アリペイを実店舗で導入することのメリットは?ヨーロッパの大手と提携してさらに拡大するアリペイ(支付宝)とは
中国のアリババが提供する大手決済サービス「アリペイ」。
訪日観光客のインバウンド消費を当て込み、日本の実店舗でも導入する動きがみられます。先日には、ヨーロッパの決済企業大手である「Adyen」、「Klarna」と提携したことも話題となったアリペイについて、特徴や日本のQRコード決済との違い、導入の意義などをまじえて解説します。
【目次】
- アリペイ(Alipay/支付宝)とは
- アリペイはAdyenとKlarnaと協業、後払いが可能に
- 顔認証で年金受給もアリペイ経由
- 日本のQRコード決済とアリペイの違いは?
- インバウンド消費?日本の実店舗がアリペイを導入する意義とは
アリペイ(Alipay/支付宝)とは
アリペイは、中国のアリババ・グループの子会社アントフィナンシャルによって運営されているQR・バーコード決済サービスです。
日本語や英語ではアリペイですが、中国では支付宝(シーフーバォ)と呼ばれており、利用者は2018年11月現在で全世界におよそ9億人いるといわれています。
日本でも使える店舗は拡大中、PayPayと連携
アリペイの決済サービスは、2004年にスタートしました。
日本では、2018年に同じくQRコード決済サービスであるPayPayが導入されたことによって、PayPay対応店舗でアリペイが使えるようになりました。
PayPayは、ソフトバンク株式会社とヤフー株式会社の合弁によって運用が開始されたQR・バーコード決済サービスで、「100億円あげちゃうキャンペーン」と冠された大々的なキャッシュバックプロモーションが話題になりました。
PayPayの支払いに対応している店舗は、別途アリペイの審査を受けることでPayPayとアリペイの両方の支払いに対応することが可能です。
アリペイはAdyenとKlarnaと協業、後払いが可能に
2019年5月10日、アリペイは、「Adyen」と「Klarna」と3社提携をおこなうことを発表しました。
「Adyen」はオランダに本拠地を置いているグローバル決済企業、「Klarna」はスウェーデンの後払い決済サービスを運営する企業です。
3社が提携することで、アリペイの提供元であるアントフィナンシャルの親会社アリババが有する「アリエクスプレス」というグローバルEコマースプラットフォーム上に変化が起きます。
今後、「アリエクスプレス」のユーザーは、商品購入の際に「Klarna」が提供する技術による後払い決済が可能になります。
「Klarna」は2005年、スウェーデンに設立された企業で、「PayNow(今支払う)」、「PayLater(後払い)」という決済オプションを提供したことで一躍脚光を浴びました。ヨーロッパの消費者は、意外にクレジットカード保有率が低いといわれているなか、「Klarna」はクレジットカード情報を紐づけなくてもオンライン上で決済を可能にしています。これも、ヨーロッパに広く「Klarna」の後払いが普及した理由のひとつです。
後払いオプションをつければ、購入した商品が手元に届いた後に代金を支払うことが可能になります。
つまり、もしも届いた商品が気に入らない場合、代金を支払わずに返品するというケースも起こり得ます。この「Pay Later」という方法はヨーロッパの消費者に好まれており、このニュースはアリババがアリペイによってヨーロッパの消費者を取り込む攻勢を強めることを示唆するものといえるでしょう。
オランダの巨大ユニコーン企業(評価額10億ドル以上のベンチャー企業)として知られる「Adyen」は、決済代行プラットフォームを提供しており、これにはVisaやApple Pay、WeChatPayをはじめとして、世界の250種類以上もの決済方法が参加しています。
さらに通貨決済187種類にも対応しており、世界のライバル企業を一切寄せ付けない鉄壁の優位性を保っている企業といえます。アントフィナンシャルはこの「Adyen」と提携することによって、一気に世界のQR・バーコード決済サービスに躍り出るのでしょうか。
ちなみに、ユニコーン企業とは、10億ドル以上の評価を勝ち得ながら非上場である企業をさすバズワードですが、「Adyen」は、2018年すでに上場企業の仲間入りを果たしています。
※ユニコーン企業については「ユニコーン企業とは?最新版、日本と海外のユニコーン企業リストを紹介!」で詳しく解説しています。
顔認証で年金受給もアリペイ経由
さらに近い将来、中国においてアリペイは単なるQRコード決済を超えた存在になるかもしれません。
CNSは2019年5月17日、アリペイは中国の安徽省(Anhui)合肥市(Hefei)蜀山区(Shushan)十里廟(Shilimiao)地区にて、年金受給資格認証の実証実験をおこなったと報じました。
アリペイの「都市サービス」チャンネルに登録しておけば、高齢者は外出することなくスマホで顔をスキャンするだけで年金を受け取ることが可能としています。年金はインターネット経由で認証を済ませた高齢者に支払われます。
また、スマホを持っていないあるいはアリペイにアカウント登録をしていない高齢者は、家族や友人に「他人認証」をしてもらうことも可能だとしています。
アリペイは単なる買い物の支払いだけでなく、公的なお金のやり取りができる生活に密着したツールに成長しようとしています。日本は今のところ現金第一主義ですが、政府はキャッシュレス推進のプロジェクトをおこなっており、今後はQRコード決済が身近になると考えられています。日本のQRコード決済とアリペイの違いは?
中国で圧倒的なシェアを獲得しているアリペイですが、日本のQRコードとの違いはあるのでしょうか。
まずは、ひとくちに日本のQRコード決済サービスといっても、その種類は多岐に渡ることを知らなければならないでしょう。
日本で使える主なQRコード・バーコード決済サービス
2019年現在、日本で使われている主なQRコード・バーコード決済サービスは次のとおりです。
なお、順位は、ICT総研が公表した「2019年 モバイルキャッシュレス決済の市場動向調査」から引用したものです。
第1位 楽天ペイ
第2位 PayPay
第3位 LINE Pay
第4位 d払い
第5位 Origami Pay
第6位 Yahoo!スマホ コード支払い
第7位 paymo
第8位 pring
第9位 PAY ID
第10位 atone
第11位 pixiv PAY
これらのQRコード・バーコード決済サービス総利用者数は、2017年度187万人、2018年度512万人、2019年度960万人と急速に増加しています。2021年には今年の倍近く、1,880万人に達するという見込みも出ています。
引用:ICT総研 ttps://ictr.co.jp/report/20190107.html
日本の主要QR決済サービスとアリペイの違い
アリペイの特徴は、次の3つです。
- スマホのアプリにチャージして支払いをおこなう
- メールのように送金することもできる
- 中国の銀行口座に紐づけられている
この3つめの特徴が、日本のQRコード決済との相違点といえるでしょう。アリペイは事実上、中国に銀行口座を持っていないと使えないアプリです。
また、日本人がアリペイに登録しようとすると、身分証明書としてパスポートの紐づけも必須となります。
現金をチャージして使うという点は、Suicaなどに代表される電子マネーと同様であり、日本でもLINE Payなどは割り勘や送金の機能を備えているので大きな違いとはいえません。
一方、銀行口座と紐づけるやり方は、Origami Payなど一部が実施しはじめていて、まだ日本にあまり浸透していない手法といえます。
日本のQRコード決済サービスの多くは、クレジットカードと紐づけて支払いをおこなう方法がとられています。
しかし、現在ではアリペイと同様に銀行口座と紐づけをおこなうスタイルも登場しはじめているため、この相違は近い将来「違い」ではなくなる可能性もあります。
アリペイと日本のQRコード決済の違いはなくなるのか?統一規格「SGQR」とは
現在、このように数多くのQRコード決済が使われていますが、すべてを統一する規格はまだ日本にはありません。
ですが、店舗が導入しづらかったり消費者が使いづらかったりするため、いずれ何らかの統一規格が必要になるのではないかという声は以前から多くあります。
ちなみに、シンガポールには「SGQR(シンガポールQRコード)」という電子決済の統一規格があります。シンガポールのオン・イエクン教育相が定めた「SGQR」は、それまでバラバラだった電子決済サービスを統一規格のもとにまとめ、消費者が使いやすいようにするものです。この導入により、シンガポールに27種類あったQRコード決済サービスは、使いやすくなりました。
この「SGQR」の施行にあたっては、シンガポールの中央銀行に相当する通過金融庁と情報通信メディア開発庁、タスクフォースが協力しています。タスクフォースには、アリペイやJCBをはじめとして31社が参加しているため、今後世界中で同様の動きが出てくる可能性も充分考えられます。
インバウンド消費?日本の実店舗がアリペイを導入する意義とは
日本のQRコード決済サービスの中には、アリペイと提携しているサービスもあります。アリペイは中国からやってくる観光客のインバウンド消費の要となる存在のため、訪日観光客が多い店舗では導入を検討しているところも多いのではないでしょうか。
訪日観光客を取り込みインバウンド消費を活性化
日本では、コンビニや家電量販店で中国人訪日観光客がアリペイを使う傾向にあります。日本のQRコード決済サービスよりも先に、アリペイを導入していた店舗も多くありました。
アリペイを運用するアントフィナンシャルは、香港、タイ、韓国に次いで、アリペイの消費額が多い国として日本を挙げており、その経済効果は無視できません。
リーガロイヤルホテルがアリペイ導入
キャッシュレス推進化とインバウンド消費の需要を受けて、リーガロイヤルホテル(大阪)は2019年6月3日からアリペイと、同じく中国で広く流通しているQRコード決済サービスであるウィーチャットペイを導入します。
関西では、秋に開催されるラグビーワールドカップや2025年の国際博覧会(万博)の影響により、さらに訪日客が増えると予想されています。こうした新たな電子決済の導入に踏み切ったことにより、さらに海外からのゲストが増えることが期待されます。
民泊「エアサポタッチ」もアリペイが使えるように
エアサポタッチとは、株式会社デバイスエージェンシーが提供している、特区民泊・民泊新法・簡易宿泊所施設向けのセルフチェックインタブレットです。 エアサポタッチ http://device-agency.co.jp/air-support-touch/[/caption]
ゆいレールのアリペイ実証実験
アリペイは、宿泊関連施設や商業施設だけでなく、交通にも使われようとしています。
沖縄都市モノレール「ゆいレール」は2018年6月、改札機で直接アリペイが使えるサービスの実証実験を始めました、国内の改札機で海外の電子決済サービスを利用できるように設定したのは、「ゆいレール」が初めてです。
この実証実験は、「ゆいレール」と、オリックス、TIS、アントフィナンシャルジャパン、日本信号、QUADRACら6社が共同で実施しているものです。日本の都市部の鉄道は、便利な一方で乗り換えが複雑なことでも知られていますが、「ゆいレール」のようにアリペイで乗降ができるようになれば、観光客の移動がもっと簡単になるかもしれませんね。
まとめ
日本でアリペイが使える加盟店数は、2019年現在で30万店を超えています。
地方でもアリペイの使える店舗数を増やしていくことによって、観光客を呼び込み、日本の地方創生に貢献できるという意見もあります。
QRコード決済サービスは、国内外で常に進化し続けており、今後の動向に注目しながら導入を検討することが重要です。