飲食店の近未来化には生産性の向上とデータの可視化が急務~FOODIT TOKYOセッションレポート~
「外食の未来が生まれる場所を作ろう」というコンセプトで開催されているイベントFOODIT TOKYO。株式会社トレタが企画・運営を行い、外食産業に携わる企業のリーダーが飲食店の未来について議論する場として5年目となりました。
本記事では、2019年9月25日に東京・ミッドタウンで行われた様々なセッションの中から、「FoodTechが巻き起こす近未来飲食経営 ~技術とデータを活用した新しい経営手法~」についてレポートいたします。
FoodTechが巻き起こす近未来飲食経営 ~技術とデータを活用した新しい経営手法~
スピーカー
株式会社インフォマート 取締役 大島 大五郎 氏
株式会社EBILAB 代表取締役 小田島 春樹 氏
株式会社スマートショッピング 代表取締役 林 英俊 氏(モデレーター)
まず、現在の飲食業界が抱える課題について、各社から意見が述べられました。
大島氏:生産性を向上させるには飲食の現場がITに近づく必要がある
大島氏:飲食業界に限らず『生産性の向上』は大きなテーマといえます。日本は豊かだとよく言いますが、変化に対応できていないように思います。日本の大事な文化がだめになってしまう可能性もあると感じています。数々の統計結果でも出ているように、世界の各国が経済成長を続けるなか、日本人の平均年収は落ち、人口も減ってきている。生産性をどのように上げていくかは考え続けなければならないでしょう。
日本の人口は減っていますが、世界人口は増えています。つまり、食材は今後値上がりしていくのです。売上を上げるだけでなく、原価にも意識を向けて無駄なく仕入れを行っていかなくてはなりません。
システム化が進んでいるとはいえ、60%の飲食店が未だにファックスで発注している状態です。データを利用して買うべきものを買う、無駄な仕入れをしないように整理するだけで数パーセント原価を抑えることができた、という声をいただいています。
これまではITが現場に合わせる形でしたが、今後は現場がITに近寄っていくことが必要だと思います。卸企業も、ファックスでは受注したくないという企業がどんどん増えています。
小田島氏:データが見えると経営が変わる
小田島氏:飲食店は50%近くが2年以内につぶれているという数値があります。10年持つ店舗は10%程度です。
また、国内企業の平均年収を比較してみると、水道、電気といった社会インフラを扱う企業が1位で、飲食関連企業はインフラ企業の半分の年収です。
なぜこういうことになってしまうのかというと、「一人当たりの売上が低い」ことが課題なんだと思っています。経営者はなるべく安く提供しようと考えてしまうのですが、自店が価格を下げると近隣店舗も下げるというデスゲームが始まってしまいがちです。安く売って利益が薄いため、人件費も出せない。飲食業界の課題として、ここを改善していかなければならないと考えています。
「市場のなかで、その価格が適正なのかを見極める」ために、様々なデータを見える化して把握していく。客単価と共に生産性も上げることで利益率が高くなり、企業経営も向上していくでしょう。
また、小売の世界ではECと実店舗のギャップが大きい状態になっています。Amazonなどのネットショップでモノを買うと、レコメンドでいろいろな商品がおすすめされたり、購入履歴に従って定期的な購入を促したりしますね。しかし、実店舗では同じモノを買ったとしても基本的にはその場で終わりです。
同じ「モノを売る」という世界なのに、ECとリアルでは全く違います。こうしたギャップを埋めることが生産性を上げることに繋がるのではないかと感じています。
林氏:データが見えないことで経営判断を歪める
林氏:お二人から「生産性の向上」と「データの見える化」というテーマが出ました。紙でやり取りをすると効率が悪いだけでなく、データとして残らないために経営判断が歪む、という話ですね。
当社は「スマートマット」というIoTシステムを提供しています。発注を自動化するシステムなので「発注作業が無くなるんでしょ?」とよく言われるのですが、在庫の動きや消費のデータをすべて残しているので、仕入れ方法やマーケティング手法を変えてみよう、という判断へと繋がっていきます。
また、飲食業の原材料では消費期限も重要だと言われますね。データを眺めていると意外な気付きがあります。
小田島氏:まずはお店で起こっていることを見える化していくことです。販売商品のクロスセルの実態や、ユーザーアンケートなどがデータですぐに見ることができれば、翌日から改善策をとることもできます。EBILABでは来店予測や食材の廃棄ロスを防ぐ需給予測などができるBIツールを開発し、店舗の運営を行っています。
店内だけでなく街全体を商圏ととらえて、店頭を歩いている通行人数を把握すると非常に面白いデータが見えてきます。
なぜお客さんが自分の店に来るのか、どの地域からいつどのくらいのお客さんが来るのか、傾向が分かるだけでエリアマーケティングやPRが行えます。データが見えるとこれまでと違った新しい戦い方ができるのです。
観光予報プラットフォームというオープンデータもあるので、こちらも活用してみてはいかがでしょうか。
参考:https://kankouyohou.com/
大島氏:海外事例のベンチマークはマクドナルド
林氏:次は視点を変えて、海外事例から飲食店の生産性向上についてみていきましょう。
大島氏:私は海外へ行くとベンチマークとしてよくマクドナルドに行きます。日本のマクドナルドでは有人レジなのでよく行列ができていますが、海外ではデジタルサイネージでのオーダーが主流で、言語の壁も気にせず、キャッシュレスでハンバーガーを注文できます。
林氏:海外はモバイルオーダーが増えてきていますね。10月からは軽減税率が導入され、テイクアウトのお客さんも増えてくると思いますので、回転数を上げてお客さんをさばけるというメリットもあるでしょう。日本のスターバックスもモバイルオーダーをテスト店舗で導入しています。
大島氏:大手スーパーのホールフーズでは平均滞在時間が8分という調査結果がでています。事前にスマホでオーダーをしておき、店舗ではスタッフがオーダーに沿ってピックアップした商品をロッカーに入れるフローです。滞在時間が短くなると顧客満足度は下がりそうなものですが、ホールフーズでは逆に顧客満足度は上がったといいます。
小田島氏:中国のラッキンコーヒーの話もよく出ますね。3000店舗あるコーヒーチェーンで、「私たちはデータ経営をするコーヒーチェーン店です」とうたっています。
今年の第2クォーターの決算書を見ていましたら、「次は紅茶を戦略商品にする。午前中は紅茶が女性によく売れているので、女性向けのPRを行って女性のニーズを獲得していく」ということが書いてありました。しかし、これはデータといってもPOSデータで十分作れる戦略です。
林氏:データを見るには、「データを集める執念」が必要だと思います。EBILABさんが店頭にカメラを設置してデータをとにかく集めたように、情熱がないと先へ進まないのではないかと感じました。
そしてデータに店舗運営を委ねる勇気を持つことで、近未来飲食経営が可能になるのではないでしょうか。
最後に
未来の飲食店経営について、生産性の向上とデータの可視化を強く訴えたセッションとなりました。
また、それらを実現するには
- 経営者の考え方を変える
- 投資のやり方を変える
- 社員をエンパワーメントする
といったまさにデジタルトランスフォーメーションに必要な考え方が提示されました。
人手不足が大きな経営課題となる中、飲食業界もDX戦略をおこなっていく必要があると感じたセッションでした。