まだ終わりじゃない!消費税増税と軽減税率、その先への対応
いよいよ消費税増税と、それに伴う軽減税率およびキャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス・消費者還元事業)がスタートしました。この話題が連日ニュースで取り上げられていることもあり、10月に入ってから、買い物の際にレシートを注意深く見たりしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本稿では今見えている「消費税に関する課題」を、事業者とシステムベンダー、生活者、それぞれの観点から考察してみたいと思います。
【目次】
- 消費税増税と軽減税率がもたらす影響
- 生活者の“痛税感”は救っても、事業者の“痛対応感”は置き去りに
- キャッシュレス・ポイント還元が、事業者をさらに苦しめる
- 生活者、事業者、システムベンダー、それぞれがいち早く馴染むべし
- 生活者は利用できるものは積極的に利用する
- 事業者は食品を扱っていなくても当事者意識を持つ
- システムベンダーはいち早く情報収集をして最適な提案を
消費税増税と軽減税率がもたらす影響
私はエスキュービズムでコンサルティングを担当しています。
今回の消費税増税は、税率が上がるだけでなく、軽減税率という複雑なコンセプトが介入してきたため、生活者はもちろん、事業者、特に小売関係者には多大な影響がありました。今は導入直後の混乱が現場で発生している部分もありますが、それも時間が経てば落ち着いてくる……でしょうか?
結論から言えば、私はそう考えていません。なぜなら、増税が今回で頭打ちになる保証はどこにもありませんし、これが法制度である以上、いつ何どき制度の変更が行われるかわからないのです。そうなると、特に事業者にとっては、せっかくコストをかけて整えたシステムにも影響があります。
生活者の“痛税感”は救っても、事業者の“痛対応感”は置き去りに
あくまで「経過措置」としての軽減税率は、生活者の“痛税感”を軽くするための施策であり、ある意味、事業者の“痛対応感”を置き去りにしたものです。
事業者にとって必要な軽減税率への対応の中で、購買された商品に応じて標準税率と軽減税率を分けて明記する「レシートの出し分け」というものが結構大きな要素としてあるわけですが、今回、この方針が結構ギリギリになるまで政府から出てきませんでした。
軽減税率を実施しますということ自体は2018年の10月ごろに発表されましたが、それに紐づくレシート出し分けのルールは大分遅れて決まったために、事業者とシステムベンダーは過密スケジュールによる追加開発などの対応を強いられたのです。
生活者だけでなく、事業者の感情も慮るのであれば、例えば税率改正後は全て内税表記にすることを制度として定めてしまえば、少しは事業者の心理的負担を軽減することができたのではないかと思います。内税表記にしたとしても、結局レシート対応などシステム的にやるべきことは同じです。逆に言えば事業者はそこだけを考えればよく、その他の部分でビジネス的な「見せる価格」の最適化に頭を悩ませたり、その周知にコストをかける必要はなくなっていたはずです。
キャッシュレス・ポイント還元が、事業者をさらに苦しめる
もう一つ、軽減税率とセットで施行された「キャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス・消費者還元事業)」も、ことを複雑にし、(特に中小規模の)事業者を苦しめる要因となっている部分があります。「今後10年間(2027年6月まで)にキャッシュレス決済率を倍増し、4割程度にする」というKPIを掲げている政府としては、今回の軽減税率とキャッシュレス推進を抱き合わせた施策は、1発弾を打って2頭仕留める、という考えだと思いますが、現場の事業者にとってみれば、税率に対応するPOSの改修だけでも目一杯という状況の中で追い討ちをかけられたような気持ちだったと思います。
もちろん、キャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス・消費者還元事業)対応店に加盟する、しないは自由意志ではありますが、集客に多少なりとも影響すると考えれば、事業者としては検討せざるを得ませんし、仮に加盟するとなれば(それまでキャッシュレス決済対応を進めていなければなおさら)、導入コストが、さらに顧客のユーザビリティを上げようと決済手段を増やせば増やすほど手数料が重くのしかかっていきます。
このように事業者に負担をかけている現状を見るにつれ、そこは根本的に切り離して考えるべきではなかったのかな、と思わざるを得ません。
生活者、事業者、システムベンダー、それぞれがいち早く馴染むべし
一方で、初めて日本に消費税が導入された1993年当時や、消費税が3%から5%に増税された1997年当時の小売業界とIT業界はもっと悲惨な状況だったことと比べれば、今回の混乱はそれほど大したことはない、と、ある意味ポジティブに捉えていく心構えも必要だと思います。
なにせ、すでに施行されたものは元に戻らない訳ですし、冒頭でも申し上げましたが、今後、さらなる変化が起こり得るということを、生活者、事業者、システムベンダーそれぞれが念頭に置いて、その変化に対応できる準備をしておくことが重要なのではないでしょうか。今回の消費税増税に伴う諸々の施策については、特に決定から施行までの期間が短かったこともあり、各方面で準備不足が露呈してしまった傾向にあると思われるからです。
生活者は利用できるものは積極的に利用する
まず生活者は、キャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス・消費者還元事業)などを可能な限り積極的に利用して、いち早く馴染む、という必要があるでしょう。確かに外食したり洋服を購入するときなどは、増税したことを強く実感するかも知れませんが、逆に、毎日立ち寄るコンビニで買う食品の会計に関しては、今ならキャッシュレス決済にするだけで、期間限定ではあるものの、増税前より安く買えます。そうやってバランスを取りながら1ヶ月も過ごせば、“痛税感”はあっという間に薄くなることでしょう(車や家など高額商品を購入するとなると、また話は別かも知れませんが)。
事業者は食品を扱っていなくても当事者意識を持つ
次に、事業者については、たとえ今現在食品を取り扱っていなかったとしても、当事者意識を持ってシステムの状況を見直しておくべきでしょう。
これは今年私が実際に経験した話です。当時、食品を扱っていないクライアントが弊社のシステムを購入した時点で、すでに軽減税率の対応については検討すべき時期だったため、当然私はその点について確認を取りました。しかし、クライアント担当者の回答は「物販が中心だから、システムを軽減税率に対応させる必要はない」ということでした。私は、クライアントの業種的に、将来、絶対に飲料などを取り扱いたくなるのではないかと推測していたため、「後から取扱品目を追加して軽減税率に対応場合には、追加開発のコストがかさみますよ」と念を押しました。その後、やはり「軽減税率に対応したい」という話になったのが今年の6月でした。そこから今に至るまでの開発の苦労は推して知るべしですが、この事例のように、法的な環境の変化と、事業の環境の変化がマッチしないことというのはよくある話です。それはもう仕方がないことなので、今後も起こり得る変化に備えなくてはいけません。
今食品を扱っていないからといって、我関せずになってしまうと、後々苦労することになります。特に、これからのリアル店舗は業種・業態の枠組みを飛び越えるような体験型の店舗も増えていくと思います。例えば、アパレル企業がテイクアウトオーケーのカフェを併設するようなことは容易に想像できますし、コスメだけを取り扱っている企業が美容食品を販売することもあり得るでしょう。もしかしたら次の増税タイミングがあるとして、その時は食品以外のカテゴリーに新たな軽減税率が適用されることもあるかも知れません。
システムベンダーはいち早く情報収集をして最適な提案を
税金つながりで言うと、軽減税率の次はECでも免税販売ができる「免税帳票の電子化」という話が待っています。簡単に言えば、EC上で最初にパスポート情報をもらっておいて、商品の引き渡し時にそれを確認できれば免税処理が行われるという仕組みになるわけです。すると、訪日外国人観光客対策として、越境ECにおける国境を超えたクリック&コレクトなどのオムニチャネルサービスが実現できるかも知れません。
私は実際に今現在、免税電子化制度に対応するシステムの提案を行なっていたりする訳ですが、法改正も含めてこのような情報を一番興味を持って収集するのはやはりシステムベンダー側であるべきだし、パッケージ商品を販売するだけに止まらずに、そこで得られた情報を各事業者にとって最適な形に落とし込んだ提案をしていくことが、最終的には顧客体験の向上に繋がっていくはずだと信じています。