AIによる契約書レビューサービスが登場。人工知能と文書の相性
人工知能、通称AIは人間に変わってあらゆる業務を遂行できるとして大いに注目されています。
かつて蒸気機関が人間を重労働から解放したように、AIは肉体労働のような身体への負担の大きい仕事はもちろん、自分で考える力をさらに強化していけば、いずれはホワイトカラーの業務でもある頭脳労働をもこなしていくことになると予測されています。
それは遠い未来の話であるように思われてきましたが、最近の技術発展は特に著しく、すでにAIが試験的に理解力や読解力を求められる業務にも参加しているケースが伺えるようになりました。
それは単純で誰にでもできるような業務ではなく、例えば契約書のように重要な書類を任されるケースも現れており、AIが担う業務の重要性はこれまでになく大きいものとなっています。
また、このような事例は一つに限ったことではありません。これまでは人間にしかできない繊細な仕事だと思われていた、文字を取り扱う業務にもすでに多くのAI導入ケースが現れ始めています。
今回はそんなAIによる契約書レビューサービスを始めとする、人工知能による文書業務が含まれるサービスについてや、今後の展望についてご紹介していきます。
- 法的業務もAIにお任せ
- AIの登場で誰でも質の高いレビューを受けることが可能に
- ライター業にAIが台頭してくる可能性も
AIを活用した契約書レビューサービスが正式リリース
日本の企業であるGVA TECH株式会社は今年の4月中旬に「AI-CON」と呼ばれる新サービスを発表しました。
このサービスはAIが企業や個人の間で作成する契約書類をレビューし、その契約書の有効性や契約を結ぶ当事者の中で誰が最も有利な地位にあるのかなどを判断してくれるというものです。
いわゆるリーガルテックと呼ばれる取り組みに分類され、複雑な法律の問題をテクノロジーの力で効果的に解決していくことを目的としています。
参考:https://jp.techcrunch.com/2018/04/17/gva-tech-ai-con/
AIによるレビュー特有のメリット
そしてただ送られてきた契約書をレビューし、確認した箇所を指摘するだけでなく、その上で修正案をも例示できるのがこのサービスの長所と言えます。
AI-CONには条項ごとにサービス利用者にとっての有利不利を評価するだけでなく、評価が利用者に不利なものであると判断された時には、修正案をユーザーに提供できるという点も大きな特徴です。
契約者の立場などを考慮し、有利な文を盛り込むこともできるなど、かなり高いレベルの業務がAIを用いて遂行できるようになったのは驚くべき進歩と言えるでしょう。
人間の専門家はAIのサポートに
ちなみにこのサービスそのものは完全にAIによって自立しているわけではなく、最終チェックには法律の専門家である弁護士が直接目を通すことで確認を行なっており、AIに任せきりにするのは心配だ、という人にも安心のサービスとなっています。
AIを活用していることもあり、対応も素早いのがポイントです。PDFファイルなどでアップロードした後は、1営業日以内にサービスを利用した箇所についてのレスポンスが返ってくるというスピードは、急ぎのケースにも対応可能なサービスとなってくれる可能性が伺えます。
AIを契約書レビューサービスに導入したことによる効果
AIを契約書のような重要性の高い文書評価に活用することは、一見するとリスクが大きく実験的な取り組みであるように思われるかもしれません。
しかしながらAIにとっては、一般的な文章よりもむしろ契約書の方が取り組みやすい事例であったとも考えられるでしょう。
実は堅苦しい文章の方がAIには好都合
フォーマルな文章というのは確かに人間にとっては味気がなく、読んでいても面白みのないものであるかもしれませんが、基本的に契約書の文章というものは論理立っており、かつ要点ごとに区切られて比較的簡潔にまとめられているものが多いため、機械的に物事を志向する人工知能にとっては非常に読みやすい文章なのです。
AIは感性ではなく計算によって文章を理解しますし、専門知識も寸分の間違いなく確実に記憶している情報として集積されているため、このようなパブリックな文書には大いに有効であると考えられます。
人工知能はコストパフォーマンスも優秀
また、法律に関わる業務をAIによって機械化してしまうことで、それにまつわるコストを大きく削減することが期待できるという点にも注目です。
法律に関わる業務は従来であれば人間が膨大な知識を持つ専門家を雇うか別個依頼し、ある程度の時間とお金をかけて臨むものでした。
そのため法的な整備は予算をきちんと確保し、時間にも余裕のあるそれなりの規模の企業や組織だけが徹底できるというもので、個人事業主や中小企業はあまり精査することができないというのがしばしば問題となり、契約書の条項をめぐる民事裁判に大きな時間を取られてしまうなどのケースにも容易に発展してしまうこともありました。
しかしながらAIによって確実なレビューが実現し、人間の専門家が最終チェックのみの出番になるとなれば、契約書の取り扱いにかかる時間やお金のコストも大きく削減することが可能になりました。
これにより、どんな些細な契約書でも気軽にプロのレビューを受けることができるようになりましたし、時間や経済的に余裕のないスタートアップ企業でも契約に不備がないかをプロによってチェックしてもらうことが可能になったのです。
スタートアップ企業やイノベーションにはしばしば法的なトラブルが付きまとい、時として大きな賠償を伴う民事訴訟につながることもあります。
AIは小さな民を救うとは言われてきましたが、AI-CONはまさに法的なトラブルから個人を守る大切な役割を果たしていくことになるでしょう。
日経でもAIによる記事執筆が開始
AI-CONの場合は人工知能が主体的に業務を遂行し、人間のサポートを受けてサービスを提供するという形態が取られていましたが、もう少しシンプルな業務となるとすでにAIが完全に自立して業務に当たっているケースも存在します。
決算情報を取り扱う「日経サマリー」
日経が提供する「決算サマリー」はAIによって自動で文章執筆、そして投稿を定期的に繰り返してくれるAIライターと言えます。
これは2017年より開始したプロジェクトで、上場企業の決算データを分析し、売上などの要因をまとめながら自動で執筆業務と投稿を行なってくれるというもので、記事を書いて投稿するというプロセスをすべて自動で行なってくれるという進歩的な業務をこなしています。
執筆内容も満足のいく仕上がりに
執筆される文章にも人の手は一切触れられず、いわゆる機械が自動生成した文章なのですが、不自然で人間が読解できない文章になっているということもなく、まるで人がまとめたかのように投稿されているということで大きな注目を集めています。
決算発表からわずか数分で執筆、そして上場企業約3600社の発表に対して対応できるため、その効率は人間のそれとは比較にならないものがあると言えるでしょう。
人工知能はどこまで文書作成業務に携わることができるのか
これらの事例から、AIは人間をサポートするためのツールというよりも、もはやホワイトカラーの現場においても自立的に業務をこなし、人間と同程度かそれ以上のパフォーマンスを見せてくれる存在となりつつあります。
日本語とAIの相性は悪い?
日本語は英語や中国語などに比べて文法が表現がやや複雑で、論理的な思考プロセスがウリのAIは対応が遅れると言われているものの、前述の例からもわかるようにすでに日本語を取り扱う業務でも対応できるものが増えつつあります。
日経の記事自動生成AIからも分かるように、少なくともデータをまとめて人間が読めるように論理立てて書くという業務そのものは、日経だけでなく遅かれ早かれAIがその業務をすべて遂行するようになるでしょう。
その時に人間のライター業の地位がどのように変化していくのかということは、今のうちからよく考えておくことが必要になりそうです。