街づくりのミライ~ITを土台とした生活設計~
IT、そしてDXの波は様々な業種・業界に広がっています。そしてそれは不動産も例外ではありません。市場規模が大きい割にIT化が比較的遅いとされている不動産業界ですが、近年その状況は大きく変わろうとしています。
一口に「不動産テック」と言っても、暮らしの中心となる産業だけに関与する分野は非常に幅広くなるのが特徴。テクノロジーの導入が進んだ先には、他業種を巻き込みながら人々の生活を一変させるポテンシャルを秘めています。
そしてそれを如実に示しているのが、世界的に開発が進む「スマートシティ」の存在でしょう。
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他のあらゆる産業と同様に、不動産業界でもインターネットを土台としたテクノロジーを駆使したサービスによるイノベーションが次々と巻き起こっています。
「不動産」と一口に言っても、個人が借りる一つの部屋から、大規模な商業開発が絡むプロジェクトまで、その言葉が指し示す範囲は幅広いのは言うまでもありません。それに伴い、「不動産テック」がカバーする範囲も自ずと広範に渡ります。
例えば昔ながらの小さな事業所の業務効率化に貢献するマッチングや顧客管理などを提供するサービス、VRを駆使して内見を効率化するサービスなども不動産テックの一部です。保険や不動産投資などの金融が絡めば、FinTech(金融テック)から派生する形で、の不動産テックとしてサービスが提供される場合もあるでしょう。
あるいは、オフィスビルや商業ビルなど、一つの不動産を不特定多数の人が「シェアする」という使い方をする場合は、予約システムの構築など、より小売業に近いテクノロジーの活用の仕方が貢献できるケースもあります。
BtoC向けの不動産テックに目を向ければ、AI/IoTを駆使して暮らしを快適にする「スマートホーム」などが挙げられるでしょう。
スマートシティは街づくりのミライ
そして、家や土地一個単位ではなく、不動産テックのみならずあらゆる産業のテクノロジーを巻き込んで、不動産の集合体である「街」の未来像を作り上げるプロジェクトが「スマートシティ」です。
不動産テックの究極の形とも言えるスマートシティは、世界の様々な都市で開発が進められています。
スマートシティは、あらゆるインフラやモノがインターネットに接続されていることが前提になっており、「コネクテッド・シティ」とも呼ばれます。
インターネットを通じて住人も含めた街全体の様々な情報を一元管理し、リアルにおける人とモノの動きを制御することで、(地球も含めて)誰にとっても持続可能で快適な暮らしを実現する、というのがスマート・シティが目指す姿の共通点と言えるでしょう。
その点において、OMOの重要性が説かれているこれからの小売業界の在り方も、スマートシティの一部になり得ると考えることができます。
国内でも進むスマートシティ・プロジェクト
日本国内でも、いくつかのスマートシティ・プロジェクトが進行していますので、以下で概要を紹介します。
トヨタ ウーヴン・シティ
トヨタが2020年の初頭に「CES2020」で発表した「Woven City」は、世界が注目するコネクテッド・シティプロジェクトです。
2020年末をもって閉鎖となるトヨタ自動車東日本株式会社の東富士工場(静岡県裾野市)の跡地に建設されるミライの街は、175エーカー(約70.8万㎡、東京ドーム約15個分)もの広さを持っています。
トヨタが「モビリティ・カンパニー宣言」の下に生み出す街は、「自動運転車両専用道路」、「歩行者および低速のパーソナルモビリティが共存する道」、「歩行者専用の道」と、3種類の異なる道が張り巡らされる予定となっており、トヨタらしさが打ち出されている部分です。
さらに、街がオープンイノベーションの場として提供されていることも大きな特徴です。不動産テックに限らず、様々な分野を巻き込み、広大な実証実験の場として機能することになりそうです。
柏の葉スマート・シティ
つくばエクスプレス「柏の葉キャンパス駅」周辺のエリアでも、現在大規模なスマートシティプロジェクトが進行しています。
柏の葉スマート・シティは、千葉県柏市のみならず、三井不動産や千葉大学なども参画し、公民一体となって、テクノロジーを駆使し、ハード/ソフト両面から総合的にアプローチ。
街づくりにおいては日本が抱える社会課題に基づいて「環境共生都市」「新産業創造都市」「健康長寿都市」という3つのテーマを掲げています。
特にユニークなのは、「エリアエネルギー管理システム(AEMS)」と呼ばれるもので、これは、マンションやオフィス、ホテル、病院など、機能が異なる建物をエネルギーネットワークで結び、暮らしの状況によって、各施設間でエネルギー利用の最適化を図ることを可能にしています。
Fujisawaサスティナブル・スマートタウン
パナソニックが中心となって神奈川県藤沢市で進行しているプロジェクト、Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(以下、FujisawaSST)でも、「生きるエネルギーがうまれる街」をコンセプトに掲げた街づくりが行われています。
この「エネルギー」には、文字通り生活するのに欠かせないエネルギーの他に「人々の活力」という意味が込められおり、「エコ」と「快適」を両立させ、人々が安心・安全に暮らしを楽しむことが、そのままサスティナブルな活動に繋がる街を目指しています。
FujisawaSSTの具体的な数値目標は「CO2の70%削減」、「生活用水30%削減」、「再生可能エネルギー利用率30%以上」、「非常時のライフライン確保3日間」。これらに対し、約600戸の住宅全てをCO2プラスマイナスゼロのスマートハウスにすることで、個別最適化・自律分散型エネルギーマネジメントを実現するなどの具体策を打ち出しています。
生活の基盤としてITが欠かせない以上、ビジネスでもDXは必然
国内で今進行しているスマート・シティプロジェクトは、今から4年ほど前の2016年に内閣府が発表した「ソサエティ5.0」と密接な関係があります。
「ソサエティ5.0」は科学技術政策の一つであり、内閣府はそれを次のように定義しています。
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
出典:内閣府、Society5.0 http://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html
狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く、新たな社会を目指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました
ここでは、ソサエティ5.0では、デジタルとリアルの融合が目標であることがはっきりと宣言されていることがわかります。
これはすなわち、本稿前半でも述べたように、小売業界で説かれているOMOの重要性とほぼ同義であると考えることができます。そこにはAI/IoTを駆使したテクノロジーの存在が必要不可欠であり、それを駆使して社会課題を解決していくことで実現される世界こそがソサエティ5.0である、ということになります。つまり、スマート・シティの実現はそのままソサエティ5.0の実現を意味しているのです。
ITはもはやビジネスを円滑に進めるための手段ではなく、人間がより人間らしく生活するための基盤である、と捉えるべきなのは明らかです。
その中でビジネスを行なっていく以上、ビジネスの基盤としてのITも常に整備・アップデートし続けていかなくては、ソサエティ5.0の中で機能しなくなってしまう恐れがあると言えるのではないでしょうか。これもまた、いま企業にとってDXが必然であることの一側面です。