保険業界の最新トレンド、ビッグデータとAIの活用で何が変わる?
保険は事故や損害、災害が起こった時に備え保険料を支払うことで有事の際に備えるシステムです。利用したい人が保険会社と契約し、毎月保険料を納付することで保険金がプールされ、有事の際にはプールされた保険金から必要な保険料が支払われます。
事故が起こった際の保険会社の対応はスピーディさが求められます。何かがあったときのための保険のため、保険会社は契約者のもしもの時のために不安を素早く解消しなければいけません。スピーディさが顧客満足度の向上にも関わります。
スピーディに対応するには、膨大な数の事故対応を手際よくこなすことも必要になってきます。しかし、現実的に保険会社に勤務する人はさまざまな業務に追われており、業務を軽減する必要もあります。
この保険の仕組みはテクノロジーによって変わろうとしています。保険業界では、ビッグデータやAIを駆使したシステム構築が話題になっています。
以下では、AIや最新テクノロジーを駆使した保険会社の事例について紹介していきます。
第一生命の医療ビッグデータ活用「InsTech」
第一生命では保険に医療ビッグデータを取り入れようとしています。現在の少子高齢化によるビジネスの縮小や、健康寿命の伸び、医療費削減といった社会情勢を鑑み、「InsTech(インステック)」というプロジェクトを2015年に発足させました。このプロジェクトでは、医療ビッグデータの活用をすることで保険が必要な人にサービスを提供する目的で実用化を目指しています。InsTechが実用化されれば、病気を患っていたとしても一定の条件下なら加入可能といったように、「保険に加入したいものの契約条件を満たしていないため契約から弾かれる」といったケースを少なくすることができます。
従来は契約時に提出する契約者の健康診断データと、死亡時に提出される死亡診断書の点と点でしか評価をおこなっていませんでしたが、「どのような過程で病気にかかるのか」といった点と点をつなぐ線である途中経過も加味した医療ビッグデータの予測と活用が期待されています。
参考:Insight for日本初! 第一生命のInsTech戦略[前編]――テクノロジーが保険業界に活路を開く
https://d-marketing.yahoo.co.jp/entry/20170418458454.html
ユニークなスマホ保険『JustInCase』
新しいタイプの保険サービスも登場しています。
「JustInCase(ジャストインケース)」というサービスです。
JustInCaseはスマートフォンに対する保険で、スマホの故障に対して保険金が下りるというものです。
JustInCaseの特徴は以下の3点が挙げられます。
- アプリから90秒で保険申込可能
- AIによる最適な保険の提示
- リスクを友人や家族同士で分散できる
JustInCaseは家族や友人と一緒に加入することで成立します。人数が多いほど保険料の割引がおこなわれます※。また、普段のスマホ使用状況をAIが判定し、危険な使い方(スマホを投げたり、落とすなど)をしていないかという点についても評価されます。また、友人や家族と一緒に利用することにより、保険料が高くなる原因である不正請求の防止にも役立ちます。
※最大9名まで。更新時の判定によって割引額が決定
JustInCaseのアプリの特徴は非常にユニークで、今後スマホだけではなく様々なケースでの活用が期待されています。
損保ジャパン日本興亜のAIを活用した『カシャらく見積り』
損保ジャパン日本興亜でもAIを活用した保険のサービスが2017年7月から始まっています。その名も『カシャらく見積り』と言うサービスで、保険の申込にかかる煩雑な手続きを省略します。
カシャらく見積りの仕組みはこのようになっています。
- 同社システムを立ち上げた後、自動車保険証書・車検証をスマホまたはタブレットのカメラで撮影
- AIが写真から文字を読み取り
- 同社の補償内容に読み替え
- 代理店システム(SJNK-NET)へデータ転送
読み取り後のデータは同社のシステムに自動的に転送され、申込内容から見積りを作成することができるため、ペーパーレスで自動車保険の申込をスピーディかつ簡単に完了させることができます。
参考:損保ジャパン日本興亜、【業界初】人工知能(AI)を活用した自動車保険証券・車検証読取りアプリ『カシャらく見積り』の提供開始
http://www.sjnk.co.jp/~/media/SJNK/files/news/2017/20170707_1.pdf
三井住友海上火災保険は自動車事故損害による保険金算定にAIを活用
三井住友海上火災保険は、2018年夏頃から自動車事故による損害の修理見積りの算定にAIを活用したシステムの提供をスタートさせる予定です。
契約者がもし自動車事故を起こした場合、スマホで事故現場を撮影することにより同社のAI搭載システムが損傷度合いを判定、保険料の算出をおこなうというしくみです。これまで時間がかかっていた損傷箇所などの判定を、膨大な画像データから導き出した判断基準によって機械的におこなう事を可能にします。機械での判定が難しい場合のみ人が判定をおこなうことによって業務の軽減を実現することができます。
参考:日本経済新聞、車事故、AIが損害判定 三井住友海上 修理見積もりに活用
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO26691720Y8A200C1EE9000/
同社はすでに2017年12月からオペレータが受信した顧客からの問い合わせに対し迅速に回答するためにAIを活用した業務をおこなっています。対象は自動車保険・火災保険・傷害保険・新種保険等です。このAI活用では、日本語文書解析エンジン「IBM Watson Explorer」と類似文書検索エンジン「Similarity Search」の組み合わせによって1万件を超えるマニュアルから最適な回答を提案します。
参考:三井住友海上火災保険、AI(人工知能)技術を活用した問い合わせ対応の高度化について
http://www.ms-ins.com/news/fy2017/pdf/1219_1.pdf
また同社は2018年から営業部員の事務作業による業務負担を AIを活用する事によって軽減しようとしています。契約申込みや情報照会といった単純作業を自動化することにより、業務負担を軽減した分営業により力を入れる予定です。
保険業界全体でAIを活用していくことは大きなトレンドとなっていますが、三井住友海上火災保険は保険業界の中でも積極的にAIの活用を取り入れている企業と言えるでしょう。
損保ジャパンはスマホで安全運転診断、割引率を可視化
損保ジャパンでは自動車購入前に車の運転診断をおこなう「ポータブルスマイリングロード」という無料のアプリによってハンドリングやブレーキ操作といった項目をスコアリングします。運転に問題がなければ最大で20%の保険料割引が受けられます。運転診断はレンタカーや家族の車などで何度でも挑戦でき、5日以上かつ10時間以上のデータを取ることで判定が下されます(ただし契約10日前には完了させておくことが条件)。
最大の割引額が算出されたところで損保ジャパンの窓口にこのアプリの結果を見せると、契約時に保険料の減額が受けられるという仕組みです。対象は新車を購入する人、また2台目の車を購入する人で自動車保険の等級が6(S)または7(S)であることが条件です。
参考:損保ジャパン
http://www.sjnk.jp/kinsurance/smilingroad/challenge/pc/
まとめ
以上、様々な保険業界でのAI活用事例をご紹介しました。
医療ビッグデータ活用による保険サービスの提供、保険料の算定や事故による損傷度合いの判定、問い合わせに対する迅速な回答、家族や友人と一緒に加入する新しいタイプの保険など、AI活用のバリエーションは多岐にわたります。
今まで時間がかかっていた業務を人の代わりにAIがおこなうことによって、保険会社の営業担当は今まで以上に営業活動に時間を割くことができます。効率的な業務をおこなうことで営業効果を高めることが期待でき、さらにサービスの迅速化で顧客満足度も高めます。
AIやビッグデータの活用はまだ最近のことであり、今後も引き続き保険業界において最新テクノロジーの登場や、これを活用したニュースは続々と出てくることでしょう。