小売りの未来:オムニチャネル戦略で重要となるPOS
「マイノリティ・レポート」という映画をご存じでしょうか。
主演のトム・クルーズが近未来的なショッピング・モールを通り抜けるシーンがあります。そこでタッチパネル式のスクリーン上の商品広告に囲まれます。搭載されたアイスキャナーが彼を自動的に特定した上で個人名をあげて挨拶してきます。そして彼に向けてギネスビールや旅行といった商品広告を見せてきます。近未来のGAPはすぐに彼を認識し前回購入した商品の具合を尋ねてきます。
これはすべて未来の夢物語でしょうか。そうかもしれませんが、それを現実のものに変えようとするテクノロジーがすでに登場し始めています。
パーソナル・タッチの重要性
今や携帯電話の位置情報を利用してスーパーにおける顧客の移動経路を追跡し、店舗での位置に合わせて携帯電話に顧客個人に向けたお勧め情報を送ることが可能となっています。
たとえばパン売り場にいる顧客にはジャムなどのディスカウントクーポンが自動的に送られてきます。
しかしそうしたテクノロジーが存在するにも関わらず、こうした未来型の店舗の全体的な普及にはまだまだ時を待たなくてはなりません。これはオンライン上で個人に向けたお勧めや顧客行動の追跡が常識となっていることを考えると驚くべきことです。
オンラインストアにログインすると、自分に向けたメッセージ、お勧め商品、お勧め情報や動画、抱き合わせ販売、配送時間、在庫情報、次回購入で使えるクーポンなどを受け取ることができます。簡単に言えば王様のように扱ってもらえます。
一方で同じブランドの実店舗に行くとまるで誰も自分に興味がないように思えます。
探しているジーンズの売り場は自分で探さねばならず、棚から自分のサイズの商品をひっぱり出そうとして結局売り切れだったりします。苦労して店員をつかまえてサイズがあるか聞くと、店員はバックヤードに向かい、5分たって戻ってきて結局品切れだと言われてしまいます。他の店舗には在庫があるか尋ねると、店員は肩をすくめて自分で調べてもらうしかないと言いい、運が良ければ新商品のクーポンをもらい、いくらかの怒りを覚えながら店を出るのです。そして帰り道で携帯電話を取り出し何度かクリックし、探していたジーンズを別の店で注文するのです。
これまで以上に小売りはいかにして実店舗のネットワークとオンライン環境を統合するかを考えていかねばなりません。そうすることで、オンラインで得られるのと同じような個人に向けた魅力ある買い物経験をPOSで顧客に提供するのです。そうしなければ小売りはオンラインに顧客を奪われる一方になります。広く普及したスマートホンによって顧客はたった数クリックで魅力あるオファーにたどり着けるからです。そして恐ろしいショールーミングの悪夢が頭をもたげているのです。
いかにPOSを最適化するか
eコマースの時代になってもPOSの重要性は変わっていません。最近の調査では購入の76パーセントは今もPOSで行われています(2012 Point of Purchase Advertising International’s Shopper Engagement Study)。しかし今日の顧客はより多くを店員に求めています。Forresterの調査によると65パーセントの人が店員が様々な商品の価格を教えてくれることを望んでいます。55パーセントは棚に商品がない場合に他に在庫があるかすぐに知りたいと思っています。そして48パーセントは売り切れの商品が近くの店舗かオンラインで購入できるかを知りたがっています。そして37パーセントはオンデマンドでの商品の追加情報、写真、レビューを求めています。(Forrester’s North American Technographics Retail Online Survey, Q2 2012).
単なる要求のようにも聞こえますが、これこそ従来のPOSソリューションの限界と言えるのです。
すでに販売チャネルの在庫状況を横断的に把握するディスプレイや「オンラインで購入して店舗で引き取り」といったフレキシブルなフルフィルメント、POSにおける個人に向けた買い物経験を可能にするソリューションは登場してきています。
これらを実行するためには既存のデータを分析し、販売チャネルすべてを包括するデータ管理システムの導入が不可欠です。さらにオムニチャネル注文管理ソリューションにより共通化された在庫画面の導入が可能になります。そしてこれは「オンラインで購入して店舗で引き取り、また、オンラインで購入して店舗で返品」といったオプション実施には必要条件となります。
またオンライン注文を顧客の近辺に存在する店舗が直接発送することで、配送時間の在庫の最適化が可能になります。
より上質な買い物経験の創造
アイデアのひとつはデジタルスクリーンを使って季節物の製品PR動画を流したりして広告媒体することで、より上質な買い物経験を提供することです。ロンドンにあるバーバリーの旗艦店はPOSのデジタル化として好例です。さらに店員は豊富な製品情報や顧客レビュー、類似商品、在庫情報などを表示できるタブレットを装備することが可能です。これを可能にするソフトウェア・ソリューションもすでに完成しています。
例えばこのようなことが可能になります。
来店した顧客に店員が名前か顧客番号を尋ねます。この情報がユーザーインターフェイスを通じて入力されると店員はその顧客がすでにオンラインで200ドル以上を購入していることを把握できます。そしてこの顧客が今日どんな商品でも10パーセント割引で購入可能であるという通知を受けます。
顧客が赤色のセーターのMサイズがあるか尋ねると、店員はすぐさま顧客を売り場まで案内し、商品についての追加情報(洗い方など)や顧客のレビューを伝えることができます。タブレットは店員にジーンズを抱き合わせ商品として提示し、それが顧客に伝えられます。
顧客が特定のサイズを求めると店員はPOSでそのサイズが売り切れであることを知ります。
店員はタブレットで在庫リストを開き、近隣のPOSで在庫していることを知ります。店員は顧客にそのジーンズを取り置きしてほしいか家まで直接配送してほしいかを尋ねます。
顧客は上質な買い物経験を得ることが可能であり、すっかり満足して店を後にするのです。
オンラインとオフラインの境目を崩すためにPOSの果たす役割は重大です。今日の顧客は販売チャネルのことを念頭において考えません。顧客は最上の買い物経験とその時その場所で最高のサービスを提供してくれる小売りにのみ興味を持つのです。
小売りにとって必要なのは目まぐるしい変化に対応し、統合されたオムニチャネル戦略を考案し、販売チャネルをリンクさせるのに必要なソリューションを統合し、ブランドの外観を統一し、ライバルに勝る本物の付加価値を顧客に提供することです。
今後ますます店舗はオンラインのネットワークで繋がれた店員によってデジタル世界の経験を提供し、ブランドそのものを洗練し、個人に向けたサービスを提供するようになります。
このようなコンセプトの元、マイノリティ・リポートに登場するような店舗が近い将来に実現する可能性は十分にありえます。