グローサラントとは。スーパーマーケットでの新たな「体験」
グローサラントは、グロッサリーとレストランを合わせた造語で、主にスーパーで売られている食材を調理して、その場で食べられる飲食業態です。
イオンや成城石井、ヤオコーなどで、既に展開されているグローサラント店舗について、イートインとの違いや海外・国内の事例を交えて解説しました。
スーパーの新たな形、グローサラント
戦略としてのグローサラント
アメリカと中国のグローサラント事例
日本のグローサラント事例
スーパーの新たな形、グローサラント
アメリカ発祥のスーパーマーケット新形態、「グローサラント」をご存知ですか?
国内でも同様の形態をもつ店舗が次々にオープン、リニューアルしています。
グローサラントの意味
グローサラントは、食料雑貨や日用品を意味する「grocery(グロッサリー)」と「restaurant(レストラン)」を組み合わせた造語です。
つまり、スーパーマーケットにレストランのようなスペースが併設されている施設を意味しています。
グローサラントの発祥はアメリカで、日本でもイオンや成城石井がグローサラント店舗をオープンさせるなど、話題になっています。
グローサラントとイートインの違い
「スーパーの中で食べられる」ときくと、イートインとどこが違うのかという疑問が浮かぶかもしれません。しかし、これらには違いがあります。
イートインは、店舗で購入したパンやパック詰め商品といった出来合いの食品を食べられるエリアを意味します。
対して、グローサラントは作り置き商品だけでなく、店内の食材を使ってその場で作られる料理を食べることができます。
まさに、「スーパーの食品をレストラン式に楽しめる」店舗というわけです。
レストランよりも手頃で手近な場所でゆっくり食事をする、という目的だけでなく、スーパーで見つけた気になる食材をお試し感覚で食べてみたり、新しい調理法を探すために利用したりといった楽しみ方が可能です。
戦略としてのグローサラント
ECによる売上減が世界的な現象となっている昨今、実店舗が強みとして掲げることに「体験」があります。インターネット上では得られにくい、リアルにしかない「体験」を打ち出すことで、実店舗販売の独自性を保とうという動きです。
気になる食材をその場で調理してもらい、食べるという体験は、ECサイトでは得ることのできない体験といえるでしょう。快適な空間を提供することによって、購買をうながす。グローサラントには、そうした戦略があります。
アメリカと中国のグローサラント事例
発祥国であるアメリカにおいてグローサラントは、商業施設としてだけではなく、公民館のような役割も担っています。また、中国ではアリババがその場で食事ができ、なおかつ配送もおこなってくれるOMOスーパーを展開しています。
アメリカのグローサラントはラグジュアリーで公民館的な役割も
アメリカのグローサラントは、1人掛けのカウンター席やテーブル席、ソファ席、子どものためのプレイスペースなどが設けられた大規模な空間が一般的です。
暖炉やTV、電子レンジまで置く店舗もあり、自宅と同じように食事ができることを念頭においた設計が基本となっています。これは、「食品をその場で調理してその場で食べる」という実店舗ならではの強みをしっかりとアピールする狙いもあるのでしょう。
また開かれた空間だけでなく貸切にできるルームをそなえて、会議や誕生パーティとして活用するなど公民館的な役割を担っています。
中国のグローサラントはOMOスーパーとして展開中
アリババの支配下企業である盒馬鲜生(フーマーションシェン)はOMO(オンライン・マージ・オフライン)、つまりインターネットの施策をオフラインにも融合させ、両者を活かそうという戦略によって展開しているスーパーです。
盒馬鲜生店舗内では生きた魚介が販売されており、購入した食材はその場で調理され、店内で食べられるようにイートスペースが設けられています。また、ECで注文をおこなうと店内の商品をピックアップし、30分で配送してくれるというサービスも併せて実施されています。
支払いは現金でも可能ですが、中国の大手モバイルペイメントであるアリペイで簡単に支払いができるようになっています。
こちらは食事する場を提供するだけでなく、アリババのニューリテール戦略に基づき、ECとの融合を目指すひとつの企業戦略としてグローサラント形式が用いられています。
★アリババのニューリテール戦略については、「アリババのニューリテール戦略を活用していくためのヒント」もぜひご覧ください。
日本のグローサラント事例
日本では、グローサラントという名称はあまり広まっていないかもしれません。ですが、導入店舗は着実に増加しています。
成城石井店舗のグローサラント
アメリカで見学したグローサラントを日本向けにローカライズしたのが、国内のグローサラント店舗初出店となった成城石井の「トリエ京王調布店」です。
「売り場に近いレストラン」をコンセプトの軸として、イートインとすでに成城石井で展開しているワインバーの中間を目指したサービスを提供しています。黒毛和牛のハンバーガーやカレー、ステーキといった洋食を提供するほか、気に入った料理を自宅で再現できるよう、レシピカードを準備しています。
店舗情報:成城石井 トリエ京王調布店
https://www.seijoishii.co.jp/shop/details/192
イオン店舗1「イオンスタイル新浦安MONA」
千葉県新浦安の「イオンスタイル」は「ここdeデリ」というスタイルを打ち出した店舗で、84席のイートスペースやバルを併設しています。
オーダーにしたがってその場で調理するチョップドサラダの専門店「サラダビッツ」や、スーパーの惣菜コーナーで販売している食材を活用したサンドウィッチショップ、リカーコーナーで購入したアルコールを持ち込めるバルなど、スーパーマーケットに併設しているからこそ楽しめる食品の提供をおこなっています。
店舗情報:イオンスタイル新浦安MONA
http://aeonstylemona.okaimono-info.jp/pages/floor
イオン店舗2:イオンスタイル西風新都
広島市の「イオンスタイル西風新都」は、鮮魚店のそばに寿司を食べるスペースをもうけるなど、食事から購入の流れを意識したブースを9つ、計280席の飲食空間を設置しています。
新浦安店と同様、「ここで食べる、ここで話す、ここで楽しむ」をコンセプトにして、購入と食事をボーダーレスに楽しむ提案がなされています。
店舗情報:イオンスタイル西風新都 ここdeデリ
https://bit.ly/2NlAC4q
ヤオコー店舗のグローサラント
ヤオコーは、イートインスペースを拡大させた「ヤオコーカフェ」で、グローサラントサービスを提供しています。
単身者やカップル、ファミリーなどさまざまな層の来場を想定して、カウンター席、テーブル席、ソファ席などさまざまな座席を設置、居心地の良い空間づくりを特徴としています。ランチタイムやカフェタイムの利用を見込み、ベーカリーには食事パンやピザなどの個別商品を新たに導入、ベーカリーの近くにプリンやゼリーといったデザートを配置することで購入をうながしています。
食生活提案型スーパーマーケット ヤオコー
https://www.yaoko-net.com/
大阪のファッションビル「LUCUA FOOD」
JR西日本SC開発株式会社によるファッションビル地下2階「LUCUA FOOD(ルクア・フード)」は日本最大級のフードホールとしてリニューアルしました。
フードホールは、フードコートの上級版として欧米で注目を集めている食品提供形態です。スーパーに併設されたグローサラントとは少しスタイルが違いますが、大きなイートスペースにさまざまな店の料理を持ち寄って食べられるというスタイルは、グローサラントにおいても参考になるところでしょう。
といっても食材を販売する「キッチン&マーケット」では、他店舗のグローサラントと同様にマルシェ(市場)の感覚で食材を買ったり、惣菜を購入して食べることもできます。
店舗情報:LUCUA osaka
https://www.lucua.jp/floorguide/floor_b2.html
まとめ
このようにグローサラントという提案は、目新しさだけでなく食品小売企業の戦略としても注目されています。
ライフスタイルが多様化している日本では、孤食の問題も目立ちつつあります。新たな食事の場所としてレストランよりも気軽に利用できるグローサラントは、コミュニティの場としても機能するようになるかもしれません。