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小売の課題を解決し、新たな顧客体験を生み出すリテールテックの持つ力

リテールテックは、小売の店舗運営や管理だけでなく、顧客体験に新たな改革をもたらす技術です。

人手不足をはじめとする小売業界の課題を解決し、業務効率化をもたらすリテールテックは、中国、米国で開発の動きが活発化しています。

日本の小売は薄利多売の構造が続いているため、DX化をはじめとするIT投資をする資金を確保するのに苦戦している店舗も少なくないでしょう。

しかし、この先5年間で、国際的な市場規模がおよそ3倍に拡大すると予想されているリテールテック、そしてその延長線上にある小売業界のIT革命を無視するわけにはいきません。

先を見すえたIT投資やリテールテックの導入計画が、今求められています。

本稿では、多様なジャンルに分かれているリテールテックについて、どのような分野がいつ注目されてきたのか、まずは変遷を辿ります。

そして、リテールテックが小売の現場や顧客体験をどのように変えていくのか、実例を挙げながらその最前線を紹介します。

リテールテックの変遷

リテールテック(Retail Tech)は、小売業界に導入される新しいIT技術一般を指します。

リテールテックが導入される目的には、慢性的な人手不足の解消や、顧客体験の向上などがあり、次世代の小売を実現するために不可欠な技術となっています。

具体的には、業務の一部あるいは全ての自動化、業務の一部、あるいは購買行動の一部に対するAIの活用、データ分析といった技術がリテールテックです。

顧客や在庫管理といったバックヤード周りから、新しいショッピング体験の創出やマーケティング展開といった事柄まで、幅広い内容に活用することができるため、各国も技術開発や特許取得に動いています。

現在、リテールテックの技術開発や特許件数が多いのは中国で、アリババ集団がトップを牽引しています。

企業別の特許数がアリババ集団の次に多いのは、米国のアルファベット社で、次点にイーベイ、中国の政府機関、米国のIBM、アマゾン・ドット・コムと続いています。

特許件数の多い企業トップ20は、そのほとんどを中国と米国の企業が占めていて日本の企業からは、楽天グループ(第17位)と東芝(第20位)がランクインするのみとなっています。

特許件数は、2020年頃までは米国が優位を保っていましたが、中国は2012年頃から躍進を続け、米国を2021年に追い抜くまで成長を遂げました。

セキュリティ対策から無人店舗まで

世界的には、セキュリティやリアルタイム情報、そして自動化に関連したリテールテック開発が盛んですが、日本では、特に自動化、無人化の技術開発が活発です。

セキュリティ対策や、無人店舗をはじめとした無人化技術が高い関心を集めている理由には、深刻かつ慢性的な人手不足があります。

店舗における人的コストは元から軽いものではありません。

そこからさらに賃金を上げて従業員を募集するには限界があるため、リテールテックの導入による解決がニーズを集めているのです。

一般的に、店舗の人件費は約3割がレジ対応要員にかかると言われています。

顧客が自身でバーコードをスキャンして決済できるセルフレジの導入は、人手不足を解消して人件費を削減できる代表的なリテールテックと言えるでしょう。

さらに店舗が省人化を追求しようとすると、リアルタイム情報やカメラを活用した無人店舗に到達します。

無人店舗で活用されているリテールテックには、スマートフォンの位置情報と決済アプリを活用した決済システムや、リアルタイム情報を管理するシステム、トレーサビリティの技術があります。

トレーサビリティは、2016年頃から急激に注目を集めるようになりました。

これは、追跡(Trace)と能力(Ability)という2つの言葉が組み合わされているワードで、製品がいつどこで、誰によって製造されたのかを追跡するためのテクノロジーです。

トレーサビリティの技術は、原材料の調達から製造過程、さらに消費、廃棄までを追跡できるのが利点で、小売の中でも食品業界で特に注目されています。

さらに、トレーサビリティに応用できるIT技術であるブロックチェーンも、トレーサビリティと同様、この数年で注目され続けています。

ブロックチェーン技術を使った特許を取得した企業も増えてきました。

例えばNIKE(ナイキ)は、「ブロックチェーンで保護された小売商品のための暗号デジタル資産をプロビジョニングするためのシステム及び方法」の特許を取得しています。

小売業界の進化を支えるテクノロジー

リテールテックは、新しい顧客体験の創出においても重要な役割を担っています。

特に近年増加傾向となっているのが、複合現実を活かすためのVR、AR、MRに関連した技術です。

例えば、デジタルアバターを使ったオンラインマーケットでのショッピング体験や、仮装試着室などがその代表例で、eBayやマイクロソフトは、関連の特許を出願しています。

他に、独自の分析に基づいたアパレル商品のレコメンドや、フォトリアリスティックレコメンデーション(フォトリアリスティック=コンピュータで作成されているにも関わらず実物のように見える技術を用いて行うレコメンドのこと)の分野でも、米国が特許を出願しています。

脳科学や認知科学といった学問や、AI(人工知能)、機械学習を活用したショッピング体験の創出も増えています。

例えば、脳波に基づく感情特定を行うショッピングシステム、脳とコンピュータの相互作用によってショッピングにおける意思決定を行う方法などが、南京大学との共同研究によって特許出願されています。

また、無人店舗におけるオンデマンドビデオストリーミングの展開など、従来とは大きく異なる店舗づくりへの可能性を秘めた技術も開発されています。

AIの活用では、アクセンチュアがCRM(顧客関係管理)の自動化について特許を出願しています。ディープラーニングによる商品マッチングや、顧客との自然言語対話を提供する技術なども開発が行われ、特許が出願されています。

技術の進歩と共に変わる小売の手法

技術の進歩は、人のライフスタイルを大きく変えます。

一家に一台あれば充分だったPCは、今や一人に一台も珍しくない時代になりました。

PCのようにパワフルなタブレットやスマホの台頭によって、連絡のスピードは変わり、仕事のあり方も大きく変容しています。

小売におけるリテールテックも、小売の販売手法を大きく変えるようなポテンシャルを持っています。

これまでの小売は、業績を伸ばすために店舗数を増やす、全国規模で拠点を置く、商品を安く早く調達するといったことを行なってきました。

しかし、それには限界があります。

コロナ禍によって価値観も変わりました。モノ消費よりも思い出や新しい購買体験を重視するコト消費の傾向が高まり、商品を安く調達するのではなく「どう販売するか」が焦点になってきています。

少子高齢化により、消費者の全体数が減ったために、増やした店舗数を維持するのに苦慮する場面もあります。

これからの小売は、こうした競争のスタイルからの脱却が求められています。

すなわち、リテールテックによって従来のやり方や価値観を大きく転換するような大胆な施策が必要です。

ある調査によると、世界のリテールテック市場は、2027年に1,025億ドル(約14兆円)規模に拡大するとされています。

なお、2022年の市場規模は347億ドル(約4兆8,000億円)でした。

この数字と、拡大の可能性からも、リテールテックの必要性を読み取ることができます。

使用した画像はShutterstock.comの許可を得ています

リテールテックと小売の現在

店舗で行う業務は、現場の経験則が求められるシーンが多くあります。

例えば、棚卸しのタイミングや商品発注のタイミングは、「たいてい、いつもこの時期は午後から混みだすから多めに発注しても平気だろう」、「この商品はこのシーズンになれば大体これだけの数が売れるから」という経験則をもとに決めているという店舗が少なくありませんでした。

しかし、「たいてい〜だろう」や「大体〜だろう」という予測は当たることもあれば外れることもあり、変化のスピードが早くなった現代では、若干不安の残る手法となります。

さらに、人手不足によってこうした経験則を安定して継承していける店舗も少なくなりました。

物価高騰や先行きの見えにくい経済状況という不安材料が多いなか、少しでも確実で損のない運営をしたいと考えるのは当然のことです。

こうした流れを受けて、現在では経験則に代わり、AIとデジタルサイネージ、そしてカメラを組み合わせたリテールテックによって適切な運営を行う動きが加速しています。

ある店舗では、AIカメラによって在庫の量を観測し、一定量よりも多く売れ残っていると自動で「値下げ」を行うシステムが活用されています。

これまで、値下げは従業員が手作業で半額シールを貼るなどして行なっていました。

しかしAIカメラによる自動値下げは、連動している電子棚札が自動的に値段を変更するので、人力で作業をする必要はなくなります。

また、値下げ幅もAIが過去のデータから自動で判断するため、経験を頼りに値下げ幅を決める必要もありません。

他にも、余剰在庫の取引にフォーカスしたシステムや、ユーザーの返品行動を専門的に分析するシステムなどが開発され、米国を中心に導入が活発化しています。

リテールテックによって購買体験は変化し続ける

大手百貨店は、コロナ禍をきっかけとしてタブレット端末越しに商品の説明を行うオンライン接客を始めました。

はじめは代替手段のようにスタートしたオンライン接客ですが、今では、対面接客が難しい遠方の顧客への対応など、新しい顧客体験として浸透しつつあります。

世界ではすでに、IT技術者を自社に招いたり、囲い込んだりする動きも見られます。

リテールテックがこれからの小売の躍進の鍵を握っている、それは、人材を求める国際的な企業の動きを見れば明らかでしょう。

今後のリテールテックは、AIやブロックチェーンといった技術だけでなく、脳科学を応用するなど大学のような専門機関と共同で生み出されるものも多くなっていく可能性があります。

これまでのあり方や考え方を柔軟に変化させて、新しい店舗のあり方、そして新しい購買のあり方を考えていくフェーズに入っているのではないでしょうか。

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