果が期待できます。小売企業はこのデータを活用し、自社に適した広告戦略を立てることが重要となります。
米国と日本で異なるリテールメディアの背景
日本ではリテールメディアは成長段階ですが、米国では成長段階を超えて「サードウェーブ」とも呼ばれています。Amazonやウォルマートといった米国の主要リテール企業では、10年以上前からリテールメディアを活用しており、広告戦略を参考にする日本企業も多いことでしょう。
リテールメディアが成長段階にある日本は、米国の事例が参考になることもあります。しかし参考にする際は、日本と米国で背景が違うことを認識しなければなりません。
大きな違いはEC化率の違いです。日本では海外の先進国と比較してもEC化率が未だに低く、またモバイルデバイスの実店舗への活用が進んでいます。またDX化も求められていることから、リテールメディアは実質実店舗におけるDXの一環と捉える動きが日本の特徴です。
米国では、リテールメディアや各リテール企業のECのメディア化、収益化にフォーカスして発達してきました。オンサイト広告・オフサイト広告の両方に注力しており、配信では各リテール企業の購買データが軸になっています。
その結果欧米のリテール企業は小売業以外に「広告」という第二のエンジンを取得でき、今も企業としての収益や成長のためにリテールメディアに取り組んでいます。
国内でインターネット広告を打つなら、この特徴を踏まえた運用が重要となります。
店頭サイネージ以外にECでの露出も増やしていく
日本企業では、実店舗においてディスプレイやプロジェクターを活用した店頭サイネージを設置するケースが多いでしょう。しかしインターネット広告で成果を上げるためには、ECでの露出を増やすことも有効です。
ECサイトを広告媒体として、Web広告やアプリ広告といったインターネット広告を打つといった取り組みで、ECサイトでの購入を促進する効果も期待できます。
健全な広告運用で効果を出すためのポイント
最後に、小売企業が健全な広告運営で効果を出すためのポイントを解説します。
消費者が最も不快に感じるのは「消せない広告」
さまざまなインターネット広告の中でユーザーが最も嫌う広告は、「×印が小さい広告」です。広告ではユーザーにとって不利な決定へと誘導するものを「ダークパターン」として分類しており、ユーザーから“嫌われる広告”の特徴の1つとされています。
×印が小さく閉じにくい広告は、興味を持たないユーザーへの閲覧を強制することになります。消費者は小さい×ボタンに不便を感じており、嫌悪感を与えることでネガティブな印象が強くなってしまいます。
広告の閲覧数といった数字だけにこだわると、ユーザーからの信頼を損ない、良い成果が生まれません。強制するような広告の出し方は避け、ユーザーにとって有益かつ興味を引くような広告にすることが重要です。
広告として正しく機能する媒体を作る
世界的にIT化が進み、日本でもマス媒体からインターネット広告へと潮流が変わりました。その結果インターネット広告も発達しているわけですが、成果にこだわるあまり、正しく機能していない媒体があります。
サイトのあちこちに広告があり、前述したような×印の小さすぎる広告・画面を覆うように表示される広告などであふれかえった記事が増えているのが現状です。
広告の表示形式が悪質化すれば、そのメディアは信用を失います。数字のためにユーザーに寄り添わない粗い広告戦略を取ってしまえば、ユーザーは離れ、悪循環に陥ってしまうのです。
あくまでもユーザーの興味を引く広告として、正しく機能する広告戦略を考えなければなりません。
広告主・広告会社・広告代理店は「コンテンツ重視」の広告を目指すべき
正しく機能するインターネット広告を出すためには、コンテンツの質が問われます。ユーザーの悩みやニーズに刺さり、「見てみよう」と興味を引く内容にこだわらなければなりません。
インターネット広告が主流となった今、コンテンツの方向性は経営レベルで考えるべき事象です。
リテールメディア先進国である米国では、ウォルマートなどリテールメディアに取り組む米国の小売り各社の経営陣に深い理解があります。経営陣が熱く深い議論ができるほどの知見を持っているため、米国のリテールメディアの取り組みは大変レベルが高いといえるでしょう。
日本の小売業が米国のレベルに達するには、何年も必要と考えられています。アドテクノロジーの導入や活用、効果検証に対する考え方やマーケティングを中心とした顧客育成への取り組み、ユーザーを最優先としたエンゲージメントを高めるための議論は、リテールメディアの構築において欠かせません。将来の顧客獲得につなげられるよう、自社の広告戦略をしっかりと考えていくことが重要です。